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In-Depth ドリームプロジェクト第二弾、G-D001が示すG-SHOCKの展望と可能性

G-SHOCK誕生40周年のフィナーレを飾るスペシャルモデルとして、世界でたった1本のみが製作されたG-D001。その開発の裏側について、カシオの担当者に直接話を聞いた。

Hero Image by Mark Kauzlarich ※2023年12月撮影 ほかクレジット表記のない画像はすべてカシオ計算機による提供。

すべてのモデルを市販するのではなく、一度くらいコンセプトモデルを作ってもいいのではないか──。G-SHOCKの生みの親として知られる伊部菊雄氏のこの発案によって、2014年に始動したのがドリームプロジェクトだ。それは究極のタフネスウォッチであるG-SHOCKを、メタル素材の王とも言えるゴールドで製作したDREAM PROJECT DW-5000 IBE SPECIALへと結実した。あまりの反響の高さから、2018年にはG-D5000として製品化され、翌年に35本が限定発売されるに至ったことはまだ記憶に新しい。G-D001はその第2弾となる作品で、G-SHOCKの40周年を顕彰するモデルとして製作された。2023年11月に開催されたアニバーサリーイベント、ショック・ザ・ワールド ニューヨーク 2023ではその全貌が披露されるとともに、フィリップスによるチャリティーオークションに出品することもアナウンス。結果、G-D001は12月に40万50ドル(約5800万円)で落札され、世界中の時計愛好家に衝撃を与えた。

 もっとも、G-D001の要となる外装の造形やムーブメント設計は、実のところドリームプロジェクトのために新規に開発されたものではなかったのだという。それらはあくまでも、今後のG-SHOCKの技術革新のために進められていた研究の一部であった。だが35周年のアニバーサリーイヤーが終わり、40周年でも特別なG-SHOCKを形にしたいという機運がカシオ社内で高まるなかで、これらの研究内容に白羽の矢が立てられることになった。そこで、研究を主導していたデザイナーやムーブメントの設計者をはじめ、商品企画や外装設計といった各部門から次世代のG-SHOCKを担う若手のメンバーが選出され、2020年よりドリームプロジェクトの第2弾が本格的にスタートした。今回は、その中心で活躍していた3名の人物、商品企画部の井ノ本脩さんと黒羽晃洋さん、香港カシオ時計デザイン部の網倉遼さんに話を伺うことができた。


AIとカシオの技術者によって、二人三脚で進められた構造設計

G-D001において、とりわけ人々の心をつかんだのがその複雑に入り組んだ造形にあることは間違いないだろう。カシオでは常々、デザインの進化=耐衝撃構造の進化であると考えて研究開発を進めてきた。では、AIが注目される現代において、同技術を用いながら新しい耐衝撃構造やデザインが生み出せないか──。そうした発想のもと導き出されたのが時計全体が緩衝体の役割を果たす構造であり、結果として生まれたのが無数のフレームが複雑に交錯して重なり合い、生命体をも想起させるような奇抜な造形だ。これはカシオが40年にわたって蓄積してきた耐衝撃のデータと、デザイナーが作成したG-SHOCKとしてのデザインの骨格をAIに入力することで実現したものだが、「AIの最初のアウトプットは性能面こそG-SHOCKの基準を満たしていましたが、ブランドらしいルックスからはかけ離れたものでした」とデザイン担当の網倉さんが語るとおり、一筋縄ではいかなかった。そのため、デザイナーとAIとのあいだで3Dデータのやり取りが幾度となく繰り返され、苦労の末に現在のデザインに着地した。この調整は、プロダクトの完成ギリギリまで行われていたという。

 この複雑な形状を具現化するうえでは、当然のことながら高いハードルが待ち構えていた。MRG-B5000のように外装パーツを細分化するのであれば話は別だが、G-D001は外装を一体成形(主要な外装パーツ数は、一般的なG-SHOCKと変わらない)にすることで耐衝撃性を確保しているため、成形が極めて難しくなっている。「当初、チーム内では3Dプリンタで製作するアイデアも持ち上がりました。しかし、成形後に外装を研磨することを踏まえると、鋳造による成形が最良であると判断したんです」(網倉さん)。その結果として、寸法精度や表面粗度に優れた(反面、コストも高い)ロストワックス鋳造が選ばれた。

 しかも、G-D001は革新的で最高峰のG-SHOCKにふさわしく、複雑な形状の入り組んだ箇所にまで徹底した研磨が施され、鏡面とヘアラインの仕上げ分けまで行われている。「研磨は熟練のひとりの技術者によって手がけられています。G-D001を磨くために作られた専用工具を使いながら、ベゼルだけで3日、さらにバンドで3日の時間を要しました」(井ノ本さん)。その艶やかな表情は、プラチナやステンレススティールに置き換わった場合、どのように映るのだろうと妄想したくなるが、そもそも異なる素材になると、重量や硬度などの特性も変わるため、AIがこの形状をアウトプットしない可能性が高いとデザイン担当の網倉さんは語る。つまり、G-D001の芸術的な造形と輝きは、18Kイエローゴールドだからこそ実現できたものなのだ。

 ドリームプロジェクト第1弾のG-D5000は金無垢でありながらも評価試験を実施し、その模様は35周年のフィナーレを飾るイベントでも流された。そして、今回のG-D001もしっかりと評価試験が行われている。「G-SHOCKに不可欠な落下衝撃試験はもちろん、時計に1万ボルト相当の電気を放つ静電気試験やハンマーで衝撃を与える試験など、既存モデルと同様に100を超える厳格な試験をクリアしています。これまでにない時計全体が緩衝体の役割を持つ構造でありながら、一般的なG-SHOCKと比べても遜色のない性能を備えていることを実証しているんです」(井ノ本さん)。一本限りのコンセプトモデルでありながら、G-SHOCKの名前に恥じないスペックとタフネスを要求する一貫した姿勢には、ブランドとしての矜持を感じる。


金属プレートによる美観と発電効率を両立させた新開発のモジュール

G-D001を印象的にしているもうひとつのエレメントが、ダイヤルにその姿を現すモジュールだ。このモジュールも外装と同様、今回のプロジェクトとは別軸で研究が進められていたもので、ドリームプロジェクト第2弾のスタートを機に設計が本格的に進められた。メタル製のメインプレートを備えたインダストリアルなルックスに仕上げられ、複雑形状の外装と融合することで時計全体をソリッドな表情にしているのだが、これを組み込むうえで追加されたのがモジュール上面にセットされたY字型のパーツだ。このパーツもAIによって作成されたもので、オープンワークのダイヤルでありながらモジュールのたわみを軽減する、耐衝撃性能における重要な役割を担っている。

Photo by Mark Kauzlarich ※2023年12月撮影

 だが何より画期的なのは、メタル製のメインプレートを用いながらソーラー充電を実現している点だろう。光を取り込んで時計を駆動させるこのシステムは当然ながらソーラーセルを用いて発電を安定化させる必要があり、光が透過しない金属を文字盤に用いることは不可能とされてきた。それは、ダイヤルのデザインに制約を与えることにもつながっていたのだが、これを覆したのがガリウム化合物を使ったソーラーセルだ。「ガリウム化合物によるソーラーセルは、従来のシリコンのものと比べて約3倍の発電効率を実現しています。これにより、数字が型抜きされた日車のわずかなスペースでも十分な受光ができるようになっています」(黒羽さん)。しかも、日車の数字は1、17、2、18、3、19……のように1日置きに配列されているのだが、これは1桁の数字と2桁の数字を分散させることで、ソーラーセル全体の受光効率を平均化させるためだという。

 斬新な形状の外装に組み合わせるために、モジュールの仕上げや素材も見直された。「そもそもカシオのモジュールは想像以上に複雑な構造をとっています。これをデザインの一部にしてみたいという話はかねてより社内で上がっていました」と黒羽さんは語る。今作ではそれが実現したわけだが、ポイントとなったのがカシオ初採用となったシリコン製の歯車だ。シリコンのウエハーから半導体を作り出す微細加工の技術を用いて精度の高い歯車を製作するだけではなく、G-SHOCKのロゴを肉抜きする遊びも入れることで、オリジナリティあふれるモジュールデザインを生み出したのだ。


G-SHOCK G-D001のプロジェクトが切り拓く、未来への展望

G-SHOCK初のフルゴールドモデルでありながら耐衝撃性能を備えたG-D5000が、ステンレススティールやチタンを用いたレギュラーモデルへと結びついたのと同じように、G-D001の誕生は今後その技術を応用したG-SHOCKが誕生する可能性を示すものである。人間とAIの共作によって生み出された異素材の時計は、より複雑な形状をまとって現れるかもしれないし、逆にG-SHOCK史上、もっともミニマルな外装デザインをとるかもしれない。また、今作のようなメタルのムーブメントがレギュラーモデルに搭載されれば、外装デザインは大きな変貌を遂げることになるだろう(当然、ガリウム化合物ソーラーセルの使用によるコストアップは避けられないだろうが)。

 AIを駆使した奇抜な造形や、機械式ムーブメントを思わせる新モジュール、さらには高額な落札金額──。もちろん、それも注目すべき要素ではあるのだが、本当に注視したいのはドリームプロジェクトの達成によって見えてくるG-SHOCKのこれからだ。手にすることはもちろん、実物を目にすることも叶わなくなってしまったG-D001だが、今はその技術がもたらすG-SHOCKの次なる進化を期待して待とうではないか。

G-SHOCK DREAM PROJECT #2 G-D001。直径38mm×厚さ13.2mm、ラグからラグまでは46mm。18Kイエローゴールド製ケース&ブレスレット、20気圧防水。シリコン製歯車、55石。耐衝撃構造、ガリウム化合物によるソーラー充電システム、標準電波受信機能(マルチバンド6)、デュアルタイム、ストップウォッチ、暗所視認補助(ソーラーセル発光)、デイト表示。世界限定1本。40万50ドル、日本円で約5800万円で落札。

詳細はG-SHOCKのWebサイトをご確認ください。

Words:Yuzo Takeishi