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Hands-On Only Watch 2023にエントリーした12本のユニークピース

オークションで最も刺激的だった作品を間近で見ることができた。

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オークションの取材は慌ただしい。カバーしなければならない多くのもの、見過ごす危険性がある逸品も常にあり、そしてそれをすべて把握する時間はほとんどないからだ。Only Watchだとそのプレッシャーは増すばかりである。2度とお目にかかれないようなユニークピースに囲まれるだけでなく、2年に1度しか開催されないものを取材しているのだ。これは結局のところ、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの研究に役立つチャリティーでもある。

 さらに時間の制約もある。ニューヨークのクリスティーズで行われたプレビューでは、62ロットあるコレクションをじっくり見て、写真を撮り、感想を述べるのに1時間くらいしかなかった。つまり美しく魅力的な時計の多くをカバーできなかったのだ。実際ベル&ロスチャペックグロネーフェルドウブロジェイコブが手掛けたレインボーウォッチについては、1本のシリーズとして組めたはずだ。またコンスタンチン・チャイキンフレデリック・コンスタントといった興味深いコンプリケーションもあったが、それを深く掘り下げなかった自分を責めている。特にプレビューに参加する機会があるのなら、カタログにじっくりと目を通しておいたほうがいいだろう。

 前置きが長くなったが、“Only Watch”の欲求を刺激するために、どんどん時計を紹介していこう。


金メダルのチューダー
チューダー ビッグブロック Only Watchエディション

月並みかもしれないが、Only Watchのプレビューに到着したとき私はチューダーに直行した。これは私が初めて心から気に入った“ビッグブロック”クロノグラフかもしれない。それは間違いなく、私のお気に入りのひとつである金無垢のロレックス Ref.6263 デイトナから多くのインスピレーションを得ているからだ。結局、このアイデア(ビッグブロック)を私に売り込むのに必要だったのは大量のゴールドだけだったのだ。

チューダー ビッグブロック Only Watchエディションのダイヤル
チューダー ビッグブロック Only Watchエディションのケースサイド
チューダー ビッグブロック Only Watchエディションのクラスプ

 そしてこれには、本当にたくさんのゴールドが使われている。このチューダー プリンス クロノグラフ ワンは、かなり大振りな42mm径の18Kソリッドイエローゴールドケースを備えている(残念ながら厚さは測れなかった)。時計は信じられないほど重いが(おそらく私が手にした時計のなかで最も重い)、18KYGブレスレットのしっかりとしたリンクのおかげで、手にしたときにバランスが取れているように感じた。おまけに18KYGでできたT-fitクラスプも付いてくる。

チューダー ビッグブロック Only Watchエディションのソリッドバック

残念ながらムーブメントを鑑賞することはできない。

 これは初となる18KYG製の“ビッグブロック”というだけではない。ロレックスはこのチャリティーに参加していないので、チューダーはOnly Watchにおける唯一の“ザ・クラウン”代表だ。ロレックス(ひいてはチューダー)はプロトタイプを市場に出さなかったが、ここではあえてチューダーが全面的に開発したまったく新しいマニュファクチュールクロノグラフキャリバーのプロトタイプを搭載した時計を発表している。

 ブランド初の自社製クロノグラフムーブメントであり、この時計に縦型ダイヤルのレイアウトと3時位置の日付表示を与えていたオリジナルのValjoux 7750はもう存在しないが、ここで回帰したことには意味があると思っている。この新ムーブメントでは、コラムホイール式クロノグラフが採用されている。チューダーであれロレックスであれ、一般的にはお堅いハンス・ウィルスドルフ財団がプロトタイプを世に送り出すというのは大胆な行動であるが、それはそれほど重要ではない。それをファン目線で、ノスタルジアを誘うパッケージにしてくれたことがまさに思いがけないプレゼントなのだ。

チューダー ビッグブロック Only Watchエディションのダイヤル

 ただし、このエスティメート範囲はかなりおかしい。入札を誘うのに、なにも安い見積もりは必要ない。3万5000スイスフランという“高い”エスティメートの最後にもうひとつゼロを加えれば、この素晴らしい時計の理想の価格に近づくことになるだろう。

チューダー プリンス クロノグラフ ワン。Lot58。エスティメート: 2万5000~3万5000スイスフラン(日本円で約410万円~570万円)

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材料科学
オーデマ ピゲ ロイヤル オーク フライング トゥールビヨン オープンワーク Only Watch エディション

“マテリアル”ウォッチと銘打ったロットのなかに、真に心を打たれたものが3つあった。ひとつ目は白いセラミック製のオーデマ ピゲ ロイヤル オーク フライング トゥールビヨン オープンワークであり、 “Only Watch”のなかでも“大胆な”ロットのひとつかもしれない。しかし、それはオーデマ ピゲが真にセラミックを得意としているからにすぎない。このセラミックピースはクライアントたちのお気に入りなので、入札は間違いなく激しいものになるだろう。RO(ロイヤル オーク)スケルトン トゥールビヨンの量産モデルに搭載されているムーブメント Cal.2972は、ブリッジとプレートにブルーチタンを採用するなど、思い切った組み合わせだ。しかし、ホワイトセラミックのロイヤル オークを買うなら、ほかに何を望むというのだろうか?

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク フライング トゥールビヨン オープンワーク Only Watch エディションのダイヤル
オーデマ ピゲ ロイヤル オーク フライング トゥールビヨン オープンワーク Only Watch エディションに搭載されたCal.2972

 オーデマ ピゲがセラミックと切っても切れない関係にあるように、F.P.ジュルヌとタンタルほど、ケース素材と密接に結びついているブランドはいない。クロノメーター ブルーはここ数年で最も人気のある独立系腕時計のひとつとなったが、ジュルヌはクロノメーター ブルー フルティフとその大胆なフルタンタル製ケース&ブレスレットで、それをさらに進化させた。まず、誰もがジュルヌのラインスポーツコレクションを愛しているわけではない。次に、同ケース素材は非常に扱いにくいため、私の知る限りではここまでやり抜いたブランドはほかにいない(1990年代、ツートーンケースにタンタルを使用したオーデマ ピゲでさえも)。その結果、これほど密度の高い素材にしては仕上がりは美しく、かつ予想以上に軽量になった。

F.P.ジュルヌ クロノメーター ブルー フルティフ
F.P.ジュルヌ クロノメーター ブルー フルティフ
F.P.ジュルヌ クロノメーター ブルー フルティフに搭載されたCal.1522
F.P.ジュルヌ クロノメーター ブルー フルティフのダイヤル

 またジュルヌがジュルヌである以上、すべてのOnly Watchで新しいムーブメントを発表するという、ブランドの伝統を継承していることも忘れてはならない。18Kローズゴールド製のCal.1522は、パワーリザーブインジケーターを12時位置、ムーンフェイズを6時位置にそれぞれ裏側に配して、ツインバレルムーブメントの対称性を保つという驚くべき出来栄えだ。しかし最大のサプライズは、ジュルヌが初めてセンターセコンドのムーブメントを手がけたことだ。明るいオレンジの針が、青いエナメルダイヤルの上に浮かんでいるのも見逃せない。その文字盤はフルティフ(Furtif)という名が示すように、読むのに手こずるほど不鮮明なものだったが、正確に写真を撮るのが難しいだけで予想以上に判読はしやすかった。

ブルガリ オクト フィニッシモ トゥールビヨン マーブル

 しかし、最も既成概念にとらわれない素材で実験を行ったのはブルガリのオクト フィニッシモ トゥールビヨン マーブルに違いない。5月頃に、ブルガリが“非常にイタリアン”な素材を使って、その伝統に寄り添うことを計画しているという噂を聞いていたが、これほどインパクトのあるものになるとは思ってもみなかった。

ブルガリ オクト フィニッシモ トゥールビヨン マーブルのダイヤル
ブルガリ オクト フィニッシモ トゥールビヨン マーブルのブレスレット

 この時計は驚くほど軽い。いくらヴェルデアルピの大理石を時計に使用していたとしても、それなりの重さが加わるだろうと思っていた。ただし、40mm径×6.9mm厚のケースフレームワークはDLC処理されたチタンで作られており、大理石はチタンの上にわずか0.5mmの被膜があるだけだった(文字盤の厚さは0.6mm)。その結果、視覚と触覚の断絶を処理するのに苦労するほど、軽量な時計が出来上がったのだ。この時計の取り扱いには細心の注意を払うようにと、私の頭のなかで何かが起きた。あるいは、クリスティーズのチームが私の耳元で囁いたかもしれない。まあ、おそらく両方だろう。

 大理石の品質を保ちながら、800時間もの時間を費やして完成させたと彼らは話すが、私はいまだに理解できない。この時計はデイリーユースに最適な時計とは言えないが、16世紀の大理石の胸像の隣に台座として置けば、素晴らしい芸術品の出来上がりだ。

  1. オーデマ ピゲ ロイヤル オーク フライング トゥールビヨン オープンワーク Only Watch エディション。Lot6。エスティメート: 30万~35万スイスフラン(日本円で約4875万円~5690万円)
  2. F.P.ジュルヌ クロノメーター ブルー フルティフ。Lot21。エスティメート: 20万~40万スイスフラン(日本円で約3250万円~6500万円)
  3. ブルガリ オクト フィニッシモ トゥールビヨン マーブル。Lot15。エスティメート: 15万~25万スイスフラン(日本円で約2440万円~4065万円)
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風変わりな3本のチャイムウォッチ

私にとって素晴らしいチャイムウォッチほど魅力的に映るものはない。リピーターとソヌリは私のお気に入りのコンプリケーションであり、今回のOnly Watchにも素晴らしい例がいくつかあった。これらはまた、Only Watchの“美を追求して善をなす”というミッションの好例でもある。

ビバーウォッチ カタルシス
ビバーウォッチ カタルシスの裏蓋
ビバーウォッチ カタルシスのケースサイド

 ビバーウォッチ カリヨン トゥールビヨンは、今年最も物議を醸した発表のひとつだったかもしれない。業界のレジェンドの名を冠したものとはいえ、ブランドの最初の1本目としては高額であった。しかし今年のチャリティーオークションに出品されたユニークな2本目の時計には、首をかしげる人もいた。彼らの新しいチタンケースの時計は“カタルシス”と呼ばれ、同じキャリバーをベースにしている。しかし不思議なことに、ダイヤルからは時刻を知ることはできない。目的は時間に支配されるのではなく、着用者が時間を自由に操れる時計を作ることなのだ。

ビバーウォッチ カタルシス

 実際に手にしてみると、このリピーターは美しい音色を持っているが、その美しさの多くはユニークなダイヤルにある。下部にはサファイアでできた海が波を打っているかのようなデザインがあり、その上部にはメテオライト、シルバーオブシディアン(銀黒曜石)、オパールでできた星空を表す夕焼けがある。ムーブメントを裏返すと時針が現れ、おおよその時刻を知ることができるが、何よりもこれはアート作品であり、ジェムセッティングと異なる素材が幻想的に融合しているのだ。

 ジェラルド・ジェンタが独立したブランドとして復活したことに興奮しているだろうか? 私たちが大好きな、フレンドリーなネズミの言葉を借りよう。“やったね!”。

ジェラルド・ジェンタ Only Watch 2023

 今年はジェンタファンやディズニーファンにとって、素晴らしい年になりそうだ。ディズニー100周年というだけでなく、ジェラルド・ジェンタの名を冠した最初の腕時計が発売されてから50周年を迎える。ジェンタの変わったデザイン(八角形ケースのパーペチュアルカレンダーなど)に対する私の愛情が高まっているにもかかわらず、ミッキーマウスほど象徴的なものはない。ジェラルド・ジェンタはディズニーと協力し、ミッキーについての物語と、彼がこの記念すべき時計に登場することになった経緯を語る素晴らしい仕事をしてくれた。詳しい経緯は、ぜひ彼らのウェブサイトをチェックして欲しい。ミニッツリピータとジャンビングアワー、レトログラード分針を組み合わせた、驚異的な時計製造技術と、多くの人に愛されるジェンタのミッキーデザインが融合した楽しい時計であるし、さらにエナメルの細工も素晴らしいものだ。

ジェラルド・ジェンタ Only Watch 2023に搭載されたCal.GG-001
ジェラルド・ジェンタ Only Watch 2023のダイヤルに施されたミッキー

 ミッキーマウス以上に気まぐれで幸せな時間を脅かすものがあるとすれば、それはH.モーザーとMB&Fかもしれない。私は彼らのストリームライナー・パンダモニウムを取材済みなので、技術的なことはそちらでチェックして欲しい。しかし実際に見てみると、MB&Fのドーム型のデザインがストリームライナーのケースにどれだけフィットしているかよくわかり、とても気に入った。彼らは一緒にいる運命にあるようだ。かわいらしい小さな相棒のパンダは見ていて楽しいが、正直言って自分の好みではないにしても、ほかのデザインに目を奪われる。最後のふたつの時計のチャイムを聴くことは叶わなかったが、それでも彼らは私の顔に笑みを浮かべてくれた。

H.モーザー×MB&F ストリームライナー・パンダモニウム
H.モーザー×MB&F ストリームライナー・パンダモニウムに搭載されたCal.HMC 906
H.モーザー×MB&F ストリームライナー・パンダモニウムに施されたDJをするパンダ
H.モーザー×MB&F ストリームライナー・パンダモニウム
  1. ビバーウォッチ カタルシス。Lot10。エスティメート: 50万~70万スイスフラン(日本円で約8125万円~1億1375万円)
  2. ジェラルド・ジェンタ Only Watch 2023。Lot25。エスティメート: 35万~50万スイスフラン(日本円で約5690万円~8125万円)
  3. H.モーザー×MB&F ストリームライナー・パンダモニウム。Lot28。エスティメート: 30万~40万スイスフラン(日本円で約4875万円~6500万円)
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独立系の世界

ここまで来て、やっとレジェップ・レジェピの話にたどり着いた。ジャーナリズムの世界ではこれを“最も重要な部分を後回しにする(burying the lede)”と呼んでいる。そう、これは確かにオークション全体のトップロットのひとつになると思うのだ。

レジェップ・レジェピ クロノメーター アンチマグネティック
レジェップ・レジェピ クロノメーター アンチマグネティックのダイヤル
レジェップ・レジェピ クロノメーター アンチマグネティックの裏蓋

 レジェピはOnly Watch 2023の納品が遅れていたひとりで、彼とパテック、リシャール・ミルだけがエントリーアナウンスまでに時計を用意していなかった。彼はまたオプションとして、ねじ込み式ケースバックを開け閉めできる時計という変わった道を選択した。自分のデザインコードに大きなプレッシャーをかけるのであれば、そのコードは捨て去ったほうがいい。

 これはレジェピ独自の方法により、初期(1950年代に流行した)の“サイエンティフィック”な文字盤を想起させる。写真に収めるのは難しかったが、タフさとエレガンスのバランスがちょうど取れていると思う。ケースもそれにならい、偉大なケースメーカーであるジャン=ピエール・ハグマン(Jean-Pierre Hagmann)がステンレススティールで製作した希少なケースのひとつを使用している。ムーブメントリング、裏蓋、ダイヤルプレートが一体となって、ムーブメントを磁気から守るファラデーケージ(外部の電界を遮蔽する容器)を形成する。

レジェップ・レジェピ クロノメーター アンチマグネティックのラグ

 プレビューでいちばん残念だったのは、裏蓋を外してなかのムーブメントを拝めなかったことだ。詳細と写真については、オリジナルのIntroducing記事を参照して欲しい。この新しいムーブメントは、いつかCC(クロノメーター コンテンポラン)IIIの購入リストに載ることができるかもしれないという希望を与えてくれる。

 またフェルディナント・ベルトゥーからエントリーされた、クロノメーター FB3 Only Watchエディションも、初めて実物を見るためにチェックしなければならなかった。私が理解している、今年のGPHGにノミネートされたFB 3SPCとの違いは、パティーナされた42.3mmのラウンドブロンズケースか否かというだけ。このブロンズは時の経過を表すとともに、ブランド名の由来にもなった創業者が時計職人になってから270周年という、ブランドの人生における記念日を祝うという意味が込められている。

フェルディナント・ベルトゥー クロノメーター FB3 Only Watch
フェルディナント・ベルトゥー クロノメーター FB3 Only Watchのダイヤル
フェルディナント・ベルトゥー クロノメーター FB3 Only Watchのケースサイド

 この時計がGPHGの注目を集めたのは、円筒形のヒゲゼンマイ(提灯ヒゲゼンマイ)を備えた最初のCOSC認定ムーブメントを搭載していたからだ。このムーブメントを完成させるには、何年にも及ぶテストが必要だった。しかしフェルディナント・ベルトゥー自身が提灯ヒゲゼンマイの研究に取り組み、マリンクロノメーターの開発で知られていたため、これはある意味ではレガシーを完成させたことにもなる。

フェルディナント・ベルトゥー クロノメーター FB3 Only Watchの裏蓋

 最後に、アトリエ・ド・クロノメトリーからエントリーされたAdC30 Only Watchである。繰り返しになるが、私がこの時計を見るのに時間を割いたのは、まだAdCを実際に見たことがなかったからだ。あまり言うことはないが、楽しいデザインとしっかりした仕上げが印象的な時計だったとは伝えておこう。どれだけ気に入ったのかは画面の前のあなたの判断に任せるので、コメントを寄せて欲しい。

アトリエ・ド・クロノメトリー AdC30 Only Watch
アトリエ・ド・クロノメトリー AdC30 Only Watchのダイヤル
アトリエ・ド・クロノメトリー AdC30 Only Watchに搭載されたCal.M284
  1. レジェップ・レジェピ クロノメーター アンチマグネティック。Lot50。エスティメート: 10万~15万スイスフラン(日本円で約1625万円~2440万円)
  2. フェルディナント・ベルトゥー クロノメーター FB3 Only Watch。Lot22。エスティメート: 16万~18万スイスフラン(日本円で約2600万円~2925万円)
  3. アトリエ・ド・クロノメトリー AdC30 Only Watch。Lot5。エスティメート: 5万~7万スイスフラン(日本円で約815万円~1140万円)

リーズナブルなブランドの時代が大きく動く
ファーラン・マリ セキュラーパーペチュアルカレンダー

私が見た時計の紹介はほとんど終わったが、バルチックとファーラン・マリのエントリーを、数枚の写真なしで見過ごすわけにはいかないだろう。同僚のトニー・トライナが、ファーラン・マリ セキュラーパーペチュアルカレンダーで時計づくりの奥深さをカバーした素晴らしい記事をアップしている。複雑なムーブメントを搭載しているにもかかわらず、その薄さはわずか11.3mmしかない。400年周期のうるう年、セキュラーカレンダー、そしてパーペチュアルカレンダーを備えており、それをひとつの装置で実行しているというのは素晴らしいことである。また今年の初めに、同ブランドのシンプルな時刻表示のみの時計をレビューしたときには、まったく予想もしていなかった。

ファーラン・マリ セキュラーパーペチュアルカレンダーに搭載されたCal.G100

 同様に驚くべきは、バルチックもまたパーペチュアルカレンダーを製造(しかもある点においては酷似している)したという事実である。さらに印象的だったのは、それが超薄型のマイクロロータームーブメントのヴォーシェ(Vaucher)5401という100%新開発のパーペチュアルカレンダーという斬新さだった。

 このふたつの若いブランドは、時計に興味を持ち始めたばかりの一般消費者にも手の届く価格帯でヴィンテージインスパイアの腕時計をつくり、その名を知られるようになった。ではそれは何が影響しているだろう。おそらくいくつかの要因が作用している。知識へのアクセスが拡大する一方で、複雑な時計製造の技術的コストは年々下がっている。これにより、若いブランドはこれまで挑戦できなかったことに挑戦できるようになった。またこのふたつのブランドが、“ヴィンテージにインスパイアされた”、“ヴィンテージに沿った”プロダクトに満足しているわけではないことも示している。これは朗報だ。

バルチック プルミエ カンティエーム パーペチュアルのダイヤル
バルチック プルミエ カンティエーム パーペチュアルに搭載されたCal.Vaucher 5401

 バルチックのダイヤルは確かにオーデマ ピゲ ロイヤル オークの“タスカンダイヤル”を持つパーペチュアルカレンダーを少し思い出させる。そこで彼らが文字盤を使って独自の表現に挑戦するのを期待している。どちらにせよ、両者とも2万から3万スイスフランというエスティメートが出ているのはとても興味深い。量産される時計としては理解できる。けどそれがユニークピースとして、どれくらいの高さまで値が張るか正直わからない。結果が楽しみだ。

  1. ファーラン・マリ セキュラーパーペチュアルカレンダー。Lot24。エスティメート: 2万~3万スイスフラン(日本円で約325万円~490万円)
  2. バルチック プルミエ カンティエーム パーペチュアル。Lot7。エスティメート: 2万~3万スイスフラン(日本円で約325万円~490万円)

見られなかったもの

プレビューで写真を撮ったり手に取ったりする時間がなかった時計に加えて、未だ欠けていた3つのロットも際立った。

 ウルベルクのスペースタイムブレードは1.67mもの高さがある。みんなから“マーク、君は背が高いからもっと大振りな時計がつけられるよ”と似たようなものを感じる。(ニキシー管を手掛ける)ダリボル・ファルニー(Dalibor Farny)社とのコラボレーションにより実現した、ウルベルクのガラス製台座時計は、時・分・秒のほか、ユニークなことに地球の移動距離を表示する。しかし、携行するのは大変だし、おそらくちょっと壊れやすい。一方でリシャール・ミルはコードネーム RMS14と名付けたペンダントウォッチ、タリスマン・オリジンのスケッチを披露した。自社製の自動巻きスケルトントゥールビヨンムーブメントを、レッドゴールド&チタン製のケースに収め、スイスのブリアウッド(ブライアという堅い木質の根から作られる木材)、ゴールド、チタン、ロードナイトのネックレスにセットした。もしブルガリがいなければ、おそらくオークションで最も興味深い素材の使い方だっただろう。

 最大の謎はやはりパテック フィリップだ。以前にも述べたように、来たる11月のフィリップ・スターン(Philippe Stern)氏85歳の誕生日に向けて30本限定の腕時計を製作する。この時計は“今回のトリビュートウォッチのためだけに設計・製造”されたものであり、またスターン氏の“お気に入りのグランドコンプリケーション”を備えている。その幕開けをユニークなOnly Watchで行うのだ。ブランドは最近、この時計にエングレービングされた記念のケースバックを披露したが、今のところ私たちが目にしたのはそれだけだ。

 パテックは厳密な“グランドコンプリケーション”の定義をしていない。パーペチュアルカレンダー、ミニッツリピーター、クロノグラフ(場合によってはトゥールビヨン)の組み合わせは期待できないだろう。スターン氏の趣味について私が知っているのは、彼はもっとシンプルかつクラシカルな、整然としたダイヤルデザインを好むということだけだ。私は最初のソヌリから3年ぶりの新作となるグランドソヌリとプチソヌリを想像した。リリースが何であれ、パテックのOnly Watch連続トップ記録は維持されると思う。

Only Watchにエントリーしたロット、および参加者の全リストはonlywatch.comでご覧ください。