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Hands-On ブライトリング トップタイム B01 マルティーニ レーシングを実機レビュー

これはパワフルなCal.B01を搭載し、象徴的なモータースポーツリバリーをまとったコンパクトなクッションケースのクロノグラフだ。

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2017年以降のブライトリングの復活と再興は、きわめて本気の取り組みであった。ジョージ・カーン(Georges Kern)最高経営責任者(CEO)の指揮のもと、プライベート・エクイティの支援を受ける同社は、販売実績においてスイスの時計ブランド上位10社に返り咲いた。ナビタイマー、クロノマット、スーパーオーシャンといった主力モデルを中心に据え、コレクションの再構築を図った結果である。しかし2025年に向けては、これまでより肩の力を抜いた印象のトップタイムが主役の座に躍り出て、多くの新作展開の中心を担うこととなった。今のところ、その挑戦は見事に成功しているようである。

Breitling Top Time B01 Martini Racing

 日常使いにちょうどいいサイズ感のトップタイムで、ブライトリングは新たな自社製3針ムーブメントCal.B31を初披露した。このムーブメントについては、マライカ(・クロフォード)が3月に紹介している。時刻と日付を表示するモデルは、ラウンドケースを採用した比較的クラシックな外観であったが、いたずら心のあるオレンジの秒針が、思わず笑みを誘う仕上がりとなっていた。そして現在、限定版のトップタイム B01 レーシングシリーズの展開により、このモデルは1964年に初登場した当時の姿、若い世代に向けた個性あふれるファンキーなクロノグラフへと原点回帰を果たしつつある。

 手に取って、そして手首にのせたときにまず目を引くのは、トップタイム レーシングのクッション型ケースとその控えめなサイズ感である。これはジョン・トラボルタ時代のディナープレートと揶揄されたような巨大なブライトリングのパイロットウォッチとは対極に位置するモデルだ。ケースは柔らかな角をもつスクエアシェイプで、テクスチャーのある隅へと滑らかに傾斜しており、直径はわずか38mm。ラグ幅は18mmと細く、ケース裏側から突き出すように配されているため、ラグからラグまでの全長は44.1mmに抑えられている。厚さは13.3mmあるが、このサイズ感であればほぼすべての人が無理なく着用できるだろう。

 ではいったい誰のための時計なのか? それこそが、このトップタイムの興味深いところである。これは広い市場を意識した製品づくりで知られるブライトリングが、明らかに熱心な時計愛好家たち(HODINKEEコミュニティの皆、君たちのことだ)に向けて贈る、特別な1本なのである。

Breitling Top Time B01 Martini Racing

 しかし、ジョージ・カーン氏の指揮のもと、そしてブライトリングコレクターでありブランド史家兼コンサルタントでもあるフレッド・マンドルバウム(Fred Mandelbaum、Instagramでは@watchfred)の的確な助言を受けて、グレンヘンを拠点とするブライトリングは、自らの豊かな歴史に深く向き合うようになった。1960〜70年代のファンキーなモデルを想起させるなかで、今回のトップタイム マルティーニ レーシングエディションは、スピード感と遊び心、そして若々しく華やかな時代を象徴する存在として、ブライトリング140年の物語のなかでも最も成功した1本と言えるかもしれない。

 これまでもブランドはトップタイムを、モータースポーツや自動車をテーマにしたタイムピースのプラットフォームとして活用してきた。過去にはコルベット、シェルビー・コブラ、フォード・サンダーバードといった車種や、トライアンフのバイクとのコラボレーションによる41mm径のモータースポーツ系モデルを多数展開してきた。しかしこれらは比較的ストレートなコラボやトリビュートであり、ラウンドケースにフラッグやロゴ、ブランド名を配したデザインが中心であった。

Breitling Top Time B01 Martini Racing

 トップタイム B01 レーシングは、むしろ控えめで繊細な仕上がりとなっている。バリエーションは3種展開で、いずれもラリーカーからインスピレーションを得ている。ひとつはブラックダイヤルにホワイトのダッシュボードを思わせる2レジスターインダイヤル、もうひとつはホワイトダイヤルにブルーの2レジスターのインダイヤル、そしてグリーンダイヤルのモデルである。とはいえトップタイムラインのデザインにおける転換をもっとも象徴するのは、やはりブルーインダイヤルを持つマルティーニ レーシングエディションだと言える。

 本作は1950年代後半から数々のクールなレーシングカーを彩ってきた、マルティーニ・レーシングチームの独特なリバリー(チームやスポンサーを象徴する特定の配色やグラフィックパターンのこと)を採用している。ダークブルー、レッド、ライトブルーによる配色は、ル・マンを制したポルシェやラリーカー、そして舗装路からグラベル、ダートまでを駆け抜けた伝説的なランチアのマシンに刻まれてきた。さらにはロータス、ウィリアムズ、アルファロメオ・ブラバムといったF1チームでもこのカラーリングは用いられている。モータースポーツ界におけるリバリーの知名度という点で、JPSやガルフ・オイルにこそ1歩及ばないかもしれないが、それに限りなく近い存在であることは間違いない。

Breitling Top Time B01 Martini Racing

 おそらく、ブライトリングが2レジスタークロノグラフダイヤルにマルティーニ レーシングの名をあえて記さなかったのは、それだけこのカラーリングに自信を持っていたからだろう。文字ではなく色に語らせる、その姿勢には大いに共感できる。マルティーニ レーシングの名称が登場するのは、ねじ込み式のソリッドな裏蓋だけだ。イタリアの酒類ブランドが誇るレーシングチームの華やかな歴史を熟知している人もいれば、そんな背景をまったく知らずにこの大胆でスポーティな配色に引かれる人もいるだろう。

 もちろん、この時計はブライトリングがモータースポーツと関わりを持ってきたブランドであることも思い出させてくれる。タグ・ホイヤーやロレックスほど直接的で情熱的な関係とは言えないかもしれないが、それでも各750本限定のこのエディションは、ブライトリング製のスピードタイマーが今もなおサーキットサイドにふさわしい存在であることを示している。

 搭載されるのはCOSC認定クロノメーターであるCal.B01クロノグラフムーブメント。約70時間のパワーリザーブを備え、振動数は2万8800時/振動(4Hz)。コラムホイールと垂直クラッチを採用しており、マッシュルーム型のプッシュボタンを押し込むと、しっかりとしたクリック感とともに操作が伝わってくる。クロノグラフをスタートさせると赤いクロノグラフ秒針が動き出すと同時に、“スクワークル”(四角と円の中間のような形)をしたインダイヤル上の、同じく赤色の30分積算計も作動を始める。ブルーのチャプターリングに配されたタキメータースケールは視認性が高くシンプルで、同時に今回のモデルが大きく影響を受けているヴィンテージのトップタイムを想起させるデザインでもある。

Breitling Top Time B01 Martini Racing

 アーカイブをさかのぼると、ブライトリングがトップタイムを発売したのは1960年代のこと。当時停滞していたクロノグラフの需要に対する打開策として、若年層を明確にターゲットに据えて開発されたモデルであった。当時のマーケティング責任者であったジョルジュ・カスパリ(Georges Caspari)の古いインタビューによれば、当時の若者たちはクロノグラフを“年寄り向けの時計”、つまり30歳を過ぎた人々のものと見なしていたという。カスパリは、ベビーブーム世代によって新たな若者文化が台頭していることにいち早く気づき、ある時計専門誌に対してこう語っている。彼ら(若者)は自分たちだけの言語を持ち、SFを好む。そして“とにかく早くお金を使い、短時間でできるだけ多くのものを得ようとしている”と。

 ブライトリングが打ち出した答えが、グラフィカルなダッシュボード風やラリー風のダイヤルを備えたトップタイムであり、後年にはスクエア型やクッション型のケースも加わり、これがほかモデルとの差別化要素となった。特にクッションケースのモデルではラグが非常に短く設計されていたため、男性だけでなく女性の手首にも無理なくフィットした。実際、当時のトップタイムのマーケティング資料には、女性を前面に打ち出したビジュアルが多く見られる。この時計はいわゆるユニセックスという概念が一般化する遥か以前から、男女問わず楽しめるタイムピースとして位置づけられていたのである。

 サファイアクリスタル風防と、ダブルガスケット仕様の非ねじ込み式リューズを備えるトップタイム レーシング B01は、100mの防水性能を誇る。ラリーレースに臨むにはこれで十分だと期待したいところだ。時・分針およびインデックスにはスーパールミノバが塗布されており、暗所での視認性も確保されている。3モデルすべてに共通するパンチング入りカーフストラップは、ラグ幅が18mm、バックル幅が16mmとやや細身の設計。装着感は比較的小振りでレトロな印象を受けるが、ヴィンテージウォッチのコレクターにとってはむしろ安心感のある親しみ深い仕様と言える。

Breitling Top Time B01 Martini Racing

 ブラックダイヤルモデルに合わせられたライトブラウンのレザーストラップは、まさに理想的な組み合わせといえる。グリーンダイヤルにもよくマッチしており、こちらも悪くない仕上がりだ。マルティーニ レーシングでは同系色のブルーレザーが採用されているが、もし私のようにブルーのレザーが好みでないなら、ブラックあるいはライトブラウンのカーフストラップでもきっと映えるだろう。ラバーストラップにもよく合いそうだし、スティールブレスレットがオプションで用意されれば歓迎されるに違いない。今回のモデルで意外な主役となっているのが、コンパクトなクッションケースである。一方でケース全体にはポリッシュ仕上げが多く用いられているが、角部分に施された深いヘアライン仕上げがその過度な光沢をうまく抑えており、全体の仕上げにバランスを与えている。初期のトップタイムモデルには、サテンやサンバーストサテンのケースが好んで用いられていたことを思えば、もう少しそうした要素が取り入れられていればなお良かったとも感じられる。

 トップタイム B01 レーシングおよびマルティーニ レーシングエディションは、いずれも107万8000円(税込)に設定されている。決して“お買い得”な1本ではない。ここで支払う対価は、堅実な性能で定評のあるCal.B01の搭載に加え、通常のブライトリングの枠を大きく超えた限定デザインというコンセプトそのものに対してである。

Breitling Top Time B01 Martini Racing

 この価格帯で、メインストリームのスイスブランドから登場している真にコンパクトなサイズ感を持ち、現代的な品質を備えたクロノグラフは、実のところそう多くはない。オメガ スピードマスター 38や、ゼニスのクロノマスター A385 リバイバルなどが直接的なライバルとなるだろう。スピードマスターのほうがやや手ごろで、エル・プリメロを搭載したゼニスはSSブレスレット仕様で少し価格が上がる。

 そうしたなかで、今回の限定モデルによってブライトリングは、コンパクトクロノグラフというカテゴリーにおいて新たな競合として名乗りを上げた。この小さなスピードタイマーが、あなたを若返らせてくれるわけではないかもしれない。少なくとも楽しむ準備はできているというメッセージにはなるだろう。

詳細はブライトリング公式サイトをご覧ください。

Photos by Andy Hoffman