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J12といえば、言わずと知れたシャネルを代表するウォッチコレクションの1つである。初出は2000年。今年はJ12が誕生してから20周年というメモリアルイヤーであり、そんな節目に発表されたのが新作の1つ、J12 パラドックスだ。今回、J12 パラドックスの実機をじっくりと見ることができたため、そのレビューをお届けしたい。USチーム含め、我々HODINKEE JAPANでも、実は本作に関するIntroducing記事を掲載していなかったため、まずは本作の特徴から紹介しよう。
見ての通り、J12 パラドックスはホワイトとブラックを組み合わせたバイカラーとなっている。その境界は極めてキレイで、単に色を塗り分けているだけのように思われたが、何と2色のセラミックケースを組み合わせるという斬新なスタイルをもつ。
さらにその製法も極めてユニークだ。それぞれの色のセラミックケースをそれぞれ切断して組み合わせているのである。初めから形状が異なるホワイトとブラックのセラミックケースを用意して合わせればよさそうなものだが、セラミックは加熱すると収縮する(収縮するがゆえに原料の粒子が密着して硬くなる)。
だからこそ、2つのセラミックケースを切断して組み合わせるという方法が取られたと考えられるが、サイズは決まっているため、ケースとして使うためには余計な切粉(削りクズ)を出さないように薄い刃でケースの切断を成功させなければならない。ただし、切断する素材は非常に硬いセラミックだ。これを破損することなくカットする工程が非常に困難であることは容易に想像ができる。
このように、本作はカットした2つのセラミックケースを組み合わせ、ケースバックにサファイアクリスタルをセットしてネジで固定している。さすがに通常のJ12と同じ防水性を確保することはできなかったのだろう。他のJ12は200m防水が多いが、本作では50m防水だ。
一方、ムーブメントは他のJ12同様、Cal.12.1を搭載している。このムーブメントについてはさまざまな媒体でその魅力が紹介されているが、ご存知ないという方のためにも少し触れておきたい。
Cal.12.1は、2019年にJ12がリニューアルした際に導入された、新しい自動巻きムーブメントである。手掛けるのはケニッシ社。ロレックスの兄弟会社であるチューダーが投資家と共に設立したムーブメント製造会社で、ケニッシにはシャネルも資本参加している。
ケニッシが手掛けるムーブメントは、今、時計業界を賑わせる存在だ。シャネル、チューダーはもちろんのこと、ブライトリングやノルケインなど名だたるブランドがケニッシ製ムーブメントを採用しているということもあるが、それも一級品に相応しいスペックを実現しているからである。
主力はスタンダードな3針自動巻き。約70時間という長いパワーリザーブに加えて、両持ちテンプ受けのフリースプラング方式を採用する高精度かつ堅牢な設計をもっており、シャネルのCal.12.1も同様の特徴を備えている。
さて、本題に入りたい。J12 パラドックスのレビューである。
ケース右側だけがブラックというスタイルは本当にユニークだ。正面からの見た目もそうだが、時計をサイドから見た場合はさらに面白い。ケース3時側、そして9時側からの見た目はそれぞれ、ブラックとホワイトのJ12そのものだ。
モデル名になっているパラドックスは主に逆説、矛盾と訳され、世間一般では正しいと考えられていることに対して定説に逆らうといった意味で解釈されることが多いが、直観的には受け入れがたいが、別に矛盾はしていないという意味合いもある。このモデル名は言い得て妙だ。前述の通り、ブラックのJ12であり、ホワイトのJ12でもあるのだから、パラドックスという表現はぴったりである。
一方、驚かされたのは、その自然過ぎるバイカラーだ。カットした2つのセラミックケースを組み合わせているのだから、繋ぎ目がはっきり分かるのだろうと想像していたのだが、ダイヤル側から見る限り、初めからバイカラーで成形された1つの時計のように繋ぎ目が全く分からなかった。それもそのはず。カットされているのは実はケースのみ。ベゼルやダイヤルはそれぞれ1つのパーツとして成形されていて、バイカラーの表現については、 ベゼルはまずブラックを施した後、ホワイトを重ね、逆にダイヤルはホワイトを施し、ブラックを重ねることで仕上げられている。
この斬新なスタイルを除くと、基本的な作りは通常のJ12と大きくは変わらない。
筆者にとってシャネルは女性向けのブランドというイメージが強かったため、それほど興味を引かれることはなかったのだが、食わず嫌いここに極まれりである。
実は筆者、ブラックのJ12を着けている。といっても、自分で購入したものではなく筆者の妻の時計で、この2カ月ほど時計を借りて身に着けているのだが、今回のレビューでは筆者がJ12を使ってみて得られた感想も付け加えたい。
まず感心したのは、シャネルが特許を取得している3重の折りたたみ式バックルだ。これが実によくできている。
作りが堅牢な時計の中には、爪が折れてしまうのではないかと思ってしまうほど固いバックルがあるが、J12ではそうした心配は皆無。バネを内蔵したシンプルなフォールディングバックルで、バネはやや硬いが、ブレスのコマを摘んで引き上げるだけで簡単に着脱が可能。これなら爪の長い女性でも簡単に扱える。こうした細やかな配慮はジュエラーとしてのシャネルの面目躍如だろう。
セラミックゆえ重量感はそれなりにあるが、ケースサイズは38mm、厚みは12.6mmと大振りではなく、バックルのプレートやコマが腕に沿うように湾曲しているので腕なじみは非常に良好だ。筆者の腕はそれほど細いわけではないが、腕に乗せたときの存在感もしっかりとあり、不思議と男性の腕にも女性の腕にも違和感なく収まる。
また、自動巻き時計の動力ゼンマイをリューズで手巻きすることはあまりよろしくはないが、小気味よいカリカリとした感触(筆者の持つ自動巻き時計の中には金属が擦れるような感触があったり、妙な重さがあったりするものがあるが、この時計にはそういった不快な感触は一切感じられない)は好ましい。さらに約70時間のパワーリザーブ、そしてCOSC認定クロノメーターのスペックは伊達ではなく、精度も申し分ない。
J12は非常に魅力的な時計であるが、問題もある。それがブラックかホワイト、どちらのJ12にするべきかということだ。筆者の妻がJ12を購入した際も、悩ませたのはこの点だった。(ちなみに妻の場合、購入当時はまだ店頭には潤沢に並んではおらず、ブラックならすぐに在庫を取り寄せることができると言われたことに縁を感じたようで、そのまま購入した)
J12はシャネルのアイコンウォッチとして2000年にブラックが、2003年にホワイトが登場した。しかしこれ以降、2色のうちどちらを選ぶべきかという問題が多くの人を悩ませることになった。コレクション誕生から20年を経て登場した両方の魅力を備えるJ12 パラドックスは、ついにこの問題に対する最良の回答となるかもしれない。
基本情報
ブランド: シャネル(CHANEL)
モデル名: J12 パラドックス(J12 PARADOXE)
型番: H6515
直径: 38mm
厚さ: 12.6mm
ケース素材: 高耐性ホワイト&ブラックセラミック&ステンレススティール
文字盤色: ホワイト&ブラックラッカー
インデックス: アラビア数字アプライドセラミック
夜光: あり。時・分・秒針、フリンジ部のスクエアドットインデックス
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: 高耐性ホワイトセラミック&ステンレススティールブレスレット、3重折りたたみ式バックル
ムーブメント情報
キャリバー: Cal. 12.1
機能: 時・分・秒表示、デイト表示(カレンダークイックチェンジ機能)、秒針停止機能
パワーリザーブ: 70時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 28
クロノメーター: あり。COSC(スイス公認クロノメーター検定協会)認定
価格・発売時期
価格: 86万5000円(税別)
販売時期: 販売中
限定: 通常ライン
詳細は、シャネル公式サイトへ。
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