trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

Hands-On ラルフ ローレンが867コレクションをアップデート。これは今こそあるべきドレスウォッチの姿だ。

アール・デコをそれほど深刻に考えずに、新鮮にとらえている。

ADVERTISEMENT

Photos by Tiffany Wade

 ラルフ ローレンはこんな時計をつくる必要はない。確かに“モールウォッチ”(ショッピングモールといったありとあらゆる場所で手に入る時計のこと)をつくるほうが簡単で、やりやすいかもしれない。しかし、RL(ラルフ ローレン)のスクエア 867 コレクションがアップデートされたことで、このモデルの本来あるべき、小振りかつ貴重なゴールド製ドレスウォッチの姿が再確立した。万人受けはしないかもしれないが、時計の世界では確実に存在感を発揮するだろうし、必要以上に優れたものになったのだ。

 867コレクションは2009年から歴史が続くスクエアウォッチだ。ケースサイズは28mmと32mmの2種類があり、そこからスターリングシルバーか18Kローズゴールドから素材が選べ、計4種類のバリエーションを展開している。今回、32mmのRGを手にすることができたが、試着してみた結果、私は28mmのシルバーがいちばんお気に入りになったかもしれない。その好みの琴線に触れるのは、コストの差もあるのだが、ほとんどはどちらのデザインが好きかということが大きい。スクエアウォッチは、スペックシートでサイズを見た数値を想像するより、思ったよりも常に少し小さく見積もったほうがいい。少なくとも私はそうしている。

ラルフ ローレン スクエア 867 コレクションのイメージ

 新しい867コレクションは、28mmのスターリングシルバーが8250ドル(日本円で約108万7000円)、32mmのシルバーは8350ドル(日本円で約110万円)、32mmのRGが1万7000ドル(日本円で約224万円)、28mmのゴールドは1万5500ドル(日本円で約204万1000円)と、決して安くない値段だ。どの時計にも言えることではあるが、ラルフ ローレン スクエア 867 コレクションは万人受けを狙ったものではなく、実はそれが楽しみのひとつでもあるのだ。

 ラルフ ローレンの時計は比較的新しい。ラルフ ローレンとリシュモンによるパートナーシップは、2009年に始まったばかりのため説明する価値があるだろう。ラルフ ローレンは、ファッションブランドがブランド名をライセンスアウトして、安いクォーツウォッチを大量に売りさばいてお金を巻き上げるようなブランドではない。ミニッツリピータートゥールビヨンハンドエングレービングを施したケースなど、ラルフは本格的な時計をつくっている。RLは、パートナーシップの立ち上げ時に867コレクションを発表した。それ以来、ブランドの基盤ラインとして機能している。

 867コレクションにインスピレーションを与えたであろう、ヨーロッパの時計にどことなく似ているように見えるが、これらはオマージュ作品とは言い難いものだ(そのなかには、デザイナーであるラルフ・ローレン氏個人の時計コレクションも含まれている。彼自身がRLウォッチのデザインに携わっているのは、単純に時計を愛しているからにほかならない)。

 数百年の歴史の重みがあるヨーロッパのブランドと比較すると、RLの製品は少し控えめな印象がある。ラ・メゾンのような大仰なタイトルの権威を守ることよりも、アール・デコのスタイルを、クールで新鮮に見せることに重きを置いているのだ。

ラルフ ローレン スクエア 867 コレクションのリストショット

 私の故郷であるシカゴから、アール・デコにちなんだ類推をご紹介しよう。しばしお付き合いを。867は石灰岩の外壁と取引フロアを持つ、自分本位な感じの直角で単調なシカゴ・ボード・オブ・トレード・ビルディングのようではなく、黒御影石と金箔のアクセント、そしてシャンパンボトルのような屋根を持つ、カーバイド & カーボンビルのような作品だ。

 867コレクションは明らかにアール・デコ調ではあるが、きちんとした規則正しいものではない。アラビア数字に大きなローマ数字を交互に配置した、温かみのあるラッカー仕上げのオフホワイト文字盤は、この時計で最も優れた部分と言える。ブレゲスタイルの針も、文字盤のフォントとのアクセントになっていていい感じだ。ベゼルからミドルケースにかけては段差があり、全体の厚さは5.7mmしかない。また手首に沿ってわずかにカーブが設けられているため、腕へのフィット感も良好だ。それでも30mの防水性は確保している。もしこの時計を身につけた日、それ以上に水に濡れることがあったら、何かがひどく間違っているということだ。

 すでにサイズについてすべて触れたが、私の華奢な手首(6.3インチ前後、約16cm)には32mmのスクエアケースは少し大きすぎた。ラグの張り出しなどは特になかったのだが、ラグ幅が28mmと、ケースとほぼ同じ幅のストラップだったため、その幅が私には少し大きく感じられた。アリゲーターストラップは、幅の広いサイズから始まり、16mmのバックルまで劇的にテーパード(細く)しているデザインだ。そう、およそ12mmものテーパードがあるのだ。ラグ幅が24mmの28mmスクエアケースであれば、私にぴったりだったのだろう。

ラルフ ローレン スクエア 867 コレクションのディテール
ラルフ ローレン スクエア 867 コレクションのケースサイド
ラルフ ローレン スクエア 867 コレクションのバックル

 だから28mmのシルバーが絶対によかったと思ったのだ。サイズもさることながら、私はシルバーの時計にも引かれてしまう。シルバーのブラックベイ58から、80年代の「マスト ドゥ タンク カルティエ」まで、シルバーのケースはまさに贅の極みだと思っている。メニューにあるデザートの欄を見ながらチーズケーキを一切れも食べずに、“何から切り分けようかな”と言っているようなものだ。

ホワイトゴールドケースにギヨシェ装飾を備えた、ラルフ ローレン スクエア 867 コレクションの旧モデル

ホワイトゴールドケース、文字盤にギヨシェを施した、先代の867。

 このアップデートが施される前の867は、SSケースでできた35mmのラインナップだった(ブランドは初期のスモールバージョンを廃止したようだ)。今回のリニューアルにより、867コレクションが以前の小さいサイジングに戻ったことで、まさにこの時計のあるべき姿になったように感じる。35 mmのSS製腕時計をブレスレットにつけたような、RLがここ数年位置付けていたSSウォッチの役割は決して意味がなかった。なぜなら我々は、すでにそのような時計を十分に所有していたからだ。

 中身のムーブメントは、超薄型のピアジェCal.430Pを搭載している。手巻き式で、2万1600振動/時でビートを刻む。ピアジェはリシュモンの子会社のため、このようなドレスウォッチに搭載されるべきムーブメントといえるだろう。

 ラルフ ローレンは表向きはファッションブランドであるから、867コレクションのデザインについてはさらに語る価値がある。一般的にファッションブランドは、過去数十年にわたって、時計製造とデザインを前進させてきたという点で、それ相応の評価を得られていない。ほかのファッションブランドウォッチ(手始めにシャネル、ルイ・ヴィトン、グッチなど)と同様、867コレクションは独自の道を切り開いている。

 この時計を見て、“ああ、ラルフがタンクをアレンジしたんだ、ちょっとかっこいいね”と思ってしまうのは不公平だ。というのも手首につけてみると、カルティエの「タンク」のようにはならないからだ。それよりも、もっとあからさまにアール・デコのスタイルだから、おもしろいのだ。

ラルフ ローレン スクエア 867 コレクションのリストショット

 時計に詳しくない人たちの周りでは、タンクよりも、質問責めにされたり褒められたりする。そして本当に時計に詳しい人たちの周りでは、なるほどねと尊敬のまなざしを向けられることだろう。

 実は、ラルフ ローレンの867を身につけている人は、自宅の時計ボックスのなかにすでにいくつか入っているのではないだろうか。事実867コレクションは、すでにカルティエを数本所持しているコレクター(アナ・ウィンター/Anna Wintour など)に向けられたものかもしれないし、それは何も悪いことではない。

ラルフ ローレン スクエア 867 コレクションのイメージ

 人生の半分をアメリカ中西部で過ごしてきた私にとってラルフ ローレンとは、地図上で起こっている、私の左側と右側でのすべての出来事について、常に願望を表してくれた存在だ。その名を冠したデザイナーは、郊外にウエスタン風の服を持ち込んで、都会の子供たちにカウボーイになる夢を抱かせると同時に、イーストコーストのプレップをも定義した人物だ。そして、その両方の世界を身近に感じられるようにもした。

 867コレクションはアール・デコを出発点(それとヨーロッパの古きよきラグジュアリーな雰囲気を漂わせながら)にし、それと同じような手法をとってきたのだ。