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Editors' Picks タイメックス アイアンマン〜初めての腕時計に立ち戻る

暗い伏線が張られた僕の原点となるストーリーを、温かな電気の光が照らし出す。

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1994年を振り返ってみよう。水中の世界、カメラ、プレイモービル、レゴ、そして暗闇で光るほぼ全てのものを含む、いろいろなものに夢中な幼い少年だった僕にとって、それは人生の重要な年であった。1994年は僕が初めて腕時計を欲しがった年でもあった。

 その年の初めに、僕は大きなジレンマに直面していた。それは、祖母にもらった誕生日祝いのこづかいをどのように使うかということ。もうすぐ8歳になる少年にとって、誕生日にもらうお金ほど魅力的なものはない。僕はその使い道を2つに分けた。1994年に出た大型犬のコメディの続編『ベートーベン2』を観たかったのと、当時はまだ新しいインディグロとよばれる機能の付いたタイメックスのアイアンマンが欲しかったのだ。

 1994年3月のある日、映画館への道すがら、僕は家族と一緒にBay(カナダの百貨店)に立ち寄った。祖母からもらった膨大なこづかい(それは$50に過ぎなかったが、カナダの8歳児の所持金でいうと上位1%に入っただろう)を握りしめ、僕は初めての腕時計を購入したのである。それは、かなり初期のインディグロを搭載したタイメックスのアイアンマン トライアスロンで、グレー地に黒の本体に、黒い樹脂製ベルトが付いていた。タイメックスは間違いなくトレーニング中のアスリート向けにデザインされたものであったが、僕はこの最先端のバックライト付きの小さな腕時計を手に入れたことが本当に嬉しかった。何年後かに僕は 『ベートーベン2』 のビデオを見て、その映画を懐かしく思うと同時に、暗い映画館で当時手にした青緑色のバックライトに終始夢中だったことを思い出し、そのことに驚いたのだった。

 インディグロ誕生後に出てきた時計に、これほどの懐かしさを感じることはないかもしれない。インディグロ以前は、デジタル腕時計のバックライトはダイヤルの端についている旧式の小さな電気で、暗い中でディスプレイ全体を照らし出すには明るさが足りないことが多かった。分かりやすい比較として、1993年5月のタイメックスの広告を(下記に)示そう。これは8000万から9300万人によって視聴者された『チアーズ』の最終エピソード中に放送されたもので、僕は見ていなかったのだが、その広告をホッケーの試合中に見て、相当影響されたことは覚えている。

 年を重ね、僕はやや人目を引くマジックテープのベルトの付いた初期のエクスペディションを含む、タイメックスの腕時計をたくさん所有することになる。それなのに残ったものは一つだけで、僕の幼少期のものが入った箱にしまってある(ツチボタル、ジュラシックパークのフィギュア、そして乏しい絵画力で描かれたサメの絵の写真を撮る僕の姿をクレヨンで描いた絵と友に)。ベルトは風化するほどに劣化してしまったが、電池を入れれば古いタイメックスも今度の(初めての)トライアスロンで使えるだろう。その腕時計がまだ動作することを受けて、初めての腕時計を、現在の物と比較すると面白いと僕は考えた。人気のあるオンライン販売業者のおかげで、僕はタイメックスのアイアンマンEndure 30 Shockを57.48カナダドル(現在の為替相場で~約4830円)で手に入れ、自分の初めての腕時計と比べて現代のモデルがどれほど進んでいるかを検証した。

タイメックスのアイアンマンを着用したビル・クリントン大統領(左、出典:Wikipedia)とアイアンマンを着用した幼少期のビル・クリントン氏(というのは冗談で、右は1994年8月に撮影された筆者、出典:母)。

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 僕のように、多くの著名人が人生の大切な場面でタイメックスのデジタル腕時計を着用してきた。その中にはビル・クリントン元大統領や新進レストラン経営者マーク・ウォルバーグ氏も含まれる。僕と同じじゃないか。さて、タイメックスのデジタル腕時計に関して、全てに当てはまることがある。それは、時間を示す現代技術としての一個体であり、製品としては今アツいものへの完全なアンチテーゼのように感じられるという点だ(僕がタイメックスのSupremeモデルを語ることはできない。もっと偉大な人たちによってそれは語られている)。ある意味で、これらは当時のApple Watchだったのだ(のちのページャー、現在のスマートフォン)。まだ子供だった僕は何も理解しておらず、ただ腕時計にボタンが付いていて、僕の腕に合うサイズで、友人たちの持っている腕時計よりもよく暗闇で光るということしか分からなかったのである。

 僕の持っている90年代初頭のモデルは正確に幅37㎜、厚さ11㎜、そしてラグからラグまで46㎜であり、軽量でとても着け心地がよかったのを覚えている。それは、長距離を走ったり、自転車に乗ったり、泳いだりするために設計されただけのことはあった。あれから25年が経ち、新しいモデルは、黒とグレーの外観とほぼ同じボタン配置(黄色vsオレンジの挿し色が入っているが)を維持しつつ、サイズが大きくなった。幅41.5㎜、厚さ15㎜にまで増し、そしてラグからラグまでの長さが48㎜にまで伸び、この型のフルサイズモデルとして位置付けられているのだ。

 新旧どちらも似たような画面と本体の比率をなようで、新しいモデルは確かに大きいが41.5㎜もあるようには感じられない。これは、時計本体の外縁の大きさに対して、画面の大きさが限られているためである。厚みが増したことの方が目立つが、それによって時計本体横のボタンが大きくなって使いやすくなった。18㎜幅の樹脂ベルトは昔のものと非常によく似ていて、Ironmanの紋章が配され、先がわずかに細くなっていて、金属製のピンバックルが付いている。現代のタイメックスのアイアンマンは腕に着けると消えてしまうようだ。視覚的には、本体の割にベルト部分が大きく見えるのだが、着用するとどのアイアンマンも全く出しゃばらないのである。その効果は現行モデルにおいてより顕著にみられ、それは大きな本体が腕にバランスよく合うようにできていてデザイン性の進化を示している。功績あるものには認めてやれ、タイメックスは抜かりない。

 驚くべきことではないかもしれないが、30年間のデジタル時計の革新的な発展の中で、タイメックスの一連の機能の大半はほぼ変わっていないのである。新しいモデルは古いものと同じ仕様で、GPSや特殊な充電方式やソーラー電池、歩数計や睡眠モニター、そしてBluetoothやその他相互接続機能を一切もたない。その代わり、日、月、そして日付が表示された時間表示、100時間クロノグラフ、タイマー、アラーム、別の時間帯との切り替え機能、そしてあのインディグロバックライトを含む不動の機能を備えている。 

 一方で、元々5つのボタンが配されていたのに対して、新しいものでは6つに改良された(これによってクロノグラフとそのスプリット/ラップおよびリコール機能がより簡単に)。同様に、第二時間帯の追加と共に、ラップメモリーに関しても僕の幼少期の頃のモデルは8ラップしかなかったのに対して、現代のアイアンマンは30ラップもメモリーがあり、防水性も当時の2倍の200mにまで増したのである。また、現代版の画面の方がわずかに大きいだけなのにも関わらず、別の機能に画面表示を変えるための操作が最小で済むようになっただけでなく、大きな文字表示が可能になり、メインの時間がより大きく表示され、何かをしている最中でも見やすくなった。

 古いアイアンマンはというと、ディスプレイパネルには緑色がかった虹色の仕上げ加工が施してあり、それは見た目が良いだけではなく、ディスプレイに大幅なコントラストが与えられている。まとめると、僕はどちらかが他方よりも使いやすとは思わないが、古い画面の日光に当たった際の緑色がかった輝きは好きだった。

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 これら2つの腕時計のもう1つの顕著な違いは、タイメックスが誇るインディグロバックライトの仕様である。古い型ではディスプレイ全体が均一に青く光った。新しいモデルでは、おそらく電力消費と、弱光でも見やすいという観点で、LCDの動作中の機能部分のみが光るのである(画面上の表示を構成している黒い線)。時計そのものとその見やすさを考えると、こちらの方がいいということは分かるが(特に、非常に暗い環境に目が慣れているという場合)、懐かしさという理由から、僕は古いモデルのカラフルな全画面点灯が好きなのである。

1994 インディグロ。

2019 インディグロ。

 25年の時を超えて2つの50ドルのタイメックス アイアンマンを比較した記事を読むためにHODINKEEを訪れる人は少ないと思うので、そろそろまとめに入ろうと思う。現代のスポーツ及びトレーニング用の腕時計として、アイアンマンは必要最低限の機能しかもたないが、パフォーマンス測定機能、外部接続機能、そして正確なGPS機能の充実した世界においてでも、それは不動のものである。さらに、インディグロや類似のバックライト機能が多くの腕時計に使用されるようになり、それが明らかに特徴的ではなくなってしまった中でも、タイメックス アイアンマンは文字通り存在感ゼロで荷物にならないという点と共に、日常的な着け心地の良さと運動時の機能を兼ね備えた、本当に手頃な価格設定の腕時計であるといえる。

この写真に写っているベルトはほぼテープ部分だけである。

 1994年当時、僕がアイアンマンを購入したのはライフスタイルに即した目的としてであったが(そして何年もDetroit Red Wingsのジャージと黒く短いジーパンにハイソックスというコーディネートの重要なポイントとしてその時計を着合わせた)、本当のところ、アイアンマンは腕時計界の食後のコーヒーのようなものである。それは機能的で、不朽のもので、高価でなく、そして高級腕時計やその他の腕時計のコンセプトと共存するもの―そして完全に無関心―なのである。タイメックスは信頼できる入門時計としての実力を保っており、暗闇で光る飾りが好きな細い腕の子供がいるのなら、ぜひアイアンマンを買ってあげて欲しい。それが将来どのように役に立つかは計り知れない。