ADVERTISEMENT
春のオークションシーズンが本格化しており、すでに香港ではオークションが始まり今後も多数の開催が予定されている。数週間後には、フィリップス、サザビーズ、クリスティーズ、アンティコルムによるジュネーブでのオークションに注目が集まることになる。しかし、ジュネーブが主役となる前に、モナコ・レジェンド・グループ(MLG)が春のオークションのためにモナコ公国に戻ってくる。開催日は4月26日(土)と27日(日)、会場は例年どおりモナコの定番のロケーションである。MLGはこれまで、ヴィンテージコレクターたちの目を引くピースに焦点を当ててきたが、今年のカタログはさらに1歩踏み込み、“ディープカット”的な魅力や興味深いストーリーにいっそう重きを置いているようだ。
今日のオークションにおいては、超高額な“聖杯級”のピースがいくつかそろっていることが必須条件となりつつあり、今年のMLGのカバーロットもその要件を満たしている。まずひとつ目は市場で初登場となるパテック フィリップ製、世界初の量産型永久カレンダーRef.1526のピンクゴールドモデルである。ピンクダイヤルを備え、ブラジルの小売店カーサ・マッソンのサイン入り、さらにムーンフェイズと日付表示の上に大型の拡大レンズ“サイクロプス”が装着された特別な仕様だ。
また、ステンレススティール製の防水オイスターケースを備えたカレンダーロレックス、Ref.6062の出品もある。アラビア数字インデックスのダイヤル配置を持つこの時計は、2009年にクリスティーズで44万7000スイスフラン(当時の相場で約3850万円)で落札された実績を持つ。今回のエスティメートはパテックが50万〜100万ユーロ(日本円で約8180万~1億6370万円)、ロレックスが100万ユーロ超とされている。とはいえ、私が特に引かれたのは魅力的なプロヴナンスを持つ3本の時計であり、そのなかには当然ながら驚くほどクールな懐中時計も含まれている。
自分らしくあるためには、まずはこの懐中時計から紹介せずにはいられない。モナコ・レジェンド・グループによれば、かつてCIA長官を務めたアレン・ダレス(Allen Dulles)によってオーダーされ、彼がその職を離れてから1年以内に納品されたとされる個体である。今回のオークションには、ふたつの驚くべきブレゲ懐中時計が出品されており(もう一方は1980年製のグランド・ソヌリ&プチ・ソヌリ付き永久カレンダー)、そのひとつであるロット119は、来歴だけでなくさまざまな点においてきわめてユニークな存在である。
1960年代の懐中時計といえば、こうしたセミスケルトン仕様のデザインをあまり連想しないものだが、もしそれにふさわしい時計があるとすればまさにこれである。この時計は、ワンミニッツトゥールビヨン、スプリットセコンドクロノグラフ、ミニッツリピーター、そして金メッキ仕上げのムーブメントを備えており、いずれもジュネーブのヴィクトラン・ピゲとの共同制作によるものであることがブレゲのアーカイブ部門プレジデントによって確認されている。さらに、1960年代としては珍しくシルバー製ケースに収められている点も注目。何よりも心を引かれるのは、その出自である。
ブレゲの証明書によれば、この時計は1962年4月30日にアレン・ダレスへ販売されたことが確認されている。
故アレン・ダレス。
アレン・ダレスは、1953年から1961年まで初の民間出身者として中央情報局(CIA)長官を務めた人物である。彼は1953年のイランクーデター、1954年のグアテマラクーデター、U-2偵察機の開発、悪名高きプロジェクトMKウルトラ、そして1961年の失敗に終わったピッグス湾侵攻作戦(この失敗によりジョン・F・ケネディ大統領から解任されることとなった)など、多くの歴史的かつ時に不穏、または失敗に終わったプログラムにおいて指揮を執った責任者である。そんな激動の任務を遂行しながら、唯一無二のブレゲ製懐中時計をオーダーしていたというのは実に驚くべき話である。ダレスは著名な外交官一族の出身であり、これまでにもほかに“ダレス”名義でブレゲの時計が確認されていることから、彼自身が複数の時計をオーダーしていた可能性や一族の誰かが注文していた可能性も考えられる。この懐中時計のオークション予想落札価格は12万〜24万ユーロ(日本円で約1960万~3930万円)とされている。
ロット22、ロレックス Ref.6542 “アルビノ” GMTマスター
“アルビノ” GMTマスターについて初めて知ったのは、2015年にベン(・クライマー)が執筆した記事によるものだったと記憶している。これらは謎めいた存在でありながら、現在ではコレクターコミュニティのあいだで本物として広く認められている。しかし、その希少性と神話的な存在感ゆえに依然として懐疑的な見方をする人が存在するのも事実だ。それももっともな話であり、ここでその意見を覆すつもりもない。たださまざまな逸話に加え(たとえば“ザ・クラウン”の内部関係者から、ロレックスがホワイトメテオライトダイヤル仕様のGMTマスターIIを製作したことが、オリジナル“アルビノ”への暗黙のオマージュだと聞かされたこともある)、今回出品されるこの個体はオリジナルオーナーからのものであり、しかも軍のプロヴナンス(実績)が付随している。
オークション序盤に登場するロット22は、チリ海軍陸戦隊の兵士が所有していたRef.6542 “アルビノ” GMTマスターである。この時計は、彼がチリ海軍(Armada de Chile)でのキャリアを通じて着用し続け、最終的には最上位下士官であるスボフィシアル・マヨールにまで昇進したという由緒を持つ。ダイヤルを含む全体は長年の使用によりしっかりと使い込まれており、ベゼルも本来このリファレンスで知られるベークライト製ではなく、後期型のSS製ベゼルが装着されている。モナコ・レジェンド・グループは、これは後期生産の個体でありロレックスがRef.1675への移行前にベークライトを廃止し始めたことを指摘している(これは事実である)。写真を見る限り、このダイヤルのパッドプリントはほかの例と比べてシャープさに欠けるようにも見える。しかし過去に同型を2本販売した人物に話を聞いたところ、この時計は、正しい仕様に見えるが突出した状態ではないと評価していた。どのリファレンスでも購入前にはしっかりとリサーチを行うべきだが、特に推定落札価格が12万〜24万ユーロ(日本円で約1960万~3930万円)ともなればなおさらである。それにしても、こうしたオリジナルオーナーの個体は、一流コレクターたちが血眼になって探し求める類のものだ。
最後に紹介するのは、やや反則気味ではあるが軍きちんとした出自があると言われる1本だ。このエベラールは軍用としてオーダーされたものの、実際には納品されなかった。第2次世界大戦で支配政権が敗戦を喫した結果といえるだろう。以前、私は“システマ・マジーニ”系譜に属する懐中時計を取り上げたことがある。この系譜は、戦時中に暗号が破られたと認識したイタリアが日本と協力を試みた、あまり知られていない取り組みと結びついている。イタリア空軍はその後、10本のスプリットセコンドクロノグラフを発注したが、戦争が終結する前に製造が完了しなかったため、納品には至らなかった。とはいえこれらの時計は、当時すでに優れたスプリットセコンドクロノグラフが多数存在していたなかでも、群を抜いて素晴らしい存在なのは間違いない。
今回のオークションに出品されるエベラール モデロ・マジーニ スプリットセコンドクロノグラフ(ロット237)は、直径51mmの大型SSケースを備えており、ケースバックを含む金属パーツにはクロムメッキが施されている(80年もの歳月を経ているため、さすがにケースバックには多少の腐食跡が見られる)。24時間表示のダイヤルは実直な印象を受ける仕上がりで、フォントは実に見事なものだ。加えてブルーとゴールドのブレゲ針による時・分針、そして12時位置にはデイト表示窓が設けられている。ムーブメントはロレックスの希少なスプリットセコンドモデルやミネルバのスプリットセコンドモデルなどにも見られる、改良型バルジュー55を搭載している。この個体は2019年にミラノのオークションに出品され、当時は12万5000ユーロ(当時の相場で約1530万円)で落札。今回の推定落札価格は5万〜10万ユーロ(日本円で約820万~1640万円)と、やや控えめな設定となっている。
オークションに関するさらなる情報については、こちらからご覧ください
Photos courtesy Monaco Legend Group.
話題の記事
Hands-On 帰ってきたロレックス デイトナ Ref.126508 “ジョン・メイヤー 2.0”を実機レビュー
Introducing ロンジンの時計製造を讃える新作、ロンジン スピリット Zulu Time 1925(編集部撮り下ろし)
Auctions フィリップス 香港オークション(2025年5月23〜25日)に出品されるVOGA Museum Collectionsの注目ロット5選