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In-Depth オーデマ ピゲ CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ クロノグラフ ミドルケースにセラミックを採用した新作

記者として私は、新しいCODE 11.59の君臨を歓迎しよう。

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2019年1月にCODE 11.59 バイ オーデマ ピゲが発表されたときは、まるで「Le Controverse=論争」というレストランに行って席に着き、「論争」の前菜を注文し、「論争のフランベ」のメインディッシュに「エキストラ“ジェラルド・ジェンタ”論争 」をサイドに添え、飲み物は当然のごとく「2019年物のオーデマ ピゲ論争記念ボトル」のマグナムで、それを2本ほど空けてしまったような感覚だった。

 正確には、あれから事態は鎮静化したとは言えない。当時の記事に500件以上のコメントに今もくすぶっている炎は、セントラリアの石炭火災のように一晩で消えることはないだろう。しかし、2年前には考えられなかったような、より配慮された視点があるのではないかという考えがわずかにもっともらしく思えるほど、過ぎ去ったこととして受け入れられつつある。

 CODE 11.59の時間表示のみのモデルが最初から最悪の評価を受けた一方、コレクション内の複雑機構搭載モデルはその複雑さと紛れもなく洗練された機構によって、攻撃をある程度和らげることができていた。結局のところ、これらの時計は意図的な挑発だったのだ。フランソワ-アンリ・ベナミアスは、ブルジョワジーを驚かそうとしたわけではなかったろうが、確かに誰かをあっと言わせようとしているようには見えた - たとえそれが「オーデマ ピゲ(AP)は一つのことにしか能がないのではないか」と言い始めた一部のファンであったとしても。

 少なくとも技術的な観点から言えば、最後の疑問に対する同社の答えは断固として「No」だった。当初発表された13本の時計には、6つの新しいムーブメントが搭載されていた。新しい永久カレンダー、スーパーソヌリ、自動巻きトゥールビヨン、トゥールビヨン・オープンワーク、3針の自動巻き、そして最も印象的だったのは、新しい自動巻きの3レジスタークロノグラフだった。

 数年前、私はスイスのラ・ショー=ド=フォン にいて、カルティエが Fine Watchmaking Collectionで当時の新しいハイコンプリケーション・シリーズを発表しているときに、あのキャロル・フォレスティエ氏に会う機会をいただいた。彼女は過去20年の間に最も興味深いトゥールビヨンを数多く手がけ、最終的にユリス・ナルダンのフリークとなるデザインを考案した人物だ。私は彼女に、トゥールビヨンのデザインはクロノグラフよりも難しいと思うかと尋ねた。すると彼女は笑いだし、その瞬間、私は自分がまるでロバート・パーカーに「樽香のあるシャルドネに氷を入れてもいいか」と尋ねるようなことをしたと気づいたのだ。

 「クロノグラフのほうがずっと難しいです」と彼女は言った。「トゥールビヨンは、クロノグラフの難しさに比べれば何でもないです」彼女は実際に「愚問」とは言わなかったが、言う必要はなかったのだ。

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 CODEに関する会話は大きく逸れて困惑したが、賛否両論あるデザインの裏には非常に多くの時計製造技術があり、さらにそれらの多くは堅実な機能的時計製造と高級時計製造の交錯点に位置する、と言いたかったのだ。新しい基幹ムーブメントは、特に高級時計のレベルでは珍しいものだ(パテック フィリップの新しい手巻きCal.30-255は時間表示のみの新しいハイエンドムーブメントだが、これは非常に珍しく、その前身は1970年代から存在していた。ロイヤル オーク"ジャンボ"に搭載されたAPキャリバー2020/21は1960年代に生まれたものだ)。
 APの新しいCODE 11.59 クロノグラフに搭載されているCal.4401は(つい最近2つの新しいモデルが発表されたばかりで、セラミックのミドルケースが採用されている)クラシックな複雑機構を非常に現代的にアレンジしたもので、それを支える非常に現代的なエンジニアリングと非常に非伝統的な美学の両方を備えている。

 このムーブメントの完全な技術的分析はこの記事の主旨から外れるが、さらに深く知りたい方には、The Naked Watchmakerでの分解記事を読むことをお勧めする。簡単に説明すると、ここにあるのは、自動巻きシステムからクロノグラフ、そして基本的な輪列と脱進機に至るまで、可能な限りトラブルなく動作するように設計された垂直クラッチ式の3レジスタームーブメント、ということだ。

 ムーブメントを地板まで分解し、様々な層が現れていく様子はとても興味深い。自動巻きクロノグラフは、いくつかのレベルで構成されている。一番上には、ローターと自動巻きブリッジがあり、ローターが主ゼンマイを両方向に巻き上げるためのリバースホイールも含まれている。ローターはセラミックのボールベアリングで動いている。

 クロノグラフのリセット・トゥ・ゼロのハンマーとスプリングに至るまで、3つのハンマーとその作動スプリングは全て同じもので、皆1つのレバーで作動する。これは、伝統的なクロノグラフに見られるトラブルを誘発しやすい部品のばらつきを抑えるための信頼性の高いシステムだ。操作システムには伝統的なコラムホイール方式を採用しているが、その歯形は見た目の美しさより信頼性の強化や摩擦の低減を考慮して設計されているように見受けられる。

 仕上げは、装飾を目的としたシンプルな高級ムーブメントに見られるような手の込んだものではない。例えば、 フィリップ・デュフォーのシンプリシティやセイコーの叡智 IIは、シンプルな時計でありながら、面取りやポリッシュ仕上げ、精巧に仕上げられたスクリューなど、ムーブメントが機構のショーケースとなることが重要だ。しかし、CODE 11.59 クロノグラフは、クラシックな高級時計としての外観よりも、ムーブメントの幾何学的で尖った部分を強調しようとしている。そのムーブメント装飾は、その徹底した作り込みによって目を見張るものがある。表面仕上げや面取りはもちろん、スタイルの点においてまでも、ケースや文字盤のデザインまでも一貫しているのだ。

 ケースは重厚な作りで厚みがあり、ネジが裏蓋からケース中央部を通ってベゼル裏にまで配され、全体をしっかり支えている。APは、ケースに施された手作業による仕上げがムーブメントに施された仕上げと同様に精巧であることを誇りに思っている。実際、巻き上げローターのシャープなエッジから、ラグのくっきりとした形状、アッパーケースのサテンとポリッシュで仕上げられた側面へと、視線が容易に流れていく。城や宮殿のように何世紀にもわたって積み重ねられた複雑な構造ではなく、1つの特出した印象的な体験として作られた構造物のなかをたどっているような感覚だ。歴史を積み重ねたウィンザー城に対するタージ・マハールのように。

 CODE 11.59のケースデザインについてどう考えるかは別として、セラミックのミドルケースがオリジナルのデザインを非常に魅力的にしていることは否定できないと思う。これにより、全体がやや軽く視覚的にも優美になったと同時に、ケース全体の仕上げレベルと形状の複雑さが強調された。

 この時計は腕につけると不思議な感じがして、私がそれに慣れるかどうかはわからない。そもそもデザイナーがそういうことを意識して作った時計ではなさそうだ。そして、角度によって見え方が大きく変わるという特徴がある。正面から見ると、非常に抑制されたミニマルなデザインに見えるが、回転させると、二重に湾曲したサファイアクリスタルがフライング・バットレス( とびばり )のようなイリュージョンを見せる。ケースの構造がよく見えてくると、まるで魔術によって時計をすり替えられたかのような錯覚を覚える。

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 これは相反する時計だ。ケースとムーブメントの仕上げにはジュネーブの伝統的な方法が採用されている。形状は、オリジナルのロイヤルオークの硬い角張ったデザインをもつが(いくつかの形状も重なるが)、それをジェラルド・ジェンタが夢にも思わなかったような極端なレベルにまで到達させている。彼はきっとひと目で嫌うはずだ。ジェンタはオリジナル・デザインの純粋さにこだわることでよく知られており、ロイヤル オーク オフショアに代表される比較的穏やかな進化でさえ彼の怒りを買っていた。しかし、ロイヤル オークのDNAが新種の進化を可能にしたことは、我々が期待していたことだった。1972年以来、ずっとだ。

 CODE 11.59 クロノグラフは興味深い時計だ。CODEコレクションはイージーではない。APが目指していたものを理解し始めるには、多くの時間をこの時計と共に過ごさなければならない。そして今でも、これらが繋げようとしたすべての点を繋げることに成功したかどうかは、わからない。

 しかし、魅力を感じる。これは失敗した実験なのか? 私はそうは思わない。実験とは、定義上、成功でも失敗でもない。今まで知らなかったことを見せてくれる、興味深いものであるべきだ。CODE以後、ロイヤル オークは以前とは違ったものになるだろう。クールなデザインの名品だが、50年近く前のものでもあり、APは何か新しいことに挑戦する時期に来ていたのだ。APは「ルールを破るためには、まずルールをマスターしなければならない」ということをモットーにしている。APの高級時計製造のあらゆる側面に関する組織的な知識は、世界のどの高級時計ブランドの知識にも匹敵するものがある。彼らは過去を再現するためではなく、未来への架け橋を作るためにそれを使う。そして、その橋はどこまで続くかまだわからない。

 新しい未来を築くために、会社が過去を否定しすぎることがあると思う。しかし、私は感傷的だ。ジュール・オーデマのイクエーション オブ タイムに施された品のよいアップグレードだけでは、今日のAPの地位は得られなかっただろう。私がCODE 11.59に感じるのは、1950年代のSF映画で、星から来た円盤の先陣が夜空に現れたときに地球人が感じるような気持ちだ。次に何が起こるかはわからないが、何かが変わるのは確かである。そして世界は、少なくともAPウォッチの世界は、決して同じところに留まることは無いのだ。

オーデマ ピゲ CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ クロノグラフ (Ref.26393NR.OO.A002KB.01)。ケース、レッドゴールドとセラミック、41mm x 12.6mm。30m防水。ダブルカーブサファイアクリスタル(内側面はドーム形状で、12時位置から6時位置へ縦に曲線を描く)。 ヘアラインの入ったスモークグレーダイヤル ピンクゴールドのアプライドアワーマーカーと針、オーデマ ピゲロゴ。ムーブメント、Cal.4401、フライバッククロノグラフ、時、分、スモールセコンド、デイト 。70時間のパワーリザーブ、自動巻き、40石、2万8800 振動/時 。価格は 495万円 (税込) 。詳細はオーデマ ピゲ公式サイトへを。

All photos, Tiffany Wade.