trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag
In Partnership

ロンジン 190年にわたり紡がれるゲームチェンジャーのDNA

1832年に創業したロンジンが、今年190周年を迎えた。同社はその歴史のなかで、いくつもの革新をスイス時計業界にもたらし、常に時代のパイオニアであった。

スイス時計産業の中心地のひとつであるスイス・ジュラ地方では、かつて冬の農閑期にレース編みが営まれていたという。それが18世紀後期から時計パーツ製造に置き換わっていき、時計産業が萌芽する。長く家内労働であったジュラ地方の時計産業を改革したのは、ロンジンであった。

 創業者オーギュスト・アガシから経営を受け継いだ甥のアーネスト・フランシロンは、1867年にサンティミエの“Es Longines(細長い野原)”と呼ばれる地に、部品製造から組み立てまで行う工場を設立した。品質管理すらおぼつかない家内労働による分業制を一貫生産に改めることで、高品質化を図ったのである。それは功を奏し、この工場で初めて製作されたCal.20Aを搭載した懐中時計は、同年のパリ万国博覧会で銅メダルを見事に射止めた。その後も1873年のウィーン万国博覧会では優秀賞を、1885年のアントワープ万国博覧会では初のグランプリを受賞。そして1929年のバルセロナ万博を含めて、計10度のグランプリ受賞という偉業を打ち立てた。

1867年にシュズ川右岸に完成した、ジュラ地方ベルン州最初の時計一貫製造工場。上階の窓際に、組み立て職人作業台が並ぶ。写真は1866年の工場の様子。

 そのあいだにもロンジンは、時計製造の改革に取り組んでいた。いちばんの革新は、1876年から始まった工作機械の導入である。既存の手動工作機械は、操る職人の技量によって品質にばらつきがあった。一方でアメリカで開発されたピニオンギア用歯割盤やネジ用自動旋盤は、人の手作業に頼らないため、繰り返し加工の精度が安定し、かつ量産も可能としていた。これら最新の工作機械の有用性は、ジュラ地方カントン産業協会の代表としてアメリカに派遣されたロンジンの技術責任者であったジャック・ダヴィドによって報告され、スイス時計産業における機械化の足掛かりとなった。そしていち早く工作機械を導入したロンジンは、万国博覧会でのグランプリ受賞によってそれが正しい道だと証明してみせた。

 なお、最初の工場によってかなえられた高品質な時計を自ら保証するために、ロンジンの名と“翼の砂時計”のロゴマークが、1867年からムーブメントに刻印されていた。そして1880年に名称を、1889年にはロゴを、スイス連邦知的財産局に登録。ロンジンは、ブランドの確立とその保護でもスイス時計界を先駆けていたのである。

肖像画は左が創業者オーギュト・アガシ、右が近代化を推進したアーネスト・フランシロンである。中央の懐中時計は、工場で最初に作られたCal.20A搭載モデル。その後ろに写るのはロンジンの歴代ロゴだ。ブランド名と翼の砂時計のロゴは、1893年に知的所有権保護合同国際事務局にも登録され、世界的に保護された。


外装にこだわったロンジン創業190年記念モデル

ロンジンの輝かしい受賞歴は、万国博覧会だけに留まらない。天文台が主催していた精度コンクールにおいても、ヌーシャテル天文台では1879年から20年間、イギリスのキュー=テディントン天文台では計141回もの受賞歴を誇る。また工作機械による製造工程の基礎が築かれた1888年には、ロンジンとして初のクロノメーターの認定を受けたCal.21.59を生み出してもいる。一貫生産と高性能な工作機械による高精度加工が、ロンジンの時計に優れた正確さをもたらしたのだ。

ロンジン初の懐中時計用クロノグラフ・ムーブメントCal.20H。秒積算計だけが備わる。

フライバック機構も搭載した腕時計用クロノグラフムーブメントの名機、Cal.13ZN。

190周年記念モデルが積むCal.888.5は、シリコンヒゲゼンマイを採用した現在の主力機。

 さらにメカニズムにおいても、1878年には早くもクロノグラフ機構を持つCal.20Hを開発している。経過時間の計測においてもパイオニアであったロンジンは、1896年に開催された第1回オリンピック・アテネ大会を皮切りに、さまざまなスポーツ大会での計時で、その技術を研鑽していく。そして1913年に、世界初の腕時計用クロノグラフ Cal.13.33Zを開発。1936年には、現代においても最も美しいクロノグラフムーブメントと称賛される名機、Cal.13ZNが誕生する。クロノグラフ以外でも1967年誕生のウルトラ-クロンが搭載するCal.431は、10振動/秒のハイビート機として世界をリードした。

ロンジン マスターコレクション 190年記念モデル

懐中時計のアーカイブから、ブレゲ数字と針のブルースティール素材を引用。数字のプロポーションは、腕時計サイズに合わせて整え直されている。ブレゲ数字は既存の現行モデルにはなく、久しぶりの登場となる。

 

 製造方法やブランディング、そしてメカニズムなど、さまざまなフィールドでスイス時計業界のゲームチェンジャーであり続けたロンジンの時計は、ヴィンテージ市場でも評価が高い。そしてこれまで名作の数々を復刻し、人気を博してきた。190周年を迎えた今年も、ウルトラ-クロンの名とハイビート、その個性的な外観を現代に蘇らせている。そして9月には、ロンジン マスターコレクションから190周年記念モデルを新たにリリースした。ブレゲ数字とブルーのリーフ針を組み合わせたダイヤルは、いかにもクラシカルではあるが、これは復刻ではない。世界中に多くのコレクターを持つ、歴代の懐中時計からインスピレーションを得たのだという。機構的には日付表示を持たない中3針と、シンプル。この190周年記念モデルにおいてロンジンは外装に注力し、クラフトマンシップを注ぎ込んだ。

上の写真にあったように、ロンジンは懐中時計に多様なデザインを与えてきた。そのなかには、190周年記念モデルが用いるブレゲ数字とブルースティール針も数多い。インデックスの多くは転写であったが、今回は極わずか存在していた彫り数字を再現した。

 サンドブラスト仕上げのマットなシルバーダイヤルに、数字の彫り跡が煌めく。数字の加工は、ロンジンがスイス時計業界で先駆けた工作機械によるもの。最新のCNCマシンを巧みに操り、彫刻刀で手彫りしたような彫り跡が見事に再現されている。この加工には、1枚あたり80分以上もかかるという。ダイヤル外周のスロープに配した秒・分のドットインデックスも、凹状の設えに。その背景には繊細なヘアライン仕上げを施すことで、ダイヤルのマット感との調和を図った。

 針は、ブルーの発色が実に鮮やかである。真正面から見ると、秒針の先がダイヤルとスロープとの境にピッタリと合っているのが心地よい。シースルーバック化は、ロンジンの機械式ウォッチではもはやお約束である。搭載するCal.888.5は、ややイレギュラーな2万5200振動/時で、約72時間という極めて実用的なパワーリザーブを備える。さらにストラップにも凝った。マスターコレクションとしては初となる植物性のタンニン鞣しを駆使したバローロ仕上げを採用したのだ。仕上がりは、実にソフト。上品なセミマットの質感は、使い込むうちに自然の艶が現れて、経年変化も楽しめる。

1992年に発表された、工場設立12周年記念モデル。3頭の馬がエングレービングされたケースバックなど、1911年製懐中時計の外観が忠実に再現されている。さらに2015年にケースをローズゴールドに改め、再び復刻された。

 190周年記念ではあるが、このSSケースモデルは限定ではなくレギュラーコレクションである。同時に各190本限定のイエローゴールドケースとローズゴールドケースもラインナップする。それぞれダイヤルの色と仕上げも異なり、イエローゴールドは縦にブラシを入れたグレー、ローズゴールドはグレイン仕上げのダークグレーとなっている。いずれも針と彫りインデックスをケースと同色としたラグジュアリーな装いは、190周年を祝うにふさわしい。

 ロンジンは1987年、飛行家リンドバーグのアイデアで生まれた“アワーアングルウォッチ”をオリジナルの5分の4サイズで蘇らせ、今日に続く復刻時計ブームを先駆けた。その後、前述したようにさまざまな復刻モデルの製作を続け、そのなかには懐中時計も含まれていた。例えば工場設立125周年を迎えた1992年には、同社のミュージアムが所蔵する1911年製の懐中時計を復刻している。以前インタビューをした際に、「ロンジンのアーカイブは、ネタの宝庫だ」と語っていたマティアス・ブレシャンCEOが、懐中時計にも目を向けるのは当然の流れであろう。そして190周年記念モデルでは、懐中時計のディテールを引用しながら腕時計として再解釈してみせた。また今年の新作のひとつであるロンジン スピリット Zulu Timeは、1925年製の角型GMTウォッチからモデル名を引用。ウルトラ-クロンのような復刻モデルも登場させている。190周年記念モデルは復刻だけに留まらない、ブレシャンCEOによるアーカイブ活用の新たなスタイルの提示だといえよう。アーカイブはさまざまに解釈され、止まることのない創造の翼を広げる。


ロンジン マスターコレクション 190周年記念モデル ギャラリー
 

Photos:Tetsuya Niikura(SIGNO) Styled:Eiji Ishikawa(TRS) Words:Norio Takagi