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HODINKEEのライターは常に動き回っている。この“我が街の時計”では、そんな我々の目を通して世界を紹介する。こんな風に世界中の街を体験するのが我々(そして地元の時計愛好家たち)のやり方だ。さあ、GMTベゼルをセットして我々と一緒に旅に出よう。
ヒューストンで生まれ育った人は誰もが自分たちの街に誇りを持っている。私もそのひとりだ。私は幼少期をこのテキサス州最大の都市で過ごしたので、今でも尋ねられるとすぐに故郷としてその名を叫ぶ。
このテキサスサイズの誇りは決して過剰なものではない。バイユー・シティとも呼ばれるヒューストンはアメリカ第4の都市であり、多くの指標でアメリカで最も人種的多様性に富む大都市とされている。また、世界のエネルギー産業の中心地として知られるヒューストン港は、世界で最も交通量の多い航路のひとつでもある。一般的に物価が安いため、若く野心的で国際的な人々が集まり(ヒューストン市民の4分の1以上がアメリカ以外の生まれ)、どの都市もうらやむほどである。
Credit, Alisa Matthews
私はヒューストンで育ったが、私の時計に対する情熱はほかの場所で生まれたものであり、帰省するたびに時計好きの観光客というレンズを通してヒューストンを訪れるのは興味深い経験であった。
そこで気づいたのは、現在のヒューストンの時計収集の風潮は、この街の文化的気質を反映しているということだ。少し庶民的ではあるが、嘘のない振る舞いやオープンマインドを尊び、奇抜なものを受け入れることを恐れない人々が集まるメルティングポット(人種のるつぼ)なのである。そのことは、ヒューストン市民が手首につけるものにも当てはまる。
ヒューストンのハーマンパークにあるリフレクションプール。Credit, Alisa Matthews
有名な話だが、ハンター・S・トンプソン(Hunter S. Thompson)は、ヒューストンを 「テキサス東部の汚れた川沿いにある残酷でクレイジーな町。区画整理法もなく、文化はセックスと金と暴力に基づいている」と書いた。そのことに異論を唱えるつもりはない。
しかし、私がずっと好んできた表現は2016年に放送されたCNNの『Parts Unknown』で、ベトケイジャン料理とヤギのビリヤニをつまみ食いしたアンソニー・ボーデイン(Anthony Bourdain)の言い方である。
「ヒューストンは私が思っていた、あるいは皆さんがなんとなく思っているものとはまったく違う。ここは奇妙で多様なもののワンダーランドだ」。
時計を買うなら
長いあいだ、ヒューストンは、広くテキサスもそうだが、国際的な時計のエグゼクティブから“ロレックスとパテックの国”と見なされていた。そして、長いあいだ、その通りだった。しかし、状況は変わり始めている。
ヒューストン、ザドック・ジュエラーズのジョナサン・ザドック(Jonathan Zadok)氏は、「人々の趣味や嗜好が変化し、有名ブランド以外の多くのブランドを受け入れるようになりました」と語る。「この地には、とてもクールな時計文化が根付いています」
彼にはわかるのだ。ザドックの家業は、約50年前に彼の両親がヒューストンで始めたものだ。ザドック・ジュエラーズは昨年春、高級住宅街ポスト・オーク・ブルバード(数ブロック先にヒューストン最大の高級ショッピングモールがある)に2階建て2万8000平方フィート(約2600㎡)の売り場をオープンした。A.ランゲ&ゾーネの米国社長は、「過去20年間にアメリカの独立系ジュエラーが行った小売プロジェクトのなかで、最も重要なもののひとつ」と評している。
昨年オープンしたザドック・ジュエラーズの新店舗。ザドックはこの多目的ビル全体を所有している。Credit, Zadok Jewelers
1階が時計フロアとなっており、現在26のブランドがそれぞれのコレクションを展示する専用スペースを設けている。また、店内にはブランド専用のブティックスペースもあり、それぞれのブランドをより深く体験することができる。どのセレクションも一見の価値があるが、ドイツのA.ランゲ&ゾーネ専用の部屋はお見逃しなく。ザドックはテキサス州でこのブランドを扱う唯一の小売店だ。
「私たちは、取引を超えた体験を提供しようとしているのです」とザドックは言う。「本当の意味で、全方位的でいつ訪れてもすばらしい(原文では“365-degree”)の体験を提供したいのです。ですから、そのような体験を提供できる店舗を作りました」
ザドック・ジュエラーズの店内にある、各ブランドに特化した“ブティック”コンセプトスペース。Credit, Zadok Jewelers
地元の時計愛好家たちは、その努力を高く評価している。「多くのブランドがブティック(モデル)に移行したため、美しい店構えの大規模な独立店舗はほとんどありません」と、ヒューストン地域のコレクターで写真家のブランドン・ザボディーン(Brandon Zabodyn, Instagram, @bzabodyn214)は言う。 「ザドックは多額の資金を投じて、足を踏み入れれば体験できるような真新しい場所を作りましたが、そんなブティックは全米でもほんのひと握りしか残っていないでしょう」
拡大モードの正規ディーラーは、ザドック家だけではない。ドゥ・ブールの一族にも注目したい。ダラスを拠点とするこの会社は、創業者一族が経営している。現社長のニック・ブール(Nick Boulle)は2代目で、冗談抜きで、余暇にはレースカーで成功を収めるレーサーでもある。ブール一族は2015年、ヒューストンの有名なトニー・リバーオークス地区にパテック フィリップのショールームをオープンし、ヒューストンにも進出している。ビジネスは好調で、今後の見通しも良好。数ヵ月後には、ロレックス専用の販売スペースがオープンする予定だ。
ドゥ・ブールがヒューストンに建設予定のロレックスとパテック フィリップの販売店の完成予想図。Credit, de Boulle
「パテック フィリップの大きなエリア、ドゥ・ブールのダイヤモンドとジュエリーの大きなエリア、そして現在製作中のロレックスの大きなエリアがあります」とブール氏は言う。「今年の後半に出来上がる予定です」
ザドックやドゥ・ブールだけでなく、近年は単一ブランドのブティックが数多くオープンしている。ブライトリング、オメガ、パネライ、タグ・ホイヤーは、ヒューストンのアップタウン地区にあるテキサス最大のショッピングセンター、ギャラリアに専門店を構えている。
ギャラリアの店内。Credit, CC BY-SA 3.0
中古時計がお好きな方もご安心を。ヒューストンは区画整理の規制がないため、小規模なセカンダリーマーケットのジュエラーがどこにでも出現することで知られている。そのなかでもおすすめは、ハル・マーティンズ・ウォッチ&ジュエリー。1973年創業のこの老舗は、中古ロレックスに関して街いちばんのセレクションを提供し続けている。
「ハル・マーティンズは私のいちばんのお気に入りです」とザボディーン。「このケースには、ほぼ何でも入っているはずです。今どき、全種類が揃う店なんて、そうそうないですよね」
知っておきたいこと
天候:多くの人は気づいていないが、ヒューストンは基本的にメキシコ湾に面しており、ダウンタウンからビーチまでは車で1時間ほどの距離のため、地獄のように暑く湿度が高い。1年のうち9ヵ月は常に華氏80℉(約摂氏27℃)以上で、5月から9月にかけては3桁(約38℃)を超えることもしばしばだ。半袖で過ごすか、冬の時期に訪れることをおすすめする。また、一年中湿度が高いため、レザーストラップは家に置いて、腕時計はブレスレットにすることをおすすめしたい。
ヒューストン・ライブストックショー&ロデオの会場内。Credit, CC BY-SA 2.5
ロデオ:ヒューストン・ライブストックショー&ロデオの開催時期に合わせて訪れると、さらに楽しめると思う。世界最大のロデオであり、ヒューストンの最も重要な年中行事のひとつで、20日間で250万人以上の訪問者を魅了する。私はヒューストンをカウボーイの街というよりは国際都市だと思っているが、ロデオはヒューストンがブルーカラーでホンキートンクな伝統を受け入れるときなのだ。シンプルに、毎晩のコンサート、受賞歴のある家畜、美味しいチキンフライドベーコンを楽しんで、そして時計を見つけるために滞在して欲しい。2020年と2021年の開催は新型コロナウィルスの大流行により中止となったため、今年のロデオは2019年以来の開催となる。2022年のヒューストン・ライブストック・ショー&ロデオは3月20日(日)まで開催。
ヒューストンの最も風変わりな年中行事のひとつがアート・カー・パレードだ。Credit, Scott Ehardt
交通手段:クルマが必要だ。公共交通機関はほとんどなく、区画整理がされていないため、都市から郊外へのスプロール化が果てしなく進んでいる。レンタカーを利用するか、UberやLyftを用意しておくとよい。ニック・ブールも同意見だ。「ヒューストンにクルマで行くときは、市街地に入ったところで、目的地に着くまでまだ1時間くらいある、と冗談を言うのが好きなんだ」
食を楽しむなら
ヒューストンのレストランシーンは近年、大きな注目を集めている(シェフのデビッド・チャン〈David Chang〉氏は2018年、「アメリカで最も好きな食の街」とまで言っている)。多様な地元の人々が実験と融合を促しており、ベトナム・ケイジャン料理はその代表的な例だ。
ヒューストンを訪れる友人やクライアントとレストランリストを共有しているブール氏は、「レストランはレベルが高い」と語る。「雰囲気重視の街もありますが、ヒューストンは本当に料理の質を重視する人たちのための街です」
ブライトリングを着用し、ジェームズ・ビアード賞を受賞したシェフ、クリス・シェパード(Chris Shepherd)氏は、2010年代前半から半ばにかけて、アンダーベリーというレストラン(現在は閉店)で全米に知られるようになった人物である。その後、彼は数々の有名レストランを開店し、批評家や毎夜詰めかけるヒューストンのファンを失望させることなく、現在に至っている。
「クリス・シェパードのレストランに行ってみてください」とザドック。「彼はワイルドオーツというテキサス料理専門のレストランをオープンしたばかりです」。
のどが渇いたら? ダウンタウンのヒューストンウォッチがおすすめ。20世紀初頭のヒューストンを代表するジュエラー、V.A.コーリガンの旧本社内にあるバーだ。
NASA、博物館、スピードマスター、そのほか
あなたがヒューストンの旅を、時計を見て、食事をすることだけに費やしても、私は何とも思わない。それだけでも楽しいはずだ。ただ、もし午後に時間ができたら美術館に行かない手はない。
ヒューストン美術館は、世界6大陸から集められた約7万点の作品を展示するアメリカ屈指の(そして最大の)美術館と言われている。また、ヒップスターが集まるモントローズ地区で、メニルコレクションを見学することも可能だ。この30エーカーのキャンパスは、バンガロースタイルの住宅が立ち並ぶ、緑の葉で縁取られた街の中心に位置している。目的なく訪れたなら、複数のギャラリースペースがあることに気づかないかもしれない。ヒューストンの私のお気に入りの場所のひとつがここにある。それは、静謐なロスコ・チャペルだ。1970年に完成したこの無宗派のチャペルには、マーク・ロスコの絵画が14点展示されており、『HODINKEE Magazine Vol.7』でも大きく取り上げられた。
Credit, Hequals2henry
ヒューストン宇宙センターに行かずして、ヒューストンを観光したとは言えない。NASAが所有するこの博物館を訪れるには、南東の郊外クリアレイクに向かおう。そこではマーキュリー9号、ジェミニ5号、アポロ17号のスペースカプセルや、アメリカの宇宙開発の歴史から数え切れないほどの芸術品を見ることができる。この展示の場所はわかりにくいのだが、アポロミッションコントロールセンターの周辺を時間をかけて探索することをおすすめする。そこには、オメガのスピードマスターと宇宙開発におけるその歴史に特化した、小さいながらもスリリングな展示がある。
Credit, Mark Konig
ヒューストンの歴史的なスピードマスターは宇宙センターの時計だけではない。ミュージアム地区にあるヒューストン自然科学博物館には、マーキュリー・アトラス2号カプセルとエド・ホワイト(Ed White)が着用したジェミニ4号宇宙服が展示されている。ホワイトのスーツの手首に見えるのは? もちろん、スピードマスターだ。
ザドック氏は、NASAがヒューストンで大きな文化的存在であることが、この街の時計文化の発展にひと役買っていると考えている。
「ヒューストンは世界のエネルギーの中心地であり、アメリカの宇宙プロジェクトの中心地でもあります。だから、エンジニアや建築家など、メカに強い人が多いんです。そのおかげでヒューストンにはすばらしい時計文化があると思います」
持ってくるべき時計
オメガ スピードマスター
月面で最初に発せられた言葉のひとつが「ヒューストン」だ。1969年にアポロ11号の月着陸船イーグルを操縦して月面に降り立ったバズ・オルドリン(Buzz Aldrin)は「ヒューストン、こちら静かの基地。イーグルは着陸した」と言ったことが記録されている。その日、オルドリンとパートナーのニール・アームストロング(Neil Armstrong)司令官の腕には、オメガのスピードマスターがふたつ付いていた(ただし、月面で着用したのはオルドリンのみで、アームストロングの時計は月着陸船イーグルのなかに留まったままである)。さらに、元NASAのプロジェクトエンジニアでプログラムマネージャーのジェームズ・H・ラガン(James H. Ragan)は、船外活動用のスピードマスターを評価、選定、承認した際、ヒューストンを拠点としていた。スイスのビエンヌにあるオメガ本社を除けば、ヒューストンはスピードマスターの心の故郷であり、Hタウンでスピードマスターを身につけることは正しいことなのだ。
ロレックス デイデイト、別名テキサス・タイメックス
ロレックスのデイデイトは“プレジデント”というニックネームが有名だが、私はいつも“テキサス・タイメックス”と呼んで楽しんでいる。イエローゴールドのクラシックなデイデイト。シャンパンダイヤルのブレスレットタイプは、テキサンという愛称で親しまれている。1970年代後半のオイルブームで、テキサスの若いオイルマンが最初の大金を手にしたのち、誰もがひとつは購入したものだ。ことさら派手なことで知られるダラスと比べると、ヒューストンは地味な街だと思うが、いざというときには大胆な行動に出ることを恐れず、その点でデイデイトの「私を見て」な姿勢がぴったりだ。
ブライトリング スーパーオーシャン
Credit, Dana Golan.
2018年にブルックリン・ネイビーヤードで行われたブライトリング主催のバンケットに参加したときのこと。私から数テーブル離れた席に座ったのは、なんと2017年のMLB優勝チームであるヒューストン・アストロズの3人の投手たちだった。ジャスティン・バーランダー(Justin Verlander)、ダラス・キューシェル(Dallas Keuchel)、そしてランス・マッカラーズ(Lance McCullers)。私はずっとアストロズのファンで、大学時代にはクレイグ・ビギオ(Craig Biggio)のポスターを、彼が引退したあともずっと壁に貼っていたほどだ。アストロズファンと時計業界でのキャリアがぶつかるとは想像もしていなかったが、ブライトリングはその夜、それを実現させてくれた。また、私はスイスの会社がヒューストンの前途有望な時計市場を明確に優先していることもうれしく思っている。2018年にはガレリア内にブライトリングの専門ブランドブティックがオープンしたのだ。
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ヒューストンについては公式観光サイトで詳しく紹介されている。また、ザドック・ジュエラーズとドゥ・ブールについては、それぞれのウェブサイトで詳細を確認することができる。
HODINKEEショップは、オメガとブライトリングの正規販売店です。ロレックスの時計は、HODINKEE Pre-Ownedでお求めいただけます。
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