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12月にニューヨークで開催される時計オークションは、オークションシーズンのデザートのようなものである。決して取ってつけたようなものではないが、メインディッシュでもない。もちろん、バブルガムブルーのノーチラスや映画スターのロレックスGMTマスターのような甘いものもあるが、ジュネーブのオークションで見られるようなボリュームあるものが、私たちの記憶に最も残るものだ。
フィリップスは、12月10日と11日に開催されるニューヨーク・ウォッチ・オークション:Ⅶの今年のデザートメニューの注目ロットを発表した。来月ジュネーブで見ることができるジョージ・ダニエルズのスプリングケース トゥールビヨンのような前菜を凌ぐものではないかもしれないが、それはそれでよい。この比喩が意味をなさなくなる前に、そのハイライトをご紹介しよう。
カルティエ ロンドン クラッシュ
昨年、私はカルティエのクラッシュを2021年の最も重要なヴィンテージウォッチと呼んだが、正直なところ、それは1年早かったかもしれない。5月、オンラインオークションサイトのLoupe Thisは、オリジナルのロンドン クラッシュを150万ドルで販売し、カルティエの時計としては最高記録となった。そして今度は、フィリップスがニューヨークで開催されるオークションで、別個体のロンドン クラッシュを出品することになったのだ。このクラッシュは新記録を樹立できるだろうか?
私自身は懐疑的だが、フィリップスのことだから、サンタがツリーの下に何か特別なものを入れた赤いカルティエの箱を置いてくれるように願う、クリスマスのお祭り騒ぎのノリの入札者が現れる可能性は十分にある。Loupe Thisで販売されたロンドン クラッシュを見てみると、ワンランク上のものだということがわかる。この個体は、1967年に発表された、数少ない初期生産のロンドン クラッシュのひとつだからだ。初期もの好きのコレクターが多い趣味の世界では、これはとても重要なことなのだ。おそらく、それだけで数十万ドル分の価値があるだろう。
フィリップスに出品されるクラッシュは1970年製の個体だが、年代の凡庸さは所有歴で補うことができる。この個体は、元の所有者である有名なアートコレクターで慈善家のダフネ・ファラゴの家族から直接送られてきたものだ(彼女はWikipediaにも掲載されている!)。
ファラゴは生前、ボストン美術館に650点以上のジュエリーと100点以上の美術品を寄贈するなど、巨額の寄付をしている。彼女の死亡記事(ファラゴは2017年に逝去)のなかで、息子は彼女が1960年代、“収集が手ごろだった頃”に始めたと語っている。彼女は正式な美術教育を受けていなかったが、美術品が語る物語に引かれ、美術の世界に足を踏み入れた。「彼女にとって美術蒐集とは、芸術家というフィールドに敬意を示す創造的な事業だったのです」と息子のアランは生前の彼女を偲んだ。
つまり、1970年代初頭にカルティエに足を運び、このフザげた外観の時計を買うような人物を想像してみると、それはおそらくファラゴと共通点の多い人物なのだろう。
クラッシュについては 昨年11月、サザビーズでオリジナルのロンドン クラッシュが80万6500スイスフラン(約9950万円)で落札された。当時、サザビーズは、この時計が過去25年間に公に売られた3番目のロンドン クラッシュのオリジナルであると述べている。その後、さらに2本が新たに市場に登場した。このように、ある時計が注目(そして、お金も)を集めることで、どこかで眠っていた時計が掘り起こされることは、この世界の醍醐味である。この年末年始におばあちゃんの家に行ったら、時計がないかどうか聞いてみてほしい。
フィリップスは、このカルティエ ロンドン クラッシュの落札予想価額を40万~80万ドル(約5908万円〜1億1816万円)としている。
グランドセイコー Kodo(鼓動) コンスタントフォース
今回のオークションでは、フィリップスはグランドセイコーを過去最多の10ロット出品し、このKodo(鼓動)コンスタントフォース・トゥールビヨン SLGT001がそのハイライトとなる。グランドセイコーは今年、この時計を発売したばかりではないかと思われるかもしれない。
しかし、それはSLGT003という20本限定のモデルのことである。このロットは、今年初めに発売されたモデルとは異なるいくつかの変更点があるが、プレスリリースではフィリップスがやや勿体ぶった説明を披露している。“ブリリアントハードチタン”やそのほかの美観的な改良に言及したあと、「このロットの当選者は、Kodoを支える時計職人に会いに、グランドセイコースタジオ雫石を含む日本への特別な旅を手に入れることができる」とある。
ブリリアントハードチタンについては、SLGT003では一部にしか使われていなかったものが、ケース全体に使われるようになった。そのほかにも、ムーブメントのメッキ仕上げやダイヤルのアクセント、ハンドエングレービングや手仕上げをより多く施しているのだ。
フィリップスによると、このコンスタントフォース・トゥールビヨンは、ほかのグランドセイコーのロット(一部は個人コレクターからのもの)と同様、グランドセイコーから直接送られてきたものだそうだ。2007年のウォール・ストリート・ジャーナルの記事「トップ時計メーカーがオークションに介入する方法」は、私がいつも読み返している記事である。このタイトルだけを見ると、このやり方は実際よりも悪質で秘密裏に行われているような印象を受ける。少なくとも1989年にアンティコルムがパテック フィリップの150周年を記念して“Art of Patek Philippe”を開催して以来、時計メーカーはオークションハウスを利用して二次市場での地位を確立してきたのだ。この戦略は、パテックやほかのブランドには成功をもたらした。グランドセイコーにとっても成功するかどうかは、歴史が証明するだろう。
さらに、グランドセイコーは、販売収益の一部をチャリティーに寄付する予定だ。発表されるいくつかのモダンな時計の利益は、マイアミのフェアチャイルド熱帯植物園に寄付され、Kodoの売上の一部は、チルドレンズ・ハート財団に寄付される予定だ。
フィリップスはKodo コンスタントフォース・トゥールビヨンの落札予想価額を“応相談”としており、私はまだ照会していない。しかし、限定モデルのSLGT003の希望小売価格は4,400万円(税込)なので、少なくともその金額と、グランドセイコー愛好家の夢の日本旅行代が上乗せされることは間違いないだろう。
アートに捧げる時計
グランドセイコーに加え、フィリップスでは17本の時計が現代アートを支援する非営利団体スイス・インスティテュートのために寄付される特別コレクションも用意されている。Time For Artと呼ばれるこれらの時計は、それぞれ時計メーカーとアーティストや職人とのユニークなコラボレーションである。ローマン・ゴティエと著名なエナメル職人アニタ・ポルシェのコラボレーション、ドゥ・ベトゥーンとマーク・ニューソンの砂時計、ショパールL.U.C.クワトロのユニークピースなどが紹介されている。これらの17のロットはすべて予約なしで提供され、収益の100%がスイス・インスティテュートとその公共プログラムおよびコミュニティへの参加を支援することになる。
これらの作品には、まだ落札予想価額が掲載されていないが、年2回開催されるオンリー・ウォッチオークションのように、参加ブランドとアーティストのユニークなコラボレーションを見るのが楽しみである。
パテック フィリップ ヘルムート・ニュートン Ref.3998
2014年当時、このヒエログリフは謎に包まれていた。幸運なことに、現在のオーナーがロゼッタストーンを突然掘り起こし、このロットには6時位置に“Halmut”、12時位置に“Nautun”、つまり有名な写真家であるヘルムート・ニュートンと綴られていることを発見した。一方、チタンモデルには“Saud Al Thani”、つまりカタールの文化芸術遺産大臣を務め、数十年の歳月をかけて15億ドル以上の収集品を集めたと言われている故サウド・ビン・ムハマンド・アル・ターニ王子の名がプリントされている。時計コレクターにとって最も注目すべきは、1999年に購入したグレイヴス スーパーコンプリケーションで、のちに2014年に債務償還を補填するために売却している。
写真家のニュートンについては、ニューヨーク・タイムズ紙の死亡記事によると、「挑発的でエロティックな写真は、『ヴォーグ』などの出版物の主役だった」とある。フィリップスによれば、「アル・ターニ王子とニュートン氏は仕事上の付き合いがあり、王子は彼に3日間の依頼で21万ドルを支払ったこともある」。このパテックは、ニュートン氏に贈られるはずだった追加のプレゼントだったようだ。
フィリップスは、この“ヘルムート・ニュートン”パテックの予想落札価額を5万〜10万ドル(約738〜1576万円)としている。2014年に5万3125ドルで落札された実績がある。
これらはフィリップス・ニューヨークの注目ロットだけで、オークションシーズンの開幕に合わせて、来週末のモナコ・レジェンド・セールから、さらに多くの情報をお伝えしていくつもりだ。その後、ジュネーブの大規模なオークションに注目だ。
フィリップス・ニューヨーク・ウォッチ・オークション:: Ⅶは、12月10日、11日に開催の予定です。詳しくはphillips.comをご覧ください。
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