trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

In-Depth グランドセイコー T0 コンスタントフォース・トゥールビヨン ブランド初のトゥールビヨンムーブメント

グランドセイコーの新コンセプト・トゥールビヨンは、ブランド初のトゥールビヨンであり、初のコンスタントフォースムーブメントでもある。


ADVERTISEMENT

グランドセイコーは、ここ数年進化を続けてきたが(海外市場には2010年に進出、2018年にはセイコーから独立し独自ブランドとしてスタート、詳細はHODINKEEエグゼクティブエディターのジョー・トンプソンの記事「セイコーがアメリカ市場で放つ存在感の考察」参照)、そのアイデンティティは2000年代前半の知る人ぞ知るブランドという立ち位置から大きく変化している。変わっていないのは、彼らの品質とクラフツマンシップへのこだわりで、今ではこれまで以上に幅広い価格帯で、それが得られるようになっている(700万円近い価格についてはまだ慣れている途中だが)。そしてグランドセイコーは、ここ数ヵ月で、時計製造の技術的側面においてさらなる洗練の探求の軌跡を明確に描いている。

 今年同社は、2つの新キャリバーを発表。新型のスプリングドライブ・キャリバー9RA5と、新しい脱進機を搭載したハイビート・キャリバー9SA5である。どちらも先代のものに比べて汎用性と性能が大幅に向上しているが、機械式時計愛好家にとっては、9SA5の方が大きなニュースであったことは間違いないだろう。毎日のように新しい脱進機についての話題があるわけでもなく(記事「現代的なエスケープメントは、どのようにして今に至ったのか」参照)、特に産業規模で生産できるものは少ない(ただし、現時点ではこのムーブメントはSLGH002にのみ搭載されている)。

 グランドセイコーは、9SA5の開発と並行して、コンセプトムーブメントのプロジェクトにも取り組んでいたことを発表した。グランドセイコーによれば、このムーブメントは、9SA5を最終的な形への進化させたデータ生成の貢献にも繋がったという。
 このコンセプトムーブメントは、それ自体がかなり興味深いものだ。トゥールビヨンキャリバーT0は、グランドセイコー初のトゥールビヨンであることに加えて、ルモントワールと呼ばれる定力装置を搭載した初めての時計でもある。

T0(ティー・ゼロ)コンスタントフォース・トゥールビヨンは、2つの主ゼンマイが入った香箱とダブル・トゥールビヨンキャリッジを備えている。

 これがグランドセイコー初のトゥールビヨンである。しかし、セイコーとしては初のトゥールビヨンではない。2016年に私は実際に触れる機会を得たが、クレドール FUGAKU トゥールビヨンが存在する。芸術的な素晴らしい作品であり、非常に精巧なエナメル文字盤は、葛飾北斎が描いた「富嶽三十六景」のひとつ「神奈川沖浪裏」を表現している。機構的にいえば、T0の方がはるかに技術的に高度なメカニズムであるが、実際には前述のトゥールビヨンとT0(ちなみに読み方はティー・ゼロ)の間にはいくつかの審美的な類似点があると思う。

 しかし、美学は別として、私はT0トゥールビヨンは9SA5にはるかに近いと考える。どちらも明らかにグランドセイコー独自の美学の表現として設計されているが、T0では精度が追求されており、これはグランドセイコー創業以来の主な関心事なのだ。
 T0は、新しい製造プロセスや技術が導入された試験的ムーブメントで、精度とその限界を試すために特別に設計されたものである。T0の性能は、50時間の駆動時間の中で、1日の最大速度偏差が±0.5秒と非常に優れている。このデータは実験室での試験結果であり、実際の結果と必ずしも一致するものではないが、そのような状況下でも、クロノメーター基準を桁違いに向上させた精度の安定性を得ることができたことは、注目に値するものである。

Cal.9SA5、グランドセイコー デュアルインパルス脱進機を搭載するハイビートムーブメント。

 どのような種類の時計でもルモントワールを搭載したものは、ほとんどなく、トゥールビヨンとルモントワールの両方を搭載した時計は極めて少ないのが現状だ。フランソワ・ポール・ジュルヌが、1991年に初めてトゥールビヨンにルモントワールを搭載したのだが、それ以来このような時計はほとんど発表されていない。IWCは、ポルトギーゼ・シデラーレ・スカフージアを発表したが、このモデルにはトゥールビヨン上のルモントワールに加えて、恒星時を表示する複雑機構も搭載。そしてあまり知られていないが、最も印象的で興味深いのはハルディマンのフライング・センター・ダブル・トゥールビヨン H2 レゾナンスも存在する。これは、キャリッジに2つのテンプを備えており、フライングトゥールビヨンとレゾナンストゥールビヨンを搭載。さらに2つのガンギ車のそれぞれにルモントワール機構をもっている。
 また、HODINKEEのニック・マヌーソス(Nick Manousos)が昨年紹介したアンドレアス・ストレーラ トランスアクシャル トゥールビヨンも忘れてはならない。また、ロンドン科学博物館にあるジョージ・ダニエルズによる未完成の懐中時計ムーブメントもあるが、これはコーアクシャル(同軸)脱進機とルモントワールを搭載したものである。トゥールビヨンとルモントワールの組み合わせはとても珍しく、T0を含むこれらの時計とそのキャリバーは、それぞれにユニークな特徴と機械的な解決策を提示している。

 ルモントワール機構の発明の背景にある動機は、主ゼンマイによって提供されるトルクが、ほどけるにしたがって精度が失われてしまうことだ(初めて時計搭載されたのは、ジョン・ハリソンがH4マリンクロノメーターに設計したものだが、彼はH2マリンクロノメーターのためにそれ以前に発明していた)。これは姿勢差などでその誤差を増幅させる傾向にあるため、理想的には脱進機とテンプに一定量のトルクを供給する方法が必要となる。
 初期の時計では、この課題はもっと深刻であり、解決策としてフュゼ・チェーンが発明された。主ゼンマイにスティール製以外のものを使用できなかったこと、そしてトルクの変化に対してヴァージエスケープメント(特にヒゲゼンマイより前の時代)の感度が高かったことに起因している。フュゼは優れた解決策だが、ムーブメント内にかなりのスペースを占めてしまい、一定のトルクを供給するためには最適ではなかったのだ。

 ストレーラーは、ニックと自身のトゥールビヨンについての議論の中で次のように述べている。
「螺旋状のフュゼを使用した構造のため、フュゼ・チェーンは、主ゼンマイのトルクの理論的な変化を補正するだけで、実際の主ゼンマイの力や摩擦の変化、複雑機構の影響などを補正することはできません。これらの要因は、脱進機付近に設置され、フィルターのような役割を果たすルモントワールによってのみ補うことができます」

巴紋、その中でも三つ巴に分類されるシンボル。画像出典: Wikipedia

 デザイン上の面白い点を1つ。テンプは、巴として知られる日本の文様をモチーフにしている。中国の太極拳の文様(非公式には陰陽のシンボルとして知られる)に似ており、家紋や神社などの象徴的な部分に見ることができる。その歴史は非常に古く、さまざまな意味をもっている。

 ルモントワールは、本質的に輪列(四番車)のいずれかにあるか、またはガンギ車にある第二の主ゼンマイである。主ゼンマイによって定期的に巻き戻されるが、これは直接テンプを駆動するものではない。代わりに、主ゼンマイの役割は、一定の張力の下でルモントワールスプリングを維持することである。主ゼンマイに十分なエネルギーがある限り、ルモントワールスプリングを巻いたままにしておくと、基本的には一定量のトルクがテンプに伝わる仕組みになっている。

トゥールビヨンのインナーキャリッジとアウターキャリッジ(青い部分)と上部にトゥールビヨンキャリッジ。12時半位置にアウタートゥールビヨンのキャリッジを駆動する輪列を確認することができる。トゥールビヨンのストップレバーは、そのすぐ下に見える板バネ。左上の11時〜12時位置にはMEMS加工でスケルトン化されたガンギ車があり、5時〜6時位置にはルモントワール用のセラミック製ストップ車がある。

ADVERTISEMENT

 キャリバーT0は、川内谷 卓磨氏を中心としたチームが5年の歳月をかけて設計した。動力は並列で動く2つの主ゼンマイが入った香箱から得られ(並列に配されていることで2つの香箱が、輪列にそれぞれ同じタイミングでエネルギーを伝達している形)、より長いパワーリザーブを得られるが、トルクが2倍となることで総合的に必要なエネルギー量は多くなるが、これはT0のルモントワールを動かすのに必要である。T0は、理論上では72時間の駆動が可能だが、ルモントワールを動かすために十分なトルクを考慮すると、約50時間となっている。ムーブメントの至る所に手仕上げが施されており(グランドセイコーによると、部品の仕上げには約3ヵ月を要したそうだ)、第2、第3の輪列には、歯とピニオンの摩擦を減らし、パワーフローを改善するための特別な硬化技術が開発された。2つのトゥールビヨンケージはブルーチタン製で、テンプには振動数調整用のタイミングスクリューとフラットなヒゲゼンマイが搭載されている(これは9SA5に見られるオーバーコイルとは対照的で、ムーブメントの高さを抑えるためにT0ではオーバーコイルが省略されている)。T0キャリバーは、直径36mm、厚さ8.22mm(トゥールビヨンを装着時)、もしくは6.09mmと大きく、総部品点数は340点ですが、扱いにくいものではないだろう。

 最初は、ルモントワールがどう動いているのかを理解するのに苦労するかもしれない ― 初めてT0を見たとき、3本脚のアッパー・トゥールビヨン・ブリッジの下に1本のトゥールビヨン・ケージがあり、その下に6本のブルーチタン製アームが付いていると思うかもしれない。しかし、実際には3本のアームをもつ2つの独立したトゥールビヨンケージがそこにあるのだ。外側のケージは、コンスタントフォース機構を搭載しており、輪列によって駆動している。ルモントワールのゼンマイを1秒間に1歯ずつ回転させているコンスタントフォース用のアンクルとガンギ車は、どちらも固定されたホイールを中心に回転している。

   T0を開発したセイコーウォッチの、川内谷 卓磨氏は、

「外側のキャリッジが回転する際、外キャリッジと内キャリッジをつなぐコンスタントフォースバネに力を蓄え、そのエネルギーが内キャリッジを駆動させます。ストップ車(ガンギ車の役割)の歯と噛み合うインナーキャリッジに取り付けられた"ストッパー"となる爪石(セラミック製)で定力バネのエネルギー配分を制御し、板バネのエネルギーが解放されると、ストッパーと噛み合うストップ車を駆動するインナーキャリッジにエネルギーを供給します。これでガンギ車は、一定で均一なエネルギーをテンワに供給できる。インナーキャリッジが回転している間、アウターキャリッジはストッパーとストップ車が噛み合うことで停止します。インナーキャリッジが6°回転すると、ストッパーとストップ車が解放され、アウターキャリッジが回転して定力バネにエネルギーを供給。アウターキャリッジが6°回転すると、ストップ車の次の歯がストッパーに噛み合い、アウターキャリッジは再び停止。この一連の動きは1秒周期で行われ、秒針がデッドビート運針をするようになっています」

と説明している。

 グランドセイコーが提供したこの動画では、実際にアウターキャリッジが1秒ずつジャンプをしている様子を見ることができる。

 この時計のもう一つの非常に珍しい特徴は、2万8800振動/時の、かなりの高振動数のトゥールビヨンであることだ(現代の腕時計に搭載されるトゥールビヨンは、通常2万1600振動/時だ)。ただ、これは史上最も高振動のトゥールビヨンではない — 2012年にタグ・ホイヤーが発表した「マイクロトゥールビヨンズ (MikrotourbillonS)」は、2つのトゥールビヨンを搭載し、そのうちの1つは輪列用でもう1つはクロノグラフ用だった。後者は、36万振動/時で動いていて、これは、ずば抜けて高速。しかし、T0 コンスタントフォース・トゥールビヨンは、ルモントワールを搭載した史上最高振動数のトゥールビヨンなのではないだろうか。

 T0 コンスタントフォース・トゥールビヨンを実際に見たいのであれば、日本に行かなければならない ― 明確には、今年初めに岩手県雫石町で稼働が開始した、グランドセイコースタジオ 雫石に赴く必要がある。また、これはコンセプトキャリバーのため、非売品だ(ただ、販売が始まったというニュースが出たら、何人か、あるいは何十人かは、死に物狂いで買い求めとしても、私は驚かないだろう。プロのコレクターにとって、「非売品」以上に興味をそそられるものはないのだから)。常に、魅力的なコンセプトウォッチが生産されるとは限らないが、たまに起こる ― カルティエ「ID ONE」と「ID TWO」は、悲しいことに、(既に半分忘れ去られてしまった)コンセプトプロジェクトのままだが、ピアジェ アルティプラノ アルティメート・コンセプト は、予想を反して、通常生産化された。
 ノントゥールビヨンウォッチのためにルモントワールのデザインをどの程度変更する必要があるのかは定かでないが(答えは「かなり」だと思う)、手巻きのハイビートで、トゥールビヨンなしの時計にルモントワールが付いていても、私は気にならないと思う。いずれにしても、グランドセイコーがこの魅力的なキャリバーを作ったのは、盛岡を訪れた人達が賞賛できる何かを作るためだけではないと確信している。この技術は、何らかの形で世界に出て、製品としての時計に搭載されることになると思う。これも、時が解決してくれるだろう。