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時々見かける奇妙な目的に特化したようなヴィンテージウォッチを私が愛さずにいられないのは、特殊な目的のために、非常に特化した時計を作るという、その純粋なばかばかしさにあるのだと思う。ヨットタイマー、ゴルフウォッチ、テニスウォッチ、どれも大好きだ。こうした時計を作るマニファクチュールは時として、その時計の内部機構になんら修正を加えていなかったりもする。ある種巧妙なデザイン(それはカラフルなものであることが多い)によって、時計が伝えるべきものを明確に変化させてしまうのだ。
私はサッカーについて(いや、通は“フットボール”というべきか)、自分の母親のクリスマスプレゼントに何を選んだらよいか(サッカータイマーとか?)という問題と同じくらいの知識しかない。だが今週は、腕にタトゥーを入れたイケメン選手、その名をどう発音するのかをつい最近知ったクリスチャン・プリシッチ(Christian Pulisic)選手のたくましい太ももが牽引するワールドカップの時流にしっかりと乗っかった。オメガ、ブライトリング、ホイヤーのヴィンテージサッカータイマーの素晴らしいハットトリックを記事にするのに、今ほどの好機はない。長年のあいだにいくつかのブランドがサッカータイマーに足を踏み入れようとしたが、そのどれもが、この3社のクロノグラフメーカーほど機械式ムーブメントを有能に搭載したものではなかった。サッカーの試合の前半・後半はそれぞれ45分であることから、こうしたサッカータイマーが解決すべき主要課題は、45分が実際に経過したことをエレガントな方法で表示することだった。もちろん、一般的なクロノグラフを使ってそれをすることもできなくはないが、それの何がおもしろいというのだろうか?
サッカータイマーのような目的特化型の時計は、奇妙で特殊なひとつの事柄、そしてその事柄のみのために開発された、当時の機械式アプリともいえる。いったいなぜこのブランドはわざわざこれを作ろうとしたのか、そして誰がそれを買うのか、そうしたことを想像してみるところにおもしろさがある。現在私はこうしたかつてのサッカータイマーを、リグレー・フィールド球場の外野席に1937年から変わらず立っている名物の手動式スコアボードを見るのと同じ感覚で見ている。確かにまったくの旧式で不要であり、現在はこうした記録をつけるのにもっとよい方法があるのだろう(ほかの野球チームに聞いてみるといい)。しかしそもそも伝統というものを問題にするとき(野球にしろ、サッカーにしろ、時計にしろ)、物事を特別にしているのは、そこにまとわりつくちょっとした時代錯誤なのだ。
グループA: オメガ、シーマスターのサッカータイマーたち
セコンドタイムゾーンを表示する人気の“ルーレット”ベゼルのついたオメガのサッカータイマー Ref.145.019。
オメガは1968年から1980年代初めまで、シーマスターコレクションのなかでサッカータイマーのレファレンスを3本作った。いずれもクッションケースのなかにはオメガのCal.861が搭載され、1本目は38mmであったケースサイズは、2本目と3本目で41mmに拡大している。
サッカータイマー Ref.145.016。 Image: Courtesy of Phillips
実をいうと、これらのサッカータイマーとオメガのほかのクロノグラフとの機能面の唯一の違いは、クロノグラフのミニッツカウンターにある15分表示の下に“45”をつけ加えた点だけ。審判(あるいは試合時間を計らなければと考える熱狂的なファン)に45分の経過がはっきりとわかるようにしたのだ。だが、このちょっとしたディテールを加えて特別なサッカー市場向けに売り出そうというのなら、カラーも際立つものにしたらよいではないか。そこでオメガはそうしたというわけだ。
最初にサッカータイマーとして改変されたモデル、Ref.145.016は、ダイヤルの色はホワイトまたはブラック、クロノグラフ針の色はオレンジであることが多く(マニアックなディテールであることに注意! コレクターに人気の“ウルトラマン”スピードマスターにもついているクロノグラフ針に似ている)、インダイヤルの色使いも楽しい。この第1世代は38mmで、サッカータイマーに特化したレファレンスではなく、通常のシーマスターにも使われている。オメガのサッカータイマーではこのレファレンスが最も手頃な価格なのだが、ケースがやや小さめでスリムなおかげで、私にとっては最高のつけ心地だ。
サッカータイマー Ref.145.020。Ref.145.019との違いは、固定された黒一色のタキメターベゼルだ。
オメガ サッカータイマーの第2世代は、Ref.145.019だ。フレンドリーな業界人であるヴィンテージ専門家のリッチ・フォードン(Rich Fordon)氏に尋ねてみたところ、このレファレンスが最も人気らしい。理由は見ればわかる。オメガのサッカータイマートリオのなかで、このダイヤルが最も愉快だ。アウター回転式ベゼル(10時位置に追加されたリューズで回転させる)は、特に派手な“ルーレット”ベゼルのバージョンに時折り見られるもので、セカンドタイムゾーンを追うことができる(カタールでワールドカップの試合時間を計る一方で、ケネバンクポートでの時間が気になったときのために)。第1世代と同じく、Ref.145.019もダイヤルカラーはブラックまたはホワイトで、カラフルなアクセントや針が特徴だ。その量感のあるケースと鮮やかな色彩は、紛れもなく1970年代の組み合わせだ。最後に、オメガはRef.145.020も出している。基本的にはRef.145.019と同じデザインとケースと用いているが、ベゼルは固定された黒一色だ(つまらない! 少なくともルーレットベゼルに比べれば)。
グループB: ブライトリングのサッカータイマーたち
ブライトリング の“スロークロノグラフ” サッカータイマー Ref.2734
オメガと同様、ブライトリングもデザインにシンプルなひねりを加えることでサッカータイマーとした。ブライトリングは、奇抜な“スロークロノグラフ”ムーブメントをサッカータイマーに使っている。ただでさえ特殊で小さくニッチな市場であるサッカータイマーのためにそれを使う点が、ブライトリングバージョンをいっそうおもしろみのあるものにしている。通常のクロノグラフとは異なり、ブライトリングのサッカータイマーは、クロノグラフ用リューズをオンにしたときに変化するのは6時位置にある小窓だけで、クロノグラフが作動中であることを示す大きな夜光のドットが現れる(小さな夜光ドットはクロノグラフの一時停止状態を示す)。そしてその後、スモールセコンドではなく、センターにある大きなクロノグラフ針が分の経過を表示するのだ。
これは、風変りかつ素晴らしい形でクロノグラフを改造であり、ブライトリングでは、コレクターに人気のあるヴィンテージのスーパーオーシャンにしか見られないものだ。ダイヤル上にある45分までのカラフルなアウタートラックが、クロノグラフの45分経過を確認しやすくしている。この45分トラッカーが、何通りかの素晴らしいダイヤルとの色合わせで互いを引き立て合っているのがわかる。よく見られるのは、レッドとブルー、レッドとブラック、グリーンとブルーだ。デザインはオメガのものほど奇抜ではないが、しかしこの“スロークロノグラフ”が、ブライトリングのサッカーラタイマーをおもしろいバリエーションのひとつにしている。それ以上に私がおもしろいと思うのは、これら2社が課題(言い換えれば潜在的な市場)を特定し、その対応としてまったく異なるソリューションに辿りついた点だ。
グループC: ホイヤーの審判用ストップウォッチ
Image: Courtesy of Catawiki
最後のホイヤーは、サッカーの試合時間を計る本格的な機械式クロノグラフは作っていないが、しかし審判が手首につける機械式のストップウォッチを作った。ケイシー・マスグレイヴス(Kacey Musgraves)がカントリーミュージックで私を泣かすことにおいて素晴らしい経歴を積み上げてきたように、ストップウォッチづくりで素晴らしい歴史を積み上げてきたブランドとして、これは理に適っている。
実際のところ、これら3社のブランドすべてについて、サッカーの試合に特化したクロノグラフを作ろうとしたことは理に適っているといえる。3社はどこも1920年代辺りからクロノグラフを作ってきたのだ。古くからのヒット商品をせっせと世に送り出していれば、時には少々飽きてくることもあるだろう。今でこそ、こうしたマニファクチュールを発奮させて毎朝仕事に向かわせるにはオメガ スピードマスター クロノチャイムのような製品も必要になるだろうが、1970年代はもっとシンプルだったから、シンプルなサッカータイマーでよかったのだ。
最後に:クォーツ、そして収集価値
マニュファクチュールがクォーツウォッチを作り始めるようになると、審判用のクロノグラフやストップウォッチがより多く試作されるようになった。タグ・ホイヤー、セイコー、そしてもちろん、ワールドカップの公式計時パートナーであるウブロにその例を見ることができる。こちらはその特別エディション、ビッグ・バン E FIFA ワールドカップ カタール 2022だ。しかしこうしたヴィンテージのサッカータイマーのほうが、そこにまつわる何かがもっとファンキーでピュアなものを感じさせてくれるのだ(まあひとつには、6時位置に馬鹿でかいワールドカップのロゴが入っていないせいもあるだろう)。
ヴィンテージのサッカータイマーではない。
ではそうした時計に収集価値はあるのだろうか? 特にはない。“希少性”と“無名”とのあいだには微妙な境界線があり(前者は収集価値があるが、後者はそれほどでもない)、これらの時計はどちらかといえば無名に近い。だがはっきりさせておくと、それは別に構わないのだ。これらの時計はどれも生産数が比較的少なかったようだ。
それでも私はブライトリング、オメガ、ホイヤー、もしくはクロノグラフなどの正式なコレクションに、サッカータイマーを加えるのは素晴らしい考えだと思っている(あるいはスポーツをテーマにしたコレクションとか? そういうものは存在するのだろうか。もしスポーツをテーマに時計を収集している方がいらっしゃればぜひご一報を)。クッションケース、鮮やかなダイヤルと針、そして名の知れたムーブメントを備えたオメガのサッカータイマーは、サッカーへのこだわりをもつ多くの収集家にとってはたまらない選択だ。ファンキーな1970年代のデザインで、有用性は乏しいが、目的に適った機能を持つというまさにその組み合わせが、ちゃんとした人物のコレクションに加えるとおもしろみのあるものになるのだ。ルーレットベゼルを備えたRef.145.019のモデルは現在、おそらく5000から6000ドル(約68万から82万円)で売られており(こうしたサッカータイムのなかでは最も人気)、ほかのサッカータイマーの価格はそこから下がっていく。実際、鮮やかで愉快で、ほかの誰かがつけていそうなものとはまったく異なるクロノグラフの価格としては、悪くないと思う。
サッカータイマーと同様に、ひとつの用途を念頭に作られたホットドッグスライサー。しかし想像力を働かせれば、きっとほかにも用途は見つかる。
私もこれまでに、「ひとつの用途しかない特化型ウォッチなんて買うわけないだろう、絶対につけることなんてないさ」という類いの考えに同調していたことがあった。かつてアルトン・ブラウン(Alton Brown)氏が(アルトン・ブラウンも時計愛好家だ!)、単一用途で売られているキッチン用品が以前は大嫌いだったと言っていたのを思い出す。ホットドッグスライサーとか、イチゴのヘタ取り器とか、そういった類いのものだ。しかしその後彼は、こうした器具を単一用途と思い込むのは、実は器具自体の制限ではなく、自分の想像力の制限に過ぎないことに気づいた。確かに、パニーニ用プレス機はおいしいホットサンドイッチを作るものだが、そのプレス機でサクッとしたハッシュトポテトを手早く作ってもいいではないか。さらには45分かかるレシピを見つければ、その時間を何で計ればよいかもうおわかりだろう。
とはいえ、特定の時計を特別な機会のためにとっておくこともある種の美学だ。ステンレススティール製スポーツウォッチがもてはやされる昨今、時として我々は、場面を問わずどこでもつけることが可能な時計というものにこだわり過ぎてしまう。しかし、すべての時計が日常用途である必要はない。試合の日までとっておくのがベストなものもあるのだ。
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