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現代のレインボーウォッチの系譜がロレックスに始まったことは否定できません。
そして、その系譜が帰するところもまたロレックスである、と主張する時計愛好家やコレクターが大勢いることでしょう。
この記事のために、私は多くの時計愛好家に話を聞きました。ほとんどの方が、レインボーの土俵において、ロレックスの正当なライバルになれる時計ブランドはほかにないだろうと教えてくれました。デイトナ Ref.116598RBOWとRef.116599RBOWによってレインボーの波が巻き起こったのは2012年でした。2018年にエバーローズゴールドのRef.116595RBOWが発表されると、レインボー愛好家はさらに広まりました。この時計は、その煌びやかさと華やかさで、マイリー・サイラス(Miley Cyrus)からジョン・メイヤー(John Mayer)まで、あらゆる人を鷲掴みにしてきました。
それはある意味で理に適っています。ロレックスは、さまざまな意味で業界の舵取りを行っているからです。それでも主要時計ブランドのほとんどがそれに追随して虹色に包まれることになるとは、誰も予想していなかったと思いますが、それが2022年に生じたことでした。ゆっくりと生じ、一気に変わる、というのは時計デザインの世界ではよくあることです。12月(おそらく実際には12月より前)には、レインボーは、その年を決定づけるデザインの動向として、はっきりとその名を知らしめることになったのです。
まずは、ちょっとした歴史から
ここで、前後の文脈やレインボーがなぜ重要なのかを理解するために、まずは経緯を説明しましょう。
ロレックスのレインボーの歴史は1980年代のチェリーニモデル(写真下)にまで遡ります。ですがレインボーの本当の青写真、この分野全体の原型となったものは、レインボ ーデイトナです。レインボーの真の祖先を探求してみたければ、Ref.6269とRef.6270をご覧になるときでしょう。どちらも非常に希少で、宝石をあしらった男性的な時計へのニーズを探るために作られたものと思われます。これは80年代のものであり、将来の宝石使用の実験に向けた下地作りという意味で眺めてみても興味深いものです。
ベイエリア在住の時計専門家であり、オンラインのオークションサイト「Loupe
This」の共同設立者でもあるエリック・クー(Eric Ku)氏は、以前販売したことがある変わったデイトナについて最近教えてくれました。90年代に作られたもので、もともとは中東の顧客の依頼によるものでした。レインボーが全体的に非常に流行していることを考えると、かなりワイルドな元祖レインボーと言えるでしょう。
レインボー デイトナは当初、あからさまな敵意や暴力的とも言える反応を向けられました(2018年のバーゼルワールド発表のコメント欄をご覧ください)。そして、私はこれを理解しました。時計業界に入る前、私は虹色の宝飾品を絶対的に嫌っていました。その人気は悪名高いRef.116595RBOWとちょうど軌を一にして高まりつつあり、ステファニー・ゴットリーブ(Stephanie Gottlieb)氏やジェシカ・ビアレス(Jessica Biales)氏といった著名な宝石デザイナーが虹色のテニスブレスレットやネックレス、指輪…何でもかんでも虹色の物を作っていることに強い嫌悪感を抱いていたのです。私にとってはあまりにも派手で、うるさ過ぎました(私をご存じの方なら笑われると思います。私のスタイルは何もかも控えめで、イエローゴールドが大好きと言えばおわかりのはずです)。それから数年後、私は初めてレインボー デイトナを手にしました。その瞬間レインボーは私にとってまったく別物になったのです。もはやレインボーはロレックスでした。見なかったことにはできませんでしたし、そうしたくもありませんでした。
先日マイアミバーゼルで行われたコード11.59スターホイールの発表会で、ジョン・メイヤー(John Mayer)氏がフランソワ・ヘンリー・ベナミアス(François-Henry
Bennahmias)氏とベン・クライマー(Ben Clymer)とのディスカッションで発したコメントが印象的でした。ジョンは、「時間が経つにつれて好きになるような時計が好きなのです」と語りました。気持ちを変えられるのが好きなのだそうです。そしてまた、専門家やブランドを支えている人々によって時計への気持ちが変えられることの多さについて説明しました。この言葉は、レインボーという文脈で私の心に響きました。
当初、レインボーデイトナを嫌いになりたいと思っていました。ですが間近で見てその職人芸の質とサファイアの完璧なグラデーションを見て、試着し、オークションのプレビューで幾多のヴィンテージ専門家とお話をして、単純に惚れ込んでしまいました。
これはいかなる意味でも気軽に買える時計ではありません。レインボーとは、時計用語では、一般的には宝石を嵌め込んだ時計のことで、非常に限定的なものであり、つまり非常に収集対象になりやすい時計であることを意味します。時計収集家にとって、限定生産品ほど魅力的なものはないでしょう。エリック・クー氏は、この時計をお金持ちの“究極のステータスシンボル時計”と呼びましたが、まさにそのとおりです。
価格をさておき、レインボーウォッチへの賛美や全体的な評価の高まりに注目すると、もっと欲しい、もっと楽しみたいという気持ち、そしておそらくは、もっと性別に関わらないものを求める気持ちの現れなのでしょう。極めて男性的と捉えられていたデイトナのモデルに、全面的に宝石をあしらった時計が登場したのです。これは男女のデザイン規範の交錯であり、ジェンダー中立的なハイブリッドだったのです。
もし、ジェムセッティングに興味がおありであれば、これは宝石職人の伝統的基準で、本当に最上級の部類に属するものです。私は友人の宝石デザイナー、サラ・イサベル・ダイン(Sarah Ysabel Dyne)氏とこれについて話しました。彼女はセントラル・セント・マーチンズで宝石デザインの学位を取得後、GIAで宝石学の学位を取得し、ニューヨークの宝石デザイナー、ロレイン・シュワルツ(Lorraine Schwartz)のもとで勤務した経験があり、宝石について熟知しています。しかし時計には携わっていないため、宝石について語らせるには最適の人物です。彼女は、「サファイアは通常、鮮やかな色を出すために熱処理を施します」と言いました。
ロレックスは天然石を調達し、手作業で選別し、サイズに合わせてカットしています。ここから、真剣に取り組んでいることがわかります。ダインは、「サイズに合わせたカットは素晴らしい」、「宝石をここに使うことには大賛成です」と言いました。時計に宝石を嵌め込むのは簡単なことではありません。グラデーションにぴったりと合うよう、色付きの宝石は最大90%が廃棄されるのです。そして、この作業はすべて自社で行われています。
なるほど、それがロレックスなのですね。Okay, so that's Rolex.
ウブロとオーデマ ピゲは、宝石をあしらった、若々しく、楽しく、そして現代的な時計の作り方を知っているブランドです。レインボーは彼らのブランドの現在の遺伝子からかけ離れたものではありません。そこにアクアノート・ルーチェ・レインボーを発表したパテックが加わるというのは、驚きでした。それは競争の水準が上がったことを意味するものでした。パテック
フィリップがレインボーを作るということは、賭け金が上がったということです。
今年生じたのは、時計の世界でも色が通貨として使われるようになったということです。厳密にはレインボーではない時計も、明るい配色に影響されているようです。例えばムーンスウォッチがそうです。しかし、色彩の使い方がより保守的なブランドであるIWCでさえ、色彩を通貨とするこの競争に参加しています。IWCは今年初め、マイアミ・グランプリの開催期間中に、鮮やかなターコイズブルーのF1ウォッチを発表しました。
そして、宝石を嵌め込んだオンブレのダイヤルがあります。特に、新しいオメガ シーマスター ダイバー300M ジェームズ・ボンド60周年 カノープスゴールドは、ジャマイカの国旗に敬意を表し、同国のイアン・フレミング(Ian Flemming)の家にちなんで作られた時計です。パテック712/1R-001は、ベゼルの周りにコニャック色のスペサルタイトを使用したツートンカラーのグラデーションが施されています。宝石の色はケースやブレスレットのローズゴールドとうまく調和し、リッチで温かみのある印象で、厳密なレインボーよりも中立的です。そしてもちろん、ロレックスのオイスター パーペチュアル ヨットマスター40も忘れてはなりません。こちらもベゼルに4色のサファイアとダイヤモンドを配し、完全なグラデーションではありませんが、目を引く色の組み合わせになっています。
PVDコーティングを施したものまでレインボーの定義に含めると、かなり充実したリストとなります。
我々のお気に入りのレインボーから数点
私にとっていちばん響いた商品はアクアノートです。レインボー デイトナから王座を奪える時計があるとしたら、バゲットカットされたダイヤモンドとサファイアが嵌め込まれた透明なベゼル、マザー・オブ・パールに切削の施されたダイヤル、多色のバゲットカットされたサファイアの時刻目盛りなどを備えたこの一品です。この時計はすでにクリス・ジェンナー(Kris Jenner)が着用しており、カーダシアン(Kardashian)一家に対するご意見はともかく、この時計は注目の的であるということです。
「パテックは流行に乗ったわけではないと思います」と、サザビーズの副社長で時計部門のスペシャリストであるリー・ザゴリー(Leigh Zagoory)氏は言います。ザゴリー氏は、「パテックは、もっと多くの女性を巻き込もうとしたのでしょう。アクアノートでそれを試みたのは懸命でした。ノーチラスとアクアノートの熱狂が沈静化しつつあるとはいえ、どちらもひと目でそれとわかる時計です。ロレックスにとってのデイトナと同じようなことです」。これは、パテックはもっと女性に人気のある現代的な時計を作ったほうがいいという私の主張と非常に重なるところがあります。「控えめなのがいいんです」とザゴリーは言います。「それほど重厚でもなく、それほど派手でもない。もっとカジュアルな状況でも着けられますし、ストラップを変えればもっと控えめな感じにできます」
時計販売業のゾー・アベルソン(Zoe Abelson)氏も気に入っています。人気のある自身のインスタグラムアカウントでこの時計について投稿したあと、私に「特別で、いい意味でパテックらしくありません」と教えてくれました。「以前のようにグランドコンプリケーションやドレスウォッチに力を入れず、誇大広告のスポーツウォッチを売ろうとするなら、せめて面白いものを作ってほしいです」
一方、H.モーザーは、ステンレススティールおよび5Nローズゴールドのストリームライナー トゥールビヨン レインボーを発表しました。SSはフュメダイヤル、ゴールドはベンタブラックダイヤル、そして6時位置のフライングトゥールビヨンと、あらゆる手を尽くしています。さまざまな工夫の凝らされた時計ですが、なぜか、ほとんど…控え目ともいえる外見を実現しています。美しい作品です。一流品です。
49mmの巨大なウブロMP-09 トゥールビヨン バイ・アクシス・カーボン・レインボーは、私には決して着けられませんが、宝石を用いていないレインボー時計という点で注目すべきです。この時計は、レインボーをテーマとするケースを、炭素複合材を通すという厳格な工程で作り、その隙間を埋めるために色つきの炭素棒を挿入しています。核心的な素材を用いたレインボーなのです。同様に、ゼニス デファイ エクストリーム フェリペ パントーンは、PVD被覆を施されたレインボーのローター積算計と針で、メタリックな虹色のグラデーションを表現しています。3時位置には30分積算計があり、グラデーションの効いた小さな虹色メモリを採用し、さらにレインボーの彩りを添えています。
一方、オーデマ ピゲはレインボーのイメージを一新し、10個の宝石を嵌め込んだロイヤルオークを37mmと41mmのふたつのサイズで発表しました。この時計はホワイトゴールド製、均一性を保つためにすべて手で選定しカスタムカットされたバゲットカットの宝石約800個(41mmは179のサイズで合計861個、37mmは153のサイズで合計790個)が嵌め込まれています。どうやら、レインボーベゼルだけでは物足りなくなってきたようで、宝石を嵌め込んだ時計をずらりと並べるとレインボーが作れる、というのが新たな王道のようです。手が届く人はなんと幸せなことでしょう。
続いてのオーデマ ピゲのレインボーモデルは、ロイヤル オーク オフショア オートマティック ミュージックエディションです。オーデマ ピゲと音楽界とのつながりに敬意を表し、タペストリーのダイヤルにはイコライザーの模様が描かれています。ベゼルにもカラーストーンが嵌め込まれ、イコライザーのモチーフは虹色に輝いています。
今回ご紹介するオーデマ ピゲのレインボーモデルの最後を飾るのは、私個人が所有する今年のレインボーの時計、キャロリーナ ブッチ 34mm ブラックセラミック レインボーダイヤルです。ダイヤルは一見すると黒く見えますが、よく見ると光の加減でさまざまな色に反射するスペクトラムタペストリー効果が現れています。34mmの時計にセラミックの黒とささやかなレインボーの組み合わせは、天国のように感じられます。
おわりに
おそらくザゴリーが言ったとおり、パテックはアクアノートで女性に遡及しているのでしょう。しかし改めて言いますが、この時計は39.9mmと、多くの女性、そして多くの男性にとっても、大きなサイズです。この事実と、初代レインボーデイトナの性別を超えた魅力から、私は2022年モデルのレインボーは万人向けに作られたものだと思います。この直感を確かめるため、私はウブロのCEOであるリカルド・グアダルーペ(Ricardo Guadalupe)氏にどう思うか尋ねてみました。なにしろ、彼のブランドのレインボーモデルはひとつだけではないのです。さらに、昨年のウブロ クラシックフュージョン 村上隆サファイアもあります。
グアダルーペは、「そうですね、レインボーでは、当社の売り上げは50%が男性で50%が女性です」と教えてくれました。私はこの統計に感銘を受け、さらに、ウブロ全体の売上の25%が女性であるという事実に衝撃を受けました。49mmという大きさのMP-09 トゥールビヨンは明らかに男性用で、しかも売れ筋を狙ったものですらありません。「この作品は、当社の事業収益を変えるものではありません。8本しか製造されないのです。話題性のある作品です」と彼は語りました。
そして皆さん、これこそが各ブランドがレインボーモデルを作り続ける理由なのです。会話から取り残されたい者はいません。
「すべては循環しています」と語るのは、レインボー デイトナを所有し、2018年にHODINKEEで熱狂的な着用レビューを書いた元HODINKEE編集者のカーラ・バレット(Cara Barrett)です。「ファッションと同じです。時計もまったく同じで、一方が盛り上がれば、もう一方は盛り下がる。そして死んでしまう。そして10年後に復活する。そういうものなのです」
レインボー万歳。2022年、そしておそらく2032年の流行のデザインは、レインボーだと思います。
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