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Interview パルミジャーニ・フルリエの新CEOグイド・テレーニが考えるブランドの価値

ブルガリ時計部門のトップを務めた人物が見出す、修復を手掛ける時計ブランドの真の価値とは?

HODINKEE読者であればご存知の方も多いだろうが、 パルミジャーニ・フルリエの新たなCEOに就任したグイド・テレーニという人物は、以前ブルガリの時計部門トップを務めた大物である。ウォッチメーカーとしてのブルガリを確立した立役者であり、それだけに今回の転身には業界関係者が騒然とした。一大メゾンからコアなハイエンドウォッチメイキングを続ける独立系ブランドへ。まったく特性の異なるフィールドを選び、何を思うのか尋ねた。

パルミジャーニ・フルリエで働く時計師たち。

関口 優(以下、関口)

 パルミジャーニ・フルリエというブランドについて、参画される前と後で抱いた印象を教えて下さい。

グイド・テレーニ氏(以下、グイド)

 私は25年間この時計の世界にいますが、 パルミジャーニ・フルリエの時計づくりにはとても関心をもっていました。そして、いざ内部に入ると、その技術力の高さに驚き、根底にある「修復(レストレーション)」(編注※ブランドの創設者であるミシェル・パルミジャーニは、修復師としてそのキャリアの大半を歩み、このブランドも時計修復事業からスタートしている)というものがどういったものなのか、理解したのです。修復という仕事には、クラフツマンシップやウォッチメイキングにまつわるスキルなどのすべてが詰まっています。例えば、30年代の時計のオリジナルのネジが無くなってしまった場合、長い時間をかけて代わりのものを作りだします。ミスは許されないという世界です。間違いを犯してしまうと修復が価値のないものになり、ブランドの魂に関わってしまいます。

関口

 設計図もないようなものを、その時計に合わせてパーツを作り出すわけですね。技術力はもとより、創造性が求められそうです。

グイド

 まさにそうです。この作業には、アートのような部分があります。私は、生きる伝説ともいえるミシェル・パルミジャーニ氏に会い、ともに過ごすことで深い感銘を受けました。彼がやってきたことは、手元にあるものに魂や技術のすべてを注ぎ込んで、未来を与えるという仕事です。つまり、オリジナルのクリエイションを修復するということで、修復師本人は自分自身を隠す必要があります。それは俳優のように、歴史上の人物を演じるようなもので、機械式時計づくりにおいては難しいことといえます。こういった、パルミジャーニ・フルリエの価値を最大化し、エンドカスタマーに可視化できるようにすることが私の課題です。

古い懐中時計を修復する様子。

関口

 エンドカスタマーをリードするには、どういったアプローチが必要だと思いますか?

グイド

 世界は急速にそのスピードを増しています。デジタライゼーションによって、パッションのある人はより情報を求めるようになっていますが、彼らに対して深く知ってもらえるようなコミュニケーションが必要だと考えています。SNSでのタッチポイントも大切だとは思いますが、エデュケーションの機会を生み出して、ブランドがもつ真の価値というものを伝えていくことが重要ですね。

関口

 グイドさんが思う、パルミジャーニ・フルリエの具体的な価値はどんなところでしょうか?

グイド

 昨年、ユネスコ(UNESCO/国際連合教育科学文化機関)無形文化遺産に認定した、技術力そのものがパルミジャーニ・フルリエというブランドです。私は前のブランドで、パルミジャーニ傘下にあるサプライヤーにクライアントの立場として関わっていたが、その仕上げのレベルに驚き、尊敬していました。こうした企業が傘下にあることは幸運です。プロトタイプひとつ作るのにも、ものすごくクイックにできるのです。

関口

 時計製作のスピードが、他のブランドと比べて早いということでしょうか?

グイド

 とても早いと思います。当初は、ミシェルさんひとりでスタートしたブランドですが、今は傘下のヴォーシェ・マニュファクチュールや他のメーカーとともに作り上げることででき、かなり強固な基盤となっているといっていいでしょう。ケースメーカーであるレ・アルティザン・ボワティエ(LAB)などにも訪問しましたが、ラ・ショー・ド・フォンの工房と、ダイヤルやあらゆるサプライヤーが一丸となっており、パーツが揃うスピードが段違いです。通常は、サプライヤーに発注したパーツが揃うのを待つことに時間がかかり、そこからプロトタイプを組み上げるのですから。時計のデザインをして技術的な設計を行い、ケースやダイヤルのすべてが一箇所に集約されている状態は、商品を進化させるためにこの上ない環境といえます。

成形されていくヒゲゼンマイ。

ダイヤルが製作される様子。

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ミシェル・パルミジャーニ氏。

関口

 グイドさんは以前のブランドで毎年のように新しいムーブメントを送り出してきましたが、パルミジャーニ・フルリエでそのようなプランはありますか?

グイド

 すぐに新しいものを、というのは不可能だと思いますが、そういう構想もあります。前のところでは、18年間かかって開発したものもありましたが、パルミジャーニ・フルリエではより早く製造することが可能です。全体のコンセプトと合わせて考えていきますが、近い将来新しいものがお見せできるでしょう。

関口

 パルミジャーニ・フルリエにとって、日本という市場はどのように捉えているのでしょうか?

グイド

 大きな可能性があると思っています。日本は繊細な製品を期待している人が多くいる国で、品質やエレガンス、細部への追求というものが好まれます。我々がこれまで築き上げてきたものは、こうした人々へのアプローチが可能にしてくれるでしょう。パルミジャーニは、大勢の人のためのものではなくニッチなブランドですが、他と違ったものを求めている人にとっては最適だと思います。

昔のマスターピースを修復するということは、自分の存在はそこから消えるということだ

– パルミジャーニ・フルリエCEO グイド・テレーニ氏
関口

 グイドさんがパルミジャーニ・フルリエの時計で一番のお気に入りは何でしょう?

グイド

 難しい質問ですね。昨年のGPHGにてイノベーション賞を受賞した、トンダ ヒジュラ パーペチュアルカレンダーは修復の経験があるからこそできた、素晴らしい時計だと思います。異なる文化における時間の読み方には多様性を感じました。非常にインパクトのある時計です。ただ、最もお気に入りの時計というと、今着用しているトンダグラフ GTになりますね。ブランドにとっても今後の柱となるコレクションで、今年はバイカラーダイヤルも追加されます。まさに進化しているところで、その過程をお見せできるでしょう。

関口

 最近は昔の時計が復刻されることも増えていますが、そういったモデルが登場することも考えられますか?

グイド

 過去の時計は、インスピレーションの源ではあるものの、そのまま作るということはしません。レプリカを作るのはつまらないでしょう。レストレーションにおいて深い歴史があるということは、他がやりたくてもできないものをもっているということ。つまり、未来に向かっていく形で、時計づくりをしていきたいと思っています。修復とは、人生を未来につなげていく役割がありますから。

グイド氏がお気に入りの時計のひとつであると答えた、トンダ ヒジュラ パーペチュアルカレンダー。(写真提供:The Naked Watchmaker)

トンダ ヒジュラ パーペチュアルカレンダーのケースバック。(写真提供:The Naked Watchmaker)