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Business News スイス発の新興オークションハウス、独立時計師の販売に“追及権”の概念を導入へ

【ニュース】フィリップスおよびリシュモンの元幹部が立ち上げたマルトー&カンパニーは、自社のオークションプラットフォーム上で時計が販売された際、独立時計師に対して直接報酬を支払う仕組みを導入した。

スイス独立時計師界の若き王者、レジェップ・レジェピ(Rexhep Rexhepi)氏が初めて時計を売るまでには長い時間がかかった。その後も、彼の卓越したウォッチメキング技術がコレクターたちに評価され、正当な価格で取引されるようになるまでにはさらに数年を要した。昨年ジュネーブで行われたオークションにて、彼のタイムピースが週末のあいだに数百万スイスフランで落札され、過去最高額を記録した。とはいえ、それらの時計は彼がまだ無名だったころにすでに顧客に販売していたものであり、どれほど高値で取引されようとも、レジェピ氏本人には一銭の利益も入らなかったのである。

Rexhep Rexhepi in his Old Town Geneva atelier. Image: Janosch Abel, for HODINKEE Magazine, Vol. 10

ジュネーブ旧市街のアトリエにて、レジェップ・レジェピ氏。Image: Janosch Abel, for HODINKEE Magazine, Vol. 10.

 というのも、イギリスや欧州連合、オーストラリアをはじめとする多くの国々において、現代アーティストに適用される“追及権(Artist's Resale Right、別名ドロワ・ド・スイート)”が、時計師には存在しないからである。この権利は、作品がギャラリーやオークションハウスを通じて再販売された際、画家や彫刻家などの視覚芸術家に対してその販売価格の一部を支払うことを保証するものである。つまり無名時代に低価格で販売した作品が、名声を得たあとにセカンダリーマーケットやオークションで高騰したとしても、時計師は自らの手で創り出した作品の利益から締め出されてしまうのだ。世界の多くの国ではこの不公平な状況を是正すべく、伝統的な芸術家に対して法整備が進められてきたが、時計師はこの補償制度の枠組みからは除外されたままである(なおアメリカやスイスはその例外として、そもそもこの種の立法が存在していない)。

 そして今、スイスを拠点とする新たなオークションハウスが、独立時計師にも利益を還元しようとしている。マルトー&カンパニー(Marteau & Co)は正式にローンチを迎え、彼らの時計がオークションで落札された際にその落札価格の3%を保証金として支払うと明言している。この新たなオンラインプラットフォームは、フィリップスの元幹部でありかつてHODINKEEのシニアエディターでもあったアーサー・トゥシェット(Arthur Touchot)氏と、A.ランゲ&ゾーネやジャガー・ルクルトなどで要職を務めリシュモンで15年のキャリアを積んだレオナール・ピケ(Léonard Pictet)氏によって共同設立されたものだ。「この業界全体に、より思慮深い仕組みを築きたいという共通の願いがあると我々は信じている。創造性を支えるための新たなシステムを、皆で築いていくべきなのだ」とトゥシェット氏は語る。

アーサー・トゥシェット氏(左)、レオナール・ピケ氏(右)。Photo credit Benjamin Banon

 マルトー社では独自の手数料体系が導入されている(なおマルトーとはフランス語で“ハンマー”を意味し、時計師と競売人の両方が使う道具でもある)。この新しい仕組みでは、落札者に課される手数料は20%に設定されており、これは主要な時計オークションハウスが通常請求する25〜30%よりも低い水準である。トゥシェット氏によれば、独立時計師に支払われる落札価格の3%は、この落札者手数料のなかから捻出されるという。出品者に対しては、時計1本あたり500スイスフラン(日本円で約9万円)の一律手数料が請求されるのみで、これは配送・取扱・保険費用をカバーするためのものである。たしかに、時計師に支払われる3%という数字は大きくないようにも思える。たとえば、落札価格が10万スイスフラン(日本円で約1820万円)の時計であれば、支払われる額は3000スイスフラン(日本円で約50万円)にとどまる。しかしこれは、EUや英国でアーティストに対して認められている二次流通市場での報酬体系と整合性が取れており、そちらでは段階的な割合が適用され上限はおおよそ1万2500ユーロ(日本円で約210万円)に設定されている。

 マルトーにおいて両者は、大手オークションハウスと真正面から競合するつもりはないと語っている。F.P.ジュルヌ、ロジャー・スミス、フィリップ・デュフォーの作品が常に出品され、当初の販売価格をはるかに上回る価格で落札されるような場とは異なる立ち位置を想定しているのだ。「我々の目標は、コレクターと時計師をつなぐこと。そして彼らが売る、あるいは買うという判断をする際に、それが時計師にとってよい影響をもたらす選択肢となるような場を提供するのだ」とトゥシェット氏は語る。この仕組みは、伝統的な表現媒体で活動する芸術家と同様に、手工芸的な時計師たちにも同等の保護や権利が認められるべきかという問いを投げかける。なお2020年12月、ユネスコは“機械式時計製造と機械芸術のクラフトマンシップ”を“人類の無形文化遺産”の代表リストに登録している。

 マルトー&カンパニーは、今秋に初となるオンラインオークションを開催予定であり、現在すでに独立時計師による作品の出品受付を開始している。詳細についてはこちら