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Hands-On シャネル ボーイフレンド スケルトン X-Ray レッドエディションと芸術的なムーブメント

たまには紅に浸るのも心地よい。


シャネルのボーイフレンドは2015年にデビューし、当時ハンズオンを担当したカーラ・バレットによると、その名前の背景にあるコンセプトは、この時計を身につけると、ボーイフレンドが奪いたくなることだそうだ(注:あるいは、ボーイフレンドのものを借りたような雰囲気の時計)。この時計はもともと、シャネル独自のベージュゴールド(イエローゴールドより少し明るいが、ピンクゴールドほど銅色が抑えられた合金)ケースにダイヤモンドベゼル、またはホワイトゴールドで展開されていた。自分の大切な人の窃取を誘うという発想は如何なものかと思うものの、メンズドレスウォッチとして非の打ち所がないと当時も今も思っている。大きいサイズの“タンク ルイ カルティエ”のサイズは、33.7mm×25.5mm、2018年のボーイフレンド スケルトンは37mm×28.6mmだから、この2本の着用感は極めて似通っているのである。最新版のボーイフレンド スケルトンは、初代モデルと同じ自社製ムーブメント、Cal.3(意外なことにブリッジはローマン・ゴティエが開発した)を採用しながら、地板と受けを深い緋色に染め、それをなんと合成サファイアケースに収めたのだ。

Chanel Boy.Friend Red Skeleton

 シャネルのムーブメントは様々なところから供給されているが、一部の高級キャリバーはラ・ショー・ド・フォンのシャネル所有工場で製造されており、なかにはジャンピングアワーのCal.1(ムッシュー ドゥ シャネルに採用)や、過去には意外にもオーデマ ピゲが供給したムーブメント(J12コレクションに搭載されたAP Cal.3120など)が採用されている。シャネルの時計を所謂“ファッションウォッチ”として一蹴するのは簡単だが、シャネルは自社で特殊なムーブメントを設計・製造し、高級時計製造の分野で最も尊敬される企業と協力するほど、時計製造に真剣に取り組んでいるという事実を見過ごすわけにはいかないだろう。

The Chanel Caliber 3

2018年発表のCal.3。

 オリジナルのボーイフレンド スケルトンは、面白いことに“ボーイフレンド”ではなく、単にCal.3とだけ呼ばれていたが、ケースは確かにボーイフレンドのケースであった。自分にボーイフレンドがいるかいないか、自分自身がボーイフレンドであるかどうか、あるいはボーイフレンド全般に興味があるかどうかは、おそらく、この時計が従来のスイス高級ブランドがときとして獲得するのに苦労する、ある種正統派のエレガンスを備える興味深いムーブメントを搭載した時計であるという事実ほど、重要なことではない。タンクLCと同様、一見したところ、思った以上に万能だと思うし、今もそう思っている。一方で、シャネル ボーイフレンド スケルトン X-Ray レッドエディションは、日常使いできる類の時計ではない。

 ボーイフレンドのケースの特徴は、No.5(香水)のボトルの栓を思わせるような形状だ。レッドエディションでは、シースルーケースによってそれがさらに強調され、初代のケースデザインのクラリティを損なうことなく、360°全方向からムーブメントを眺めることができるのだ。

Chanel Boy.Friend Red Skeleton closeup

 サファイアケースの採用は、初代Cal.3とは打って変わり、時計をまるでひと目で宝石だと見紛わせるほどであり、単にムーブメントをスケルトン化する以上の効果をもたらしている。サファイアケースはダイヤモンドファセットのように光を取り込み、屈折させ、反射させることで、まるで鏡の前でムーブメントを見ているかのような視覚的インパクトを与えるのだ。

Chanel Boy.Friend Red Skeleton movement

 赤の色調は無限にあるが、シャネルがレッドエディションのために選んだのは、極めて彩度の高い、ほとんど紫に近い赤、つまり、夜の街に繰り出すような、紫に近い洋紅色(カーマイン)だ。Cal.3が静謐なラグジュアリー感を漂わせていたのに対し、レッドエディションは繊細さを微塵も感じさせず、鳩の血のようなルビー色の魅惑的な輝きを放ち、ルビーと同じように光の当たり方によって色調が刻々と変化する。

Chanel Boy.Friend Red Skeleton wrist shot

 女性用の時計か、男性用の時計かという問題は、論争のための論争を吹っかけるのが好きな人を除いては、今や解決済みの問題だ。時計は、実用的なものから華やかな装飾や気まぐれなものまで、隙無く存在するものであり、好みや状況によって使い分けることができるものである。シャネルはまた、このデザインが伝統的なマスキュリン対フェミニンのデザインコードを覆すことに意図的に挑戦したと明言している。

 ともすれば、何事にも適切な時と場合があるというのが良識かもしれない。確かにボーイフレンド スケルトン X-Ray レッドエディションは、例えば、堅苦しいビジネスミーティングにつけていくような時計ではないが、個人的なスタイルの選択として、常識を超越するのに相応しい時計といえるかもしれない。スタイルの規範を破ることは、必ずしも反感を呼び起こすことが目的ではない‐ときには、常識を新たな視野が、新たな評価を下すこともあるからだ。昔、広告業界で働いていたとき、ブルックス ブラザーズの旗艦店で働く紳士とエレベーターに乗り合わせたことがある。彼は、とても派手な紫のウィンドウペーンチェックのスーツに、金のカラーピンのついたクレリックシャツを着て、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル(おそらく彼のお気に入りの犬種だろう)の絵が描かれた幅10センチはあろうかというタイを締めていた。おおよそブルックス ブラザーズのスーツのコンセプトとは多かれ少なかれ真逆を行く装いであり、支離滅裂であるはずなのに、なぜか全体として似合っていたことを想い出す。

Chanel Boy.Friend Red Skeleton sapphire case side view

 では、より進歩的な時計に映る状況があるのだろうか? もちろんだとも。私はこの時計が日常使いできる時計ではないという持論を曲げないが、もし身につけることで昼夜を問わず注目を浴びたいのなら、まさに打ってつけの時計だと断言しよう。私はこの時計を見るために、Watches & Wondersのシャネルのブースに何度も足を運んだ。そして、いつか誰かの腕に巻かれたこの時計と思いがけず遭遇できることを夢見ている。

シャネル ボーイフレンド スケルトン X-Ray レッドエディション:サファイアクリスタル製のケースとベゼル、37mm×28.6mm×8.4mm、防水性能30m。リューズ、18Kベージュゴールド。ムーブメント、Cal.3、自社製レッドスケルトン、手巻き、パワーリザーブ55時間。アリゲーター柄の型押しカーフストラップ(レッド)、18Kベージュゴールド製トリプルフォールディングクラスプ。世界限定100本。価格、1122万円(税込)。

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シャネルの時計製造について詳しくは公式Webサイトをご覧ください。