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アマゾンで最安のチプカシという時計

アマゾンで最安値の時計、それは実はカシオだ。チプカシと呼ばれるその時計の文字盤には、意外にもストーリーがある。

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世界で一番安い時計は何か? この問いに対する答えは、どこで探すか、またその日によって変わるものだが、カシオの「MQ-24-7B2」という、名前をもたない地味な時計が候補に挙がることが多い(注:日本では“チープカシオ=チプカシ”という愛称で親しまれている)。35mmの小さな丸いプラスチック製のクォーツ時計で、青と白の段ボール箱に入っており、その中には時計本体と6ヵ国語の取扱説明書が入ったビニール袋(ポーチといってもいい)が入っている。この記事を書いている私も、Amazonで14ドル79セントで購入したものを手にしており、書いているとおりのモノなのだが、魅力がないわけではない。

 手に持っても腕に着けても非常に軽く、その全体的なプロポーションは、レトロ好きな人も満足できるものだ。日付表示窓はなく(これは価格を抑えるためだと思うが、実際には、パッケージのコストが時計のコストを上回っていないか疑問である)、可動部品はステッピングモーターのローターと、時針と分針を進めるために必要な最小限の歯車(間違いなくプラスチック製)だけだ。

 裏蓋には「防水性」と刻印があるが、どの程度かについては特に明記されていない。このマークは、この時計が雨風に立ち向かうゲームのような反抗心をこの時計に与えている。それは、「キャプテン・アメリカ」に登場するスティーブ・ロジャースが、裏町のいじめっ子に殴られても引き下がらず、鼻血を出しながら「一日中やってやる」と言っているようなものである。

 このスパルタンな小さな時計について、他に語るべきことはないように思えるが、長く眺めているうちに、何か見覚えがあるような気がしてきた。書体だ。最初はよく分からなかったが、ネットで調べると、ハンデルゴシックという書体であることが判明した。

ハンデルゴシックという書体を見たことがある人は多いと思う。

この映画はフランスのヌーヴェルヴァーグの監督、フランソワ・トリュフォーが主演していた。

 この書体は、専門用語でいえば、幾何学的なサンセリフ書体だ。セリフとは、印刷された数字や文字の端によく見られる装飾的な小さな突起のこと。サンセリフ書体はもともと視認性が美しさより必要な場合、例えば看板などに使用されており、それがグロテスクやネオグロテスク書体と呼ばれるようになった。最も有名で広く使われているのはヘルベチカ(グロテスクと呼ばれるにふさわしいという人もいるが、個人的には醜いというよりも使い古されていると思う)だろうが、これらの書体には、安価なクォーツ時計に似合う小気味よく飾り気のない雰囲気がある。

 ハンデルゴシックは、ヘルベチカと間違えやすいが、文字が横に少し伸びていて、未来的な雰囲気があるため、1970年代から1980年代にかけて人気を博したフォントである。このデザインは、デザイナーのソール・バスのスタジオで働いていたドナルド・ハンデルが制作したもので、1972年にワーナーブラザース・スタジオのロゴのために作られたのを皮切りに、「セサミストリート」のエンドクレジット、「スター・トレック:ヴォイジャー」や「スター・トレック:ディープ・スペース・ナイン」のクレジットなど、さまざまな場所で使用されている。最も有名な使用例は、「未知との遭遇」のロゴであろう。

 数年前、デザイナーである友人から『The Design Of Everyday Things』という本をもらった。この本の核心は、「日用品は偶然そうなっているのではなく、誰かが意図的に決めたからこそ、全てがそうなっている」ということだった。どこかの誰かが、安価なクォーツ時計をデザインするという課題を考え、できるだけ読みやすくするという問題に対する最適な解決策として、ハンデルゴシックを選択したのだ。その結果、手頃な価格にも関わらず、レトロモダンの魅力的な雰囲気をもつ時計ができあがったわけである。これは意図的されたものだと思いたい。この時計は、モダニズムデザインの思いがけない小さな結晶であり、そこに込められた思いは、遠い星からの予期せぬ電波のように、遠く離れていても安心できる知性の証なのだ。

私が困っていたときに、この時計の書体を特定してくれた長男のザックに感謝する。また、昨年、私に「パパ、高級時計というのは信じられないほど幼い感じがするよ」と言いはなった。

カシオ MQ-24-7B2はAmazonで購入可能。