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ブザンソン天文台のクロノメーター認定にこだわる理由
1957~1962年の4年11カ月しか存在しなかった幻の国産時計ブランド、タカノ復活を仕掛けたのは、東京時計精密を率いる独立時計師の浅岡 肇氏だ。そんな新生タカノのファーストモデルは、21世紀初の国産クロノメーターとしてデビュー。時計愛好家たちからの耳目を早くも集めている。
新生タカノのファーストモデル、シャトー ヌーベル・クロノメーターの自動巻きローターには“テット・ドゥ・ヴィペール(仏語で蛇の頭の意)”の刻印が施されている。これこそがフランス・ブザンソン天文台によるクロノメーター検定合格の証である。
タカノは、かつて名古屋に本社を置いていた高野精密工業が1957年に立ち上げた、セイコー、シチズン、オリエントに次ぐ第4の国産腕時計ブランドであった。掲げたコンセプトは“世界的高級時計”。浅岡 肇氏はタカノを復活させるのに際し、このコンセプトを受け継いだ。そして世界的高級時計とする手段として選んだのが、21世紀の国産時計初のクロノメーター認定を取得することであった。
現在、腕時計のクロノメーター検定を実施しているのは、スイスの3都市にあるCOSCとジュネーブのTIMELAB、ドイツのグラスヒュッテ天文台、そしてフランスのブザンソン天文台である。いずれも精度に関する検査方法と合格基準はほぼ同じだが、自国製以外の時計の検査を受け入れているのはブザンソン天文台だけだ。浅岡氏は、新生タカノのコレクションを真のクロノメーターにするべく、スタッフとともに同天文台を訪れ、検査の契約を取り付けた。ここにあるブザンソン天文台の写真は、どれもその際に浅岡氏が撮影したものである。
ブザンソン天文台。
こうして、クロノメーター認定取得の道は開かれた。しかし合格のハードルは、COSCよりもはるかに高い。COSCはムーブメント単体に対する検査であるため、製品とは異なる仮の針の使用が認められている。しかもそれは高精度が得やすい軽量な針であってもかまわない。対してブザンソン天文台の検査は、製品と同じケーシングされた状態で実施される。2008年に独立時計師カリ・ヴティライネンの要望でブザンソン天文台クロノメーター検定が復活して以降、認定を受けたモデルが極少数に限られていたのにはこうした背景がある。タカノが、すなわち浅岡氏が、わざわざ困難なブザンソン天文台クロノメーターに挑んだのは、前述したとおり世界的高級時計にするため。さらに言えば、日本の優れた製造技術を時計という形で世界にアピールするためでもあった。
時間計測用の天体望遠鏡「子午儀」。
シャトー ヌーベル・クロノメーターは、東京時計精密の技術者たちがクロノトウキョウの製作で扱い慣れているシチズングループ傘下のミヨタ製のムーブメントをベースとして採用している。調速機周りを調整し直し、合格基準の平均日差−4~+6秒であることを確かめ、輸送用の防磁対策を施した専用の搬送ケースも用意。こうして万全を期して10本の時計を天文台へと送ったが、そのうち認定が取得できたのは、わずか3本だけだった。そのハードルは浅岡氏の予想よりも高かったようだ。シャトー ヌーベル・クロノメーターという名は、タカノが1960年に発表した、当時センターセコンドの自動巻きとして世界最薄を記録したシャトーというモデルにちなんで名付けられた。世界基準を超えた先達の遺志を受け継ぎ、現代のシャトー ヌーベル・クロノメーターはブザンソン天文台に挑むことになったのである。
東京時計精密でのクロノメーター調整とは?
ミヨタの外販ムーブメントは、東京時計精密以外でも採用例は多く、その信頼性は高い。その精度は、公表されているデータによると機械式プレミアムでは日差−10~+30秒、姿勢差30秒以下とある。これはセリタの公表データと比較しても、それほどそん色はない。しかし天文台クロノメーターの基準にはほど遠いため、実質、精度を追い込むためには、技術者の手によってひとつずつていねいなチューンナップが不可欠となる。
東京時計精密では、組み上がった状態で届けられるミヨタ製外販ムーブメントを精度チェックして、まずは特に成績がよいものだけをシャトー ヌーベル・クロノメーター向けとして選別する。厳選されたムーブメントから技術者の手で脱進機とテンプが取りはずされ、それぞれが入念に再調整されることになる。特に重要なのは、むろんテンプである。
テンプを片重り見にかけて回し、重心の偏りをチェック。先端が鋭いルーターを用いて、リムをほんのわずか削り取っては片重り見にかけるという作業を何度も繰り返し、偏心を解消していく。さらに天真がテンワに対して垂直に入っているかを確かめ、ホゾ(軸先)も調整することで、完璧な重量バランスに整えられる。これは、はっきり言ってかなりの手間である。
テンプを外し、部分的にわずかに削ることで姿勢差を最小に調整する。
これは、そのテンプのバランスを見るための“片重り見”。
画像の機械は歩度計測器。調整された時計は社内でクロノメーター基準に基づくテストを受ける。その際の室温はクロノメーターの計測基準に合わせられ、高温テストは専用の庫内で行われる。
調整の完了した時計は、防磁対策を施した専用の搬送ケースに入れられ、ブザンソンに送られる。
調整を終えたテンプを脱進機とともにムーブメントに戻す際には、ツメ石とガンギ車の噛み合いが最適になるよう、アンクルのクワガタの中心にテンプの振り石をキッチリと合わせて組み込む。機械組みによる量産型であるミヨタの外販ムーブメントは、こうして手組みとほぼ変わらぬ性能を手に入れるわけだ。
その後、製品と同じダイヤルと針を慎重に取り付け、ケーシング。完成したら、社内でクロノメーターと同等の検査を行う。すなわち8℃、23℃、38℃の3つの温度下における5姿勢での精度検査である。このために東京時計精密では、高温専用庫を導入した。
現在、ブザンソンのリファレンスクロックには原子時計が用いられ、画像のような恒温室で厳重に管理。なお、1967年に国際的に時間の基準が原子時計に変更されるまでは、子午儀が使われていた。右の男性はブザンソン天文台所長のメイヤー博士。
ここまでしても最初の検定合格率は30%であった。ブザンソン天文台クロノメーターは、かくもハードルが高いのだ。しかしそれもいたしかたがないだろう。なにしろ東京時計精密の技術者たちは、それまでテンプと脱進機をチューンナップするなど経験していなかったのだから。シャトー ヌーベル・クロノメーターの製作を託された2名の技術者は日々研鑽を積み、その合格率は徐々に向上しているという。しかも合格したなかには、天文台が定める基準値よりも、はるかに好成績を叩き出す固体も存在する。とはいえ、チューンナップには手間と時間がかかり、まだまだ認定されない個体のほうが多いのが現状だ。真の日本製クロノメーターであることを至上命題とし、世界的高級時計であることを目指すシャトー ヌーベル・クロノメーターは、それゆえ販売可能な本数も極少量に限られるというわけである。
“テット・ドゥ・ヴィペール”を腕にできる人は、幸運の持ち主と言っていいかもしれない。
検定合格品の確保が実現。第3回抽選販売を実施
前述のとおり、ブザンソン天文台におけるクロノメーター検定の厳しさから本数はきわめて限られるが、直近のテスト合格品が戻ってきたため、タカノ シャトーヌーベル・クロノメーターの第3回抽選販売が12月11日(水)より開始されている。これは年内の納品を目指して実施されるそうで、抽選の応募締切は2024年12月19日(木)午前11時まで。当選発表は12月20日(金)午後3時を予定している。
※編注;年内に時計を手にするには、12月24日(火)午後3時の入金期限内(予定)までに支払い振込みが完了している場合となるそうだ。
タカノ シャトーヌーベル・クロノメーター
ステンレススティールケース、レザーストラップ(SS製尾錠)。37mm径(厚さは 8mm)。文字盤色は、ホワイトとブラックの2色。3・6・9・12時位置はバー、それ以外はドロップインデックス(夜光はなし)。3気圧防水。自動巻き(Cal.90T、直径は約25.9mm、厚さ3.9mm、2万8800振動/時、24石)。時・分表示、センターセコンド。約42時パワーリザーブ。ブザンソン天文台によるクロノメーター認定書付き。88万円(税込)
詳細は、タカノのウェブサイトをクリック。
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