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In-Depth IWC アクアタイマー・オートマティック 2000と行く水深2000mの世界

これは信じていい。水深2000mは誰も行きたくない世界だ。- たとえ手首に素晴らしい時計をつけていても。

※本稿は2016年8月にHODINKEE US版で公開された記事の翻訳です。 

 IWCのアクアタイマー・オートマティック 2000は、水深2kmの水圧に耐えるように設計された時計だ。 見た目も手触りも細部に至るまでその水圧に耐えられるように見えるが、これまでに誰かが - 理論的にも - その水圧で着用して、瞬時に(めちゃくちゃに)破壊されないでいることを証明できただろうか?  時計を詳しく観察して、限界まで深く潜ったときに何が起きるのか、少し思考実験を行ってみよう。

 アクアタイマーのこのバージョンは、同コレクションの中で最も高い防水性を誇るが、IWCの中で最初に2000m防水を実現した時計ではない。1982年にポルシェ・デザインとのコラボレーションで製作された、オーシャン2000が初だった。その優れた防水性にもかかわらず、チタン製のケースとブレスレットを初採用したこのモデルは、42mm×12.6mmと、特別に大きかったわけではない。もちろん、ドレスウォッチからは程遠いが、今の基準では非常に“ごつい”というほどでもなかった。

IWC Automatic Aquatimer 2,000 Meters

IWCのアクアタイマー・オートマティック 2000は、圧倒的な防水性を誇るダイバーズウォッチだ。

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 一方で、この時計は、そのタフさにおいて疑問の余地はない。多少の余分な大きさと厚さをとるであろうセーフダイブ・システムを含めると、46mm×20.5mmのサイズをもつ。 セーフダイブ・システムには内部のギアを通してインナーベゼルを回転させるアウターベゼルがあり、インナーベゼルの視認性とアウターベゼルの使いやすさの双方を兼ね備えている。このシステムを搭載したダイバーズウォッチは、現代の潜水艦に似た構造をしている。潜水艦は一般的に、水圧に耐える流線型の外殻と、その内側に乗組員の居住・作業空間のための耐圧殻を備えている。 同様に、セーフダイブ・システムは、水を出入りさせるアウターケース(アウターベゼルが取り付けられている)と、ムーブメントを保護するインナーケースが装備されている。9時位置の突起部には、インナーとアウターの両ベゼルを連結するカップリングギア機構が収められている。

 ドーム型のサファイアクリスタルは、ベゼル(そのデザインはオーシャン2000を反映している)の上に少なくとも3〜4mmは高い目立つ位置にあり、もちろん、オリジナルのオーシャン2000とアクアタイマー2000で使用されているムーブメントはかなり異なる。オーシャン2000では、IWCのCal.3752(ETA 2892ベースのムーブメント)が使用されていたが、このアクアタイマーで使用されているCal.80110よりもかなり薄い。Cal.80110は2005年に当時の新作、インヂュニア・オートマティックで初めて採用されたもので、サイズはペラトン自動巻き機構を含めて30mm×7.26mm。厚さ3.6mmのETA 2892よりもかなり厚いが、機械式ダイバーズウォッチ用に堅牢なものを選択したといえるだろう。

IWC Automatic Aquatimer 2,000 Meters Dial

IWCのセーフダイブ・システムは、一方向のみ回転するアウターベゼルによって制御されるインナーベゼルをもつ。

 さて、水深について話そう。 水中では水深1mごとに、海面での気圧を超える圧力がかかる。正確には、水深が1m深くなるごとに1平方インチあたり1.422ポンド(約650g)にもなる。深く潜るほど、その水圧は重くかかってくる。ダイビングインストラクターの協会(PADI)は、レクリエーション用スキューバダイビングの限界として、水深30m(ここでの圧力は42.67p.s.i、約3kg/cm2)を推奨している。大部分が酸素と窒素である通常の圧縮空気を吸っている場合、すでに体内にある窒素が圧縮されることで、体は追加の窒素を必要とする。地上では、血液や体液に溶けている窒素は約1.5Lだが、水深10mの地点(1気圧分の圧力)では、これが3Lに倍増するのだ。  

 通常よりも多くの窒素が体内に溶け込んでいることで、主に2つの問題が生じる。1つめは、急激に上昇すると、余分なガスが溶け出し体液中に泡を作ってしまう(ソーダの炭酸ガスと同じで、キャップを開けるとボトル内の圧力が急降下するようなもの)。 その結果、減圧症となり、頭痛、激しい関節痛、麻痺などの症状が現れる。もう1つの問題は、窒素は麻薬であり、体内に窒素が多すぎると基本的に酔った状態になるということだ。この現象は窒素ナルコーシスと呼ばれ、ダイバーの判断力を鈍らせ、降下しているのに浮上しているかのように錯覚させてしまうことがある。これは明らかに致命的な状況だ。PADIの制限水深が30mであることは偶然ではない。この深さで大部分の成人に窒素ナルコーシスの症状が現れ始めるからだ。しかし、窒素を減少させる、あるいは排除する混合ガスを吸入することで、これらの症状を回避することができる。

IWC Automatic Aquatimer 2,000 Meters side view

アクアタイマー 2000が堅牢な時計であることは間違いない。そして、それを隠そうとしない。

 言うまでもないが、30mではアクアタイマー 2000はびくともしない。 

 混合ガスを使ったダイビングでは、さらに深く潜ることができる。ヘリウムや水素のような他のガスを使用して、混合ガス中の窒素を減らしたり、完全に取り除くことができるからだ。 それぞれのガスは、単独で、あるいは混合で問題を引き起こす可能性がある。酸素も例外ではない。 私たちが生きていくには酸素が必要だが、それは体内のエネルギー生産に欠かせない化学反応のためだ。それは同時に危険なものになる可能性もある。60mよりも深いところでは酸素の毒性も問題になり始め、それ以上は水深に合わせて呼吸に使用する酸素の量を減らす必要がある。 神経系は非常に新陳代謝が活発なので、酸素毒性に対して特に脆弱であり、視覚障害から痙攣に至るまであらゆる症状がある。これも(控えめに言っても)水深によって引き起こされる症状だ。

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 しかし、慌てず自分の行動を理解し、適切な混合ガスを吸えば、驚くほど深く潜ることができる。Compagnie Maritime d'Expertises (フランスのCOMEX社。水中作業のための深海潜水を行う)のダイバーは、1988年に実施された実験ダイビングで534mの深さまで到達した。その深さでの圧力は793.211p.s.i.(約55.8kg/cm2)になる。直感的に言葉で言うならば、押しつぶされて死ぬだけのような気がする。しかし、覚えておいてほしい。体内のすべてのガスの圧力の合計が、体の外側の圧力と等しい限り、あなたは大丈夫ということになる。水深534mの、1平方インチあたり3分の1トンの重さがあなたにかかっていても、問題はない。ところで時計はどうかというと、まだ大丈夫だ。ケースの中の気圧は、まだ水面の気圧と同じだ。

IWC Automatic Aquatimer 2,000 Meters caseback

オールチタン製のケースを採用しているため、アクアタイマー 2000は、そのサイズの割には驚くほど軽量だ。

 この深い物理学と自然の法則についてはもう十分だろうから、次にまた別の、命に係わる法則をみつけよう。それは高圧神経症候群(HPNS)の世界だ。HPNSは、今日でもよく理解されていない - それは有毒ガスの影響によるものかもしれないし、単に高圧が神経系の機能の変化を引き起こしているのかもしれない。またはその両方とも考えられる。しかし、現在、人間の深海潜水を制限する要因となっているようだ。震え、嘔吐、痙攣などの深刻な症状が含まれ、医学の教科書では率直に「生命とは相容れない」と書いてある。HPNSは、多かれ少なかれ完全に体の自由を奪う可能性があり、それを克服する方法が解明されない限り、500〜600mの範囲より深く潜ることは永久に不可能と思われる。

 ところで時計の方はというと、問題ない。

IWC Automatic Aquatimer 2,000 Meters mood shot

水深2000mの表示は、アクアタイマー 2000が人間が潜水可能な限界をはるかに超えた圧力に耐えられることを意味する。

 水深での水圧がいかに強力であるかを説明するために、1963年に起きたUSSスレッシャー号の事故を、厳粛な事例として挙げる。先端技術を結集した原子力攻撃潜水艦の主力船となる予定だったスレッシャー号は、原子炉の故障(最終的にはバルブの不具合が原因)により、推進力を失った。前進できず、浮力より重力がわずかに上回り、船体はどんどん沈み始め、最終的には水圧に押しつぶされて崩壊してしまった。1969年に実施された海軍の調査によると、水が船内に時速約4185kmで浸入し、10分の1秒で全てが終わったという、信じられないほど凄まじい出来事だった。この事件を見ると、問題は水圧自体ではなく、圧力差であることがよくわかる。 スレッシャー号の耐圧殻が壊れたのは、現在、人間が潜水可能な技術的限界である水深700m近辺だったと考えられている。

 仮に、もっと深く潜ることが可能だったとしよう。どうにかしてHPNSを打ち負かすことができただろうか? ヘリウムのような最も安全な不活性ガスでさえ、深く潜れば麻薬になり得る。 問題は、この時点でデータの欠如に直面しているということだ。不活性ガスの麻薬化と深海潜水の人体実験は、IWCのアクアタイマー2000の表示水深の半分でも行われたことがない。未知の(しかし、おそらく致命的な)ガス中毒の影響はさておき、もう1つの問題は、このような極端な水深では、呼吸用混合ガスが最終的には濃くなりすぎて呼吸できなくなるということだ。1つの解決策として提案されているのは、酸素を豊富に含んだ液体を呼吸することである。しかし、そのような液体は、体内から老廃物の二酸化炭素を除去するのにはあまり効率的ではない - 安静にしていても、1分間に約5Lを肺の内外で循環させる必要がある。これは、空気を呼吸するよりも、はるかに重労働になるだろう。

aquatimer 2,000 meters

オーバースペックは、アクアタイマー 2000の魅力の一部だ。

 見ての通り、この時計が素材にもガスケットにも製造上の欠陥がないと仮定すると、人間が可能とされる2倍以上の深さまで潜ることができ、人間が実際に潜った深さの4倍近くまで潜れることになる。

 ちなみに2000mでは、圧力は2,930.48p.s.i.(約206kg/cm2)だ。この深さまで潜ることができるのは、特別に設計された研究用潜水艇(ウッズホール海洋研究所が運営する有名な潜水艦「アルビン」など)だけであり、この深さは、最も深く潜る軍用潜水艦の能力をも超えている。しかし、興味深いことに、COMEXは1993年に人間に水素・ヘリウム・酸素の混合物(ヒドリルオックス)を吸わせて模擬潜水を行い、水深701mを達成した。そう考えると、より深い地点までいずれ可能になるかもしれない。

iwc aquatimer 2,000 meters wrist

手首上の大きさは変えられないが、興味があるなら気にならないと思う。

 使用可能な環境の限界をはるかに超えているような時計を、なぜ所有したり、身に着けたりするのか? この質問をすること自体に誤解が伴っていると思う。この時計が必要以上の性能を備えているという事実こそ、欲しくなるまさにその理由なのだ(もちろん、そもそもこういったことが好きであるのが前提)。それは必ずしも自慢できるからでもないし、アイドルのウォルター・ミッティのようになれるからでもない。あらゆる極限の機械技術に深く根本的な魅力があり、時計製造における(そして他の分野での)技術の成果が、それ自体、人を引きつけるものである限り、人々はアクアタイマー・オートマティック 2000のような時計に惹かれるのだと思う。

 IWC アクアタイマー・オートマティック 2000:ケース、チタン製、46mm×20.5mm、セーフダイブ インナー/アウターベゼルシステム。 ムーブメント、IWC製Cal.80110、44時間パワーリザーブ。写真のモデルは現在は生産終了。

 アクアタイマー・オートマティック 2000の詳細については、こちらを。