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Dispatch モータースポーツにおける究極のトロフィーは、ショーケースのなかにはない

それは正規販売店の待機リストの先にあるレアモデル以上の存在だ。信じられないなら、デイトナを獲得したドライバー、そして獲得できなかったドライバーの話を聞いてみよう。


日曜日の朝、IMSAのレースコントロールに関する話題とは関係ないところで、マーク・ラッフォーフ(Mark Raffauf)氏はロレックス24デイトナの結果を振り返った。

 「すべては時計のためさ!」と彼は高らかに宣言し、一瞬、あいだを置いた。「まあ、勝利のためでもあるけどね」

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ロレックス24デイトナのレース風景。(photo credit: Rolex)

 IMSAのレースオペレーション部門のシニアディレクターであるラッフォーフ氏は、その意味を誰よりもよく理解している。2025年の時点で、彼はロレックス24デイトナに50回関わってきたことになる。この耐久レースのビッグイベントは、アメリカのレーシングシーズンの幕開けを飾るものだ。ロレックスがレースの勝者にオイスター コスモグラフ デイトナを授与し始めたのは、1992年のこと。それによってこの時計は正式にレースとの結びつきを得た。しかしこのスイスのブランドは、それ以前からデイトナビーチのレースを支援していた。それは1950年代だったか、それとも1960年代だったか? ラッフォーフ氏は首をかしげる。あまりに長い時間が経ってしまったため、彼ですら正確には覚えていないのだ。

 IMSAのレースコントロールルーム。広いモニター群の前に座るスコット・プルーエット(Scott Pruett)氏は腕を組み、その黒いシャツの袖から白文字盤のデイトナ Ref.16520を覗かせていた。彼はこのビッグレースで5回の優勝を誇る。初勝利は1994年。つまり、彼の手元には5本のロレックスがあることになる。これらの時計は、このスポーツにおいて伝説の仲間入りを果たした証なのだ。

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サーキットを走るプロトタイプカー。(photo credit: Rolex)

(photo credit: Rolex)

(photo credit: Rolex)

 現在、IMSAはプルーエット氏を相談役に迎え、審議の際の判断を仰いでいる。彼はコース上でのインシデントをあらゆる角度から分析し、ドライバーの視点から意見を伝えるのだ。その後、IMSAの上層部がペナルティを適用する仕組みだ。もしドライバーが処分に納得がいかないとしても、ラッフォーフ氏は冗談めかして言う。「プルーエットには文句を言えないだろうさ。だって、彼は時計をたくさん持ってるんだからね」

 もちろんこれは冗談だ。多分。だがレース当日、デイトナ・インターナショナル・スピードウェイの敷地内を歩けば、レースで勝ち取ったデイトナが持つ重みを肌で感じることができる。パドックではまるで羽を休める美しい小鳥のように、その輝くタイムピースが手入れの行き届いたレース関係者の手首に並ぶ。しかし本当にレースで使い込まれた1本は、見ればすぐにわかるはずだ。デイトナを勝ち取ったドライバーたちは、その時計をまるでロイヤルフラッシュをテーブルに叩きつけたような誇らしげな仕草で身につけているのだ。「どうだ、見てみろ!」と言わんばかりに。

 そしてまだその時計を持たないドライバーは、ひたすらにそれを渇望する。信じられないって? なら、彼らに聞いてみるといいだろう。

ドライバーであり、ロレックスのテスティモニーでもあるジェイミー・チャドウィック氏は、今年のレースのグランドマーシャル(特別な行事において、全体を指揮する役割を担う人物)も務めた。ここでは、筆者と話をしている。(photo credit: Rolex)

 ロレックスのテスティモニーであり、2025年のデイトナ24時間レースのグランドマーシャルを務めたジェイミー・チャドウィック(Jamie Chadwick)氏はデイトナでのレース経験はない。しかし2025年のル・マン参戦が決まっており、アメリカの24時間耐久レースにも強い興味を持っている。日曜日の朝、レースがクライマックスへと向かうなか、メディア向けの朝食会で彼女の隣に座った。国際的なドライバーたちが彼らの主戦場から海を越えてまでデイトナに挑む理由を尋ねると、彼女は少し考えた後にこう答えた。「やっぱり時計だと思う。本当に、それが大きな理由のひとつだと思うのよ」

 チャドウィック氏はキャリア初期の大きな成功を収めた際、自分自身へのご褒美としてロレックスを購入した。F1チャンピオンのジェンソン・バトン(Jenson Button)氏もかつて、私のインタビューで同じような話をしてくれた。彼はF1初勝利の記念に、自分と父のためにデイトナを2本購入した。厳密に言えばレースで勝ち取ったものではないが、プロのドライバーたちは独自の武士道とも言える価値観を持っている。デイトナは勝ち取らなければならないのだ。チャドウィック氏との朝食を終えた後、私はコースを見下ろすスタンドへと向かった。9度のル・マン優勝を誇るトム・クリステンセン(Tom Kristensen)氏への正式なインタビューを控えていたが、その前に、彼がひとりで座り、イエローフラッグの解除を待ちながらデイトナ24時間レースの最後の2時間に備えている姿を見つけた。

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トム・クリステンセン氏がデイトナのコースをメディアに案内している様子。(photo credit: Rolex)

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サーキットを周回するマシンたち。(photo credit: Rolex)

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トラックサイドでのメディアブリーフィングに応じるトム・クリステンセン。(photo credit: Rolex)

 もちろん私は遠慮なく彼の隣に座らせてもらった(こんな機会があと何回あるだろうか?)。そしてレースのスタートを見届けた。ペンスキーのポルシェが先頭を走り、BMWのプロトタイプと激しいバトルを繰り広げていた。私はクリステンセン氏に「ここでレースをしてみたいと思ったことはあるか?」と尋ねた。彼曰く、彼の時代は契約の内容が異なり、アメリカのレースシーンも今とは違っていたと説明した。結局クリステンセン氏はデイトナで走ることはなかったが、“ミスター・ル・マン”はすかさずこう指摘した。彼はデイトナの姉妹レースであるセブリング12時間を6度制している、と。

 彼はロレックス デイトナを巻いた手首を上げ、眉をかくような仕草を見せた。まるで「察してくれよ?」と言わんばかりに。そしてこう続けた。「ドライバーたちはいつだって激しい戦いを繰り広げてきた。そして何より重要なのは、勝てばこのタイムピースを手にするチャンスがあるということ。それは、どのドライバーにとっても特別な意味を持つことなんだ」

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メディア対応中のトム・クリステンセン氏。(photo credit: Rolex)

 もちろんロレックスの契約ドライバーたち(クリステンセン氏、チャドウィック氏、プルーエット氏、ヘイウッド氏、そしてバトン氏ら)は、デイトナでの危険なターン1での適切なトレイルブレーキングの話にさりげなく時計の話題を絡めるのが上手い。しかしレース後の勝者たちが集まる場では、ある興味深い現象が見られた。勝利の歓喜と混乱のなかで、オイスター コスモグラフ デイトナの存在は圧倒的だった。インタビューではそれがただ“ザ・ウォッチ”や“ロレックス”と呼ばれるだけで、誰も正式な名前を口にする必要がなかったほどだったのだ。

 「ときにはもうダメなんじゃないかって思うこともあった」。LMP2クラス優勝者のセバスチャン・ボーデ(Sebastien Bourdais)氏は、レース序盤の苦戦を振り返った。「でもこのレースはそういうものだ。ゴールにどうやってたどり着いたかなんて、誰も気にしない。そして個人的には、これで3本目になるけど…(勝つことの喜びは)決して色あせることはないんだ」。ノーメックスのスーツがまだシャンパンに濡れたままのボーデ氏は、この偉業を締めくくるようにこう語った。「ジョン(チームメイトのジョン・ファラーノ氏)のためにこの結果を持ち帰ることができて本当にうれしいよ。彼はずっと、このロレックスを追い求めてきたからね」

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ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツのローレンス・ヴァントール氏、フェリペ・ナスル氏、ニック・タンディ氏。昨年から続き、デイトナで連覇を果たしたチームのメンバーたち。(photo credit: Rolex)

 これこそが“腕時計”の特別な魅力だ。多くの時計は過去の栄光を物語り、モノクロの古い映像に刻まれた勝利を思い起こさせる。しかしロレックス デイトナは違う。その歴史は毎年新しく刻まれ、誰もがその栄誉を手にするチャンスがあるのだ。今年の優勝者たちに時計が授与されて紙吹雪の祝砲もシャンパンのマグナムボトルも尽きると、観客は徐々に去り、メディア関係者たちもレースレポートを書くために散っていった。

 フォード・マルチマチックのGTDプロクラス優勝ドライバーが、私の座っていたステージからゆっくりと降りてきた。彼はレーシングスーツの袖の上から時計を引き上げ、クラスプを留めた。そして腕を持ち上げ、静かに見つめる。ポリッシュ仕上げのデイトナのブレスレットが、まるでツートンのディスコボールのように太陽の光を反射していた。私は笑みを浮かべながら、その瞬間の気持ちを想像した。しかし私がそれを本当に知ることは、一生ないだろうとも思った。

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長い24時間の後の祝祭。(photo credit: Rolex)

 この世界では物質的な価値が大きな意味を持つのは確かだ。しかしレースで勝ち取ったロレックス デイトナはそれ以上のものを象徴している。それが語るのはシンプルな真実。つまりアメリカで最も過酷なレースを終えたとき、腕にデイトナを巻いている者と、そうでない者の2種類しかいないということだ。

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