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WATCH OF THE WEEK 自分の成長を思い出すミン初のトゥールビヨン

時計への思いから、思いもよらない道を歩むことになった。その中心にこのミンがある。

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Lead image, Mark Kauzlarich.

HODINKEEのスタッフや友人に、なぜその時計が好きなのかを解説してもらうWatch of the Week。今週のコラムニストは、@waitlistedで知られる才能あふれるフォトグラファー、ジェームス・K.(James K.)氏だ。

これは表向き、ミンの20.09 トゥールビヨンという時計についての物語だ。

 この時計を見て「ミンがトゥールビヨンを作っているなんて知らなかった」と思ったとしても無理はない。20.09の誕生から発売まで大々的な発表はなかった上に、わずか10本しか存在しないのだ。この時計は、ミンのSpecial Projects Caveから生まれた最新の時計だ。この部門はフル生産が不可能あるいは無理な、野心的で実験的なプロジェクトを追求するためのものである。この部門は、ミンがその名を急速に知られるようになった、革新的な技術の進歩の多くを開発するための資金調達手段として設立されたものだ。その初期のプロジェクトの成果は、すでに手の届くミンの製品に反映され始めている。

Ming 20.09 Tourbillon

ミンの20.09 トゥールビヨン。

 一般的にミンの時計は、サファイアのダイヤル、複雑な多層構造、十分に施された夜光などの要素を、一貫して意図的に使用することで特徴づけられている。その結果、周囲の明るさによって異なる個性が現れ、ブランドの特徴的なデザイン要素と、長時間着用することで初めてわかる華やかさが発揮されるのだ。

 20.09は、これらすべての資質を具現化し、さらにその上を行くものだ。この時計はミンにとって初めてトゥールビヨンを搭載し、シュワルツ・エティエンヌの自社製フライングトゥールビヨンキャリバーをミン仕様に改良して搭載している。ムーブメントは反転式で、ダイヤル側から見るとマイクロローターと香箱が見え、正面からはトゥールビヨンが反時計回りに回転しているのが見える。

 この時計は、レーザーエッチングを施したサファイアの“モザイク"ダイヤル、大量のセラミック夜光、サファイアの針、DLCチタンのスケルトンミドルケースなどのディテールを備えている。「プロジェクト開始時点で私たちが時計に盛り込むことができたほとんどすべてを結集しました」とミン自身が語っているものだ。同時にこの時計は明らかなミンの特徴を備え、おなじみのデザインキューを見せながら、それを一段と高めたものになっている。フレア状のラグはスケルトナイズされており、ダイヤル側だけでなく、ケースバック側のサファイアクリスタル越しにも夜光が見えるようになっている。この夜光は、“モザイク”パターンとトゥールビヨンのバックライトの両方を照らす。ミニマルなデザインによってではなく、トゥールビヨン、マイクロローター、香箱が均等に配置されることによってブランドのトレードマークである1軸のシンメトリーが保たれている。

Ming 20.09 Tourbillon

 その特徴的な仕上がりは視覚的にも魅力的で、まさに私好みの時計だ。この時計を手にしてから長時間これが手首から離れたのは、この記事の撮影のときだけだ。これはある意味、興味深い。私の写真に関する知識のほぼすべては、このブランドの創始者であるミン・ティエン(Ming Thein)氏から得ているからだ。

 この時計について書いていると、原点に戻ったような気になる。5年前、HODINKEEで初めてミンの時計のことを知った。当時、時計は私にとって孤独な探求の対象だった。つまり、クォーツ危機や“モールウォッチ”の定義について語ることで、より健全で責任感の強い友人を困らせることもあった。そして、それ以外は自分の探求について語らない男だったのだ。ニューヨークで生活とキャリアを確立していたにもかかわらず、まだ“時計仲間”を作ることも、実際のミートアップに参加する勇気を持つこともできなかった。正直なところ、怖かった。皆、知識も豊富で身なりもよく、堅苦しいに違いないと想像していたのだ。だからネット上で想像力を膨らませた。

Ming 20.09 Tourbillon

 2017年のある夏の日、ミンの17.01を紹介する記事に出会った。私は興味をそそられた。この時計は非常に優れた外観を持ちながら、非常にリーズナブルな価格で提供されている。ブランドの創業者について当時は何も知らなかったが、インターネットで調べてみると、彼は非常に優れた人物で、5人の共同創業者とともにこの新しいベンチャーに心血を(そして銀行口座も)注いでいるようだった。引かれるものがあった。そして少し悩んだ末に、17.01を購入することにした。購入した商品の情報を片っ端から調べるのが私にとってはこの上ない喜びだ。しかし、ミン氏の個人サイトにアクセスしたところ、彼の膨大な著作のほとんどが時計についてではなく、当時ほとんど興味のなかった写真に関するものであることに気づき、少し落胆した。

 そしてこの時計が届いたとき、私は期待以上の出来栄えに感動し、その発売を賞賛するメールをブランドに勝手に送ってしまった。驚くほど下手なリストショットと、カメラの扱い方をよくわからなくて申し訳なく思う気持ちも添えた。

Ming email

 それから数年、私はこのブランドの新作を毎回楽しみにし続けた。その一方で、地元の時計コミュニティとの関わりも深まっていった。HODINKEEのミートアップに定期的に参加するようになり、そこで出会った人たちは総じて堅苦しくも偏見的でもなく、熱心なコレクターであり、魅力的な人たちであることに気づいたのだ。ニューヨークでの仕事人生で初めて新しい友人を作ることができた。やがて私は17.03 Ultra Blueという別のミンの時計をコレクションに加え、それから数ヵ月後、HODINKEEの2019年冬のミートアップのPhoto Reportで(レッセンス Type 1と一緒に)それを着用して撮影されもした。

 その後、ミン氏と共同創業者のプラニース(Praneeth)氏と、彼らのニューヨーク旅行の際に出会い、連絡を取り合うようになった。2020年の冬には、ミンはこれまでで最も野心的で高価なプロジェクトの立ち上げに向けて準備を進めていた。ハイエンドなアジェングラフキャリバーをベースにした20.01 クロノグラフである。私はそれを見るのが楽しみで、その冬、ミン氏はツアーにこの時計を持参することを知らせてくれた。

Ming 20.09 Tourbillon

 これは2020年の冬のことで、その後の展開は想像がつくと思う。

 3月にロックダウンが発生したとき、私はニューヨークでひとり暮らしをしていた。当時、ニューヨークはパンデミック初期の、非常に目立つ震源地だったのだ。友人、隣人、そして見知らぬ人たちが一斉にほか地区の家や町へ避難し始めた。私はここに留まることにした。特に行くあてもなかったし、この街が好きで離れられなかったからだ。それに、もし世界のサプライチェーンが崩壊したら、小さな街よりも大都市で『アイ・アム・レジェンド』風に自分の食料を調達するほうがいいと思ったからでもある。

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 ロウワーマンハッタン地区のミートパッキングエリアからアッパーエリアに至る南北に長い大通り、10thアベニューを見下ろす場所に、私は1ベッドルームのコンパクトな賃貸住宅に住んでいた。リビングルームから南を見ると、アベニューの終点までずっと続いているのが見える。パンデミック以前は、この通りは端から端まで車が連なり、始終混んでいた。私はリンカーントンネルの入り口近くに住んでいたので、ドライバーたちはラッシュアワーになると、窓の下でクラクションの音を響かせながら侵入しあっていた。

 ロックダウン前の数週間、そしてその最中の数週間、大通りの交通量が減少し、やがて消滅した。初めて窓の外を見たとき、ラッシュアワー頃の広い大通りに車が1台もないのを見たときは衝撃を受けた。それまで10年近くニューヨークに住んでいたが、初めてこの街のしつこいバックグラウンド音がミュートされたような気がした。救急車のサイレンや、英雄的で想像を絶するほど過重な負担を強いられている医療従事者たちへの夜ごとの喝采など、時折聞こえてくる音は哀愁を帯びていた。

Ming 20.09 Tourbillon

 このような背景のなか、私は初めて真剣に時計を撮影しようと試みた。1年も前にInstagramのアカウント、@waitlistedを作ったが、その時はiPhoneしか持っておらず、技術も知識もほとんどなく、ソーシャルメディアで存在感を示すというプレッシャーに屈してしまったことにずっと不安を感じていた。しかし私はいくつかの時計を所有しており、2020年3月に突然、それらを撮影するための豊富な時間を自宅で持つようになったのだ。幸運なことに私は2月に初めて本格的なカメラを購入し、急成長している趣味の次のステップを踏み出すことを決意していた。その数週間後、それは私の人生で最も重要なモノとなった。

 アパートでひとり、私はこの新しい追求に没頭した。何時間もかけて光と影を操る方法を学んだ。最初は不器用だったが、次第に不器用ではなくなり、最終的には少しマシになった。撮影しては消し、また撮影する。インターネットで教材を探しはじめた。ふと、ミンのウェブサイトを思い出した。それはまるで写真哲学と技術に関する無限の瞑想のようなカタログだった。最初はほとんど理解できなかったが、とにかく彼の文章を貪るように読み、最終的にはサイトのほぼすべてを理解した。いくつかの記事を何度も読み返し、そしてまた撮影をした。

 今日に至るまで、誰かに写真のアドバイスを求められると、私は彼のウェブサイト(現在は引退)を紹介する。これ以上の情報源はないし、これがなかったら私はどうなっていたかわからない。またライティングや構図、主要な被写体の重要性に対する彼の思想など、彼がのちに時計のデザインに応用することになる原則のいくつかが見えてきて、彼の作品に対する理解が一層深まった。

Ming 20.09 Tourbillon

 やがて、小さな成功体験も得られるようになった。2020年末には、友人のダトグラフを撮影した写真がHODINKEEの記事に掲載されることもあった。自分が撮った写真が初めて掲載され、あまりに非現実的で予期せぬ喜びに、いつ幻となるかわからない瞬間を残そうと、そのページのスクリーンショットを複数枚撮影したのだった。

Ming Tourbillon 20.09

20.09のオリジナルのレンダリング。 Images, Ming

Ming Tourbillon 20.09

 その一方で、ミンは20.01 クロノグラフの生産を中止していた。結局のところ、ブランドは旅行することできなくなり、パンデミックの初期段階で発売を進めるのはリスクが高すぎたのだ。しかし彼らはほかのプロジェクトに懸命に取り組んでいた。2020年の秋には、ミン氏自ら20.09のCADレンダリングを送ってきて、「興味はないか」と尋ねられた。その際、「価格設定が厳しい」「納期は入金から1年半かかるかもしれない」という注意があった。私にはそれが今まで見たことがないようなクールなものに思えた。レンダリングを惚れ惚れと眺めて数ヵ月を過ごし、必要な資金を集めて注文した。

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 パンデミックによる規制が緩和されると、私は写真の腕を磨くことに力を注いだ。出かけるときは常にカメラを手に持ち、手首にはミンをつけていた。やがてカメラは私のパスポートとなり、イベントやオークション会場、さらにはスイスのワークショップに出かけ、世界の時計業界の著名人たちと対面するようになっていった。そしてもちろん、時計そのものを撮影することもやめなかった。今、世界で最も希少な時計話題の時計を扱い、撮影するというとんでもない特権を手にしている。 こうした時計を購入することはできないだろうが、自分なりに後世に残すために記録できたのはありがたいことだと思っている。

Ming 20.09 Tourbillon
Ming 20.09 Tourbillon

 それからの1年半は、あっという間だった。

 そのあいだも、注文した20.09トゥールビヨンのことが頭から離れることはなかった。ミンのレンダリングをスマホの別ファイルに保存し、暇さえあればそのファイルを開いては、ついにこの時計を腕にする日を夢想していたのだ。

 そして少し前のある日、時計が完成したのだ。1年半かけて思い続けた時計、つい最近までレンダリングとしてしか存在しなかった時計が、突然現実のものとなったのだ。

Ming 20.09 Tourbillon

 この2、3年でいろいろなことが変わったが、私は相変わらず10thアベニューを見下ろす同じアパートに住んでいる。ニューヨークは復活し、交通量も増えている。ラッシュアワーになると窓の下でクラクションが鳴り止まず、気が狂いそうになる。この数週間、私は2年以上前にアパートでひとりで過ごした静かで長い数ヵ月間のことをよく思い出していた。あの経験をまたしたいとは思わないが、後悔はしていない。今の私があるのは、そのおかげだからだ。そして今、手首で動く20.09 トゥールビヨンを見ると、私と5年前に偶然出会ったこの小さなブランドが、ここまで来たことを実感するのだ。

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