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Interview ブルガリ ジャン-クリストフ・ババンCEOに聞くコロナ後のブランドビジネス

コロナがもたらしたことのプラスの面は、テクノロジーの急速な普及によって時間・場所に縛られずに人と会うことを可能にしたことだろう。その恩恵により、緊急事態の最中にある今の状況を、ブルガリ・グループCEOババン氏に直接聞くことができた。

新型コロナウィルスは、時計業界にも大激震をもたらした。年初から予定されていたSIHHとバーゼルワールドの開催は軒並み中止となり、新作発表の機会を逸したまま新たなシーズンを迎えた。

 生産活動もままならぬなか、それでも各社は力強く歩み続ける。まるで刻むことを止めない時計の針のように。だがそれこそがこれまで幾多の困難も乗り切ってきたスイス時計業界の真の強さなのだろう。

 一方で世界的な困難の時代、自分たちがどのように社会に貢献できるかも問い続けている。いち早く行動を起したのがブルガリだ。イタリアの医療研究機関への寄付はじめ、本国ばかりでなくスイスやイギリスでのハンドクレンジングジェルを提供。そして日本においては、都内の感染症指定医療機関にブルガリ イル・リストランテより特製お弁当が提供された。「ブルガリ お弁当プロジェクト」と名づけられた活動は、多くの医療従事者をさぞかし勇気づけたことだろう。

 グローバルかつローカルに。世界的な社会貢献を進めるブルガリ・グループCEOのジャン-クリストフ・ババン氏が、ZoomでのHODINKEE単独インタビューに応じてくれた。現状や今後の見通し、さらにブルガリにとって社会貢献の活動はどのように位置づけられるかを伺った。

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―まず新型コロナウィルスによるビジネスへの影響、そして今後のビジョンについて伺えますか?

 「今日のようにサプライチェーンがグローバルに広がっていると、シャットダウンされてしまえば原料やパーツが納品されず、生産は止まってしまいます。そうなると先行きを語るのが難しい状況です。ブティックに関しては東京やスイスでも年初から閉めていましたが、これは徐々に再開しています。

 しかしオクト フィニッシモのような時計を買おうと思ったとき、もし今買えなかったからといって諦めてしまうことはないでしょう。それに代わるユニークなものはありませんし、不急ではなく待つことはできる。時計愛好家であれば本当に欲しいものを手に入れたいと考えますからね。ですから私はそれには悲観していません。おそらく7月には市場は戻ってくるでしょう。

 いち早く再開した韓国と中国を見ると、活況になり、3月中旬以降ブルガリウォッチも力強い動きを見せています。残念なことに中国の旧正月の機会を逃したため、2ヵ月間の売り上げを失いましたが、セールスも挽回し始めており、年末までには取り戻せると思います。時計業界も2020年の成長は難しいでしょうが、2、3年で回復するのでは?」

―生産ラインはじめ現在の稼働状況はいかがでしょう。

 「アフターセールス部門のほか、開発部門では8月の新作展示会ジュネーブ・ウォッチ・デイズに向けた試作を続けています。製造部門は9月以降のデリバリーに向けてスタートする予定で、一部は既に中国と韓国向けの組み立てがヌーシャテルで始まっています。全ての工場は6月から徐々に製造を開始する予定ですが、操業は安全上の理由から75%程度の稼働になります。1日8時間ではなく、6時間を2シフトで行ない、当初は2交代制になります。これを9月末まで続け、結果をスイス当局と検討し、年末には本来のシフトに戻すことができると思います。  

 まずは人と人の距離を置き、最高レベルの安全な環境や体制を確保したうえで再開し、ブティックも同様の高いレベルの安全対策の基準を設けます。マスクと手袋の着用、消毒ジェルを用意し、お客様がマスクを持参されてなければ提供します。お客様を危険に曝すことなく、普段と同様にフレンドリーで安全な空間ショッピングを楽しんでいただきたいと思います」

大企業は利益を生むだけではなく、

良き市民であり、寛容でいて

分かち合うことが大切です。

– ブルガリ・グループCEO ジャン-クリストフ・ババン氏

―ブルガリでは企業活動においてCSRをどのように位置づけているのでしょう

 「私たちは本国イタリアだけでなく、各国で寄付や社会貢献活動を実施しています。スイスとイギリスにはハンドクレンジングジェルを供給し、日本の場合、ジェルの原料となる香水の工場がないので、弁当ボックスを考えました。私たちはそれぞれに見合った形で、グローバルなアプローチを進めています。

 社会貢献とはラグジュアリーであり、かつ人間味があるべきだと思います。ただお金を寄付するのではなく、自発的に考え、工房やキッチンに向かい、寄付するものを自分たちで作る。たとえ食材や原料にお金を使っても、それは政府に寄付金を渡すのとは意味が異なります。ブルガリで働く人たちの本当の誠意が込められ、それが世界をつなぐ寛容であり、聡明さだと思います。

 ブルガリはローマを代表する名門として、これまでも地元での文化支援活動や遺跡の修復作業を続けてきました。それも社会への奉仕と貢献こそがラグジュアリーブランドにとっての成功だと信じているからです。私たちのジュエリーや時計、アクセサリーを愛用していただいている皆さんへの感謝であり、その一部を社会に還元する使命も担っているのです。そして今回のような悲劇に対しても、必要とされるジェルや弁当のような救済は、自分たちのもつ技術や設備、創造性を注いだブルガリらしさだと思います。

 さらにコロナ禍で開催が遅れてしまったのですが、9月にはトルロニア大理石の美術展を予定しています。紀元前300年から紀元後300年の6世紀に渡る、ローマ帝国の皇帝が所有した900点の大理石の宝物を展示し、これはローマを皮切りに3年間で世界を巡回展示予定です。

 大企業は利益を生むだけではなく、良き市民であり、寛容でいて分かち合うことが大切です。ブルガリはそうした社会性をもち、豊かな創造性や品格を備えていることを認識いただいきたいと思います。ただ有名というだけでなく、実際に活動すること。優れた会社は優秀な人たちによって作られています。そして時計もまた、そんな人たちが背後にいてこそ作られるのです」

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―既にいくつかの新作時計も発表されていますが、今年の注目作は? 

 「私たちは常にゴールを目指して挑戦し、現実的な目標を掲げて、充実した新作を揃えています。PGのオクト フィニッシモ ミニッツリピーターなど、いずれも男性にとって魅力的でユニークなコレクションとなるでしょう。

 もうひとつは私たちのアイコンである「ブルガリ・ブルガリ シティーズ限定モデル TOKYO」です。テーマにした9つの都市にはもちろん東京も選びました。オクトとは異なるターゲットに向けた、カジュアルな週末のシーンにふさわしいスタイルは、クールでいてトレンディです。手にすることで都市とのつながりをより強く感じられるでしょう。今年のブルガリ・ウォッチを代表するモデルです。

 そして今年の8月に開催する「ジュネーブ・ウォッチ・デイズ」ではぜひ新しいコレクションを発見していただきたいですね。じつはメンズで全く新しいモデルを発表します。オクトは2012年にリローンチしましたが、それ以来の、ブルガリ・ブルガリやオクトに次ぐ第3の重要なコレクションを想定しています。

 本当は開催まで明かしてはいけないのですが、日本だけにちょっとだけ教えましょう。デザインはオクトやブルガリ・ブルガリとは全く違い、素材や価格帯も異なるものです。若者をターゲットに、都会的でエッジィでクール。あとはジュネーブでの発表を楽しみにしていてくださいね」

 例年であればスイスで直接会っていたババン氏との再会は、Zoomという形で実現した。イタリアで2ヵ月過ごしているという本人は変わりなくアクティブで、この事態もポジティブに受け入れているようだった。新しい生活様式についてこうも語った。

 「以前は離れていた者同士、時間をかけて移動しないと会うことができませんでしたが、新しいテクノロジーでとても簡単にコンタクトできるようになりました。今この瞬間も別のところにいるのに、まるで目の前で話しているかのようです。人々はまず働き方を変え、在宅勤務を取り入れるでしょう。それによって働く効率が上がるばかりか、個人の生活を充実させ、さらに公の時間とエネルギーも無駄にしません。そして人生の質の向上にもつながるのです。重要なのはライフスタイルバランスを保つこと。移動の負担を減らし、より多くの時間を家族や友人と過ごすことにかけられます。生活をより充実させる。それがポストコロナの日常だと思います。テクノロジーと共に新しい働き方が加速し、仕事とプライベートの領域がよりよく調和していくのではないでしょうか」

 自分らしい生き方を見つめ直し、自分だけの時間と向き合う。そのとき、腕時計への眼差しも変わっていくことだろう。それにふさわしい価値を与えられるかどうか。ババン氏の言葉からはそんな強い使命感が伝わってきた。

写真:セドリック・ディラドリアン 文:柴田 充