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今年、ロレックスは文字盤に全力を注いだ…いや、“全力”とまで言ってしまうと、話題をさらったランドドゥエラーの存在を無視することになるが、今年のWatches & Wondersで発表されたほぼすべての新作ロレックスを見た限り、これほどまでに多くの文字盤のバリエーションと追加があったのは久しぶりである。たとえばデイトナには8種類の新しい文字盤が、オイスター パーペチュアルには5種類(さようなら、セレブレーションダイヤル)、スカイドゥエラーには新たなグリーンダイヤルが追加され、ランドドゥエラーのハニカムダイヤルだってカウントに入れてよいだろう。なかでも最も興味深い文字盤のいくつかは、今年のGMTマスター IIにあると考えている。ホワイトゴールドのGMTマスター IIに採用されたグリーンダイヤル、そしてエバーローズゴールドおよびイエローゴールドモデルに登場した新作のタイガーアイアンダイヤルがその好例だ。
僭越ながら申し上げると(グリーンダイヤルを主に収集している者として)ロレックスはグリーンの扱いが実に巧みである。オリーブ、ミント、パステル、そしてコーポレートカラーのグリーンまで、どの色味においても過度に安っぽくならず、絶妙な遊び心と彩度を保っている。だからこそ、今回新たに登場したWG製GMTマスター IIのグリーンダイヤルを初めて画像で見たときには、少し警戒心を抱いた。というのもこれほどまでに緑一色で仕上げたロレックスのスポーツウォッチは、サブマリーナーの“ハルク”以来かなり久しぶりだったからだ。やりすぎではないか? と。しかし幸運なことに(かの孔子が言ったとか言わなかったとかはさておき)実物はレンダリングよりはるかによく見えるものである。少なくとも私はそう思っている。孔子も、もしかしたらそう言ったかもしれない。いや、言ってないかもしれないけれど。
この新作グリーンダイヤルを備えたRef.126729VTNRでは、ロレックスが初めてセラクロム、つまりブランド独自の呼称でいうセラミックをベゼルインサートだけでなく、実際の文字盤に使用したことになる。もちろんこのモデルはスティール製の“スプライト”GMTと同様に、レフティ(左利き用)仕様の“デストロ”レイアウトを継承しており、日付表示が9時位置にある反転型の40mmケースを採用。ブレスレットはオイスターブレスレットのみで、今回はジュビリーブレスレットの設定はない。ここでちょっと注釈を。左利き用の時計が左手首につけられているリストショットを見て、疑問に思う方もいるかもしれないが、自分は左利きで、普段から左手に時計をつけている。なので、レフティ仕様の時計もやっぱり左手に。あしからず!
時計内部には“フライヤー”仕様のCal.3285 GMTムーブメントを搭載。約70時間のパワーリザーブを備え、高精度クロノメーター認定を受けている。ケースに収められた状態で日差-2〜+2秒という高い精度を誇る自社製キャリバーであり、GMTラインナップ全体に採用されているムーブメントでもある。第2時間帯を示すのは、先端に矢印のついた細身の針。この針はスティール版のようにグリーンで塗装されているのではなく、すべてWG製となっている。
実物を目の前にした瞬間、このブラック×グリーンのベゼルと新しいセラミックダイヤルの組み合わせに完全に心を奪われた。写真では派手でツヤの強いダイヤルだと思っていたが、実際はずっと落ち着いた印象だった。グリーンセラミックの仕上げはマットではないが、外周のセラクロムベゼルの光沢とはまったく異なる質感を放っている。多くの人がすぐにマットダイヤルだと言っていたが、実際にはそうではない。ラッカー仕上げだと勘違いされそうな雰囲気もあるが、反射光の拡散具合になんとも言えないセラミック特有の表情があり、それが決定的な違いを生んでいる。それにしても、なぜ今セラミックなのか? ロレックスは決して、初めてグリーンセラミックのダイヤルを採用したわけではない。すぐに思い浮かぶのはオメガ シーマスター ダイバー300Mだ。とはいえロレックスは常に自らの美学に従って動くブランドであり、ラッカーダイヤルでは得られないユニークさをこのモデルにもたらしているのは確かだ。おそらく、このセラクロムダイヤルが最後ではないだろう。もしかしたらあの“スマーフ”サブマリーナーが、同じ手法で復活する日が来るかもしれない。
製造工程の観点から言うと、ロレックスによればこのダイヤルプレート全体がセラミックの塊というわけではない。実際にはセラミック製のディスクが真鍮製のベースプレートに固定されており、これはセラミック特有の脆さを補うためであることは間違いない。この手法はストーンダイヤルと同様で、素材を薄くスライスしてベース層の上に載せるというものだ。そしてここからがちょうどよい流れなのだが、自分が実際に見ることができたもうひとつの時計、タイガーアイアンダイヤルを備えたエバーローズ仕様のGMTマスター IIへと話は続いていく。
ロレックスのどのモデルにおいても初登場となるタイガーアイアンは、3種類の異なる鉱物のタイガーアイ、レッドジャスパー、ヘマタイトが自然に融合した石である。特定の方向にカットすることで、これら3種の鉱物が層をなしてランダムに積み重なったストライプ模様が現れ、温かみと躍動感を併せ持つ独特の表情を生む。この豊かな質感は、貴金属との相性がとてもいい。そしてこの新しいタイガーアイアンダイヤルは、18Kエバーローズゴールド製ケースにオイスターブレスレットを組み合わせたGMTマスター II Ref.126715CHNRと、18KYG製ケースにジュビリーブレスレットを備えたRef.126718GRNRにそれぞれ採用されている。ストーンダイヤルに共通する特徴として、ひとつひとつのカットがすべて異なるため、各ダイヤルに現れる縞模様も唯一無二のものとなる。
正直なところ、文字盤のバリエーションという意味ではこれらは時計界における革新的なリリースというわけではない。とはいえこのタイガーアイアンダイヤルは、メテオライトやアイゼンキーズル、その他さまざまなストーンダイヤルと並び、ロレックスのアイコニックなシルエットに豪華で輝かしいひねりを加える新たな一員となった。YG版については実物を見るまでは最終的な判断を保留したいが、現時点ではエバーローズモデルが一歩リードしているように思う。レッドジャスパーの色味がケースと絶妙に調和しており、オイスターブレスレットのシンプルさとも非常に相性がよい。一方でジュビリーブレスレットと組み合わせるには、文字盤の表情がやや強すぎる印象もある。とはいえ、ロレックスがこのダイヤルを2種類の貴金属ケースで展開した理由はよくわかる。鉱物それぞれの色合いが、エバーローズの豊かなカッパートーンと18KYGの明るい輝きの両方と美しく響き合っているのだ。ブラウン系のトーンによって、どこかヴィンテージ期のウッドバールダイヤルへの偶然のオマージュのようにも感じられる。
この2本の新作ダイヤルは見た目も仕上げもあまりに対照的で、正直どちらを選ぶか本気で悩んでしまうのは今回が初めてかもしれない。WGのGMTはグリーンセラミックダイヤルの新しい質感が静かに個性を放ち、そのステルス感が理知的な魅力を持っている。もし自分が貴金属製のGMTを持つとしたら、これが正解だと思う。しかし一方で、フルローズゴールドのストーンダイヤルGMTを、何の迷いもなくサラリとつけこなせるような人間になりたい...そんな夢も捨てきれない。まさにこれ以上ないほど豪華で派手な1本で、自分はその全開っぷりに大いに魅了されている。
詳しくはロレックス公式サイトをご覧ください。
Photos by James Stacey
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