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本稿は2016年2月に執筆された本国版の翻訳です。
この2モデルは12カ月違いで発表され、どちらも長方形のリバーシブルケースを持ち、ともにスペシャリテ・オルロジェル社(Spécialités Horlogères SA)が製造した。しかしレベルソとタンク バスキュラントには異なる運命が待っていた。ひとつは数百のモデルを生み出し、2016年初めに85周年を迎えた。もう一方は、より大きなコレクションを構成する数百のうちのひとつであり、2度と見ることはないだろう。だが、この2モデルの成功を比較するのは間違っている。その理由を説明するために、1990年代のバスキュラントを手に入れた。
1.タンク バスキュラントはコレクション化の予定がなかった
特許を購入するのもひとつの手だが、それを所有するのとはまったく別のことである。ジャガー・ルクルトがいなければバスキュラントが存在しなかったことは間違いないが、カルティエの“象徴的”なモデルは、レベルソよりも少し前のモデルであり、独自のデザインからインスパイアされている。第1次世界大戦の真っ只中に生まれ、最も恐ろしい兵器のひとつにちなんで命名されたタンクは、カルティエ初期の腕時計のひとつだ。ルイ・カルティエがデザインしたこの正方形と長方形の腕時計は、まだラウンドの懐中時計が主流だった時代に、デザインにおいてパイオニア的存在であった。タンクがヒットし、1933年にカルティエがタンク バスキュラントを発表するまで、オリジナルデザインから大きく逸脱することなく、コレクションは急速に拡大していった。折りたたみ式のケースは、タンクコレクションのなかで最も興味深いモデルのひとつだが、決してそれまでのタンクを凌駕するものではなかった。
2.反転する仕組みが完全に異なる
レベルソはケースを水平軸に、左から右へと運ぶ単一の軌道であるのに対し、バスキュラントはスイングするフレームのなかで上下逆さまに反転する。これはまったく新しいソリューションとケースの構築を必要とするものであり、過剰な設計になりがちなものでもある。その代わりに、スペシャリテ・オルロジェル社(後にジャガー・ルクルトに統合)がシンプルなシステムを設計し、スプリングボールベアリングで固定されたフレームに時計を取り付け、上から下へ回転できるようにした。操作はレベルソほど簡単ではないものの、メカニズムをより確実に保護することができる。もちろんフレームが追加されたことでデザインに8つのエッジが加わったが、ここにカルティエの洗練された豪奢なセンスが表れている。すべてに面取りとポリッシュ仕上げを施し、ケース内側にはペルラージュ仕上げが施されているのだ。
3.より汎用性が高い
バスキュラントのケースは360°回転するので、時計を平らな場所に置いても完全に直立する。これは時計を身につける手間を省いて、携帯したい場合に非常に便利だ。この場合はバスキュラントをおしゃれな置時計へと変身させることができる。
4.ムーブメントの供給元は同じだが、おそらくこちらのほうが優れている
バスキュラントに搭載されているムーブメントは、レベルソに搭載されているムーブメントよりも素晴らしいことは間違いない。読んで字のごとくだ。もちろんフレデリック・ピゲから供給されている。手巻きCal.6.10(カルティエはCal.610と呼んでいる)は、小型化と仕上げの優れた例である。厚さはわずか2.1mmで、90年近く前に作られたにもかかわらず、現在の超薄型ムーブメントに匹敵する。時計を開けて確認する必要があるものの、ムーブメントにはフレデリック・ピゲのキャリバーを飾る典型的なコート・ド・ジュネーブ装飾の代わりにエンボス装飾が施され、丁寧に仕上げられている。
5.全体的なデザインも悪くない
バスキュラントが誕生した当時、カルティエはまだ本格的なマニュファクチュールではなかったかもしれないが、パリのジュエラーが当時の時計業界に与えたものは、デザイン面における画期的なビジョンだった。ルイ・カルティエはスイスよりも先にレクタンギュラーウォッチをクールなものにし、メゾンはアイコニックなタンクを改良し続けた。リューズが12時位置にあるおかげで完璧に左右対称となったバスキュラントは、控えめなエレガンスを教えてくれる。また他の人たちがムーブメントに注目するなか、カルティエが全神経を注いだのは、7時位置のローマ数字のなかに隠された彼らの秘密のサインなど、驚くべきディテールを備えた見事なシルバーギヨシェ文字盤だった。
最終的な意見
状況が好転したとき、時計メーカーはコレクションが生み出されるようなモデルを作り上げる。1932年に発表されたレベルソは一時的にそうだったが、バスキュラントがリリースされる頃には当初のポジジョンに戻っていたに違いない。おそらく後者は、フランスのメゾンがもっと熱心にプッシュしていれば、より大きな成功を収めていただろう。しかしカルティエが完全に統合されたマニュファクチュールとして最近復活するまでは、困難な時代がカルティエに試練を与えていた。自社製ムーブメントを搭載した新型タンク バスキュラントが登場する日はそう遠くないかもしれない。
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