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まったくの時計初心者が、時計の仕組みを理解しようとする話

私は短期集中コースをとり、そして壁にぶち当たってしてしまった。しかし、立ち直る途中で役立ちそうな情報をいくつか学んだ。

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ジョン・F・ケネディの不朽の名言に、「女性は人生のなかで、時計愛好家たちのあいだで恥をかくことを止めなければならないときが来る」というものがある。というのは冗談、彼はそんなことは言っていない。でもケネディは、45歳の誕生日にマリリン・モンローからエングレービングが施されたロレックスを贈られた際、すぐさま補佐官に「処分しておいてくれ」と指示した。そしてまた、大統領就任式にはオメガの超薄型時計をつけて臨んだ。ちなみにそのオメガは手巻きムーブメントを搭載したRef.OT3980だった。一方、ロレックス デイデイトは、フルーテッドベゼルを備え、ケースデザインやプロポーションがデイトジャストに似ているが、ブレスレットはオイスターとジュビリーブレスのハイブリッドのようなものが付いており、内部には4Hzで振動するCal.3055を搭載していた。

 自分にとって何の意味も持たないこれらの事実を、ネットから引っ張り出しているのを見ておわかりのように、私は時計の専門家になろうとしているのだ。いや、これはちょっと言い過ぎかもしれない。まったくの無知から抜け出すことを目指してゆっくり歩み始めたとだけ言っておこう。というのも、4ヵ月ほど初心者として過ごしていたのだが、時計がどのように動くのかを理解しないまま、ただ見ているだけでいられるのは、そろそろ限界だということが明らかになってきたからだ。そこで、基本的なメカニズムを学び、ある時計が別の時計と、見た目以外のところでどのように異なるのかを見極めるために、書籍(や何本かのビデオ)を当たってみた。

 最初は初歩的な歴史や技術的な理解から始めるのが大事なように思われた。そこで私は、ポップコーンとウォッカ6本を用意してゆったりと腰を据え、2018年にニューヨーク時計協会 (Horological Society of New York)で、我らがHODEINKEEのジャック・フォースターが講義した1時間15分のビデオ、『The Essentials of Precision Timekepping(高精度の計時の本質的要素)』を観てみた。ジャックとは何度もZoom会議で会っているし、私たちは一緒に博物館へ行くほど意気投合。そして私はこのビデオで今、彼を見ている。そう考えるとジャックのことを仲のいい友達と言っても過言ではないと思う。

 彼の講義を観た私の体験は、とにかく真に「没頭しながらのジェットコースター」といった感じだった。まずは最初のところで引きつけられた。ストーンヘンジが初期の計時装置のようなものであったとは私は知らなかった。てっきりただの岩の集まりかと思っていた。また、彼がエジプトのクレプシュドラという初期の水時計の説明をしているところも面白かった。「あなたは鉢に水を満たし、それが空になるまで待つんです。そうすると、ある一定の時間が経ったことがわかる。そしてもしそうしたければ、鉢に線を引くことで、どれだけの時間が経ったかまでを知ることができたわけです」。クレプシュドラがどうなったとかならなかったとかの話よりも、ジャックが「あなた」という二人称単数を使ったことが面白いと私は思った。それは視聴者に、彼が実際にその物体に慣れ親しんでいるかのような奇妙な感覚を与えた。もしかしたら、その講義が終わってから彼は家へ飛んで帰って、古代のクレプシュドラに普通に水を満たすのではないかというイメージさえ湧いてきたほどだ。

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 私は歴史好きなので、歴史を追った話はとてもなじみやすく自然に記憶にも残った。実際、ジャックが時計のゼンマイの発明の話をしたとき、気難しいイギリス人のロバート・フック(Robert Hooke)が発明に着手したが、気難しい性格のために仕事を完遂させることはなく、結局彼よりも執念深かったオランダ人のクリスティアーン・ホイヘンス(Christiaan Huygens)がそれを完成させたという話を聞いて、もっと聞きたいと思った。特にホイヘンスの肖像画を見て、バーナデット・ピーターズ(Bernadette Peters、アメリカの女優)とそっくりな髪型だったときは特にそう思った。真面目な話、時計のゼンマイの発明競争を題材にした素晴らしいテレビ番組が作られるのを待っている。誰か作って!

 残念ながら講義の次の部分は、複雑な人間模様よりも、シンプルな機械により重点が置かれていた。とはいっても、私はなんとかついていった。そう、ある程度は。

 振り子についてのジャックの情報は、ストーンヘンジについてとほぼ同じくらい啓示的だったことを、恥ずかしながら認めざるを得ない。振り子は理由があってぶらりぶらりと揺れているのだとは知っていたが、それがどのような理由によるものかは明確には知らなかった。とにかく、長さ994㎝の振り子は正確に1秒に1回揺れ、その2倍の長さの振り子は2秒に1回揺れるという事実には、誰もが興味深いと思うだろう。私でさえ思うのだから、これはクールな発見だ!

 時計のゼンマイの由来の話を聞くのが面白かった一方で、それらが実際にどのような仕組みで動くのかについては、なるほどと膝を打つような内容はそれほど無かった。エスケープメントについても然り。振り子やゼンマイが早すぎたり遅すぎたりしないための交通信号である、それ以上のことを知りたいと思うには限界があるように感じた。ほとんどの機械式時計にレバー脱進機がついていると知ったことについては、よかったと思っている。それが何を意味するのかは知らないし、それらが他のゼンマイとどのように異なるのかも知らない。そもそも、ゼンマイというものがどのように働くのかがあまりピンと来ていないからだ。しかし、このようなファクトが時とともに蓄えられていき、やがては普通の人よりも時計について詳しくなれるのだろうと思う。これは低いハードルなのか? それを越えていくのに忙しい私には、そこのところはわからない。

 このビデオのほかにも、『History of the Rolex Date-Day President (ロレックス デイト-デイ プレジデントの歴史)』、ハミルトン社の1949年の古典『How aWatch Works(時計の仕組み)』、パトリック・リード(Patrick Reed)という人物による『The Balance Spring(ヒゲゼンマイ)』など、短いビデオを数本観た。この最後のビデオが、ヒゲゼンマイの仕組みについての理解を助けてくれることを期待していたのだが、残念ながら、リード氏は単にヒゲゼンマイをフィルムに収めただけで、終わっていた。

 また、書籍も何冊か読んでみた。私の「読んだ」というのがどういうことを指しているのかというと、ジーン・ストーン(Gene Stone)とスティーブン・プルビレントによる 『The Watch, ThoroughlyRevisited(The Watch、全面改訂版)』は実際に読み、分厚い 『Watches: A Guide by the staff of HODINKEE(Watches: HODINKEEスタッフによるガイド)』 は拾い読みし(これについては、上半身の筋力が弱くて学習し続ける忍耐力が続かなかった。本が重くて)、 『The Watch Buff’s Book ofTrivia(時計マニアのための雑学書)』 からは毎晩、ボーイフレンドにいくつかの問題を出した。自分の彼氏を辱めるつもりは毛頭ないが、でも、ダン・エイクロイド(Dan Aykroyd)の映画のなかで、彼が高価なスイス時計を質に入れた作品はどれか当ててと言われて、 映画『コーンヘッズ』と答える人がほかにいるだろうか。

 ストーンとスティーブンの書籍に関しては、読んだのは主に、「A Brief History of Timepieces(時計の簡単な歴史)」 という最初の章だ。 多くはジャックの講義にあった要素と同じ話から始められていた。ストーンヘンジや、水時計や、日時計がどうのこうのといった具合に。でも、ジャックが控えめに淡々と楽しませてくれたのに対し、こちらの書き手たちはあからさまに大仰だ。「時を知りたいと欲する人にそれを告げることのできる道具を作る能力と、そうすることが可能な道具を所有したいと欲する人間の欲望のうち、いずれが先に存在したのだろうか? 」この質問に対する答えは私にはわからないし、世界中でわかる人はいないと思う。それは単に、答えなど出ない質問だからというだけでなく、こんなことをじっくり考えていたら、誰でも直ぐその場で居眠りしてしまうからだ。

 私は「50のブランド」という章まで飛んだ。タイトルからもわかる通り、著者たちが50の最も重要な時計ブランドを解説している章だ。この部分の一字一句を読むことも、写真のすべてを隈なく見ることもしなかったが、ここで私はいくらか時間を費やした。そうして私が学んだのは、時計愛好家の人々は、どのようにこれらの区別をつけているのか私にはわからないということだった。私がこれらのすべてを覚えられるはずがないし、このなかのどれ一つについても、そのすべてを覚えるのは無理だった。そこで私は、知っている10かそこらのブランドについて詳しく読み、重要に思われるいくつかのことを学ぶようにした。

 オーデマ ピゲのロイヤル オークは、ステンレススティールで作られた最初のラグジュアリースポーツウォッチで、当時それは大きな話題になり、よいアイデアとは言えないと考えられたが、もちろんそんなことはなかった。カルティエのタンクは戦時中に発明されたのだが、著名人がつけたことでそれはアイコン化された。ウブロのように。しかしウブロのそれは約70年後のことであり、また違った形で起こったこと。IWCは、女性の懐中時計のムーブメントを男性用腕時計に使用した。パテック フィリップは、時計博物館を運営しており、それは最初の話へとまた戻るが、私が仲よしのジャック・フォースターと一緒に行くことにしている場所だ。

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 また、 おそらくある程度は独断になるけれど、私が絶対に覚える必要のある用語はムーブメントであり、つまり、 巻き上げのメカニズム、ゼンマイ、輪列、脱進機、緩急調整機構、そして爪車、緩急針、クロノグラフ、複雑機構、 エスケープメントなどだと確信した。これはもちろん、うちの5歳の赤毛の牧羊犬でも知っているような、アラーム時計、アナログ、クリスタル、ホワイトゴールドといった言葉のほかにということだ。

 ところで、正確な時計は1秒間にカチカチ音が5回鳴るということをご存じだっただろうか。多分ご存じだろうと思う。また、石は時計の場合は宝石と同じ意味ではない。これは単に私の意見だが、 カルティエのタンクは、ベーシックさとクールさとを等分に兼ね備えた世界唯一のアイテムかも知れない。

 私は、時計について学び、そして正直に言ってしまえば「そこそこの」仕事をするなかで、自分がこのプロジェクトで一番望むのは、自分が時計愛好家たちのなかで会話を進めていけるところまでというよりも、おそらく、曖昧にでも会話についていくことができて、大恥をかくことのないところまで達することなのだと自覚した。幸いなことに今ではもう、レストラン「ル・クレマンス」で「フェルトシュレスヒェン」ビールを2、3杯多く飲み過ぎるという危険な状態のなかで、尊敬する時計ビジネスの同僚のほうを振り向き、「レバー脱進機が私の一番お気に入りの脱進機なのは知っているでしょう? あなたもそうは思わない?」などと言ったりはしない。

 つまり、冗談のような言い方をしてはいるが、深遠で畏敬の念を起こさせる手ごわい時計専門家への道に、抗えないようなのだ。つい最近読んだばかりなのだが、私が愛するオメガ、そして自分にとって最初の大きな時計の買い物だと個人的に思っているオメガは、レバー脱進機ではなく、実はコーアクシャル(同軸)脱進機を採用しているのだ。この事実で私は、これに続く時計に関するすべての会話をリードしていくことだろう。そしてそうすることで、時計収集家のコミュニティをひれ伏せさる。誰もが私の理解の深さにおののくことだろう。想像してみて欲しい。今はまだその始まりに過ぎないのだ。

サラ・ミラー氏は、北カリフォルニア在住のライター。 彼女のツイッターはこちら@sarahlovescali 。彼女のサブスタックの登録もぜひ。彼女がHODINNKEEで執筆した記事はこちら

Illustrations by Andrea Chronopoulos