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「Watch of the Week」では、HODINKEEのスタッフや友人を招いて、ある時計を愛する理由を説明してもらう。今週のコラムニストは、時計コレクターであり、「A Collected Man」や「Highsnobiety」などの出版物に寄稿している時計ライター。また、HODINKEE本社では購読必須としている「Rescapement」というニュースレターを準定期的に執筆している人物でもある。メルマガの購読はこちらから。
数年前、所有する時計の数もまだ少なかった2016年の純真なあの頃、私は大きな夢と小さなポケットをもった若き大学院生でした。そして、ユンハンスのマックス・ビルに心を奪われていました。
ロレックスは、自分にとってはあまりにも...ザ・高級時計という感じでした。ロジャー・フェデラーやカシミアを着たベン・クライマーのような都会の洗練された人たちの手首には似合いますが、私には似合わなかったのです。それでも私は、2010年代半ばに流行した名もなき時計よりも、もっと別の世界があるはずだと思っていました。マックス・ビルのクリーンでミニマルな美学は、家具やマットレス、ジューサーなどを販売するためにインターネット上であなたを追いかけまわすD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドが完成させた美学と同じであり、従順なミレニアル世代である私にすぐヒットしました。
でも、Instagramで広告を出しているようなインターネット上の害虫とは違って、ユンハンスのマックス・ビルにはすぐに何かを感じたのです。すぐに試着し、時計の「巻き上げ」について学びました。実際に手を触れなければ動かないものが、私がその動きを後押しする。それは害虫というよりも、ニモとイソギンチャクのような共生のように感じられたのです。
またこの頃、ゲイリー・シュタインガート氏が「Confessions of a Watch Geek(時計オタクの告白)」という記事を『The New Yorker』誌に掲載したことがありました。この記事では、一人の作家が、いや、一人の著者が、いかにしてこのユンハンスのマックス・ビルに惚れ込み、MoMA(ニューヨーク近代美術館)のショップで「時計に無頓着だった私には、1000ドルというのは天文学的な価格に思えた」という話をしていたのです。この記事は、許可証のように感じました。なんだ私と同じような人がいるのか、何の役にも立たないこんなものに1000ドルも使ってもいいのだろうか?
よし、じゃあ、いってみましょう。
マックス・ビルのおかげで私は、単に時計好きというだけでなく、あらゆる種類の、よくできた、考え抜かれたデザインのものを愛するようになりました。おそらくこれは、「コレクション」を作り続けることを正当化しようとする、ほとんど自己ぎまん的なものでしょう。マックス・ビルは、モノは人魚姫が歌うようなガジェットや道具以上のものになり得るという考えを私に教えてくれたし、あなたを狂気の世界へと導いてくれるでしょう。
ユンハンス マックス・ビル タイマー付きキッチンクロック。
マックス・ビルとユンハンスの物語は、1950年代後半にデザインされた「タイマー付きキッチンクロック」から始まりました。もしあなたの祖父母が、飛行機に乗ったりビートルズのレコードを聴いたりするような粋な人だったら、このモダンで機能的なデザインのクロックが彼らのキッチンに飾られていたかもしれません。
バウハウスを卒業し、優れたデザイナーとして活躍していたビルは、偶然にも時に魅了され、ドイツのブランド、ユンハンスとパートナーシップを結ぶことになったのです。祖父が時計職人だったこともあり、ビルは早くから時計に親しんでいました。
「『小さなこと』って? そうかもしれないですね。私は、人生は小さなことに左右されるものと信じています」と、ビルはかつて南ドイツ新聞(Süddeutsche Zeitung)に語っています。「時間の大半は、時計が私たちのために計測してくれる。だからこそ、私は美しく正確な時計を作ることに執着しているのですよ」。
マックス・ビルがユンハンスのためにデザインしたオリジナルウォッチの初期のデザイン画。
キッチンクロックの成功を受けて、ビルとユンハンスは一緒に腕時計のデザインを始めました。
「時計をデザインするようになったのは、たまたまです。ある日、一人の紳士が私のところにやってきて、時計工場の代表として来ているが、その会社のために時計を作ってくれないか、と言ってきたのです」とビルは説明します。「私は、喜んで時計を作らせていただきますと話しましたが、"ジュエリーウォッチ"ではありませんし、一時的な季節の花でもない。逆に言えば、できるだけ流行から離れた時計です。時間を忘れないように、できるだけタイムレスに」。
その結果、マックス・ビルがデザインした一連の腕時計は、教育を受けたデザイナーが分度器や定規を使って腕時計のデザインをしたおそらく初めての例となった。
今やひと目でそれとわかるマックス・ビルのデザインは、円形のケースに薄くて四角いラグ(通常はスティール製ですが、それだけではありません)、細い夜光針、プリントされたアワーマーカー(アラビア数字の有無は問いません)が特徴です。しかし、このコレクションが最も注目に値するのは、「機能的デザインは、物の視覚的側面、つまり美しさをその機能の構成要素として考えるが、他の主要な機能を圧倒するものではない」というビルの哲学へのコミットメントです。
「物体の形状はその機能に従うべきである」という決まり文句を言うのはやめておきますが、要はそういうことです。
ヴィンテージのユンハンス マックス・ビル(写真提供:エリック・ウィンド氏)。
ヴィンテージ・ディーラーのエリック・ウィンド氏は、マックス・ビルがデザインしたオリジナルのユンハンス・ウォッチについて、「マックス・ビルがデザインした現代のユンハンスの時計は多くの人に知られているが、それらが1960年代初頭に彼によってデザインされたいくつかのヴィンテージモデルをベースにしていることはあまり知られていない」と語る。「これらのオリジナルは、非常に少数しか現存していない」。
私がすでに少し動揺していたことを示すかのように、現代のマックス・ビルには満足していませんでした。ビルがナプキンにスケッチしてそのまま製品化されたような、1960年代のオリジナルのマックス・ビルが欲しかったのです(ナプキンスケッチはあくまでも私の想像ですが)。
しかし、ヴィンテージのマックス・ビルを手に入れて初めて、現代のものでもよかったのではないかと思いました。
それは、60年経ってもユンハンスのマックス・ビルの本質的な形は変わっていないからです。
スペックシートによれば、現代の自動巻きマックス・ビル(本当のお買い得品をお求めの場合は、クォーツと手巻きのオプションも)の価格は10万円程度で、38mmのスティール製ケースと短いラグによって小さめに着用することができます。文字盤の種類は、1960年代のユンハンス社のカタログに掲載されていたものと同じで、ビルが昔スケッチしたものとほとんど変わりません。
マックス・ビルのポートレート。
「時間を忘れずに、できるだけタイムレスに」と、ビル自身が言っていました。
正直なところ、10万円以下でもっとしっかりした時計だってあります。例えば、セイコーの時計なんかがそうです。
しかし、マックス・ビルには他の時計にはない特徴があります。それは、MoMAやシカゴ美術館の壁に作品を飾っているアーティスト、デザイナー、建築家とのつながりを持つ正当なデザインの系譜です。
それがマックス・ビルのよさです。時計としてではなく、ジャンルを超えた美しいオブジェとしての価値を提案しているのです。
マックス・ビルの魅力は、地味な私たちをもデザインの研究者に変えてしまい、形のよいラグに夢中にさせてしまうことなのです。
バウハウスの校舎、デッサウ (写真: Mompl)。
今日に至るまで、マックス・ビルのなかにどんなムーブメントが入っているのか、調べないとわからないほどです。キャリバーは問題ではないのです。
「美しさの基本は、何よりも機能であるべきだ」とビルは言いました。「模範となるものは、どんな状況下でもその目的を果たすべきである」と。
機械式時計の時代はそうだったかもしれません。しかし最近では、機能は機能であり、クォーツの方が優れていることは周知の事実です。2021年に機械式時計に機能があるとすれば、それは時間を知ることではなく、ロマンティックな非実用性を受け入れることを促すことだと思います。そして、その基準で判断すると、この時計はこれまでと同様に機能的です。
ユンハンスのマックス・ビルを手に入れたことで、物を評価し、そのデザインを理解するという考えを持つようになりました。ヴィンテージのマックス・ビルを手に入れたことで、古いものに対する考え方が身につきました。それと60年前に作られたものでも、十分に機能するという考えです。
これはとても重要な教訓です。そしてその教訓は、今日でも、あなた自身のマックス・ビルを10万円くらいで手に入れることができるのです。
アーカイブ画像とMax Billの発言はユンハンスの提供によるもの。
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