ベーススラップをし、チップスを二度漬けし、ワーナー・ブラザースの野外撮影所で特大のカプチーノを持ちながら噴水に浸かってほしい。 我々は1990年代の木曜日行きのタイムマシンに飛び乗っているのだから。今回は、『となりのサインフェルド』や『フレンズ』のようなゴールデンタイムの“必見テレビドラマ”を、時計という観点からご紹介していこう。
このふたつの番組は1989年から2000年代前半まで10年以上にわたってNBCのコメディ番組を支えたが、全盛期は90年代だった。このふたつの番組がクロスオーバーすることはほとんどなかったが、シーズン5後半の『となりのサインフェルド』にコートニー・コックスがゲストとして出演している(『フレンズ』に出演する直前のエピソードだ)。彼女はクリーニングの割引を受けるためにジェリーの妻のふりをする約を演じた。しかし、2人のスターとふたつの番組が持つつながりはそれだけではない。もうひとつは、時計なのだ。
熱心な愛好家やコメディー好きの方なら、ジェリー・サインフェルドが単に時計好きというだけでなく、ブライトリングの時計に特別なこだわりを持っていることは、ご存知だろう。『サインフェルド: ヴィンテージカーでコーヒーを』のエピソード(私はお笑いもコメディアンもなしでこのコンセプトをゼニス クロノマスター オリジナル 38mmの1週間レビュー記事で扱ったことがある)では、彼が白文字盤のエアロスペースを身につけている姿をよく見かけた。しかし、彼のブライトリングの習慣、いや情熱は、1980年代後半から90年代初頭にかけての『となりのサインフェルド』でのシーンにまでさかのぼることになる。
時折、ナビタイマーやカルティエのサントスが登場するものの、彼が選んだ時計はブライトリングのクロノマットで、おそらくモデルは、Ref.81950A。ツートンカラーで、ルーローブレスレットを備えている。このブレスレットは、ケースやライダータブ付きベゼルのフォルムと相まってユニークな特徴となり、ひと目でこの時計だとわかる。1980年代に商業的成功を収め、その人気は90年代まで続いた。サインフェルド(登場人物)が人気をさらに高め、現在では『となりのサインフェルド』における神秘的な存在となっている。
1984年に発表された39mmのクロノマットは、当時のブライトリング代表、アーネスト・シュナイダーの長年に及ぶ努力の結晶だ。彼は当初、イタリア空軍の飛行部隊、フレッチェ・トリコローリのためにクロノグラフ“フレッチェ・トリコローリ”という、その名を冠した別の名前の時計を開発していた(この時計は1983年に発売された)。埋め込まれた風防とライダータブ付きベゼルは、バルジュー7750を搭載したクロノマットのデザインの定番となった。多くの点でシュナイダーはこの時計を80年代を代表する時計とみなしたが、『となりのサインフェルド』はこれを90年代の時計としたのである。
『となりのサインフェルド』は1989年にわずか5話のパイロット版からファーストシーズン、という順序でデビューした。NBCの経営陣は、このつまらない番組を信じていなかったし、明らかに将来の視聴率に期待などしていなかった。『フレンズ』はその5年後の1994年にスタートし『となりのサインフェルド』とは形式もコメディのスタイルも大きく異なっていたが、モニカ・ゲラー役を務めたコックスの手首には親しみやすくフレンドリーな(笑)時計がつけられていた。ブライトリングのクロノマット......ライクなモデルだ。
彼女の時計は、ケースサイズ(36mm)とムーブメント(クォーツ)を除けば、基本的にクロノマットに似ている。ブライトリングのセクスタントref.B55045というモデルのようだ。B55045、こちらもツートンカラーで、文字盤はブルーだ。クロノマットをベースにしているように見えるが(クロノマットと呼ばれることのほうが多い)、それにしても、なぜか90年代のほかのブライトリングはすべてクロノマットをベースにしているように感じられる。 しかし、厳密にはそう呼ばない理由がある。クロノマットという名称が、クロノグラフとオートマティックという言葉を組み合わせたものだからだ。しかし、すべての意図と目的を鑑みて考えると、B55045のデザインはその時計のほぼすべてを受け継いでいるといえるのである。
ひとつ確かなことは、彼女のセクスタント、または“クロノマット”は、『となりのサインフェルド』のサインフェルドのものと同じルーロー・スタイルのブレスレットを備えていることだ。それはまるで、シーズン5のひとつのエピソードでともに時を過ごした、非公式の、ユニバースを越える、記念品的位置付けの時計のようだ。言い過ぎかもしれないが、間違ってはいない。
放送されたネットワーク以外では『となりのサインフェルド』と『フレンズ』のあいだに実際のつながりはないが、ひとクセ加えた見方をし時系列で考えてみることにしよう。コックスがゲスト出演した『となりのサインフェルド』のエピソード「The Wife」は、1994年3月17日に放送された。そのエピソードのコックスとのシーンで、サインフェルドがクロノマットを着用している姿が見られる(残念ながら、彼女の手首は写っていない)。それから約半年後の1994年9月22日、NBCでフレンズの“パイロット版”が放送された。しかし、耳寄り情報がある。パイロット版は1994年5月4日に撮影されたのだが、これはコックスの『となりのサインフェルド』出演から2ヵ月も経っていない。
さて、どういうことだろうか? まあ、ラリー・デイヴィッドとジョージ・コスタンザの言葉を借りれば、「何もない」のだ。だが、確かに『となりのサインフェルド』がコックスの時計決めに影響を与えたのだろうかという疑問を抱かせる。そして何より、ブライトリングのクロノマットとそのデザイン言語が、1990年代という10年間における時計業界の重要なタッチポイントであったということが証明されたのである。
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