Illustration by Andy Gottschalk
ポップカルチャーと時計の世界が交わるときがある。それは、ジェームズ・ボンドだ。1962年以来、世界中の映画好きは、007がその独特な魅力を満載してスクリーンで活躍する姿を目撃してきた。『007/ドクター・ノオ』はシリーズの基礎を作り上げ、以前は伝説的作家イアン・フレミングによるスパイ小説シリーズの主人公であったボンドを、ポップカルチャー界に導いた映画だ。タキシード、ウォッカ・マティーニ、“ロマンス”への嗜好、そしてもちろん時計がこの映画を彩る。ボンドはこの映画初登場作のなかで2本の時計を着用しているが、ここでは、レザーストラップを合わせた有名なダイバーズウォッチの登場に注目していく。
『007/ドクター・ノオ』の劇場用ポスター。Image: Courtesy of MGM
見るべき理由
数字に強い皆さんなら、ここまでにお気付きだろう。映画『007/ドクター・ノオ』は1962年に封切りされたので、実のところまさに今週、ボンド映画シリーズは60周年を迎えたのだ。HODINKEEでは、ジェームズ・ボンドの世界や彼が着用した時計にまつわる記事をたっぷりとお届けしてきたが、この話題を取り上げるのに適さない時などなく、今回は特に記事を書くのにうってつけの機会だと思えたのだ。過去60年間の時計の系譜があり、最初の映画に目を向けることで、それらすべてがどのように始まったかを知ることができる。
『007/ドクター・ノオ』のなかで、タキシードスタイルを初披露するジェームズ・ボンド(ショーン・コネリー)。 Image: Courtesy of MGM
ジェームズ・ボンド映画は長年をかけて、ピアース・ブロスナン(Pierce Brosnan)、ダニエル・クレイグ(Daniel Craig)の手首に見られ、そしておそらく次にこの役を引き継ぐ誰かの腕にも装着されるオメガの時計の代名詞となってきたが、始まりはそうではなかった。(私の意見では)あらゆる素晴らしい物語と同様に、それはロレックス サブマリーナーとともに始まったのだ。
時計好きの多くがすでに気付いているとおり、ショーン・コネリー(Sean Connery)が演じたジェームズ・ボンドはミラーダイヤルでベゼルに赤い三角形がある初期のビッグクラウン サブマリーナー Ref.6538を着用していた。Ref.6538には、テキストが4行と2行の2種のものがあることが知られている。のちの映画でコネリーが演じたボンドが着用していたのは、(素晴らしいクローズアップのおかげで)テキストが4行のRef.6538であることは確実で、『007/ドクター・ノオ』で着用されたRef.6538も4行のものだと一般に考えられている。サブマリーナーとして初めてクロノメーター認定を受けたのがこの型番であり、認定を受けたものと受けていないものがあるために、テキストの行数に違いがあるのだ。
『007/ドクター・ノオ』でショーン・コネリーがつけたものに近いロレックス サブマリーナー Ref.6538。
長年にわたって、『007/ドクター・ノオ』のサブマリーナー Ref.6538の件に関して、インターネット上でちょっとした混乱が生じている。コネリーの手首に装着された時計の同じ大写しショットの画像がいたるところで見られるが、そこに映っているサブマリーナーには、中央のストライプが特徴的で、彼の着用以来“ボンドNATO”と呼ばれるようになったストラップが付いている。このショットは『007/ドクター・ノオ』からのものではなく、本作ではボンドはNATOストラップの付いたサブマリーナーをつけてはいないのだ。初耳だろうか? そういう人もいるかもしれない。代わりに、ボンドは全編にわたって、水中でさえも、レザーストラップのものを着用している。これは殺しのライセンスを持つM16(イギリスの秘密情報部)メンバーにしかおすすめできない。
『007/ドクター・ノオ』より、上下ともブルーのコーディネートにレザーストラップのサブマリーナーをつけたボンド(コネリー)とハニー・ライダー(ウルスラ・アンドレス/Ursula Andress)。Image: Courtesy of MGM
私は『007/ドクター・ノオ』を少しの懐疑心を持って再鑑賞した。「いまもおもしろいだろうか」、「私の記憶にあるとおりの映画だろうか」というように。私はいろいろな点から、両方の疑問に確信を持って答えることができる。この作品はアイコニックな時計をつけたアイコニックな主演男優がいるアイコニックな映画。アイコニックの3重奏だ。こんなことを言おうとしていることさえ信じがたいほどだが、もし観たことがなく、時計に関して知っているだけだという人には、ぜひこの週末の2時間ほどを使って観てみてほしい。
見るべきシーン
導入部分が終わると、ボンドはドクター・ノオを追いかける。ボンドは消息不明の同僚が放射性鉱物らしきものを発見したことに気が付いたばかりだ。ノオの島に向かう予定のボート上で、ボンドはサブマリーナーをつけた腕にガイガーカウンターを向ける[00:46:55]。そして「夜光ダイヤルに反応している」と言う。もちろん、これは当時時計に用いられていたラジウム夜光のせいだとわかっているが、それにしても映画のなかの時計と同じくらい、マニアックでクールな場面だ。
Image: Courtesy of MGM
ほどなくしてボンドは、偶然ドクター・ノオの下で働くことになった二重スパイのミス・ターロー(ゼナ・マーシャル/Zena Marshall)と、まあ言ってみれば、ロマンチックな夜を過ごすことになる。ボンドは彼女の正体に気付いていながら、ベッドをともにするに至る。ふたりが近づき、唇を重ねる時、ちょっとした動きがあり[00:55:56]、ボンドが彼女を引き寄せて、こっそりと片目を開けて時計を確認する。とにかく時間を確認しなくてはならないときがあるものだ。
Image: Courtesy of MGM
『007/ドクター・ノオ』(ショーン・コネリー主演)は、テレンス・ヤング(Terrence
Young)が監督、ジョン・チザム(John Chisholm)が小道具を担当。iTunesとAmazonでレンタルまたは購入が可能。
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