trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

Hands-On ウブロ ビッグ・バン MP-11 14デイ パワーリザーブ レッドセラミック 実機レビュー

ウブロの代表作を担うのは、素晴らしい仕上がりのセラミックだ。

遡ること2006年、思いがけない会社から、予想すらしなかった新作の実機を見る機会があった。その時計こそが、当時(も今も)驚異的な31日間のパワーリザーブと、垂直トゥールビヨンを搭載したジェイコブ&Co.,のクインティン・トゥールビヨンだ。クインティンは、時計業界において、全く新しい競争分野を切り拓き、それの登場以前の長時間パワーリザーブといえば、懐中時計にしか存在せず、それらも8日間がせいぜいといったところだった。長時間パワーリザーブが意味するところは、主ゼンマイを収めた香箱(バレル)が複数あるか、長い主ゼンマイを収めるための大きなバレルを採用しているかであるが、いずれにおいても、長時間駆動と引き換えに精度の粗さが目立ったものだった。この記録を最後に打ち破った企業はウブロであり、2013年にリリースされたラ・フェラーリのパワーリザーブは50日間であった;私の知る限り、それ以降に腕時計のパワーリザーブを追求する動きは見られなかった。

 もちろん、ヴァシュロン・コンスタンタン ツインビートのような独立した2つの調速機構をもつ時計は、低振動(1.2Hz)モードに切り替えれば65日間動作する。しかしながら、そのモードで着用されることは想定されておらず、精度の確保は二の次なのである。むしろ、これは長期間着用しないときでも、永久カレンダーをアップデートするためのスタンバイモードとしての位置付けだ。最新のテクノロジーをもってしても、ラ・フェラーリの記録を打ち破ることは、着用には非現実的な時計となる可能性が高く(ラ・フェラーリですら、ある人の言葉を借りるならば“クマのような”重量級だ)、脱進機構の技術革新が求められるだろう(パルミジャーニ・フルリエ ジェネカンド脱進機のコンセプトモデルは理論上約70日間のパワーリザーブをもつとされるが、目下パルミジャーニのプロジェクトは暗礁に乗り上げているようだ)。

 輝かしい栄光を手にしながら、ウブロはパワーリザーブの限界値を超える挑戦からは一歩引いてはいるが、ロングパワーリザーブを搭載するニッチな市場で存在感を示している。このカテゴリにおける現在のフラッグシップモデルは、直列に並んだ7つのバレルが生み出す約14日間巻のMP-11シリーズである。直径45mm×厚み14.4mmとかなり大型ではあるものの、かつてのラ・フェラーリよりはずっと装着性に優れるモデルだ。MP-11はCal.HUB9011のプラットフォームとしてデビューして以降、様々な素材をケースに採用してきたが、2020年1月にドバイで開催されたLVMHウォッチウィークでお披露目されたのが、ウブロが特許を取得したレッドセラミックである。

 さて、話を先に進める前にはっきりさせておきたいのは、ロングパワーリザーブの時計だからといって、過激さを讃えるために消防車のような赤を選択する必要は全くない。ヴァシュロンであれば、(少なくとも過去存在した)大手銀行の役員が座る荘厳な椅子に相応しいような、ロングパワーリザーブの時計を製造している。本機のケースサイズはロングパワーリザーブの搭載を考えれば概ね妥当ではあるが、MP-11の外観から受ける印象は、技術的な制約によるものでは一切なく、ウブロが意図したものなのだ(拡大解釈をすれば、ウブロが、顧客が求めると考えるデザインだ)。

 私がここまでしつこく主張するのは、ヴァシュロンとウブロを時計の技術的観点で比較することはできても、実際にこの2本のどちらかを選ぶのに頭を抱えて悩むことは、古今東西見渡してもあり得ないと思うからだ。ウブロの顧客というのは、ウブロの時計のリピーターやファンであるというだけでなく、注目を集めるデザインを、マイナスでも二の次でもなく、むしろ利点でありレゾンデートル(存在意義)ですらあるとみなす人々なのだ。

 技術的な記録を保持してはいるものの、ラ・フェラーリが審美面から現代の時計デザインにおいて高い評価を受けているとは私は思わない。圧倒的なパワーリザーブの長さは、疑いようもなく強烈な印象を与える一方で、デザイン面では技術的な複雑さに比べるとやや熱意が感じられず、有機的なケースの造形は、クールで未来的に見せようとし過ぎて、かえって陳腐な印象を私に与えた。 

 それゆえにビッグ・バン MP-11 14デイ パワーリザーブ レッドセラミックを2020年1月にジョン・ブースのIntroducingの記事で初めて見たとき、私は驚かされた。誰かがこの新作について私に説明してくれなかったら、説得力に欠けると感じただろう。しかし、実際には他のMP-11シリーズやラ・フェラーリがもたなかった、一本筋の通った出来映えであった−たとえ表現方法が独特であるとしても。まるで硬いセラミックのように、私は自分の確信の揺るぎなさを通じて、ついにこのモデルを高く評価することを受け入れざるを得なかった。

 このMP-11の成功は、レッドセラミック素材の驚くほどの深みと豊かさにあると私は見ている。もしこれが別の素材であったなら、これほどの成功は得られなかっただろうし(レッドセラミックモデルは実際に私が手にすることができた唯一のモデルだった)、実際セラミックケースであることから想像できるとおり、軽さと装着性の秀逸さにこの素材は貢献している(あくまで比較論であるが、このモデルは驚くなかれ45mm×14.4mmなのである)。この素材は、焼成エナメルの文字盤と同じような繊細な肌理(きめ)と質感を備えており、光を捉え、その光が変化すると色調も変化するのだ。それも、心地良さを感じるほどに−この時計は、実際に注目してみると多くの新たな発見があることに好感をもった。

 前述したとおり、MP-11 14デイ パワーリザーブ レッドセラミックの外観はウブロがそう望んだ結果だ。これは、もちろん、このモデルは成功といえるレベルに達したが、全てのデザインが目標に達することに成功したわけではないのも、また事実なのである。この種の時計を世に送り出すことは、例えばプレシャスメタル(貴金属)で時刻表示のみのドレスウォッチやダイバーズウォッチ(いずれもデザイン様式が確立されている)を製作するよりもずっとリスクが高いことである。MP-11に代表されるような時計づくりでは、そのような野望が成就することは稀なのだが、本作はケース素材による深みと色調の豊かさとのコンビネーションが、時計の技術面とのコンビネーションによって魅力を放ち続ける時計に仕上がったと考えている−そして何より楽しい時計である、それが全てを語るといっていい−本機は、身に着けられることがなくなっても、その魅力は語り継がれるだろう。そういう時計である。

ウブロ  MP-11 14デイ パワーリザーブ レッドセラミック:ケース、レッドセラミック、 直径45mm ×厚み 14.4mm、香箱の形状に合わせて成型されたサファイアクリスタル風防。ムーブメント;ウブロ 約14日間巻 Cal.HUB9011、39石、2万8800振動/時;直列配置された7個のバレル。世界限定100本;価格903万円(税抜) 詳細はHublot.comへ。

撮影:ティファニー・ウェイド