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Hands-On A.ランゲ&ゾーネのオデュッセウスは三度目の正直か?

よく考えられた、高価ではあるが、ランゲを代表するスポーツウォッチの延長線上にある1本だ。

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2019年後半にA.ランゲ&ゾーネ初のステンレススティール製オデュッセウスを紹介して間もなく、私が深く尊敬するコレクターと、この新しい時計について話したことを覚えている。当時、時計界全体がこの時計をどう評価するかについて、議論し、審議し、討論していた。それは当然の疑問であった。

 しかし、そんな意外なものをどう評価したらいいのだろう。スポーティ、やれやれ、たとえスポーツに関連したものであっても、A.ランゲ&ゾーネの腕時計は1990年初頭に復活して以来、グラスヒュッテにある会社が開発と維持のためにたゆまぬ努力を続けてきた保守的なアイデンティティとは実質的に相容れないと感じられた。

A. Lange & Söhne Odysseus Titanium

2022年の新作、チタン製のA.ランゲ&ゾーネ、オデュッセウス。

 このコレクター、特筆すべきは長年にわたって複数のA.ランゲ&ゾーネの時計を所有してきたことコレクターの意見によると、オデュッセウスは古典になるまでの道のりを95%は進んでいるということであった。それは確かにうらやむべき立ち位置だったが、A.ランゲ&ゾーネが望んでいたようなヒット作ではなかったのだ。オデュッセウスは、A.ランゲ&ゾーネ独自のドイツ風の時計づくりを通してスポーツウォッチの理想を表現するという、当初の使命を完璧に果たしたモデルだった。しかし、パテック フィリップやオーデマ ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンといった、高級SS製スポーツウォッチ市場の上位に食い込むには、何かが欠けているというのが、このコレクターと私の共通認識であった。

A. Lange & Söhne Odysseus Titanium

 3年近く経った今でも、その欠落した要素が何であるのかを特定することは難しい。これまでに5、6回実機を手にしてきた私がオデュッセウスを見て常に感じていたのは、よくできていて、A.ランゲ&ゾーネらしい知的でおもしろい時計ということだった。しかし、A.ランゲ&ゾーネのほかの時計が与えてくれるような欲望の感覚は湧かなかった。自分のウィッシュリストにおいて、オデュッセウスがA.ランゲ&ゾーネの現行モデルの筆頭になるとは思わなかった(1815 クロノグラフ、これはぜひとも欲しい!)。 私がこのコレクターと議論したときにはっきりと覚えているのは、オデュッセウスの各パーツはどれも単体ではかなり成功していたにもかかわらず、最終的な製品には“これでなければならない”という要素が欠けていたということだ。

A. Lange & Söhne Odysseus Titanium

 しかし、こオデュッセウスに新しいチタンモデルが発表されたことでようやく(少なくとも私にとって)何が足りなかったのかわかった気がする。A.ランゲ&ゾーネが時計に軽量なチタンを採用するのはこれが初めてだが、ここで注目したいのは、厳密には金属の選択ではなく、その仕上げについてだ。

 正直なところ、新しいオデュッセウスのチタン製ケースは、私がこれまで扱った腕時計のなかでもっとも精密で、間違いなく最高に仕上げられている。それゆえに私は本当に驚かされ、これがWatches & Wonders Geneva 2022の忘れがたいハイライトのひとつとなったのだ。

A. Lange & Söhne Odysseus Titanium

マイクロブラスト仕上げのマットな表面とポリッシュ仕上げの角度の組み合わせに注目してほしい。

 まさにこの時計について、先日発表した紹介記事では、チタンは伝統的に高級時計製造に使われる素材ではないことを述べた。こうした状況は、ドゥ・ベトゥーンローマン・ゴティエといったインディペンデントメーカーの先駆的な取り組みのおかげで、徐々に変わりつつある。私はそれらの腕時計を手にしたことがあるし、とても気に入っているが、新しいオデュッセウスに見られるようなA.ランゲ&ゾーネのチタンへのアプローチは、排他的な高級時計製造におけるチタンの可能性について、私の見方を完全に変えてしまった。

A. Lange & Söhne Odysseus Titanium

 私の最初の反応は驚きだった。実際にこの時計を見て、そのビジュアルインパクトの弱さが信じられなかったのだ。私がそのように反応したのは、この時計の主要な仕上げであるマイクロブラスト仕上げの装飾が、SSやホワイトゴールドのサテン仕上げに取って代わり、ほぼ全面的にマットな表面になっていたためである。ただ、ケースとブレスレットを “マット” と表現するだけでは、何だか申し訳ない気もする。ブラスト仕上げのテクスチャは均一に塗られており、一貫してダークグレーであるため、オデュッセウスを触っているときに隣に座っていたジェームズが、ブラスト加工だけでなくケースに何らかのPVDコーティングが施されているように見えると発言したほどだ。

A man wears the A. Lange & Söhne Odysseus Titanium

Image, James Stacey. 

 しかし、ケースとブレスレットは完全にマットというわけではない。ケースの側面、プッシャーのエッジ、ブレスレットのリンクの面取りはすべて個別にハンドポリッシュされており、これはSS製のオデュッセウスから受け継がれている特徴だ。チタン製になったことで、新しく改良されたケースとほかのケースとのコントラストがより際立つようになったと思う。実際に装着してみると、非常にソフトなマット仕上げと、ポリッシュ仕上げの側面や面取りによるシャープで反射性のある質感が、時計の表面にすばらしい、そして興味深い美的な緊張感を生み出しているということにすぐに気づかされた。

 もちろん期待に違わず、新しいオデュッセウスは総重量わずか105g(注:ブレスレットも含めて)、非常に軽量である。従来のSS製モデルから50g近くも軽量化されたのだ。

A. Lange & Söhne Odysseus Titanium

チタン製のオデュッセウスは、ケースとブレスレットの仕上げが改良されており、その進化した魅力を知る上で重要なポイントとなる。

 そして、この時計で最もコントラストを際立たせているのは、5リンクの、ネジを使わない一体型ブレスレットだ。A.ランゲ&ゾーネの製品開発ディレクターであるアントニー・デ・ハス(Anthony de Haas)氏は、ブレスレットを組み立てる前に、ひとつひとつのリンクを手作業で磨き上げると語ってくれた(このブレスレットのリンクが全部でいくつあるのかは神のみぞ知る、そしておそらくデ・ハス氏本人も知っていることだろう)。チタン製ブレスレットの装飾と製造に多くの時間を費やしたことが、デ・ハス氏とA.ランゲ&ゾーネが新作オデュッセウスを250本の限定発売にした理由のひとつであり、そのような制限が設けられたのはこれが初めてだ。

A. Lange & Söhne Odysseus Titanium

 2022年モデルとなるA.ランゲ&ゾーネのオデュッセウスにおける改良点のうち、群を抜いて大きく、かつ最もインパクトがあるのはこのチタン製ケースだが、特筆すべき変更点はこれだけではない。ランゲが“アイスブルー”と呼ぶ、クールなブルーの新しいダイヤルカラーが登場したのだ。水色とグレーの中間に位置するシアン色の魅力的な色合いで、光が当たると非常に多彩な表情を見せる。さらに、この新しい色は遠距離での視認性にも影響せず、これは私が思うにオデュッセウスの最も過小評価されている特性のひとつである。しかし、いい色だが少し“無難”な感じがする。もしかしたら意図的に無難にして、不快感を与えないようにしているのかもしれない。ダイヤルのトーンを変えたところで、オデュッセウスに対する既成概念が覆されることはないと思うが、ケースの仕上げは変わるだろう。

A. Lange & Söhne Odysseus Titanium

 ダイヤル外側のアワートラックも更新され、それぞれのアワーマーカーに向かって内側に傾斜する擬似同心円状のギヨシェ模様が特徴である。この効果については、この時計に対する最初の記事で触れたが、プレス画像では、それほど重大で顕著な変化だとは感じられなかった。しかし実際に時計を見ると、この滑らかに流れるような模様は一目瞭然で、目に優しく、SS製のオデュッセウスのアワーマーカーにあるシームレスな同心円模様とは異なって見える。

A. Lange & Söhne Odysseus Titanium

各アワーマーカーに向かって傾斜するラインが、ダイヤルに波のような効果を与えていることに注目してほしい。

 新しいダイヤルや新しいケース素材を反復的なものと見なすのは簡単だが、新しいオデュッセウスにそのようなレッテルを貼るのはフェアではないと私は心から信じている。大手時計メーカーやブランドは、スムーズに作動する機械のように思われがちであるし、多くの点でそうなのだが、忘れないでほしいのはオデュッセウスはまだ3代目だということである。A.ランゲ&ゾーネはまだ、このコレクションに最適なものを模索している最中なのだ。今回のリリースで見られたアップデートは、注目を集めるにはまだ十分とはいえないが、潜在的な購入者(私はそうではないが、インターネット上で購入者になったつもりでいる)に大きな影響を及ぼすほどには顕著であると思われる。

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 チタン製のオデュッセウスは、過去のモデルと同じムーブメント、同じプロポーション、同じねじ込み式リューズ、ブレスレットには同じ微調整可能なセーフティバックルを備えている。つまり、3年前にA.ランゲ&ゾーネが確立した全体的なデザイン言語とほぼ同じなのだ。機能面では、3時位置のリューズの両側にあるふたつの一体型プッシャーで、ビッグデイとビッグデイトの窓を操作することができる。また、ソード針や、ファセットが施されたアワーマーカーには、スーパールミノバがふんだんに使用されている。

A. Lange & Söhne Odysseus Titanium
A. Lange & Söhne Odysseus Titanium

 搭載するキャリバーはL155.1 DATOMATICである。これはA.ランゲ&ゾーネが製作した唯一の2万8800振動/時のムーブメントであり、テンプコックではなくテンプブリッジを採用しており、スポーツウォッチとしての耐久性を高めるためにふたつの決断がなされている。正直なところ、一体型のブレスレットとフル回転ローターの組み合わせでは、ムーブメントの全体像を把握するのが難しいのが残念である。ルーペを近づけて観察するのは不可能に近い。この不満を簡単に解決する方法がないのはわかっているが、A.ランゲ&ゾーネの標準的なシースルーバックではムーブメントを自由に見ることができるのである。

A. Lange & Söhne Odysseus Titanium

 オデュッセウス第3弾について論じるに値する最後の問題は、価格である。なんと709万5000円(税込)という高価な金額がつけられているのだ。価格を追跡している人のために説明すると、この数字は、SS製の初代オデュッセウスが2019年に発売されたときの341万円(SS製のオデュッセウスは現在、421万3000円とかなり上がっている)よりも370万円ほど高く、2020年の発売時に480万7000円であったホワイトゴールド製のオデュッセウスよりも約230万円ほど高い(すべて税込)。

A. Lange & Söhne Odysseus Titanium
A. Lange & Söhne Odysseus Titanium

 高級時計の記事を書くことを生業としている私でさえ、このような矛盾に泣きたくなるほどだったが、展示会の最中にそんなことをするわけにはいかない。もちろん理解し難いことではあるが、これはA.ランゲ&ゾーネ初のチタンウォッチであり、製造本数も250本とかなり限られているのは事実である。そして、単純な問題として、現在入手可能なチタンウォッチのなかで、これが最も印象的で完成度の高い時計である可能性がある。しかし、貴金属ケースのほぼ同型のモデルに対して、これほど高いプレミアムを払う価値があるのだろうか? なんとも言えない。

 しかし私の目から見ると、これは今まで発表されたオデュッセウスのなかで間違いなくもっとも魅力的である。

 そういうわけで、オデュッセウスコレクション全体(もしかしたら、限定ではないチタンモデルに新しいダイヤルカラー、複雑でないケースの装飾なら、値段がもっと安くなるだろうか。頼むよ、サンタさん!)と、そしてA.ランゲ&ゾーネによるケース素材としてのチタンの活用の両方について、次に何が起こるかを見るのが本当に待ち遠しい。

A.ランゲ&ゾーネ オデュッセウス:ケース、グレード5チタン、40.50mm×11.1mm、120m防水、ねじ込み式リューズ、フロントとバックにサファイアクリスタルを使用、リューズを囲むように配置されたビッグデイとビッグデイト表示用の一体型プッシャー機構、“アイスブルー” のダイヤル、真鍮、マルチレベルには夜光素材のゴールドマーカーを塗布、針は夜光のホワイトゴールド。ムーブメント、プラチナローターによる片巻き上げの自社製Cal.L155.1 DATOMATIC、5姿勢調整、 片振り微調整が可能なフリースプラグ式マスバランス、手彫り仕上げのテンプ受け、部品合計312点、うち99点がデイト機構、サイズは32.9mm×6.2mm。ブレスレット、グレード5チタン、長さの微調整機構つき。価格は709万5000円(税込)、A.ランゲ&ゾーネのブティックでのみ購入可能。

All images by Atom Moore, unless noted. 

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詳しくは、A.ランゲ&ゾーネ公式サイトをご覧ください。