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Grails 時計初心者が、ついに“夢の時計”をつけてみた話

私はずっとカルティエのタンクが欲しかった。そして、それをつけてみた今、何が欲しいかわからなくなってしまった。

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私が子供の頃、母の親友の一人が黒いリザードのストラップがついたカルティエのタンクをもっていた。美しいキャメルのカシミアカーディガンの袖口の下で、その時計のゴールドのエッジが輝いている様子が今でも目に浮かぶ。

 彼女はアトランタ出身で、マサチューセッツの私たちとは世界が違った。彼女の爪はいつもきれいに手入れされ、常にアイメイクをしていて、していない姿は見たことがなかった。私の母も魅力的でそれなりにファッショナブルな人だったが、『60ミニッツ』を見ながら自分でネイルをし、化粧は口紅だけ。マニキュアにお金をかけたり時計に50ドル以上使う前に亡くなってしまった。そのため、私はカルティエのタンクを思う度に教養ある繊細な女性らしさを連想した。私がずっと気になりながらも身につけられなかったものだ。

Cartier Tank

 そんなこともあり、ずっとタンクが欲しかった。まだ時計のことをまったく知らなかったころ、欲しいと言っていたのは、それが唯一思いつく時計だったからでもあるし、やはり魅力的だったからでもある。広告を見たり、ごくまれに実物に出会うたびに、思わず息を呑み、憧れを抱いていた。そして、このコラムを書くために時計の勉強を始めると、次々と目にするようになった。

 時計コレクターであり、「A Continuous Lean」の編集者でもあるマイケル・ウィリアムズ氏に、本物の時計を手に入れることについて相談したところ、クラシックなスタイルと価値の両方を兼ね備えたタンクを強くすすめられた。LUCHを修理してもらっているときに会った厳格な女性は、私にタンクを買うように命じた。彼女のなかでは、女性のための本格的な時計として、必然的で唯一の選択肢だったようだ。

 だから、HODINKEEの編集者から「Crown & Caliberで好きな時計を選んで数週間つけていいよ」と言われたとき、私は迷わなかった。選んだのはカルティエのタンク フランセーズで、20mmのケースは豪華な18Kゴールド製だ。

 箱を開けるときは興奮した。私のカルティエは豪華なオレンジ色のケースに入っていて、王子様の手の上に置かれたシンデレラの靴のようにキラキラと輝いていた。想像していたよりも可憐でありながら、より鮮やかな金色の輝きを放っていた。そして二つの思いが交錯した。想像していたよりずっと見事である一方で、それを身につける自分がイメージできなかったのだ。とにかく、それをつけてみた。

Cartier Tank illustration

 HODINKEEの同僚であるデイジー・アリオットがタンクをつけた写真をTwitterにアップしたときに、つけた感想を尋ねたところ、彼女が「100万ドルのような気分」と返してきたことを思い出す。その言葉以上にふさわしいものはないと思った。その美しさは私を落ち着かせ、その重さは自分が価値ある人間のように感じさせてくれる。しかも嫌みのある優越感ではない。実際にキッチンスケールを取り出して計ってみると、時計の重さは3.5オンス(約100g)だった。その優雅さは、世界には怖いことがたくさんあるけれど、見るべきものややった方がいいこともたくさんあると思わせてくれた。そして、それをしているのを見るべきことも。

 とはいえ、自分の手首にはめてみたとき、何だか他人の手首を見ているような気もした。それは嫌な感じではなく、“ここは美しい家でもなければ、ここにいるのは美しい妻でもない”という不思議な感じだ。私はこの感覚、つまり、この時計と本当に結びつく感じと距離がある感じの間にあるものが、どうなっていくのかを知りたいと思った。

 その日の夜、友人との食事に時計をつけて行ったが、つけていたことをすっかり忘れていた。ふと思い出して、「見て。私がしばらくつけていいことになった時計よ!  カルティエのタンクよ」と言って見せてみた。

 彼女が私のために即席のレセプションを開いてくれるとは思っていなかったが、彼女が全く興味を示さないとも予想していなかった。彼女は「カルティエのタンクって何?」と聞いてきたのだ。シャネルのNo.5やバーバリーのトレンチコートのような、最もクラシックな定番時計の一つであることを伝えた。彼女は「年配の女性がつけるような時計みたい」と言った。

 彼女は30歳。私は50歳だ。「私も年配よ」と言うと、彼女は「そんなことない」と言う。私が「あなたが思っているよりも私はコンサバなのよ」と言うと彼女は鼻で笑った。「あなたはコンサバじゃないよ!」

 私たちの共通の友人が会いに来てくれたが、30歳よりもさらに若く、実質的には子供のようだ。私には自分よりずっと若い友人がたくさんいる。もしあなたが子供をもたない選択をして、ある日、自分が中年で子供なし、主要産業が医療用マリファナ栽培の町に住んでいると気づいたら、きっと同じような状況に陥るかもしれない。なんでも否定する友人は言った。「サラの時計ってどうよ?」

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 途中参加の友人は、顔をしかめながら真剣にそれを見て、いろいろな角度から見せるように頼んできた。彼女がついに口を開いたとき、私たちはまるで神託を待っていたかのように感じた。

 「なんか私のおばあちゃんがつけていそう。でも、私はサウスコーストプラザでいたずらしながら育ったから、象徴的な高級品は見ればわかるの。だから、アイコンとしての格式と、おばあちゃんっぽい雰囲気の両方を感じる。正直言って、わかんない」

 数日後、これがまさに私の気持ちだとわかった。私はこの時計を愛していた。特に自分の手を置いて時計を見せるようなときは、たとえそれが自分だけにしかわからなかったとしても、とても気に入っていた。私はワインショップでアルバイトを始めたばかりだが、1万2000ドル相当の本格的なアイコニックウォッチを腕につけてワインを開けたり注いだり、さらには棚から取り出したりすることで、この夢のように楽しい仕事は映画のような領域にまで高められた。長年この時計を欲しいと思い続け、そして今、所有する体験をしている。でもそれは私が望んでいたこととは違っていたということにも魅了された。自分の腕にその時計があるのを見て、「これで私の時計道が終わるわけではない」と思うのだ。

 しかし、ここで大きな問題。私はこの時計の感触を愛し続けていた。朝起きて机の上や洗面所の青いガラスの宝石皿(私は整理整頓が得意ではないが、もちろん1万2000ドル(約130万円)の価値があるものなので、いつもなんとか管理していた)の中にあるこの時計を見つけたとき、いつも胸がときめいた。

 この時計は、私に安全や安心感を与えるものではない。悲しいことにこの世界にそんなものはないと思うが。しかし、この時計を身につけて、しっかりとした作りのクラスプがカチッと閉まるときの満足感、そしてあの涼しげで安定した3.5オンスの重さは、確かなものだった。30日経ってもこの儀式の喜びは消えない。

 だからこそ、忘れかけていた小さなビットコイン口座を現金化し、本物の時計を買うことにしたのだ。このタンクは素晴らしいと思うが、私には合わない時計だ。私は自分で思っていたほどコンサバな人間ではなかったし、かつて自分が望んだようなレディにはなれないだろう。前回紹介した100ドルの時計、LUCHも、私には合わない時計だ。自分にふさわしいかもしれないが、本当の自分を表す時計ではない。カルティエを身につけることで、私は実際、自分のものと呼べるような重々しく高級なものが欲しいのだとわかった。それをすぐにでも手に入れたい。問題は、それが何であるべきかということ。そして、それを見つけたときにどうやって知ればいいのだろう?

サラ・ミラー氏は、北カリフォルニア在住のライター。Twitter@sarahlovescaliまたはSubstackを。過去記事はこちら

Photos by Ingrid Nelson. Illustrations by Andrea Chronopoulos.