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In-Depth AnOrdainの創設者、ルイス・ヒースとの対談

グラスゴーに拠点を置く時計メーカーの創設者が、ウェイティングリスト、ムーンフェイズ、そしてエナメル職人ではなく時計職人として知られることについて語る。

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スコットランドにある時計メーカー、アンオーダイン(AnOrdain)を創設したルイス・ヒース(Lewis Heath)氏は、「時計メーカーではなく、文字盤メーカーとして見られていることは理解しています。しかし私たちがほかのメーカーと違って特別なのは、エナメル加工そのもののみならず、技術や時計製造に対するアプローチだと思います」と話した。

 スコットランドの小さな時計メーカー、アンオーダインにとってここ数年は多忙な日々だった。私は2023年の末にヒース氏と会い、アンオーダインについていろいろと話した。自社製の豪華なエナメル文字盤が際立つその時計は、ヒース氏が2015年にブランドを創業して以来瞬く間に人気を集めた。

 アンオーダインのヒース氏は、この業界で私が最も好きな人物のひとりだ。英国人らしく自虐的に言うと、彼はクラフツマンシップと職人たちの真の管理人であり、エナメル加工や時計製造、さらには木工のような、時計にはあまりなじみのない伝統的な職人技の存続にも力を注いでいる。彼は2021年の記事でエナメル加工と文字盤の仕上げについて教えた。“教えた”という表現は、彼が自分の会社について過剰なまでに透明性を保ちながら、ほかのいくつかの会社については必要以上に邪推をしたからである。

 それから3年が経ったが、彼はあまり変わっていない。ただしアンオーダインは変化した。グラスゴーを拠点とするブランドは現在、2028年までウェイティングリストを抱えており、先週オーダーを再開したばかりだ。2023年、アンオーダインはHODINKEEとの限定モデルを皮切りに、3番目の時計ラインナップであるモデル3 “メソッド”をリリースした。そして今春、グラスゴーにある新しい施設に移転する予定だ。最後にアンオーダインは最近、同じスコットランド発のブランドであるポーリン ウォッチを全面的に買収し、鮮やかなリブランドを行ったと発表した。

 ヒース氏と私は、ウェイティングリストや2024年での時計の販売方法、アンオーダインがグラスゴーにオープンしようとしている新施設“インハウス”(自社工房)の本当の利点について語ったあと、アンオーダインとポーリンの今後の動きについて少しだけ話した。

 全文読みたい人はいないだろうから、ルイス氏の長文の感想を含めつつ、私たちの会話を編集した。

ウェイティングリストと時計の売り方について

anordain lewis heath

アンオーダインの創設者、ルイス・ヒース氏。

 アンオーダインのウェイティングリストについて尋ねると、「私たちはいくつかの異なるモデル(販売方法)を試してきました」とヒース氏は語った。パンデミックが発生すると、アンオーダインを含む腕時計の需要が急増した。COVID以前は、注文から納品までのリードタイムが6週間程度と短かった。しかしリードタイムが長くなるにつれて、アンオーダインは少ない生産量を配分する、さまざまな方法を検討し始めた。

 当初は毎月生産される30個ほどの時計をウェブサイトに掲載すると、数秒で完売していた。しかしそれは顧客の怒りを買い、数カ月しか続かなかったとヒース氏は説明した。

 そのあとリストを作り始めたが、それはすぐに2万5000人まで増えた。そこでブランドはフローを建て付けるためにデポジットを設け始めた。これらの枠は2028年までにすぐに埋まったため、アンオーダインはウェイティングリストを(一時的に)閉鎖することにした。

 2023年末に話をしたとき、アンオーダインはすぐにウェイティングリストを公開する予定だった。そして先週、予約用リストを再びオープンした。

 「ただ私たちが望んでいないのはリストを再開して、次の10年に向けて腕時計を約束する立場になることです。ある意味、それがあることで、できることを制限する結果になります」

グラスゴーに工場を新設するにあたって

 需要が供給を上回るこの問題を“解決”するひとつの方法は、時計の生産量を増やすことだ。これはアンオーダインがグラスゴーに2024年春オープンを目指して工場を建設している理由のひとつである。

 「(ウェイティングリストがあることの)いい点は、それが確実に提供されるという安心感であり、それによって私たちは将来の計画を立てることができました」とヒース氏は述べた。

 新工場建設により、グラスゴーに点在していた6つの異なる製造拠点を時計製造のために新設された1カ所へと統合するのだ。

anordain facility

アンオーダインは2019年に現在のスタジオに引っ越したが、スペースが手狭になり、現在はグラスゴー内にある6つの異なる拠点を使用している。2024年初頭には新しい専用工場に移転する予定だ。

 「時計ブランドを運営するために必要な建物の仕様は、非常に多岐にわたっています。油圧プレス機、CNC機械などは騒音が大きくて埃っぽく、重量があり、それに耐えうる既存の建物は簡単に見つけることができません」

 アンオーダインの生産能力は、同社の文字盤を作るエナメル職人によってほぼ決定される。既存のスペースでは1対1のトレーニングしかできなかったが、ヒース氏によると、新しい工場ではひとりで複数のエナメル職人を同時にトレーニングできるという。

anordain method model 3

2023年に導入されたモデル3 “メソッド”について

 アンオーダインは2023年に、モデル3 “メソッド”を発表した。バーバリー、エルメス、ヴァシュロンなどを顧客とするスコットランドの木工工房、メソッドスタジオにインスパイアされた美しいウェーブパターンを持つエナメル文字盤が特徴だ。

 ヒース氏は同じようなエナメル文字盤に目立った欠点があるのを見て初めて、アンオーダインがモデル3であり得ないほど高い基準を課していることに気づき、発売を決めたという。

 「メソッドスタジオは、スコットランドの真ん中にある森林委員会(イギリスの政府機関で国有林の管理を行っている組織)の古い材木置き場にあります」とヒース氏。「私はそこへ2019年に訪問しました。棚の上に置かれたウイスキーの箱の一部としてこの美しい木片を見たとき、“私たちが作り上げるエナメルの下で遊びたいと思えるパターンと結びつくような、とても有機的で美しいテクスチャーだ”と感じたのを覚えています」

 「これは間違いなく、私たちこれまでにやってきたエナメル製品のなかで最も挑戦的なものです」

 ヒース氏は、モデル3 メソッドのウェーブエナメル文字盤の製造がいかに難しいか、理由を説明した。

 「エナメル加工の基本的な課題に立ち返ると、非常に高温のオーブンに金属層とガラス層を入れ、その金属層とガラス層は異なる速度・割合の量だけ膨張と収縮を繰り返すことになります。摂氏800度まで熱して取り出し、数分で室温まで戻すのです。そのため通常のエナメルダイヤルでは、ひび割れや傷のようなものはすべて、難しいことの一部だと理解されていないのです」

anordain model 3 dial

モデル3のウェーブダイヤル。

 フラットなダイヤルでこれを行うのはとても難しい。ただモデル3のウェーブパターンの場合、この膨張があらゆる角度で起こり、極めて複雑な要素が加わっている。その上、透明なエナメルダイヤルのため、ひび割れや傷がすべて見えることになる。

 事実、アンオーダインは最近では、まっさらな状態(ブランク)のダイヤル製造を内製化し、イタリア製の機械に投資し、コインや軍のメダルを製造していた70代の職人と週に2日、ダイヤルを製造している。彼らはダイヤルに鉄の粒子が入り続けていた外部サプライヤーから離れることにした。というのも窯のなかでエナメルと一緒に焼成すると、反応性の異なる鋼鉄の粒子によって、気泡を形成してしまうからだ。

 「ここ数年の多くは、エイリアン(異物)の粒子を含まない文字盤をつくろうとすることにフラストレーションを感じていました」と、ヒース氏は話す。

文字盤メーカーではなく、時計メーカーとして見られることについて

anordain model 1

アンオーダインのモデル1。

 「私たちは時計メーカーではなく、文字盤メーカーとして見られていることを強く意識してきました」と同氏。「しかしアンオーダインがほかと違って特別だと思うのは、工芸品と時計製造へのアプローチです。これは古い技術と新しいアイデアを融合させ、優れたデザインでパッケージ化する実験的な方法です。文字盤についてはこれまでもそうしてきましたし、今もそうしていますが、ムーブメントやケースについても私たちは以前から注目していました」

 ヒース氏は数年前、ムーブメントを自社で製造しようと検討していたが、業界にいるほかの人たちと話し合った結果、断念したという。

 「自社製ムーブメントをつくるのは必ずしも難しいことではありません。問題はテストです。何年も、何千個もテストをしない限り、本当の信頼性は得られません」

 その代わりに、ブランドは既存ムーブメントに革新をもたらすためのふたつの方法に目を向けた。まず、モジュールを追加してエボーシュムーブメントに乗っかける。次にこれらのエボーシュムーブメントに対して、新しいデザインアプローチを取るのだ。

 最初のアプローチで、アンオーダインは2021年にフランスの時計職人を雇い、昔ながらのシャブリン旋盤を使って手巻きETA 6498用のムーンフェイズモジュールを開発した。

 一方、アーティストのレイチェル・ダックハウス(Rachel Duckhouse)氏とも協力。ダックハウス氏はレーザーを用いてラ・ジュー・ペレ 100をリデザインする、さまざまな方法をスケッチしている。

 これらはアンオーダインが用意しているもののほんの一部に過ぎない。

paulin watches
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ポーリン ウォッチについて

 2023年、ヒース氏の妻であるシャーロット・ポーリン(Charlotte Paulin)氏と、彼女の姉妹が始めた手頃な価格帯のブランド、ポーリン ウォッチをアンオーダインが完全に買収したと発表した。直後にポーリンは鮮やかなリブランドも発表し、同時にモジュールコレクションもリリースした。ヒース氏によると、以前のポーリンは最小限で、少し個性が欠けていたという。

 またブランド名を変更することで、ポーリンはグラスゴーのクリエイティブおよびアートコミュニティのアーティストと、より密接に連携することも目指している。

 ヒース氏は「ポーリンはアクセシビリティを重視しています」と話す。「個性のあるものを作るということです。もちろん例外もありますが、低価格帯の製品の多くは不毛で、大量生産されているように感じます」

 ポーリンは最近、グラスゴーのアーティスト、ジョン・ニコル(John Nicol)氏とコラボレーションを果たした。それぞれの文字盤は、アーティストのアトリエで手描きされたユニークなものだ。どれも個性的でヴィンテージのような魅力があり、ポーリンは今後のコラボレーションでも同じことを実現したいと考えているという。

AnOrdain enamel dial process

HODINKEE モデル3で使用された、テクスチャーエナメルダイヤルの製作工程の舞台裏

“インハウス”の真の利点について

 「内製化するというのは、それができたと言えるようにするためではなく、実際にはもっとコントロールできるようにするためです」とヒース氏は語る。アンオーダインのようなマイクロブランドは、スイスの大手サプライヤーとの取引にあまり影響力がない可能性があるため、このことはさらに重要である。

 「何かがうまくいかないとき、多くの場合は、本当に興味深い方法ではないということ。だからこそ、そこから発展できるものが何かわかります。うまくいかなかった理由を理解し、変更を加えることができるようになるのです」

 彼はモデル3で採用した、紫色に加工された針の例を挙げた。スイスのマニュファクチュールは、時間とお金がかかるため、アンオーダインと協力してパープルの針をつくる方法を考えようとはしなかった。彼らが取引していたサプライヤーはブルーを施した針(青焼き)しか扱っていなかったのだ。そこでアンオーダインは自分たちでやることにした。

 「所属する時計師も、そのような試みに興奮しています」とヒース氏は付け加えた。

anordain paulin watch

グラスゴーのアーティスト、ジョン・ニコル氏×ポーリンのコラボモデル。文字盤はひとつひとつ手描きで、世界にひとつだけのものだ。

ビジネスとしてのアンオーダインについて

 時計ブランドを経営している場合、主にかかる経費は人だ。

 「最も簡単に説明しますと、従業員は約25人で月に45~50本の腕時計を製造しています」

 ヒース氏によれば、アンオーダインは20カ月ほど前まで赤字だったという。

 つまりアンオーダインのコストが1000ドル(日本円で約14万8000円)だとすると、小売価格は1300ドル(日本円で約19万3000円)となる。ヒース氏いわく、過去3年間でモデル3のエナメル加工に費やした時間は約2500時間で、各ダイヤルの製造期間は平均3、4日だという。もちろん性能が上がれば生産効率は上がるが、エナメル加工は時間がかかり、労働集約的な工程である。

 現在、アンオーダインでフルタイムで働く従業員は約25人おり、そのうちの7名がエナメル職人である。

fume dial

フュメダイヤルを製造している。

アンオーダインが目指すところ

 ムーンフェイズモジュール(ヴティライネン&カタン社のケースに取り付けられる予定だ)と、カスタマイズしたLJP 100(ラ・ジュー・ペレ 100)以外にも、ヒース氏はいくつかのプロジェクトが進行中だと話してくれた。現在アンオーダインはクロノード社と協力して、ムーブメント開発の可能性を探っているそうだ。

 「私たちは1950年当時のツールではなく、現在実用可能なツールを使ってムーブメント設計に取り組むべきだと考えました」とヒース氏。この新旧の融合こそが、アンオーダインの時計製造に対するアプローチの定義なのである。

 「エナメルを用いた実験は、私たちが行っていることの中心にあり続けます」と話す。シャンルベ・エナメル文字盤のモデルは、2024年の発売を目指して準備中だ。同氏はまた2024年8月に予定しているという、スイスの大手メーカーとのコラボレーションに取り組んでいることも明らかにした。これは“おそらく、エナメルでやったことのなかで最もエキサイティングで興味深いもの”だそうだ。

注意: この記事は2024年2月6日に更新され、アンオーダインのウェイティングリストが再び予約受付を開始したことを反映している。