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Watching Movies 映画『ナイトメア・アリー』の腕時計、ブラッドリー・クーパーがハミルトンの金時計を着用

ギレルモ・デル・トロ監督の映画で登場したのは、幻惑的なゴールドウォッチ。その舞台裏についてスタッフに話を聞くことができた。

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短い休止と必要な休養期間を経て、Watching Moviesは2022年、本格的に始動する。新年を迎えるにあたり、2021年の終わりに公開された映画に照準を合わせてみるのもいいかと考えた。

 先見の明のあるギレルモ・デル・トロ監督によるこの作品は、主演のブラッドリー・クーパーを中心に、不気味さ、不思議さ、メカニカルなもの(今年は時計のダジャレが流行りそうだ)に触れる、ちょっとダークな作品だ。

On set of Nightmare Alley

映画『ナイトメア・アリー』の撮影現場でのリチャード・ジェンキンス、ギレルモ・デル・トロ、ブラッドリー・クーパー。Photo, Searchlight Pictures

 それは『ナイトメア・アリー(Nightmare Alley)』(2021年)。1947年に公開された映画のリメイクであり、その作品自体、1946年の小説の映画版で、すべて同じ題名だ。物語はクーパー演じるスタントン・カーライル(ノワール的な名前だ)を軸に展開される。彼は巡回カーニバルに参加し、メンタリズムと犯罪の技術を徐々に学んでいく。しかしトラブルが発生したことで、彼は恋人のモリー・ケイヒル(ルーニー・マーラ)とともに大都会へ逃げ、神秘的な才能をテントから国際的なサパークラブへと持ち込むことになる。

 そのあいだ、彼が身につけている時計は、銀幕にふさわしい四角いフォルムのアメリカン・ヴィンテージである。


注目する理由

 映画『ナイトメア・アリー』は、2020年(2021年ではない)の12月下旬から私の目に留まっていた。そのとき、本作のアシスタント・プロップマスターであるマリア・シモネリ氏にインタビューしたところ、COVID感染拡大の影響で製作が半年ほど遅れていることを知ったのだ。

Live from the New York Premiere of Nightmare Alley with the cast and crew on stage

『ナイトメア・アリー』のニューヨーク・プレミア中継から。キャストとスタッフがステージに。

 2021年になり、私は12月上旬に行われたUSプレミアに参加することができた。デル・トロ監督は映画の終了後、キャストやスタッフとともに観客に語りかける時間を取った。彼と本作のプロデューサーたちは、スケジュールの都合に妨げられることなく、文字通り映画の半分を仕上げるために全キャストを集められたことがいかに幸運だったかに触れた。

 クーパー演じるスタントン・"スタン"・カーライルは、その能力(あるいは「パワー」)を使って金持ちや権力者を手玉に取る一方、大女優ケイト・ブランシェット演じる危険なセラピスト、リリス・リッター博士に(いろいろな意味で)落ちて行ってしまうのだ。

Mary Steenburgen and Bradley Cooper in Nightmare Alley

メアリー・スティーンバージェン、『ナイトメア・アリー』でクーパーの魅力(あるいは時計の魅力)の餌食に? Photo, Searchlight Pictures

 この作品が興行成績の悪さから多くの映画館で上映中止になった新作であるという点(それはきっとスパイダーマンのせいなのだ)を考えた。私がこの24ヵ月で出会った映画のなかで、最も質が高いと信じるのにもったいない。この映画は、賞のシーズンになれば間違いなく注目されるだろう。

 プロダクションデザインも、衣装も、演技も一流だ。そして、時計もである。

 映画のなかでカーライルは、ハミルトンがまだペンシルバニア州ランカスターを拠点とするアメリカのブランドだった、1928年頃の14Kゴールドのヘイスティングスを着用している。その後、ハミルトンはスウォッチ グループに買収され、スイスを拠点にしている(しかし、今でも素晴らしい時計を作り続けている)。

Hamilton Hastings

『ナイトメア・アリー』でブラッドリー・クーパーが着用していた時計と同様のハミルトン ヘイスティングス。Photo, eBay.

 カーライルはこの時計を、地味な下積み時代から成りあがっていくまで身につけている。多くの映画と同様、この映画も時計そのものではなく、その背後にある物語が重要なのだ。この作品の場合、ハミルトンは、カーライルの人生に大きく関わる亡き父が所有していたものである。彼は、亡くなった父親の思い出としてこの時計を身につけ、どこへ行くにも一緒だ。この時計の鼓動が、映画のなかで彼が下すすべての決断(正しいか間違っているかは別として...だいたい間違っているが)に影響を与えているのだ。

 プレミア上映後にシモネリ氏に話を聞くと、クーパーとこのハミルトンの関係にも、映画同様に興味深いオフスクリーンのストーリーがあるとのことだった。

On set of Nightmare Alley

『ナイトメア・アリー』の華麗なセットのひとつで、ギレルモ・デル・トロ監督が出演者たちに指示を出す。Photo, Searchlight Pictures

 映画のコロナ対策の一環として、クーパーのトレーラーを清掃する際に、ヘイスティングスにまつわるちょっとした事件があった。「作業中に時計がトレイから落ちて、風防が割れてしまったのです」とシモネリ氏は振り返る。「主役級の時計1本の他に、スタントやワイドショットに使用する他の3本を加えた、合計4本の時計がありました」

 風防が割れるという事件のあと、シモネリ氏はシーンのために撮影現場に行き、クーパーにサブの時計を1本手渡した。

 「彼は"ありがとう"と言って立ち去りましたが、5分もしないうちにクーパーとギレルモに呼び戻されました。"この時計はオリジナルか"と言われたので、"いえ......今日壊れてしまって"と言うと、"オリジナルじゃないとダメだ。オリジナルを手に入れないと"と言われたのです」

Rooney Mara and Bradley Cooper in Nightmare Alley

『ナイトメア・アリー』でブラッドリー・クーパーのハミルトンをつけた手首を持つルーニー・マーラ。Photo, Searchlight Pictures

 わがままからではなく、彼は時計が好きだったのだ。デル・トロは、「彼が気づいてくれるなんて 」と笑った。

 さらにシモネリ氏は、この映画で時計にこだわったのはこれだけではないと教えてくれた。デル・トロは、ケイト・ブランシェットが着用する時計には、彼女のキャラクターを反映させるために黒のストラップをつけることも希望していた。

 彼女が教えてくれた、とてもクールな情報をひとつ。撮影終了後、デル・トロはスタントン・カーライルのハミルトンを、映画の思い出の個人的コレクションとして所有することにしたのだ。

On set of Nightmare Alley

『ナイトメア・アリー』でクーパーとケイト・ブランシェットを演出するデル・トロ監督。Photo, Searchlight Pictures

 私は、時計が持つ永続的な力、特に家宝になるような力を信じている。『ナイトメア・アリー』は、スクリーンのなかでも外でも、その考えを前面に出している。もしあなたが時計好きなら(これを読んでいるからには、そうだと思う)、デル・トロ監督とスタッフによる配慮を高く評価するはずだ。

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見るべきシーン

 この映画は、カーライルと、マーラ演じるケイヒルの関係(後にリッターとの関係も)が大きな軸となっている。カーニバルの明るい光の下で恋に落ち、新しい人生を切り開くために共に走り出す2人の姿を追う。カーライルがメンタリストとしての活動を完全に合法化するのをケイヒルが手助けすることで、彼らは恋愛面でも仕事面でも真のチームとなっていく。

 映画は、彼らのカーニバル巡業から、アール・デコで飾られたクラブで富裕層の観衆を指揮している時代へとジャンプする。2人はステージに立つため楽屋にいる。最近の映画セットのなかでも最も美しく装飾された部屋のひとつに彼らが座っていると、カーライルのハミルトンが、手首とフレーム正面の化粧鏡の両方にはっきりと見える。画面上で際立っていることから、我々に注目させようとする意図は明らかだ。時計愛好家にとっても映画ファンにとっても、これは願ってもないことである。

Photo, Searchlight Pictures

 ここでもバレることなく、カーライルは本来なら秘密のトリック(メンタリズム)であるはずのものを、詐欺行為に変えてしまうのだ。彼は地元のセラピスト、リッター博士と親しくなるが、彼女は高額を支払う顧客を抱えている。リッター博士は利益の一部と引き換えに患者の情報を彼に提供する。そして、カーライルはその情報をもとに、愛する人を亡くした人たちの心の傷を癒そうとする。そんななか、彼がメアリー・スティーンバージェン演じる有力裁判官の妻、キンブル夫人の家にやってくるシーンがある。カーライルが自分の "能力 "を使って彼女の亡くなった息子と話すとき、彼のよく動く手首にハミルトンのヘイスティングスが見える。マジックとは結局のところ、気持ちをそらすための技術なのだ。

Photo, Searchlight Pictures

映画『ナイトメア・アリー』(出演:ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、ウィレム・デフォー、ルーニー・マーラ)ギレルモ・デル・トロが監督、クリストファー・ゲギーが小道具を担当、マリア・シモネリがそのアシスタントを務めている。現在、劇場にて上映中。

Lead illustration, Andy Gottschalk

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