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In-Depth A.ランゲ&ゾーネ オデュッセウスの全貌 (編集部撮りおろし)

A.ランゲ&ゾーネがザクセン州から贈る静かなる革命。

A.ランゲ&ゾーネのオデュッセウスはいくつもの点で同社初の試みを取り入れている。それはまずもって、ブランド初となるステンレス製の時計コレクションだという点だ。-もちろん、ランゲ1は20本、ウォルター ・ランゲ オマージュモデルは1本、ダブル・スプリットは1本限定でSS製の時計を製造したが、同社は1994年の創業以来、基本的には貴金属で時計を作ることに強いこだわりを持ってきた。

 同様に、ケース一体型のSSブレスレットを備えたこともランゲとしては初めてのこととなる。ランゲのこれまでのモデルと同様、生産数はごく限られるものの、限定モデルではない。さらには、ランゲはオデュッセウスのためにビッグデイトカレンダーと初の曜日表示機能を持つ新ムーブメントを開発した。

 ランゲ愛好家は、とりわけ近年になってこの種のモデルの登場を熱望してきたわけである。それを踏まえ、ランゲ信奉者とA.ランゲ&ゾーネにとってオデュッセウスの登場が画期的な出来事となった経緯を、同社の戦後の歩みを紐解きながら理解を深めたい。


東西ドイツ統一と復活

 1994年、A.ランゲ&ゾーネは第二次世界大戦後のドイツ統一後、初となる時計を発表し、それはすぐに世界中の収集家や時計愛好家から大注目を浴びた。以降、彼らはハイエンドな時計製造の第一線に立ち続けているので、このブランドが新参者だったことを覚えている人はいるまい。

 “新参者”とはいえ、ランゲはもともと1845年にチェコとの国境に近いザクセン州の閑静な町・グラスヒュッテの地に創業した。しかし、共産化の波に飲まれ、1948年にブランドとしての姿を消したことから、新コレクションをリリースしたときには事実上、新会社として再出発したのだ。

 ランゲが目利きの御眼鏡に適った理由は単純明快だ:時計の質が圧倒的に高いことである。クォーツショックの影響から時計産業が立ち直りつつありながら、多くの新規参入メーカー(古参も含む)がムーブメントの供給や外注生産に依存していた1990年代に、新興メーカーとしては異例なほど製造と組み立ての精密さが群を抜いていたのであるが、それはまだ始まりに過ぎなかった。多くの愛好家にとって購入の決め手となったのは、ムーブメントへの仕上げであり、これはスイス時計産業に対する挑戦、それも道ならぬ挑戦であった。

グランド ランゲ1 25周年記念モデルは復活から25周年を迎えた、2019年を記念して発表された。

 1990年末には愛好家向けの雑誌のみならずインターネット上で時計やムーブメントの高解像度のデジタル画像が出回り始め、ランゲが“雲上”とみなされるオーデマ ピゲ 、パテック・フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタンと比肩する、世界最高レベルのクオリティを持つ時計を製造しているだけではなく、そのレベルは他社との競争ではなく自社の高い基準によって成し得られていることが明らかになった。

 たった一モデルで、ランゲが時計業界における新たなカテゴリーを生み出したのは、ザクセンの独特な製造法とデザイン哲学によるもので、スイス時計の伝統的手法の焼き直しではなかったのだ。スイスはおろかドイツのラグジュアリーウォッチの業界地図を塗り替えることは、しきたりに反するだけではなかった;それはドイツ最高峰の時計製造会社の失われた50年の名誉回復宣言でもあったのだ。

故ウォルター・ランゲ氏  ベン・クライマーによる2014年のインタビューの時のショット。

 ウォルター・ランゲとギュンター・ブリュームラインが復活させた、A.ランゲ&ゾーネの歩みは25年間盤石なものだった。複雑機構の開発や新デザイン(当然のことながら有名なダブルスプリット、トリプルスプリットに加え、革新的で驚くべき時計の数々、もちろん新たなアイコニックピースであるツァイトヴェルクも含む)に取り組んだ一方、コレクションの基本的なキャラクターは不変であった:クラシックかつ極めてシンプル、そして真のコノサー、つまりこのフランス語が表す幅広い時計の知識を「知る人々」向けに、ランゲの時計がいかにブランド間の競争とは無縁な孤高の存在であるかを知らしめたのだ。

 この会社が作り上げた独自の路線は非常に順調であったが、時が経つにつれブランドに関心を示す層の裾野も広がった。これにより、A.ランゲ&ゾーネのモットーである至高の時計、妥協のないクラフツマンシップを保ちつつ、どんなシチュエーションでも着用できる、現代性を象徴するスティールの質感を持つ時計を製造すべきかが慎重に検討されはじめた。

 ランゲで長年CEOを務めるヴィルヘルム・シュミット氏がHODINKEEに語った。“最初に検討された時計のコンセプトは、10年以上前に遡ります。しかし、4年前に最終版に取り組むまでに棄却されたアイデアやデザインがいくつもあります。Cal.L155.1 DATOMATICはこの時計のために新たに開発しました。ランゲにとっては初の曜日表示とビッグデイト表示の組み合わせとなるのです”


オデュッセウス:未来への航海

 オデュッセウスはA.ランゲ&ゾーネの新しいファミリーの顔としてローンチされているが、一瞥しただけでそうなったのも頷ける。SSケースの直径は40.5mm、厚みは11.1mm;ランゲ初のねじ込み式リューズの採用で120mの防水性能を確保している。ケースデザインをアシンメトリー(非対称)にする右側のケースサイドの僅かな出っ張りは、ビッグデイト表示と曜日表示の2つの調整用プッシュボタンであり、これらの存在はムーブメントにかなりの複雑な機構を要求するものだ。この複雑機構が担うのは、2つの大きなディスプレイの表示である;この組み合わせは初めてのことであり、ランゲのアウトサイズデイトは他モデルと同様、1桁と2桁の日付表示のために2枚のディスクを組み合わせた2窓式だ。それだけでも複雑なうえ、プッシュボタン機構を組み込むため99個の部品が追加されているのだ。

 他にはない、普遍性を持つ、ハイクオリティな時計を世に送り出すための課題のひとつは、時間の経過と共にそれが当然だと思われることだ。したがって、ランゲがいかにして現在の仕上げのレベル(もちろんそれには製造工程において細部に至る徹底が必要なのは当然なのだが)に到達したのかについて振り返ってみる価値はある。

 ダイヤル、針、マーカーは全て厳格な検査に合格している(同価格帯でここまでやっているメーカーは稀だ)。本機の針がランゲの通常モデルに比べるとやや太めなのは、夜間の視認性向上のためのスーパールミノバの塗布面積を確保するためで、同様にアプライドインデックスにも蓄光塗料が充填されている。双刃状の針とダイヤルマーカーはホワイトゴールド製だ;他にも様々な貴金属がこの時計には用いられているものの、これ見よがしには使用されていない。

 ダイヤルの仕上げには隙がないが、極めて複雑でもある−ダイヤルマーカーは外周のセクターダイヤルに接しながら、内周の美しい同心円(ランゲではこの表面加工をアズラージュと呼ぶ)上にも接する。メインダイヤルとスモールセコンドのサブダイヤルは控えめだが、深みのあるグレイン仕上げが施されている。

 オデュッセウスがこれまでのランゲの慣例を踏襲しなかったのは、新開発のSSブレスレットだ。時計全体と一体化して見えるようにデザインされたこのブレスレットは複雑な5連リンク型である。外側のリンクは全てブラッシュ仕上げとなっていて、ポリッシュとブラッシュ仕上げを使い分けることが一般的なこの種のブレスレットとしては珍しい。なお、リンクは全て面取りされている。

 実際に目にすると、非常に興味深い;全体の印象は表面がジュネーブストライプの、側面がポリッシュされアングラージュ(面取り加工)されたムーブメントのブリッジのようで、ことオデュッセウスに関しては、ムーブメントの仕上げへの視覚上の導線となる。

 ランゲの製品開発ディレクターのアントニー・デハス氏はこう語った。“時計とそのケースに融合し、ブレスレットだけが浮かないよう全体を視覚的にひとつとして捉えられるような、完璧なインテグレーテッド・ブレスレットこそが私たちの目指した姿でした。完璧な仕上げに対する私たちのコミットメントを損なわないよう、ブレスレットはブラッシュ仕上げされた表面部とポリッシュされた面取りで構成されていて、ムーブメントの美しさを強調するのです。さらに、ブレスレットはまるでケースの一部であるかのようにアタッチされます。”

 ブレスレットのサイズはオーナーによって容易に調整可能で、特別な工具も不要だ – クラスプ上にはプッシュボタン(ランゲのマークがエンボスされた部分)が仕込まれていて、クラスプを解除せずとも、最長7mmの範囲で長さを調整することが可能だ;もちろん、リンクそのものを着脱することも可能で、リンクの両サイドにあるクイック・リリースボタンが用意されていることからオーナー自身で作業可能だ。

 ケース構造の複雑さは、側面から眺めたときに明らかとなる。ビッグデイトと曜日表示調整用のプッシュボタンの形状は、全体のデザインに巧妙に溶け込んでおり、ともすれば退屈なほどシンプルに見えるラウンドケースにちょっとしたアクセントを付け加えている。新境地を切り拓く使命と同時に、この特別なデザイン要素はひと目見てランゲだと分かる壮大な計画の一部を担っている。シュミット氏は計画についてこう話した:

  “我々が時計のデザインに取り掛かるとき、あることを念頭におきます。それは人々がダイヤルのロゴを見ずともそれがA.ランゲ&ゾーネの時計であると認識できるかどうか。他と間違えようのないダイヤルデザインは、6つめとなるファミリーの顔にふさわしいものになりました。それはムーブメントに関しても同じです。ひと目見てランゲのキャリバーと認識されなければならないのは当然のこととして、それが特別なものでなければならないというのが重要なのです。クラシックなグラスヒュッテ様式の4分の3プレートやゴールドシャトンを採用するのはそのような理由です。調速機構を支える両持ちブリッジに手彫りのエングレービングを施すのも同様です。エングレービングのモチーフは従来見られた花柄ではなく、波を採用したのも同じ理由なのです”

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新ラインナップのために用意されたムーブメント

 新ムーブメント、L155.1 DATOMATICはランゲの他のムーブメントとの共通点が多い。金属ケースに納められたムーブメントのパーツと仕上げを観察すると、ランゲの他の自動巻きムーブメントと同水準だとすぐに判別できる(ランゲが最高峰の仕上げを放棄する日が、私がこの仕事を辞めて禅寺の石庭師の求人に応募する日となるだろう)。しかし、重要な特徴もある。それはランゲがより過酷な環境にも適応できるよう設計したことである。

 ムーブメントは比較的大型だ。この自社製ムーブメントを採用するメリットは次のとおりである;直径32.9mm/厚さ6.5mmのサイズはケースとのバランスに優れる;現代の自動巻きムーブメントはこのケースに収めるには少し小さい(参考にETA2824は直径25.6mmだ)。受け石の数は31、プラチナ製の分銅(ランゲが貴金属をステルス的に用いる好例である)が取り付けられた片向巻き上げのローターを搭載し、パワーリザーブは50時間である。

 ランゲ初の、分かりやすい新機能は時計のダイヤル側に配されたビッグデイトと曜日窓の表示と切り替え機構である。左側には曜日用のディスクが24時間ごとに切替え表示され、複雑なデイト表示窓はムーブメントを囲むようにディスクが配置されている。

 2枚のデイトディスクを正しく動作させることは初代ランゲ1で解決した課題であり、1994年以来、ビッグデイト・コンプリケーションが標準化する中、ランゲは近代時計製造では極めて稀な高いレベルの改良を実施している。

 青焼きされたネジや、1時位置の1桁日付ディスクにある複雑な形状の日付送り用のスプリング(下画像)はこうした改良の一例である−ムーブメントの文字盤側にこれほどの仕上げを施すのはランゲくらいであり、トランスパレントケースバックから覗くムーブメントの裏側と同水準の注意が払われている。

 輪列上の軸受石の多くは直接セットされているが、ランゲを象徴するゴールドシャトンも脱進機を支えるために使われている。テンプ周りにも新機軸が導入されており、そのひとつは、ランゲ初となる両端からテンプを固定するバランスブリッジである;これは耐震性に優れるとして高級スポーツウォッチによく見られる手法だ。

 ふたつめは、振動数がランゲとしてはハイビートとなることだ−2万8800振動/時。

 調速機構も古典的なものではない。むしろその逆で、ランゲが採用したのはフリースプラングであり、調速を行うための4本の偏心錘(重り)がテンワの凹部に取り付けられている(空気抵抗を低減するためにこの形状を採用している)。スワンネック型緩急針はビートエラー調整用に存在しており(「チク」と「タク」の間隔を一定にするのが目的だ)、バランスブリッジはカスタム可能な手彫りエングレービングが施されている。


21世紀への架け橋

 偉大な高級時計メーカーからのスティール製スポーチウォッチはそれが何であれ、このカテゴリー全体にとって面白いタイミングで発表された。ゴールドなどの貴金属の採用が、超高級時計の代名詞であった時代は既に過去のものとなり、反対に入手が容易なSSを採用した時計が渇望されることは、かつては予想もつかなかったことだ。−貴金属モデルの兄弟機としてのSSモデルが対等の人気を誇るのにとどまらず、多くの場合、価格の問題はさておきSSモデルに人気が偏る傾向がある。パテックのノーチラスやオーデマ ピゲ ロイヤル オークのSSモデルに対する需要は、決してバーゲンプライス(低価格であること)が動機となっていないことからも明らかである。

 オデュッセウスは市場のレッドオーシャンに飛び込んだわけではないが、310万円(税抜)の価格を考えるとパテックRef.5711とロイヤル オーク(さしあたり41mmサイズ) が相手となる、非常に激しい競争にさらされるだろう。パテックに関しては全ての面で優れている、入手困難であること以外は。ノーチラスは、時の流れの中で徹底的に磨き抜かれたクラシックデザインが、最も尊敬を集めるメーカーから提供されているのだ。
 ロイヤル オークから得られる価値の高さは、パテックとの価格の開きが大きいにも関わらず同水準である:正規販売価格はロイヤル オークが215万円、ノーチラス 5711が308万円(いずれも税抜)である。

 当然、このジャンルの時計に関心のある層が疑問を持たざるを得ないのは、オデュッセウスは40年間も生き残ってきた2本のクラシックウォッチの対抗馬に本当になり得るかということだ。

 この疑問は実に興味深い。なぜならノーチラスとロイヤル オークを模倣しようといくつもの追随品が現れたものの、このカテゴリーはこの2つのモデルそのものを意味することに変わりがないからである。SSの一体型ブレスレットを持つラグジュアリースポーツウォッチの中で、この2本の伝説的なステータスに並ぶ時計は他にないが、オデュッセウスはランゲがこのカテゴリーの3本目の地位を確立すべく注力した時計であり、人々の好みにはまれば、1976年にノーチラスが発表されて以来の快挙となるだろう。

 しかし、ライバルたちに比べオデュッセウスには独自の特徴がいくつもある。

 まず、ひと目でランゲの時計と分かることだ(それに至る小さなことが勝負を分ける現実こそが、このカテゴリーの厳しさなのだ)。この時計にはランゲのロゴ、洗練されたメカニズムの曜日表示と連動したビッグデイト表示がある;ランゲの象徴であるムーブメントの仕上げの徹底した完成度は、地球上で最も優れたものに思う。そのうえ、オデュッセウスには他の2本に対する競争優位がある。それは時計としてのアイデンティティを確立しているということだ。オデュッセウスが他の時計の模倣ではないことは、ジャン-クロード・ビバー氏がTalking Watchesで語ったように、ノーチラスですら登場時に(ロイヤル オークの)模倣と受け取られたのとは対照的である。

 オデュッセウスは着け心地がよく、装いを選ばず、ランゲの貴金属モデルにはない、時と場所を選ばないような日常使いとしての耐久性と精度が担保されている。長期間使用するユーザーがどのような感想を抱くか占うことはできないが(ロイヤル オークもノーチラスもファンを獲得するためには長い年月を要したことを思い出すべきだ)、その機能性、クラフツマンシップ、仕上げの品質を考慮すれば正当に評価されるべきである。

 A.ランゲ&ゾーネは古典的な時計を意欲的に製造する会社である。ダイヤル内のレイアウト、書体、そしてケースやダイヤルのデザインとムーブメントのデザインと仕上げが裏付ける、保守的なドイツ人の気質と古典的手法を発揮しながらも、同時に革新性をも追求しているのである。ランゲ1のような時計は、1994年より前には存在し得なかった。と同時に、ランゲは多くの技術的革新に支えられているメーカーなのである。保守と革新の二律背反から数多くの作品を生み出すことができるのは、私が考えるに、ランゲの時計づくりの傑出した特徴である。

 私がこう語るのも、ランゲの歴史にどれだけどっぷり浸かっているかによってはオデュッセウスを初めて見ると衝撃的(あるいはそれ以上)な印象を持つことになるかもしれないからだ。伝統的なランゲのデザイン様式から全くの新境地に触れることは、ある種の試練にも似たものとなるだろう。そして、それに適応するには少し時間がかかるだろう。古典的な書体、ビッグデイトと曜日表示がダイヤルに備わったブレスレット付きのスポーツウォッチは、まるで長年連れ添った愛妻が、長い旅の留守中に、住み慣れた我が家を改装してしまったのを目撃するのに等しいのだ。

 しかし一度腕に乗せてしまえば、オデュッセウスは極めてしっくりくる。重量感も程よく、装着性にも優れ、安心して使えるよう設計されており、ランゲのタイムピースとしてのアイデンティティを損なわずに日常使いできるスポーツウォッチだと感じさせてくれるのだ。

 将来的な展望とランゲのスティールモデルのレパートリーが拡充されていくのか気になるところだが、シュミット氏は手の内を明かさずこう語るのみであった。

 “オデュッセウスは、ランゲ1の発表から25年の節目にA.ランゲ&ゾーネの歴史の新たなページを開きました。我々が将来の計画を明かさないことはよくご存じでしょうが、現時点ではこのコレクションに新たなモデルを追加することはありません”

 時計のデザインにおいて(他の分野でも同じだが)、新しいデザインが市民権を獲得するまでに時間を要することは自明の理である。オデュッセウスにはとりわけ当てはまる理屈であるが、時計そのものの品質が高ければ高いほど、その魅力には抗い難くなるものだ。

 家族に新しいメンバーを迎えるように、互いをよく知るまでに一定の時間が必要だということは当然のことであるが、漂流譚に登場する冒険者の名に由来するオデュッセウスが、長く好奇に満ちた航海に船出することを運命づけられていることは少なくとも私にも理解できるのである。

概要:SSケース、40.50mm×11.10mm;120m防水、ねじ込み式リューズとサファイアクリスタルの風防と裏蓋。曜日とビッグデイト調整用のプッシャーがリューズ側の側面に搭載。真鍮製多重層ダイヤル、夜光塗料付ホワイトゴールド製アプライドマーカー;針、夜光塗料付ホワイトゴールド製。自社製新Cal.L155.1 DATOMATIC、片方向巻上式プラチナ製分銅付ローター。5姿勢精度調整;調整用偏心錘とビートエラー調整スワンネックを備えたフリースプラング式;手彫りエングレービングのバランスブリッジ。部品総数312点、内日付カレンダー機構に99点;ムーブメント径、32.9mm×6.2mm。長さ微調整機構付きSS製ブレスレット。定価310万円(税抜)。詳細については、A.ランゲ&ゾーネオンラインまで。 
撮影Tiffany Wade(ムーブメント、ヘッドライン除く)