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A Week On The Wrist ゼニス クロノマスター オリジナル 38mmを1週間レビュー

瞬発力ではなく持久力で勝利するゼニスの底力。

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1969年は激動の1年だった。宇宙飛行士が月面に到達し、リチャード・ニクソンが第37代大統領に選出され、初のウッドストックが開催され約35万人のヒッピーが参加した。時計の世界では、ゼニスがいまや象徴的なモデルとなったエル・プリメロ A386を発表した。この自動巻きクロノグラフは、60年代らしいカラフルなデザインが特徴だ。

 それ以来、ゼニスは何かと波乱万丈な軌跡を辿ってきた。クォーツ危機の際には大きな被害を受けたが、幸いにも灰燼から立ち上がることができたブランドの一つである。なぜか? それは、最高の自動巻きクロノグラフムーブメントを作っていたからだ。最高であれば、自ずと物事は上手くいくものだ。機械的な性能はもちろん、ゼニスのA386は個性的の派手なデザインで、当時の数多くのブランドのモノクロームな製品のなかで際立っていた。

 年月を経ても、ゼニスはこのリファレンスの重要性を忘れておらず、何度も改良を重ねてきた。A386のトリビュートモデルとして、同じケースサイズ、ダイヤルデザイン(およびカラーリング)の限定モデルを製造してきたが、オリジナルがステンレススティール製であるのに対し、トリビュートモデルは、しばしばプレシャスメタル(貴金属)ケースを採用してきた。また、トリビュートモデルがSS製の場合、オリジナルモデルのサイズがちょうどよい38mmだったのに対し、40mm以上のサイズが採用されてきた。これはまさに(大きからず小さからず調度いいものを求める) “ゴルディロックス”な難問であった。

 今年の6月、ゼニスはこの状況を一変させた。ゼニスはA386を復刻するにあたり、オリジナルと同じでありながら、まったく新しいムーブメントを搭載した時計を発表し、ムーブメント部門の手腕が衰えていないことを証明した(誰もが衰えたと思っていたわけではないが)。中身もスタイル的にも、このようなアップデートは、1969年当時、時代の先端を行っていた時計への完璧なトリビュートと言えるだろう。

 その時計こそが、ゼニスの自社製ハイビート5Hzクロノグラフムーブメントと10分の1秒計時機能を備えた、トリコロールカラーの新しいクロノマスター・オリジナルである。A386に精神的に通じた後継モデルで、SS製、そして何と言っても直径38mmのケースを採用している。この時計が発表された瞬間、私は手に入れなければならないと思った。そして手に入れたあとは、この時計と一緒に時を過ごさねばと考えた...そう、大体1週間ほど…。


歴史の振り返り

 高品質な自社製自動巻きクロノグラフムーブメントの製造で知られるゼニスは、長年にわたりマーテル・ウォッチ・カンパニーという会社からムーブメントの供給を受けていた。時計の世界だけでなく、ビジネスの世界全般でも常套手段であったように、ゼニスは1959年にマーテル社を買収した。その日からゼニスは自社製キャリバーを(事実上)製造することになり、1969年にエル・プリメロの発表に結実するまでの長年の研究を開始した。

ゼニス エル・プリメロA386

 自動巻きクロノグラフムーブメントを最初に開発したのはどのブランドか、時計業界では、さまざまな憶測が飛び交っている。ホイヤーとセイコーも自らの偉業を主張している。しかし、1969年に発表されたA386こそが、世界初の自動巻き一体型ハイビートカレンダー付きクロノグラフであることは明白な事実である。

 エル・プリメロの特徴は、既存の自動巻きキャリバーの上にクロノグラフモジュールを搭載するのではなく、完全に統合された一体型の自動巻きクロノグラフムーブメントであることだ。他のブランドも同様の成果を挙げることができるかもしれないが、ゼニスのハイビート(つまり、より正確な)スペックに匹敵するものはなかった。

世界初の高振動(5Hz)自動巻きクロノグラフムーブメント、ゼニス エル・プリメロの外観。

 このトリコロールのリファレンスは大量生産されなかった。たったの2000本生産されたことで、好きなバンドのライブアルバムの海賊盤を何年もかかって探すような、カルト的な人気を誇っていた。クォーツ危機が機械式時計業界を襲い、多くのブランドが倒産するなか、ゼニスもある意味では倒れることとなった。ゼニスは新経営陣のもと、エル・プリメロを取り残してクォーツ時計製造に力を注いだのだ。

 もし、ムーブメント設計者の一人であるシャルル・ヴェルモ(彼のキャリアはマーテル社に遡る)が、そのハイビートムーブメントの製造に必要なすべての機器を保管していなければ、エル・プリメロは間違いなく歴史から消えていただろう。ゼニスは1970年代に何度か経営が変わり、新しい経営者のもと、この名高いクロノグラフムーブメントを他の時計メーカーに供給しないかという話が持ち込まれた。そのなかのひとつがロレックスである。

"ヴェルモの屋根裏 "には、ムーブメントの部品を組み立てる際の詳細なマニュアルが、ヴェルモ氏自身によって残されている。

 80年代初頭、ザ・クラウン(ロレックス)の首脳は、必ずしもトップセラーではなかったデイトナをテコ入れしたいと考えていた。そのためにエル・プリメロのCal.400は完璧な選択だった。その薄さゆえに、ロレックスは新しいムーブメントを搭載するためにオイスターケースを大型化する必要がないという利点があったのだ。もちろん、既製品のムーブメントをそのまま時計に取り付ければいいというものではない。ロレックスは、この時計をよりロレックスらしいものにする必要があった。そのために、ムーブメントの約50%を変更した‐カレンダーディスクを廃したり、振動数を3万6000振動/時から2万8800振動/時に下げたりと、さまざまな変更を施した。

ロレックスのCal.4030

 1988年にロレックス デイトナ Ref.16520(通称:ゼニス・デイトナ)が発売されると、ゼニスの運命は一変した。時計ではなく、エル・プリメロのキャリバー生産によって、業績が好転したのである。ゼニス・デイトナは1988年から2000年まで生産され、生産終了は1999年にLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)がゼニスを買収した時期とほぼ重なる。それ以来、ゼニスはオリジナルのトリコロールカラーのA386とエル・プリメロムーブメントの美的デザイン言語をブランドの基盤としている。

ゼニス・デイトナ

 この20年ほどのあいだに、ハイビートムーブメントを搭載した数多くの特別モデルや、10分の1秒単位での読み取りが可能なバージョン(ストライキング 10th)が登場したが、デザイン的にも技術的にもオリジナルのエッセンスを感じさせる時計は生み出されなかった。それでも今年、トリコロールを施した38mmの新型クロノマスター オリジナルが発表され、状況は一変した。


デザインランゲージ

 この時計で私が最も共感したのは、ミッドセンチュリー後期のデザイン言語がかなり反映されていることだ。ゼニスは、1969年に発売されたA386のレトロな要素を、完全に現代のこの時計にシームレスに取り入れることに成功した。

 まず目につくのは、サンバーストグレー、ブラック(実に濃いグレー)、ブルーの3色のサブダイヤルだ。時計の世界には、真に象徴的なデザインというものは、数少ないが(ロレックス、オーデマ ピゲ、パテック フィリップ、オメガなどのブランドでも、それぞれ1つや2つはある程度だ)、エル・プリメロのトリコロールの外観は、間違いなくその1つに挙がるだろう。

 ダイヤルはコントラストを重視しており、それによって視認性を高めている。秒表示のインダイヤルの目盛りは、太い黒地が施され、シルバーダイヤルを背景に浮かび上がる100秒カウンターを表示している。ラスベガスのルーレットテーブルのような雰囲気で、一度見たら忘れられないデザインだ。有り金全部を赤色に賭けるなら、クロノグラフ秒針にもその色を見つけることができる。この針の先端は曲げられており、ダイヤルに触れるかのようだ。これは小さなデザイン上の工夫だが、細部にまでこだわり正確さを追求していることを物語っている。

 また、ミッドセンチュリーのオリジナルモデルと同じ書体で書かれた“El Primero”のクラシックな文字、Zenithロゴ、アプライドされたスターロゴもある。ロレックスは取り除いてしまった4時半位置のデイト表示も守り続けている。こまでくると、もはや伝統芸といっていい。

 4時半位置のデイト表示については誰もが思うところがあり、人によって好き嫌いはあるだろうが、この特別な開口部が何を特徴としているのかを説明するのがよいだろう。ひとつには、69年のオリジナルに遡るデザイン上の特徴だということ。ゼニスが最初から3時位置に配置することも可能だったと思うが、このようなカラフルな時計だからこそ、デイト表示を変則的な位置にあえて配置することが1969年らしいと感じられる。

 外周上の2つのスケール、マルチカラーのサブダイヤル、多彩なテキスト、デイト表示など、ダイヤルレイアウトには多くの趣向を凝らしているが、ごちゃごちゃした印象は皆無だ。逆に言えば、全体的に見ると非常にバランスが取れている。ダイヤルデザインは、スピードマスターと現行ロレックス デイトナの中間に位置しているが、取り除きたいと感じるデザイン要素はない。また、振動数表示(36000VpH)も違和感ない印象だ。確かに、ムーブメントがより速く、より正確であることを示すのはちょっとした工夫が必要で、前述したブランドでは“Professional”や“superlative”といった単語が使われている。エル・プリメロにおいては、これは誇張ではなく単なる情報なのだ。

 エル・プリメロのムーブメントの歴史については、すでに多くの記事に書かれているが(本記事も含め)、この時計の内部で駆動するCal.3600についても触れておこう。その理由のひとつは、トランスパレントケースバックから眺めることができるからである。このムーブメントは新開発されたものだが、1969年に発表されたCal.400のアップデート版だ。

 このムーブメントは、ダイヤル表示されている振動数に合わせて、中央のクロノグラフ針が10秒で1回転するようになっている。これは、聞いただけでもかっこいいのだが、実際に目の当たりにすると、最高にかっこいいものだ。つまり、中央の針がダイヤルの周りを高速周回するのだ。この機能を搭載しないA386のアニバーサリーモデルと比較することができた(中央の秒針は60秒で一周する)。アニバーサリーモデルが1回転するあいだに、新しいクロノマスターが6回転もする様は.....ただただ......クールだった。

 ダイヤルには、6時位置に60分積算計、3時位置に60秒積算計、9時位置にスモールセコンドを搭載する。さらに、このムーブメントは3日間のパワーリザーブを備えている。現代の時計製造全体の縮図だと言える。


オン・ザ・リスト

 告白しよう。あまりにも長いあいだ、私は40mm径が自分にとってスイートスポットの時計サイズであるという考えに騙されていた。クロノマスター オリジナルと1週間過ごしたあと、すべてが変わった。私は今、38mm径サイズを支持している。その理由の多くは、オリジナルのA386を彷彿とさせるクラシックなケースプロポーションと、12.6mmという薄さにある。

 その点、40mm以下でベゼルのない時計は、クロノグラフであってもそうでなくても、何かしらの意味があると思う。ここでは、ケースの縁が非常に薄く、ケース全体が基本的にダイヤルだけで構成されている。多くの主要ブランドのヴィンテージウォッチを見ていると、新しい製品のほとんどは、オマージュを捧げた時計のサイズの大型版になっているが、これはケース径のことだけではない。ヴィンテージ感があるにもかかわらず、現代の時計はかなり分厚くなっていることが多いのだ。そのため、本来とは逆に時計につけられたように感じてしまうことがあるものだが、このモデルではそのようなことは感じない。シャープでスポーティなラグ、コンパクトなリューズとプッシャーなど、この時計はよい意味でヴィンテージ感を損なっていない。この時計を身につければ、そこは分かってもらえるだろう。

 この時計を手にしたとき、私は1966年製の赤いフォード マスタングに乗って、ニューヨークとニュージャージー周辺をドライブした。1960年代のカーレース用クロノグラフと同時代の車との組み合わせは、何かとてもしっくりくるものがあった。唯一の違いは、ゼニスに搭載されているムーブメントが’69年製のクラシックなCal.400の進化版であるのに対し、マスタングに搭載されているエンジンがオリジナルであることだ(そしてエンジン音もオリジナルである)。

 この時計全体を1969年製のエル・プリメロと見間違えるのも無理はない。特にマスタングの暗いコンバーチブルのなかではそうだが、ダイヤルを見れば違うことに気づくだろう。

 10分の1秒単位の目盛りが付いた新しいインナーベゼルは、このモデルが復刻版ではなく、A386から始まった長年の進化の最新形態であることを示している。このモデルは完璧に機能するクロノグラフで、腕に装着したままでも操作は簡単だ。上のプッシャーを押すだけで、中央の赤いクロノグラフ針が動き出す。

 10分の1秒クロノグラフの性能は、自分で起動して楽しむだけのものではない。それは間違いなく、パーティでのトリックに使えるだろう。ただし、人の肩を叩いて"僕の時計のクールな機能を見たい?"と尋ねる前に、相手のことをよく知っておく程度の配慮はして欲しい。


競合モデル
オメガ スピードマスター321

 カルト的人気を誇るクロノグラフムーブメントは、そうそうない。しかし、そのパイの一部を占めることができるムーブメントがあるとすれば、それはオメガ Cal.321だろう。確かに、このムーブメントは自動巻きではないが、エル・プリメロと同じくらい、あるいはそれ以上に歴史的に重要なムーブメントだ。

 この時計(とムーブメント)が特に重要な理由は、昨年、オメガがかつて不可能と思われていたことを成し遂げたからだ。それは、321を黄泉の国から蘇らせたことだ。エル・プリメロ400の現代的な解釈と同様、オメガはこの新しいスピーディのケースを39.7mmに小型化し(実際には、リューズとプッシャーガードを取り除いただけだが)、クラシックなキャリバーを現代の基準に合わせて再構築した。価格的には、この時計は我々のゼニスより少し上となる166万1000円(税込)であり、毎年生産数が限られていることだ。しかし、ゼニスとスピーディの両方がモダン/クラシック融合のスポットライトを浴びているのは、信じられないほどクールなことだ。

ロレックス デイトナ Ref.116500LN

 ゼニス クロノマスター オリジナルとロレックス デイトナを比較しない手はない。この2つの時計の歴史は、切っても切れない関係にある。エル・プリメロがなければ、ウイルスドルフ家が独自の自動巻きクロノグラフキャリバーを発表するまでにどれだけの時間がかかったかわからない。デイトナがロレックスの落ちこぼれから、誰もが認めるスターモデルになるきっかけを作ったのは、ゼニスの功績が大きい。今日、特に消費者の目から見ると、デイトナは市場のあらゆるクロノグラフを凌駕している。セラミックベゼル、完璧に近いブレスレットデザイン(ロレックス オイスターフレックスを装着する派生モデルもある)など、オーデマ ピゲやパテックのスティール製高級時計と肩を並べるほどである(特に二次流通市場の相場を知ると尚更だ)。

 しかし、惑わされていけない。145万7500円(税込)のデイトナは、この新しいクロノマスターと同じ土俵にあって、ゼニスのムーブメントの方が優れていると私は断言しよう。結局すべては好みによると思うが、自動巻きクロノグラフを探しているのであれば、人の熱狂に惑わされないで欲しい。そして、ゼニスを選ぶのを見送らないでくれ。

タグ・ホイヤー カレラ 160周年 モントリオールリミテッドエディション

 この時計がなぜここに挙がるのか、読者の皆さんは察していただけるだろう。とにかくよく見て欲しい。配色やデザインの美しさは(ヴィンテージのホイヤー  カレラの理念に完全に忠実ではあるものの)、クラシックなトリコロールのゼニスの外観と比較せずにはいらない。今回の比較では、私は特定の共通項を持つブランド群に絞っている。つまり、主に伝統的で象徴的なクロノグラフをデザインしてきた時計ブランドに注目しているのだ。特にホイヤーのカレラは、たとえこのモデルが60年代や70年代に実際に存在していなかったとしても、このリストのどの時計にも比肩するアイコンと言える。しかし、このモデルは当時のクッションケースのホイヤー モントリオールをベースにしているものの、タグ・ホイヤーはカラフルな雰囲気を、より保守的でヴィンテージ感あふれるカレラのケースデザインに取り入れることにした。

 この時計は、マニュファクチュールムーブメントであるホイヤー02を搭載しており、垂直クラッチ、コラムホイール、80時間のパワーリザーブを備えている。80万3000円(税込)という価格は、デザイン、歴史、ムーブメント技術の面で多くの価値を提供しながらも、このなかで最も手頃な価格設定となっている。さらに、ブルーとレッドの配色に加えて、イエローの装飾もあるとは! 私の計算では、ゼニスよりも原色が1つ多い。


最終的な結論

 ゼニスが発表したクロノマスター オリジナルの新作に、HODINKEE一同は興奮した。発表された3モデルは、スティールモデルと、強烈なパティーナの雰囲気を持つローズゴールドモデルだが、なかでも特に内々でバズったのは、トリコロールモデルだった。実物を見たときには、この騒ぎの意味がすぐにわかった。

 この時計は、ブランドがかつてのように時計を作ることを躊躇すべきではないこと、そしてデザインが優れたムーブメントを犠牲にする必要はないと主張している。

 クロノマスター オリジナルは、ダイヤルやケースサイズなどを基本的に完全復刻して、1969年のA386の魅力をすべて受け継いでいる。ダイヤルのデザインが異なるのは、ムーブメントに加えられた技術的な改良に左右されたからである。

 世界初のオートマチックカレンダークロノグラフのメーカーである同社は、この50年間、その地位に甘んじることなく、この時計を世に送り出すためにムーブメントの新技術や新デザインのテストなど、緻密な作業を行ってきた。過去半世紀にわたる時計の歴史を、現代の時計製造の基準に合わせて完全にアップデートした時計を腕にしたいのであれば、これ以上に目的に適う時計はないだろう。

photos:カーシャ・ミルトン、ジョン・ピーボディ