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In-Depth 時計の文字盤を発光させる素材とその違いの見分け方

腕時計の夜光塗料の歴史を解説。


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夜光ダイヤルは一種の歩み寄りだ。大枚をはたいてミニッツリピーターを購入せずに、暗がりで時間を知ることができればうれしいだろう。また一方で、ダイヤルのエイジングも楽しみたいが、多くの夜光物質の性質上、発光は遅かれ早かれ弱くなり、ついに役に立たなくなる。継続的に夜間の視認性を望むなら、通常、ダイヤルと針を交換することになるが、もちろん、部品全てがオリジナルのままであることがヴィンテージウォッチの大きな価値だから、夜に時計を読むことができたとしても、投資価値は失われてしまう。

 この問題はコレクターの最大の関心事の1つだが、それでもなお、夜光物質が実際にどのように機能するかについては広く誤解がみられる。夜光ダイヤルの歴史を理解し、暗闇で光る塗料についての化学と物理学の基本的な実用知識をもてば、愛好家はオリジナルの塗料と交換された部品を見分ける際に大いに自信をもてるだろうし、ときには危険な物質を安全に保管し、取り扱う方法を理解できるだろう。


ダイヤルが発光する仕組み

 物質が暗闇で光る能力はリン光と呼ばれ、フォトルミネセンスの特殊な例である。フォトルミネセンスとは、ある種の物質が光にさらされた後に発光する能力のことだ。光は光子と呼ばれるエネルギーのパケットで構成されている(光子は電磁場の量子粒子である)。フォトルミネセンスの厳密な量子力学的記述は複雑だが、基本的な考えはシンプルである。ある物質の原子の周りを回る電子が光子を吸収すると、より高いエネルギーをもつ状態に励起され、その電子が再び「落ち着いて」基底状態に戻る際に、可視光を放つのだ。

 多くの人に馴染みのある2種類のフォトルミネセンスは、蛍光とリン光である。通常、蛍光物質は吸収したエネルギーを非常に速く放出する。励起する光源がある限り(通常「ネオン」着色と呼ばれる)発光するが、放出はわずかナノ秒単位で起こるため、光源がなくなれば即座に暗くなる。UVランプで遊んだ経験があれば、蛍光を見たことがあるはずだ。これは一般に「ブラックライト」と呼ばれ、ブラックライトのポスターは70年代の学生寮の定番だった(私は知らないが、今でももそうかもしれない)。

覚えているだろうか?  1960年代のブラックライトポスター。

 とはいえ、時計のダイヤルには蛍光物質はあまり使用されておらず、主にはリン光物質が必要となっている。蛍光物質と同様、リン光物質は光源から光子を吸収し、それらを光として再放出するが、時計のダイヤルに使用されるリン光塗料の場合、これは非常にゆっくりと、何時間もかけて起こる。なぜなら、リン光物質の励起された電子は特別なエネルギー状態にあり、光子を再放出するにはエネルギーの「禁制」遷移が必要になるからだ。呼び名にも関わらずこの遷移は発生するのだが、統計的には起こりそうもない事象で、吸収された光は蛍光物質の場合よりはるかにゆっくりと漏れ出てゆく。

 リン光が発生するには、エネルギー源と「蛍光体」と呼ばれる、光を吸収して再放出する物質が必要だ。ラジウムダイヤルがどのように機能するかを見ていこう。

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ラジウム塗料

 ラジウム塗料は実際は自発光性である。新しく塗布した場合、励起エネルギーは塗料中のラジウム粒子が放出する放射線から得られるため、外部のエネルギー源は不要だ。ラジウムは主にアルファ粒子(2つの陽子と2つの中性子)を放出するが、ガンマ線エミッター(高エネルギー光子)でもあり、その崩壊生成物の一部はベータ粒子(高エネルギー電子または陽電子)を放出する。ラジウム自体も弱く光るため、放射性夜光塗料の蛍光体と組み合わされる。これはほぼ例外なく硫化亜鉛で、着色のため、「ドーピング」金属とよく組み合わされる。

アルファ粒子の放出。行け、小さいヤツら!

 ラジウム塗料には基本的な問題が2つある。1つは化学的に不安定であること、もう1つは放射線の危険だ。2番めの問題を最初に取り上げると、ラジウム自体に関連する危険に加えて、ラジウムは崩壊して強力な発がん物質であるラドンガスになる。そして、(天然のラドンは)毎年何千件もの肺がんによる死を引き起こしている。最近の研究は、ラジウムダイヤルから生じるラドンが、ある種の環境下では、潜在的に危険なレベルにまで蓄積する可能性があることを示している。

 もう1つの問題は、ラジウムからの放射線で硫化亜鉛が化学的に分解する(太陽光の紫外線によって通常の塗料、ビニール、その他のプラスチックなどが劣化するメカニズムと同様)ことだ。通常、ラジウムダイヤルが夜光能力を失うまでに数年から数十年かかるが、いずれにせよ、ある時点で必ずそうなる。

1930年代のラジウムダイヤルをもった時計。

 覚えておくべき重要な点はこれだ。このダイヤルはいまだ高度に放射性なのである。蛍光体が劣化すると発光しなくなるが、ラジウムが完全に崩壊するには数千年かかる。放射性物質は、放射線を放出しながら崩壊して他の元素になる。ラジウムは実はウランの崩壊生成物だ。ラジウム崩壊系列にはラドンが含まれ、ラドンはさらに崩壊して他の物質になる。崩壊系列は最終的に鉛の安定同位体で終わるが、その過程でポロニウムやタリウムなどが発生する。放射性元素の「半減期」とは、任意のサイズのサンプルの約50%が崩壊するのにかかる時間だが、ラジウムの場合は1602年である。

 これがコレクターにとって重要なのは、ある時計にオリジナルのラジウムダイヤルや針が付いていると主張される場合、放射線測定器で測れば必ず作動するはずだからだ。例外はない。ラジウムダイヤルを放射線測定器でテストすると、それが本当にラジウムダイヤルであれば、放射線が検知されないことは絶対にありえない。全く興味深いことだが、コレクターたちはごく最近までラジウムのダイヤルや針を放射線測定器でチェックしていなかった。そして、一部の人々はこのことに不快な驚きを感じている。ラジウムダイヤルであるはずの時計から放射線が検知されない事例が唯一あるとすれば、それはダイヤルの製造年が数千年前の場合である。もしそうなら、なんとも希少なロレックスを所有していることになる(ジュリアス・シーザーのサブマリーナー、近くのオークションハウスに間もなく登場! というわけだ)。

この硫化亜鉛蛍光体は劣化がひどいが、いまだにUV /ブラックライトの下で弱い蛍光を放っている。

 もちろん、偽のラジウムダイヤルを作ろうとする金銭的インセンティブはかなり強力であり、悪意あるディーラーが、偽の信号を検知させるために時計の針とダイヤルにラジウムを添加するのを止めることはできないし(例えば、古い時計や価値の低い時計からこの物質をあさるといったシナリオを私は想像する)、もしその種の時計が、高度な技術と邪悪な心によって作られたことがないとしたら、私にとっては非常な驚きである。

 ラジウム塗料にブラックライト/UVライトを照射するとどうなるだろうか。塗料の古さや蛍光体の劣化程度にもよるが、おそらくある程度の蛍光を発するだろう。とはいえ、光源を取り除くと光は急速に消失するはずだ。

オリジナルベゼルの6542 GMT マスター。

 この点に関する興味深い事例は、ラジウムで書かれた数字をもつ、ベークライトベゼルのロレックス 6542 GMT マスターである。ロレックスはこの時計のベゼルから出る過度の放射線のために、リコールしてベゼルを交換する必要に迫られた。そのため、オリジナルベゼルの6542は非常に希少だ。ただし、ベゼルがオリジナルなら、基本的に製造時と同程度の放射性をもつ。これはこの時計を所有するコレクターにとって重要な注意事項だ。

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プロメチウムとトリチウム

 ラジウム塗料の発明(1908年)後の数十年で、この物質は一般的な使用には危険すぎることが明白になり、代替品探しが行われた。ひとつの方向性として、危険性がより低い放射性物質を励起に使用する可能性が研究された。プロメチウムはベータ粒子のみを、ラジウムよりも低いエネルギーで放出するため、一般的にはるかに安全だと考えられているし、蛍光体をそれほど速く劣化させることもない。セイコーは、励起剤としてプロメチウム147を使用したメーカーの1つである。プロメチウムの半減期はわずか2.62年なので、プロメチウムダイヤルの時計は、たとえあったとしても非常に弱い放射線しか出さないと考えられる。

 トリチウムはプロメチウムと同様、低エネルギーのベータエミッターである。プロメチウムと違って半減期ははるかに長く、12.32年であるため、時計のダイヤルなどの長期的用途に適している。トリチウムは水素の放射性物質であり、トリチウムガスを充填した蛍光チューブは、時計だけでなく、コックピットの計器から射撃照準具まで、あらゆるものに使用されている。時計のダイヤル用トリチウムガスチューブで最もよく知られているメーカーに、ボール・ウォッチとルミノックスの2社がある。

ボール・ウォッチ エンジニア ハイドロカーボン、日中にて。

エンジニア ハイドロカーボン、夜間にて。

 時計のダイヤルや針に使用されるトリチウム塗料は、時間の経過とともに夜光能力を失ってゆくが、プロメチウムと同様、はるかに弱い放射線源であるため、蛍光体の劣化もゆっくりと進行する。トリチウムは半減期がかなり短く、比較的弱い放射線源なので、古いトリチウムの針やダイヤルでもUV /ブラックライトを照射するとしっかり蛍光を発するが、放射線はほとんどあるいは全く検知されないはずである。ラジウムダイヤルの時計と同様、ライトを消せば蛍光はすぐに消失する。


ルミノバとスーパールミノバ

 非常に危険なラジウム塗料に勝る解決策を探して、いくつかの方向性で研究が行われたことを述べた。低レベルのエミッターは1つの答えだったが、業界のコンセンサスに何か意味があるとすれば、放射性励起剤を全く使用しない方がもっと良い。そのためには、光にさらされてから何時間も光り続ける蛍光体、一種の「蓄光物質」として機能し、蓄えられたエネルギーを一定の割合で放出するものが必要だ。ここで、ルミノバの話に入ろう。1993年に日本の根本特殊化学がルミノバを発明し、1998年にはRC-Tritec AGと共に、スイス時計業界に供給するためのLumiNova AG Switzerlandを設立した。

 ラジウム、トリチウム、プロメチウムを使用した塗料や顔料などの放射線夜光物質とは異なり、スーパールミノバは励起剤を全く使用していない。代わりに、アルミン酸ストロンチウムという物質が用いられている。一度蓄光すると最初は非常に明るく発光し、その後、光を弱めながら数時間発光し続ける、極めて効率的な蛍光体である。(アルミン酸ストロンチウムを効果的な蛍光体にするには、無毒で非放射性の化学元素であるユーロピウムと組み合わせる必要がある)。

 アルミン酸ストロンチウムは硫化亜鉛に比べてはるかに効率的な蛍光体だ。約10倍明るく、約10倍の長く発光する。緑と青の間の様々な色合いがあり、青が最も長く発光し続け、緑は最も明るい光を放つ。もちろん、放射線夜光物質と比較したスーパールミノバの欠点は、再び光を受けて蓄光するまで明るさが失われてゆくことだ。個人的には、私が長年の間に所有したほとんどのスポーツウォッチの場合、暗闇に慣れた目で見れば、多少の困難はあっても、夜間を通じて十分に視認できる。とはいえ、常に発光する放射線夜光物質(これはルミノックスとボールの魅力の一部だ)と比較すれば、やはり欠点ではある。スーパールミノバを使用すると、放射線夜光顔料よりもはるかに耐久性の高い、かなり驚異的な視覚効果を得ることもできる。MB&Fがブラックバジャー コラボバージョンのスターフリート マシンで使用したのと同様、ボヴェもリサイタル22 グランドリサイタルで大きな効果を発揮するためにこの物質を使用した。

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 光度が時間の経過とともに弱まることを除けば、スーパールミノバは、夜間の視認性問題に対するほぼ理想的な解決策に思える。アルミン酸ストロンチウムは非常に安定した蛍光体のようで、少なくともこれまでのところ、スーパールミノバダイヤルは放射線夜光物質で段階的に起こる蛍光体の劣化問題に悩まされていないようだ。湿気の影響を受けるため、多湿な気候では問題が生じるかもしれないが、一般的に、スーパールミノバやその他のアルミン酸ストロンチウムベースの顔料は長期間使用できるようだ。スーパールミノバが夜光能力を維持できる正確な期間は不明である。太陽光によって最終的に劣化分解する可能性があると考えておくのがよいだろう。ヴィンテージ時計の流行が教えてくれたことがあるとすれば、それは、永遠に続くものは何もないということだ。とはいえ一般的に言って、これは非常に耐久性に富む素材のようである。

 私は、実際に使用中のラジウムダイヤルが入った時計を見たのを覚えているほどの年齢(かろうじて覚えている程度で、当時はまだ非常に幼かったが、暗闇で光るものは何であれ4歳くらいの子どもには強い印象を残す)で、その輝きを懐かしく思うとはいえ、ラジウム塗料業界がビジネスから撤退したことは、関係者全てにとっておそらく良いことだったのだろう。
 ある用心深い読者が、ラドンの危険をもたらすラジウムについての我々の記事へのコメントで、a thousand buildings in Switzerland may be radium contaminated(スイスの1000棟もの建物がラジウムに汚染されている可能性)という記事を指摘してくれた。そして、ラジウムダイヤルだと主張するヴィンテージウォッチが本物かどうか確かめたいなら、放射線測定器を使う必要があることと、たとえそうしたとしても、本来ラジウムではないダイヤルや針にラジウムを添加してオリジナルのラジウム部品に見せかける、悪意ある販売者からは保護されないことを忘れないで欲しい(とはいえ、これには重大な健康上の危険が伴う)。

 ラジウムダイヤルから放出されるラドンに関連した特定の危険についての議論は、以前のこの記事をチェックして欲しい。