ADVERTISEMENT
昨年8月のGeneva Watch Daysで、ある時計が発表された。この時計、そしてこのブランドが誕生して以来、私の頭から離れることはなかった。アルビスホルン×マッセナLAB(Albishorn×Massena Lab) マキシグラフこそ、その時計である。最初のリリースを単体ではなくコラボレーションとしたのは大胆な戦略的選択だが、アルビスホルンはすぐに航空にインスパイアされたタイプ 10を単体で発表した。セリタ社のセバスチャン・ショルモンテ(Sébastien Chaulmontet)氏が設立したアルビスホルンがHODINKEEに登場するのは今回が初めてではない。HODINKEE Radioでの彼のインタビューは、ぜひお聴きいただきたい。しかもこのマキシグラフは昨年夏のGeneva Watch Daysにおける我々のお気に入りリスト入りを果たしている。多くの人が、業界にとって低調な年と評したなかで、この時計は私には一服の涼と映った。当然、私は数日間この時計と一緒に過ごし、実物がどのようなものかを確かめたいと思った。
アルビスホルンを初めて耳にする人のために言うと、このブランドはヴィンテージに触発された時計を製作している。ただしヴィンテージの復刻にありがちなアイコンの再現でもなく、インスパイアされたものでもない。“イマジナリーヴィンテージ”というアルビスホルンのトレードマークがそれをよく表している。ヴィンテージウォッチのデザイン原則を活用して、ほかにはない個性を感じさせるモダンウォッチをつくるというコンセプトだ。まだ2モデルしか発表されていないため、このコンセプトが支持されるかどうかを判断するにはほかのリリースを待たねばならないとは思うが、私はすでにとても興味をそそられ、傾倒してしまっている。
マキシグラフは、本質的にはモノプッシャーのレガッタクロノグラフである。ブランドの語るストーリーを少し紹介すると、これは1939年に初めて開催されたボルドール・デュ・レマンのためにブランドがデザインしたであろう航海用クロノグラフだという。
文字盤にはヴィンテージの特徴が容易に見て取れる。鮮やかな色でプリントされたミニッツトラックとアワートラックがセクター文字盤を埋め尽くしている。すべてのトラックは、微妙に異なる太さやスタイルで表現され、中央のメタリックなトラックが味わい深いアクセントだ。これらのリングからは、この時代のマルチスケールダイヤルによく見られる賑やかなヴィンテージクロノグラフのような印象を受けるが、このモデルではより現代的ですっきりとした美しさも感じられる。スーパールミノバが文字盤上に描く2本のアーチは非常に繊細で、見逃しやすいディテールであろう。これらはすべてボックス状のサファイア風防の下に配されている。
アルビスホルンによる夜光塗料の描写。
文字盤内側のスケールには、10分間のカウントダウンスケールとランニングインジケーターという、おそらく一番興味深いパーツが配置されている。マキシグラフでは、スモールセコンドを省略し、カウントダウンスケールの横に小さな窓を設けた。この窓にはディスクが収められ、青、赤、緑に順に回転することで、クロノグラフを作動させなくても時計が正しく動いていることがわかるようになっている。この種のインジケーターは新しいコンセプトではないが、マキシグラフのものは非常によくできており、時間を確認するたびに色が変化するのを待つのはとても魅力的だと感じた。
マキシグラフの最大にして最もユニークな特徴は、緑色のトラックと赤い針を備えた10分間のレガッタカウントダウントラックである。そしてこれは、アルビスホルンが新しい時計をつくり続ける限りもたらしてくれるであろうものの、いい“インジケーター(指標)”(ダジャレではない)でもある。典型的なレガッタクロノグラフは、カウントダウンが終わってもその表示を繰り返すが、マキシグラフの場合、10分が経過するとレガッタタイマーは停止してカウントダウン針は“0”の位置で静止し、メインのクロノグラフ秒針は動き続ける。クロノグラフがリセットされると、分表示もクロノグラフ秒針も元の位置に戻る。
ステンレススティール製ケースは直径39mm、厚さ13mmと非常に現代的で、それよりも大きな41mmの両方向回転式SSベゼルを備えている。凹型のベゼルは操作しやすく、十分な抵抗感でスムーズに回転し、黒と赤で着色されたアワートラックとミニッツトラックが刻印されている。10時位置に配されたリューズには、美しいコントラストのビーズブラスト仕上げでアルビスホルンのロゴが大きく刻まれている。鮮やかな赤のアルミニウム製クロノグラフプッシャー(この素材を選んだのは、この彩度の高いアルマイト処理を実現するためだったのだろう)はアグレッシブな稜線を持つ9時位置にあり、操作感は抜群だ。
アルビスホルンによると、マキシグラフは約64時間のパワーリザーブを備えた独自の自動巻きキャリバーを搭載している。ショルモンテ氏のムーブメント開発経歴は非常に豊かで、とくにクロノCOS(クラウンオペレーションシステム)でリチャード・ハブリング(Richard Habring)氏と共同特許を取得したバルジュー7750には定評があり、最も大きな功績のひとつでもある。ラ・ジュー・ペレ社や現在のセリタ社での経験も言うにおよばない。彼の専門性は、この新しいキャリバーが部分的には7750の構造に依拠しているものの、それとは大きく異なり、セリタ社の既存カタログには含まれていない完全オリジナルのものだ。標準的なバルジュー7750ムーブメントの厚さが7.9mmであるのに対し、マキシグラフのキャリバーは延長された約64時間のパワーリザーブ、モノプッシャーの改良、特許取得のレトログラードレガッタカウントダウンを備えながら、6.6mmに抑えられている。実際に手にしてみると、クロノグラフの動作は7750よりもかなり滑らかに感じられた。そのため最初は7750との関連性にまったく気付かず、感心させられた。
時計を裏返すと、ケースバックにはアルビスホルンとマッセナLABのロゴ、そして1939年に第1回ル・ボルドールを受賞した6メートルヨット、イリアムIV号の製図風アートワークが刻印されている。赤いトロピックスタイルのラバーストラップと白いカーフレザーストラップの両方が付属するが、私は100m防水の時計にはラバーストラップが間違いなく適していると感じた。左右非対称のロゴ入りピンバックルもいい味だ。
マッセナLABのコラボレーションのほとんどが完全限定生産であるのに対し、マキシグラフは1バッチごとに25本程度の“限定生産”として発表された。確かにマキシグラフは4995ドル(日本円で約80万円)と、安価な時計ではない。しかしともに時間を過ごしてみて、とくに製造の背景を考慮すると、決して高い価格設定だとは思わない。この希少性は意図的につくり出されたものでもない。このキャリバーに要求される調整と精密さは、手作業の少量生産によってのみ達成可能なのだと、ショルモンテ氏は教えてくれた。快適に着用できるサイズでユニークなムーブメントを搭載した、斬新なレガッタタイマーが5000ドル以下というのは、このセグメントにあって非常にフェアな試みだと思う。市場でこれに似たものを見つけるのは難しいだろう。
ウィリアム・マッセナ(William Massena)氏に、この時計がいつまで生産されるのか聞いてみたところ、おそらく今年いっぱいは生産されないだろうとのことだった。マッセナ氏は、「私は、生産中にほとんどの人に見過ごされがちな、少量生産の個性的な時計が大好きなのです」と語った。アルビスホルンとマキシグラフの両方を初期から支えてくれるサポーターに、のちのち隠れた名作として報いる限定生産のアイデアの源泉として、ホイヤーのマレオグラフやジン EZM 1のような、コレクターに愛される時計について言及した。これは確かに興味深い戦略であり、この非常に魅力的な時計は目指した目的をしっかりと果たしており、戦略がうまくいく可能性は十分にある。
アルビスホルン×マッセナLAB マキシグラフ。ケース径39mm(ベゼル41mm)、厚さ13mmのステンレススティール製。100m防水で、モノプッシャークロノグラフと特許取得の10分カウントダウンレガッタタイマーを備えた独自の自動巻きキャリバーを搭載。数量限定生産で、マッセナLABの公式ウェブサイトで販売。詳しくはこちら。
Photos by TanTan Wang
話題の記事
Hands-On ニバダ グレンヒェン アンタークティック ダイバーにグリーンダイヤルが登場
Happenings HODINKEE.jp × PROSPEX Special Talk in Osaka
Introducing グランドセイコー SBGH368で桜が帰ってきた