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In-Depth ロレックスの特許、デイデイト40 Cal.3255、そして時計製造の本当の進歩のために何を作るかについての考え

ロレックスに関して最も興味深いことの一つは、企業が研究開発に費やした時間とエネルギーの長さ、大きさである。そこは、好奇心の強い人間にとっては宝の山なのだ。

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ロレックスに関して最も興味深いことの一つは、企業が研究開発(R&D)に費やした時間とエネルギーの長さ、大きさである。さらに言えば、少なくとも最初に特許を得た時点で想定されていた形では、ついぞ日の目を見なかったような研究開発こそが興味深い。幸運にも知りたがりたちにとっては、特許は公の記録に関する事柄であるから、もし皆さんにその気があるのなら、企業が研究に時間を費やした対象を知るヒントを与えてくれる特許データベースに、魅力的な事例を見つけることができる。さらに、基礎的な研究から得た情報がいかに製品に反映され、最終的に消費者の手首に装着されるのかについて、いくばくかの推測(一応は少々の知識を伴った形で)を行うことができよう。

 「バーゼルワールド2015」の場において、ロレックスは、デイデイトの最新モデルに収められた新しいムーブメント「Cal.3255」を披露した。このデイデイトは、明らかにロレックスの旗艦モデルの一つであり、そんな時計に旗艦キャリバーを初導入したことはうなずける。Cal.3255は最初から、想像し得る限りの全ての面で最高の性能を発揮するために設計されている。我々がその登場時から耳にしてきた情報に基づけば、このキャリバーは、1755のレバーエスケープメントの登場時から機械式腕時計に採用されてきたものと同じ基本構造を踏襲しているものの、ロレックスによると、ムーブメントのほとんど全てのパーツが改めて精査されており、そのパーツの大部分(90%以上)が再加工されている。

 パラクロム製テンプや新しい改質潤滑剤を含めた全ての部分が、自社製である。当然ながら、最も重要な改良点は、ロレックス クロナジーエスケープメントだろう。このエスケープメントは奇抜な形状である上に、スケルトンのガンギ車を使用し、ガンギ車からレバーを経由してテンプそのものに至るまでのエネルギー伝達の効率性を15%向上させている。レバーとガンギ車は非磁性材製、ヒゲゼンマイは非磁性材のニオブ・ジルコニウム合金製となっているため、ムーブメントも高度な耐磁性能を有している。 

Cal.3255のロレックス クロナジーエスケープメント 

Cal.3255の文字盤側 

 こうした全ての要素が、ある種の研究開発の印象を作り上げている。皆さんはこれを見て、漸進的な進化だと見なすかもしれない。確かにそうだ。けれども、それだけではなく、根元的な進化なのだ。こうした改良点は2~3ヵ月の間オーラを放つために施されたものでも、実用的というよりむしろ大いに理論的なメリットを生み出すために施されたものでもない。これらの改良は、腕時計のより有効な潤滑性能、ゼンマイからテンプに至るまでの優れた動力伝達、そして歩度の安定性向上に注力した結果だ。この腕時計は、少数の目利き集団ではなく、腕時計を購入する一般の人々に向けて広く提供するために作られているのだ。そもそも皆さんは、エスケープメントの形状のバリエーションや、エスケープメントにおける滑り摩擦といった時計製作の基礎についての情報をどこから入手するのだろうか?

 研究からエスケープメントの改良に至った部分が一つある。恐らく、現代の腕時計製造におけるレバーエスケープメントの一つの最重要な改良の成果は、ダニエルズのコーアクシャルエスケープメントだった。これは、他のいくつかの現代エスケープメント・デザイン(近年で最も著名なのはオーデマ・ピゲのダイレクトインパルス・エスケープメントだ)と同様、クロノメーターエスケープメントとレバーについて、そのいずれかのデメリットを生じさせることなく、利点のみを組み合わせる試みを象徴したものだ。クロノメーターエスケープメントはより効率的で、オイルを必要としないものの、繊細であり、特に震動させると、必要でない時にガンギ車を解除してしまう傾向がある。これとは対照的に、レバーエスケープメントは優れた“安全性”(思いがけない解除に対する安全性)を発揮するが、滑り摩擦を利用することにより、レバーを通してテンプにエネルギーを伝えている。このことは、エスケープメントに油を差す必要がなくなることを意味する。オイルが化学変化を起こすと、腕時計の歩度の安定性は低下するのだ。ロレックスはやや当然のことながら、研究を通して、安全性、エネルギー効率、そしてコーアクシャルを特徴づける衝撃面のオイル排除という同じ組み合わせを有するエスケープメントを開発した。以下に、そうした一つのエスケープメントを示したいくつかの画像がある。オンラインの特許文書からとったものだ。レバーとガンギ車が示されており、テンプは示されていないが、インパルスローラー(テンプの中央部。これがガンギ車によって押されたジュエルを動かし、テンプの回転を維持する)を見ることができる。

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 一連の動きは、画像の上から下に続いている。図1~4(上)では、テンプは反時計回りに回転しており、テンプ(インパルスローラー)の“ハブ”上に四角い戻り止めジュエル(7)が見える。これが戻り止めロッカー(4)を持ち上げ、ガンギ車を解除する。図4は、ガンギ車の歯がインパルスジュエルを打ち、それを押す瞬間を示している。ここでは、レバーエスケープメントとは違い、衝撃が(レバーを通してではなく)直接、テンプに伝わっているのが分かる。それにより効率性を生んでいるのだ。ほかにも、図4では、別のガンギ車の歯が、戻り止めロッカーの下面に沿ってスライドし、そのロッカーをロッキングピン(5)まで押しているのが分かる。

 図5では、レバーがロッキングピン向かって押されている。図6では、別のガンギ車の歯が、戻り止めロッカーの4bに向かってスライドし始める。この動きにより、レバーは反対方向に戻され、面4aがガンギ車をロックする。

 図9~10は、戻り止めジュエル(7)が戻り止めを通過している様子を示している。ここで戻り止めがロッカー上で旋回し、それによりガンギ車を解除することなく通過できていることに注意したい。

 全体のシステムが、クロノメーターのデテント脱進機とまったく同じように動作している。ガンギ車によってテンプの直接的な衝撃が見られるのであり、したがって摩擦によるエネルギーロスはない。同時に、ガンギ車の歯とレバーの相互作用により良好な“安全性”がもたらされ、レバーは常に、正確にあるべき位置にあり、思いがけずガンギ車を解除することは不可能なのだ。全ての機構が極めて精巧に作られているのだが、(エンジニアではなくエディターとして、私の分かる範囲では)このエスケープメントは、大量生産を考える上では非常に要求が厳しい。脱進機は微小になるだろう。レバー上の滑り摩擦については、歩度の安定性の点から言えば問題にはならないが、例えば、装着という点から言えば、問題になるかもしれない(シリコン/リガのコンポーネントがその問題を解決する可能性がある)。それでも、完璧に磨き上げられたデザインに加え、相互作用部分のアングルや、レバーとガンギ車の歯の形状における非常に高い正確性は、ロレックスのR&Dスタッフが時間をかけて考え抜いた成果を如実に物語っている。

 当然ながら、全ては製造活動に反映されている。そのことは、Cal.3255を分析してみれば明確に理解できる。確かに、40mmのデイデイトは、見事なステートメントピースである。いくつかの点においては、これは非常に顕示的な消費となる。数世代にわたる腕時計愛好家にとって、非常に贅沢な一品なのだ。バイヤーのほとんどは、腕時計の内部に何があるかについて、知ることはないし、たぶんあまり気にもかけないだろう。しかし、それを目にすれば、より多くのことが分かってくる。この時計は、少なくとも現代腕時計製造の基本という点から言えば、技術的にはこの世で最も進化したものの一つなのだ。

我々のデイデイト 40mmのハンズオン記事

ロレックスの製造拠点に潜入した記事「ロレックス 全4工場の舞台裏に足を踏み入れる

ここで元の特許について読むことが出来ます。

Cal.3255についての詳細はロレックスの公式サイトへ。