※本記事は2014年11月に執筆された本国版の翻訳です 。
パテック フィリップが2011年に発表したRef.5270 パーペチュアルカレンダー クロノグラフは大きな話題となった。
この複雑機構がパテック フィリップのカタログに掲載されたのは1941年以来であり、我々がこのシリーズを徹底的に調べた結果、これがブランドにとって最も重要なモデルのひとつであることを突き止めたのだ。ヴィンテージ、現行を問わず、パテックのパーペチュアルカレンダー クロノグラフは、あらゆる腕時計のなかで最も熱望され、コレクターも多い存在だ。時計オークションのカタログの表紙をこれほど多く飾った時計はほかにないという事実が、その収集性と幅広い魅力を証明している。Ref.5270の登場は、パテック初の完全自社設計・製造のムーブメントを使用したパーペチュアルカレンダー クロノグラフという点で注目に値するものだった。そのようなアイコニックな時計だけに、期待値も最高潮に達した。
読者諸兄と同様、私もそのリリースを心待ちにしていた。2005年にパテックが初の自社製クロノグラフムーブメントを搭載した完全無欠のRef.5959Pを発表してからずっとだ。パテック フィリップは、複雑機構のなかでも最も複雑な機構、スプリットセコンドクロノグラフに挑み、革新的な技術を詰め込んだまったく新しいデザインを生み出した。その結果、世界最薄のスプリットセコンドのコラムホイール式クロノグラフムーブメント、Cal.27-525PSが誕生し、文字どおり時計界を驚嘆させた。これはRef.5950Aにも採用されている。
パテックは初の自社製クロノグラフを発表するのが比較的遅かったが(ちなみにロレックスは2000年に完全自社製クロノグラフを発表している)、覇者として侮れない存在になることは明らかだった。案の定、Cal.27-525はパテックの自社製クロノグラフ攻勢における最初の一撃となった。翌年、パテックは初の自動巻きクロノグラフムーブメントとなる自社設計・製造のCal.28-520を発表した。このムーブメントは、まったく新しい垂直クラッチ式を採用したRef.5960P アニュアルカレンダー・クロノグラフに搭載され、のちにノーチラス クロノグラフ Ref.5980にも展開された。
3年後の2009年、パテックはCal.29-535PSを発表した。このムーブメントはヌーベル・レマニアをベースとした手巻きクロノグラフ、Cal.27-70 CHに代わるムーブメントであり、1986年以来パテックが使用してきた。それまでCal.27-70 CHはRef.5070クロノグラフに使用され、Ref.3970、のちのRef.5970パーペチュアルカレンダー クロノグラフのベースキャリバーであった。当初Cal.29-535はレディスのRef.7071 クロノグラフに搭載されていたが、2010年、Ref.5070に代わる新しい紳士用クロノグラフ、Ref.5170に搭載されることになった。
熱狂的なファン、コレクター、業界関係者が待ち望むなか、パテックは2011年、ついにCal.29-535PSをベースにしたまったく新しいパーペチュアルカレンダー クロノグラフ、Ref.5270Gを発表した。奇しくもこの年は、パテック初のパーペチュアルカレンダー クロノグラフ、1941年発表のRef.1518の発表70周年でもあった。
Ref.5270のダイヤルレイアウトはRef.1518の直系モデルであることを反映しており、Ref.1518、2499、3970、5970といった先代モデルのほとんどの表示をそのまま受け継いでいる。ほかのモデルと同様、Ref.5270も12時位置に曜日と月、6時位置にデイト表示とムーンフェイズ表示、3時位置にクロノグラフの30分積算計、9時位置にスモールセコンドを備えている。
いくつかの重要なダイヤルの違いが、Ref.5270を先代モデルから差別化している。最も特徴的なのはスモールセコンドと分積算計がダイヤル中央の水平軸より下に配置されていることだ。これは、現在および将来の偽物を簡単に識別するための対策だと考えられている。またそれと同時にパテックにとっては厄介なものとなった。Cal.29-535PSでこれらの針の位置が変更されたことで、Ref.3970/5970のために開発されたパーペチュアルカレンダーモジュールは時代遅れになってしまったのだ。まったく新しいモジュールが必要となり、パテックは開発に2年を費やすこととなった。
視認性を向上させるため、Ref.3970と5970にあったデイナイト表示とうるう年表示が3・9時位置のインダイヤルから取り除かれた。その代わりに、1981年に発表されたRef.3450 パーペチュアルカレンダーでパテックが初めて採用したうるう年用開口部からヒントを得て、6時位置のデイト表示とムーンフェイズ表示のインダイヤルの左右に小さな開口部が設けられた。デイナイト表示は24時間のあいだに、一面ホワイトからブルーへと連続的に変化し、前者は昼間、後者は夜間を表す。
Ref.5270の発表以来、登場したダイヤルは3種類。最初のバリエーションはRef.5270G-001で、Ref.5970のダイヤルにあったタキメータースケールが廃止された。スプリットセコンドクロノグラフを搭載し、現在は生産終了となっているRef.5004のパーペチュアルカレンダーのダイヤルと同様に、外周にはクロノグラフ用のセコンドトラックと1/5秒刻みのインデックスが配されており、各分位置にマーカーがない。外周のセコンドトラックのすぐ内側には、レイルウェイ式の閉じたミニッツトラックが描かれている。最後にインダイヤルの位置が低くなったことでダイヤル上半分に余裕ができたため、12時位置の“PATEK PHILIPPE”のブランドネームのフォントサイズはRef.5970よりも大幅に拡大された。針とアプライドアワーマーカーは酸化処理されたブラックゴールドである。
2011年に発表されたRef.5270G 001は、現在生産終了している。
2013年末、パテックはRef.5270G-001を生産終了とし、5270Gのダイヤル第2弾を発表した。シルバーオパラインダイヤルのRef.5270G-013と、今回A Week On The Wristで取り上げるブルーサンバーストダイヤルのRef.5270G-014である。針とアプライドマーカーはホワイトゴールド(WG)製に変更された。どちらも外周に沿ってタキメータースケールが再び導入された。そのすぐ内側には、クロノグラフ秒針と計時用分の両方に対応したオープンタイプのレイルウェイトラックリングが配置されている。スモールセコンドと30分積算計のインダイヤルは、クローズド式のレイルウェイ分目盛り付きに変更され、その中心には、きわめて繊細な同心円状のギヨシェ加工が施されている。
シルバーオパラインダイヤルのRef.5270G-013、2013年発表。
この第2世代の5270ダイヤルの最も賛否が分かれる特徴は、6時位置のクロノグラフ秒針とミニッツトラックのくぼみだろう。“アゴ”として知られるこのデザインは、インダイヤルの針をダイヤルのセンターラインの下に配置することで、デイト表示およびムーンフェイズ表示のインダイヤルを、アワーミニッツトラックのなかに下げざるを得なかったかのようだ。
これは私が忌み嫌うデザイン上の“特徴”であり、その理由を次に述べたい。性能と精度はクロノグラフ、特にパテック フィリップ製クロノグラフのレゾンデートル(存在意義)である。このくぼんだ部分は、クロノグラフ針が届かないセコンドトラックの区間となる。そのため、クロノグラフ針を27秒から33秒のあいだで停止すれば、肉眼で時間を正確に読み取ることはきわめて難しくなる。コレクターからは“アゴ”についての痛烈なコメントが数え切れないほど寄せられているが、美的感覚はさておき、もし5270を機能的なオブジェクトとして見るなら、私はこれをこのクロノグラフのダイヤルデザイン上の根本的な欠陥だと考えている。
精度について言えば、前述したとおりRef.5270のクロノグラフセコンドトラックは5分の1秒間隔で刻まれている。しかしRef.5270に搭載されているCal.29-535PSの振動数は2万8800振動/時で、これは8分の1秒という精度に相当する。この5分の1目盛りは、Ref.3970/5970に採用されているCal.CH 27-70の1万8000振動/時と完全に一致するため、振動数の上がったCal.29-535には、クロノグラフのセコンドトラックが8分の1秒間隔になっていることを望んだ。この点と“アゴ”は、私が失望したふたつの不調和なデザイン要素である。ほかの多くの人にとっては視認性が高く、バランスと対称性に優れたダイヤルのささいな問題点だろう。
幸いなことに、2014年の新作Ref.5271P(Ref.5270系初のプラチナケース、ブラックダイヤルバージョン)に採用された第3世代のダイヤルは、この“アゴ”を解消している。タキメータースケールとクロノグラフのセコンドトラックは分離され、12時位置の“PATEK PHILIPPE”のフォントサイズは大幅に縮小された。率直に言って、クロノグラフのセコンドトラックの5分の1秒間隔は是正されていないものの、これは最高のダイヤルである。Ref.5271Pのダイヤルデザインが、Ref.5270系のすべてのバリエーションのベースとなることを願ってやまない。
Cal.29-535PSQがあってこそ、Ref.5270は真価を発揮するといって過言ではない。
2011年に発表されたRef.5270は、パテックがムーブメントを他社に依存することの終わりを告げるものだった。このムーブメントは、5年の開発期間を経て2009年に発表された自社製クロノグラフ、Cal.29-535 PSをベースにしている。このムーブメントには、超薄型のスプリットセコンドクロノグラフ、Cal.27-525 PSのイノベーションが生かされており、ヌーベル・レマニアをベースにしたCal.27-70 CHの欠点を改善することが図られている。
クロノグラフ機構とは、“クラッチ”を介してムーブメントに連結され、作動するとクロノグラフの表示に動力を供給する独立したモジュールを指す。伝統的かつ美的観点から、パテックは水平クラッチ式のコラムホイールをベースとするクラシカルな構造を選んだ。これに代わる垂直クラッチはパテックが2006年に発表した自動巻きムーブメント、Cal.CH 28-520に採用され、Ref.5960/5980に搭載されている。垂直クラッチによる連結は効率性に優れ、クロノグラフのスタート、ストップ、リセット時に針のブレが少ないなどの利点がある。しかし大型の手巻きムーブメントに垂直クラッチを採用した場合、ブリッジの美観やレイアウトが損なわれてしまうことがある。
パテックは機能性、信頼性、性能に重点を置き、水平クラッチ機構の弱点に対処した。その解決のための彼らの知識基盤はこの上なく盤石であった。パテックには史上最高の手巻き水平クラッチ式クロノグラフムーブメント、ヌーベル・レマニア Cal.2310の改造を通じて豊富な経験があった。実際に月に行った初期のオメガ スピードマスターに搭載されていたムーブメント(オメガのCal.321)をベースに、パテックはCal.2310のパワーリザーブを延長し、脱進機を改良するために大規模な改造を施した。パテック製Cal.27-70CHに改良されたこのモデルは、Ref.5070 クロノグラフ、Ref.3970および5970 パーペチュアルカレンダー クロノグラフで素晴らしい性能を発揮した。
この比類なき経験をもとに新しいCal.29-535 PSはゼロから設計。特許を取得した6つの革新的技術が盛り込まれ、従来の水平クラッチ式クロノグラフに見られた弱点をほぼ解消している。これらの革新のハイライトは以下のとおりである。
1. 最適化された歯形: クロノグラフ機構の歯車には、特許を取得した形状の歯が使用されている。この設計はスプリットセコンド クロノグラフ Cal.27-525で初めて採用されたもので、針飛び(ジッター)をなくし、エネルギー効率を高め、摩擦を減らしてメンテナンス間隔の長期化に貢献している。
2. 機能的なコラムホイールキャップ: 超高級なクロノグラフには、特徴的なコラムホイールを覆う徹底的に仕上げられた“キャップ”がある。これはジュネーブ・シール取得に求められる機能であり、パテックでは1世紀以上にわたって一貫して採用されてきた。以前は単なる外観上の特徴だったが、Cal.29-535でパテックはコラムホイールのキャップに機能を与えた。つまりクロノグラフの輪列に噛み合うクラッチの正確な調整と貫通を可能とし、クロノグラフの性能の向上と組み立てとメンテナンスの簡素化を両立している。
3. 穴が設けられたミニッツカム: このカムの新しいスロットは、4時位置のリセットボタンを押すとクロノグラフ針がゼロに戻る際のブレを大幅に抑える役割を果たす。
4. クラッチレバーとブロックレバーの同期: 専門的なことは抜きにして、パテックはクロノグラフ秒針の針飛びを抑えるために、このふたつのレバーにシンプルなデザインを採用した。スタートまたはストップ時に、クロノグラフ針はあるべき位置で正確にスタートし、ストップする。
さらに、Cal.29-535PSには素晴らしい瞬間分積算計が組み込まれている。クロノグラフ秒針が60秒を超えると、3時位置の分針が瞬時に次の分へとジャンプするというものだ。見ていて実に楽しく、精密につくられた計器を所有しているという感覚を着用者に与えてくれる。
水平クラッチ機構の利点は、クロノグラフ機構がどのように作動するのかを正確に眺めることができることである。ブリッジはクラシカルな曲線で形づくられ、オープンで論理的なレイアウトになっている。仕上げは全体に見事で、目に見えるすべてのエッジ、ネジ、ネジ溝に手作業で面取りが施されている。
クロノグラフ機構の上部には、Cal.29-535の新構造に合わせて設計されたまったく新しいパーペチュアルカレンダーモジュールが搭載されている。182個の部品から成るこのモジュールは、直径わずか1.65mmときわめて薄く、直径は32mmで、29.6mmのベースのクロノグラフよりもわずかに幅広だ。ムーブメント全体の厚さはわずか7mmで、Cal.27-70CHよりも0.2mmほど薄い。
先代よりも正確なムーンフェイズ表示を搭載する本機は、122年に1日の誤差の精度を誇る。市場で手に入るもっとも正確なムーンフェイズとは言えないが(現時点ではランゲにその座を譲る)、かなり優れていると言える。
フィリップス巻き上げヒゲゼンマイと2万8800振動/時のジャイロマックステンプを備えた、きわめて高品質なフリースプラング調速機構がCal.29-535を制御している。Cal.27-70CHの1万8000振動/時を大幅に上回るため、直径の小さいテンプを使用しても高い精度が実現できるのだ。同社の “パテック フィリップ・シール”基準は、直径20mm以上のムーブメントに対して、日差-3秒〜+2秒の精度を要件としている。このモデルの精度性能は並外れていた。24時間ごとに巻き上げを行うテスト期間のあと、私がその性能を測定した4日間(平均日差+0.5秒)で観測された精度は+2秒(累積値)であった。
Cal.27-70CHのテンプと比べると、29-535のそれはかなり小径で、前者の8個の調整錘(おもり)に対して、後者はわずか4個である。個人的には2万8800振動/時のビートレートは慌ただしく、むしろ非伝統的な音に聞こえるので、よりロービートで大きなテンプのほうが好みだ。またテンプに設けられた錘がわずか4個というのも、このムーブメントを使用する時計よりも低価格で販売する時計に適したコスト削減策のように思える。
これらの些細な“へりくつ”はさておき、私はパテック フィリップが長期的な使用に耐えうる美しいクロノグラフムーブメントをつくるという、崇高な理想を実現できたと信じている。シースルーバック越しに見るこのパテック フィリップ自社製ムーブメントは実に見事で、一部の純粋主義者にとってはA.ランゲ&ゾーネの深みのある立体的なクロノグラフムーブメントよりも伝統的な構造が魅力的に映るだろう。
手首の上で1週間過ごして
直径41mm、厚さ12.4mmのケースサイズは、パテック最大級のパーペチュアルカレンダー クロノグラフである。Ref.5970で採用された凹形ベゼルと同様のステップ&フレア状ラグはそのままに、防水ケースはマスキュリンなバランスが取れている。ケース幅はRef.5970より1mm広く、0.6mm薄くなっている。このプロポーションは私の感性にぴったり。均整の取れたケースとカーブしたラグのおかげで、Ref.5270は私のやや小さめの手首(6.75インチ、約17cm)にほどよくフィットした。レクタンギュラーのプッシャーとリューズの配置も美しく中央に配置されている。総合的に判断して、私はRef.5270のケースデザインにA+の評価を与えたい。
広々としたダイヤルは視認性に優れ、目を引くサンレイ加工が施された華やかなブルーの色合いが美しい。すべての表示は論理的にレイアウトされ、ひと目で読み取ることができる。
クロノグラフのスタート・ストップ・リセットのプッシャーの触感は抜群で、これまで出合ったなかで最高のものだった。しかしこのモデルのプッシャーの抵抗感は、人によっては少し強すぎるかもしれない。クロノグラフを操作してみると、どの針にも針飛びやブレは見られなかった。クロノグラフ針はあるべきところで正確に止まり、リセットするときは、私の目には微動だにせず毎回完璧に帰零した。分積算計が瞬時に次の分へと正確かつ素早く進む様子は、見ていてとても楽しかった。その卓越した操作性能によって私ははっきりと理解した。パテックはCal.29-535で、最先端の手巻き水平クラッチ式クロノグラフムーブメントをつくり上げることに成功したのだと。
パーペチュアルカレンダーに関して、私は次のような表示の挙動を観察した。
- 曜日送り: 午後11時15分に始まり、午前12時3分までに完了する。
- デイナイト送り: 連続的
- 日付送り: 午後11時58分に開始し、午前12時23分までに完了する。
- ムーンフェイズ送り: 午前12時45分に開始する。
- 月送り: 午前12時25分に開始。
Cal.29-535をベースに特別に設計されたまったく新しいパーペチュアルカレンダー・モジュールでは、午前12時ちょうどに曜日と日付の表示が瞬時に切り替わるのが理想的だった。瞬間的なカレンダー切り替えは複雑性を要するため、パテックは計時精度と信頼性に悪影響を及ぼす可能性を考慮し、緩やかなカレンダー切り替えを選んだのだろう。私から見れば、気高さを感じるデザインの選択である。
パテック フィリップのパーペチュアルカレンダー クロノグラフは、そのリファレンスが持つ長期的な収集性を抜きにしては語れない。Ref.5270はその先代モデルとどのように調和するのか? この時計はまだ現役でもあり、パテックのリファレンスが生産終了になるまで盛り上がることはめったにないからだ。Ref.1518、2499、3970、5970は、それぞれにファンを持つ素晴らしい作品であり、生産終了という単純な事実が、長期的なコレクターにとっての望ましさを後押ししていると言える。
さらに過去のすべてのリファレンスの生産は、まずバルジュー、次にレマニアというように、外部のムーブメントサプライヤーからの供給によって制限されていた。我々は各リファレンスの生産数をおおよそ把握しており、これ以上生産されることがないことも知っている。ところがこの新しいリファレンスについては生産に関するすべての決定権をパテックが握っているため、そのようなことは言えない。しかしRef.5270は、この偉大な複雑機構の組み合わせのための初の自社製機構を搭載した重要な意味を持つ時計であると私は信じている。さらにこのシリーズ最大のケース径と複数のダイヤルバリエーションが加わり、この先、Ref.5270はきわめて収集性の高いアイテムになる可能性がある。Ref.5270-001(2011年発表、2013年生産終了)はすでにコレクター、特に“アゴ”を嫌うコレクターからの需要が高まっている。
さらに、現在のふたつのダイヤルオプションは、オリジナルの特大フォントのロゴを嫌った多くの人に喜ばれている。このレビューで見られるように、ブルーダイヤルはコレクターのあいだで好まれているようで、現在まさにこの時計を所有しているコレクターの友人の言葉を引用すると“ブルーダイヤルの登場で彼らは軌道修正を図った”のである。さらにパテックは昨年、ドイツの販売店だけのためにRef.5270Gを限定生産し、その個体はすでにオークションで販売価格よりも高く落札されている。そのためRef.5270にはマニュファクチュール以前のムーブメントの魅力が欠けていると言う人もいるかもしれないが、ハイエンドのムーブメント、大きなサイズ、ダイヤルのバリエーション(コレクターがこの時計のさまざまな“シリーズ”を定義することにつながるのは間違いない)、そしてRef.5270の全体的な魅力によって、この時計は何世代にもわたってきわめて魅力的な時計になる可能性がある。
結論
Ref.5270には愛すべき点がたくさんある。完璧なバランスと均整のとれたケースに収められた自社製ムーブメントが素晴らしい。正直なところ、私は新しいCal.29-535 PSについては懐疑的で、レガシームーブメントであるCal.27-70ほどは機能しないだろうと思っていた。しかしその性能と精度には実に感心させられた。
ダイヤルは広く、論理的にレイアウトされており、判読性も良好。Ref.5270G-013/014のダイヤルに見られる賛否が分かれる“アゴ”は、私が重大な設計上の弱点と考える唯一の問題である。公平に見てこれは個人的な好みに基づく批判であり、多くの人が反論するところかもしれない。そして新しいRef.5271Pのダイヤルがすべてのバリエーションに装着されれば、あるいは装着されたときに簡単に修正できる問題でもある。
Ref.5270は歴史的な美学と設計様式に現代的な技術的アップグレードを融合させた、現在スイスで製造されている機械式時計のなかで最高峰のひとつだと信じている。Ref.5270は先人たちに敬意を表する現代的な時計であり、この偉大なファミリーの聖火を受け継ぐにふさわしい時計である。
スペック表
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