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A Week On The Wrist IWC ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー・クロノグラフ スティールモデルを1週間レビュー

IWCにとって2017年はダ・ヴィンチの年であり、伝説のクルト・クラウスがデザインした最も象徴的なモデルであるパーペチュアル・カレンダー・クロノグラフのリニューアルもその一環だ。

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※本記事は2017年4月に執筆された本国版の翻訳です。

毎年、特定の製品ラインの刷新に力を注ぐという慣例通り、IWCは2017年のSIHH(ジュネーブサロン)で、全面的にデザインを一新した“ダ・ヴィンチ”シリーズを発表した。IWCのファミリーの中で、ダ・ヴィンチは最も売れないモデルかもしれない。テクノロジーや航空をテーマにした時計とは異なり、ダ・ヴィンチは(1つの例外を除いて)歴史的にも常に、複雑機構のスペシャリストとしてのIWCをアピールするためのモデルだった。スタイル的には、ダ・ヴィンチシリーズは、第二次世界大戦後に人気を博した先駆的なスティール製ツールウォッチよりもはるかに前の、腕時計のデザイン文法を踏襲しており、IWCの他のシリーズとはスタイル的にも大きく異なっている。

 これらの違いは、両極端というよりも、単に誰にアピールするかという点で、具体化されたものに過ぎない。しかし、私はダ・ヴィンチシリーズの個性は奇をてらったものではないと考えている。ひとつには、IWCのデザインの歴史を象徴するような重要なデザインであるから。そしてもう一つは、"手首に着ける懐中時計"を追求するという、IWCが何十年にもわたって公言してきた哲学と強く結びついているからだ。


IWC ダ・ヴィンチファミリーの起源、そしてIWCの複雑な時計製造

初代クォーツ・インヂュニア‐IWC ダ・ヴィンチ SL。

 IWCの最初のダ・ヴィンチは1969年から70年にかけて製造されたが、このモデルはダ・ヴィンチシリーズの現在の姿とは全く結びつかない。初代ダ・ヴィンチは、当時革新的だったベータ21クォーツムーブメントを披露するために作られたクォーツ時計で、菱形のケースは確かに人目を引くものだった。クォーツ式のダ・ヴィンチは、その技術の進歩と共に、より薄く、よりエレガントになっていった。

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 1985年になると、ダ・ヴィンチは全く別物に変貌する。ダ・ヴィンチという名前がIWCの時計に初めて使用されたのは、クォーツ革命が始まったばかりの頃だったが、1980年代の次世代モデルは、ダ・ヴィンチシリーズ全体を再構築させるほどの違いがあった。1970年代のモダンな菱形ケースは廃止され、代わりに1925年から1935年の間に流行したスタイルのモデルが登場した。また、メカニズムや複雑さの点では、ハイコンプリケーションの腕時計の伝統だけでなく、複雑機構をもつ懐中時計の伝統にも深く結びついていた。

1985年、クルト・クラウスがデザインした初代ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・クロノグラフ

 1985年に発表されたダ・ヴィンチがいかに革新的であったかは、今となっては理解できないだろう。このモデルは、バルジュー社製Cal.7750クロノグラフムーブメントをベースに、IWCのクルト・クラウスが設計したパーペチュアル・カレンダー・クロノグラフモジュールを搭載した。しかし、バルジューベースムーブメントはあくまでも出発点に過ぎなかった。永久カレンダー機構は、ムーンフェイズを含む全てのカレンダー表示がリューズ操作だけで完結する世界初の機構であり、時計をセットするには、リューズを引き出して曜日表示を進めるだけで、曜日、月、閏年、年の表示と月が全て連動するようになっていた。唯一の難点は、カレンダーを逆(過去)にセットすることができないことだったが、それでも前例のない技術的偉業であり、1980年代半ば、複雑時計の進歩が20世紀全体で最も低迷していた時期に、IWCは歴史的には得意とは言えなかった複雑時計のスペシャリストとしての自社の能力を示すだけでなく、機械式時計全体の未来に対する信頼と信念を示す、非常に力強い声明を発表したのだった。

 スタイリングはというと、樽型のラグ、段付きベゼル、マッシュルーム型のプッシャーなど、全体的な雰囲気は、1985年当時でさえ、極めて保守的で時代錯誤的なスタイルであった時計を強烈に想起させるデザインであった。しかし、これはこの時計や新生ダ・ヴィンチシリーズの意図するところと非常によく一致していた。つまり、保守的な外観は、その内部機構と同様、機械式時計の過去と未来の両方に対するの信念の表明でもあった。

パーペチュアル・カレンダー、ミニッツリピーター、クロノグラフ・ラトラパンテを搭載したIWCのグランドコンプリケーション Ref.3770。

 1985年に機械式ダ・ヴィンチの初代モデルが発売されたとき、私はまだ時計に興味をもっていなかったが、その10年後、私がIWCに関する書籍を読み始めたときには、ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・クロノグラフとクルト・クラウス氏は、それぞれ時計愛好家の間で伝説的な存在となっていた。20世紀末から21世紀初頭にかけてのIWCの複雑時計製造は、クラウス氏とダ・ヴィンチ・パーペチュアル・クロノグラフによって、ほぼ独力で正統化されたのである。
 先ほど、複雑時計はIWCの得意分野ではないと述べたが、実際は過去に非常に複雑な時計を製造したこともあった。しかし、それは稀な一点ものだった(ただし、19世紀後半のIWCの懐中時計には、パーペチュアル・カレンダーとミニッツリピーターの複雑機構の両方が搭載されていたことは言うまでもない)。

秘められた歴史:1982年当時のIWCの複雑な腕時計

1985年に発表されたIWC ダ・ヴィンチは大きな節目となったが、同社の複雑機械式時計はこれが最初ではなかった。1982年、IWCはカタログに掲載されていない腕時計、Ref.3710(フルカレンダー、クロノグラフ、ムーンフェイズ)を発表。IWCの歴史家であるデビッド・セイファー氏の記事は、IWC.comでご覧いただける。

 IWCが複雑機構のスペシャリストとしての地位を確立したことを如実に示したのは、IWC初のグランドコンプリケーション Ref.3770だった。オークションで見つけることができれば、貴金属ケースに収められたミニッツリピーター、クロノグラフ、4桁の西暦表示を備えたパーペチュアル・カレンダーを手に入れる最も興味深い方法の一つとなるだろう。グランドコンプリケーションは1990年に発表され、その3年後にはフライング・トゥールビヨンとクロノグラフ・ラトラパンテを搭載した“イル・デストリエロ・スカフージア”(“シャフハウゼンの軍馬”の意)というモデルが発表された。イル・デストリエロ・スカフージアは、バルジュー社の手巻きキャリバー7760をベースにしていたが、生みの母も気づかないほどの大幅な改造が施されていた。

 グランドコンプリケーションとイル・デストリエロ・スカフージアは、それ自体はダ・ヴィンチシリーズではなかったが、IWCにとっても、身に着ける人にとっても、“アイコニックピース”という点では一致していた。当時、これらのモデルはグランドコンプリケーションの廉価版(そんなものはあり得ないだろうが)としてではなく、ジャガー・ルクルト、オーデマ ピゲ、パテック フィリップなど、ごく少数のメーカーに肩を並べるために世に送り出されたのだった。これらのモデルは、技術面で卓越しており、愛好家の心を強く惹きつけ、何よりもIWCをそれまでにない形で世に知らしめた。

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新型ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・クロノグラフ(とその兄弟モデル)

2017年に発表されたダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー・クロノグラフは、1985年に発表された初代モデルへのオマージュであると同時にアップグレードされたモデルだ。

1980年代から90年代にかけて、IWCが複雑時計のマニュファクチュールを目指していた中で誕生したダ・ヴィンチのルーツ云々を滔々と書き連ねているのは、2017年初めに新しいダ・ヴィンチ ・パーペチュアル・クロノグラフを初めて見たときの私の感想と関係があるからである。正直なところ、IWCがオリジナルデザインにいくつかの変更を加えた理由は理解できるが、私はあの樽型ラグとマッシュルームプッシャーを再び見ることができたら完璧に満足していたことだろう。バロック様式のデザインは今では売れ筋の時計ではないが、私は初代ダ・ヴィンチに対して抗いがたいノスタルジーを感じており、ラウンドケース、玉ねぎのような形のリューズ、段差のあるベゼル、そして全体的に貴族的なテイストに回帰したのを見て、満足感を覚えた。これは、複雑時計メーカーとしてのIWCの過去と、ダ・ヴィンチシリーズの歴史とを結びつける素晴らしい方法だと思ったからだ。

クルト・クラウス氏による パーペチュアル・カレンダー・モジュールの特徴的な要素として、4桁の年表示がある。 

 私がもう一つ非常に嬉しかったのは、4桁の西暦表示だ。IWCは近年、この表示を使う習慣がなくなっていたが、再びダイヤル正面から見ることができたのは素晴らしいことだ。これは、1985年に発表された初代ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・クロノグラフの特徴的な要素であり、クルト・クラウス氏の独創性を示す視覚的な特徴でもある。丸みを帯びた、少しバロック風の、どちらかというとフォーマルなダ・ヴィンチのケースに戻ってくることは、特に数十年にわたってIWCの複雑時計製造の進化を見守ってきた私たちにとって、非常にエキサイティングなことなのだ。

 ポルトギーゼ・オートマティック(42.3mm×14.5mm;より一般的な比較例ではセイコー ダイバーSKX007の42.5mm×13.25mm)よりもひと回り大きい43mm×15.5mmというかなり大きなサイズの時計だ。このスペックにも関わらず、必要以上に大きいという印象はない。多くのパーペチュアル・カレンダーのように、多くの情報が表示され、カレンダー表示がクロノグラフのサブダイヤルとダイヤルの余白を共有しているため、余白が有効に活用され、実際に通常のパーペチュアル・クロノグラフよりも判読性は高い。

比較的厚みのあるモデルだが、可動式ラグを採用しているため、手首にしっかりとフィットする。

ダイヤルの装飾や針は、非常にすっきりと正確に仕上げられている。

 このような複雑時計の製造のためのミニマリズムと対極を行くアプローチは、パーペチュアル・カレンダーを実装するための無駄を省く方法とは対照的であり、言うまでもなく唯一の方法ではない‐例えば、パテック フィリップ  Ref.5270パーペチュアル・カレンダー・クロノグラフは、12時位置に曜日と月を示す窓があり、6時位置にムーンフェイズと日付を示すサブダイヤル、さらに2つのサブダイヤルでスモールセコンドと30分積算計を表示している。

 Ref.5270は41mmと、ダ・ヴィンチよりも劇的に小さいわけではないが、パテック史上初のパーペチュアル・クロノグラフであるRef.1518の直径がわずか35mmである事実を指摘しておこう。ダ・ヴィンチの場合、12時位置のサブダイヤルに分と時の表示があるので、より多くの情報を提供していることになる。しかし、ダ・ヴィンチは、見た目が複雑なだけでなく、非常に古風な方法で時計を作りたいという想いから、腕時計の伝統というよりも、複雑時計の伝統である懐中時計とのつながりを感じさせる時計になっている。

 ムーブメントはIWCの自社製キャリバー89630で、自動巻き、68時間のパワーリザーブ、577.5年に1日の誤差のムーンフェイズを搭載している(通常のムーンフェイズ機構は、2年7ヵ月半で1日の誤差が生じるが、144年に1日、あるいはそれ以上という高精度のムーンフェイズは、ハイエンドの時計製造では多かれ少なかれ一般的になっている)。

ムーンフェイズ表示には、美しいディープブルーの星空がアクセントとして描かれている。

Cal.89630は、クルト・クラウス作のカレンダーモジュールに適合したIWCの完全自社製クロノグラフムーブメントだ。

 IWCの自社製Cal.89630は、ディスプレイケースバック越しに見ても美しい。その姿は、最先端のこだわりのある工芸品という印象ではなく、丁寧に作られた精密機械、いわば懐中時計のような印象を受ける。もちろん、パーペチュアル・カレンダーにはクルト・クラウス氏が考案した機構が採用されており、68時間のパワーリザーブとフライバック・クロノグラフも搭載されている。クロノグラフの操作は歯切れよく、戻り止めの伝達には若干強い力が求められるものの、全体的に見ると、ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・クロノグラフの操作感は見た目と同様、ある種の家宝のような質実剛健な印象を与える。

針は、この時計がもつ精密機器としてのテイストにマッチしたシャープな仕上がりだ。

 ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・クロノグラフには、すぐに腕に馴染んだ。可動式ラグは、大きくて厚いケースの印象を和らげ、スティール製であれば一日中身に着けていても苦にならないほどだ(これは、普段身に着ける時計が40mm以下の愛好家の感想だが、時にはそれを大きく上回ることもある)。 

 この時計を身に着けて思ったのは、1985年に作られたオリジナルのデザインをIWCが入念にアップデートしているにも関わらず、変更部分のアピール性は控え目であるということだ。客観的に見て、ダ・ヴィンチを少しでも21世紀に近づけるためには、これらの変更は理にかなっていると思う。また、新しいダ・ヴィンチ パーペチュアル・クロノグラフのデザインは、1985年に発表されたモデルとの共通点が多く、すぐに過去とのつながりを感じることができる。

 私が新作を気に入っている理由の多くは、オリジナルをどれだけ思い出させてくれるかに関係していることは否定できない。それは、歴史や背景を理解することでデザインがより魅力的になるという事実だけではない。心地良いノスタルジーが混じっていないと言えば嘘になるだろう。また、デザイン家具やワイン、時計など、ある分野の愛好家として長い時間を過ごしていると、どこか天邪鬼的な嗜好をもつようになり、多くの人がエキセントリックか奇妙だと思っているものに惹かれてしまうこともあるだろう。

 しかし、ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー・クロノグラフは、奇をてらった(少なくとも、内なる声聞いた後でも私にはそのように感じられなかった)選択ではない。このモデルの魅力は、1985年に発表された初代ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・クロノグラフのユニークさと同じである。技術的に際立っており(自社製ムーブメントを搭載した今作は、80年代のモデルに搭載されていたCal.7750ベースに比べ、さらに際立っている)、貴族的で極めて伝統的な美意識と、過剰なまでに重厚感のあるムーブメントの組み合わせが、このモデルにエレガントな道具としての魅力を与えている。堅苦しく聞こえるかもしれないが、腕に着けると本格的な紳士用腕時計然としている。質実剛健で落ち着いた、静かに自立したスタイルの腕時計だ。

IWC ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー・クロノグラフ Ref. IW392103、SSケース、43mm×15.5mm、3気圧防水。ムーブメントは、IWC 自社製Cal.89630、自動巻き、68時間パワーリザーブ、4桁の西暦表示を備えたパーペチュアル・カレンダー、フライバック機能を備えたクロノグラフ、12時位置のサブダイヤルに時・分表示が組み合わされる。フリースプラング式偏心錘調整テンプ。価格371万8000円(税込)。詳細はIWC公式サイトまで。