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Hands-On パテック フィリップ グランドマスター・チャイム Ref.6300A オンリーウォッチ2019限定モデル

このスティール製時計はポール・ニューマンを王座から引きずり下ろせるか?

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11月9日にジュネーブで行われた、隔年開催のオンリーウォッチ(Only Watch)チャリティオークションにおいて、今回のみの生産となるパテック フィリップ グランドマスター・チャイムRef.6300Aオンリーウォッチ2019限定モデルは、オークションで落札される史上最も高価な時計になるかもしれない。これは、この時計が有名なポール・ニューマン デイトナを王座から引きずり下ろすかもしれないことを意味する。

 ありえないことのように聞こえるかもしれないが、経済面からすれば確かにありうる話ではある:世界で最も権威あるマニュファクチュール、パテック フィリップが、今まで生産してきた中で最も複雑な6300Gをベースにして、1本だけ特別な時計を製作するのだ。ステンレススティール製で、文字盤には "The Only One”という刻印すら入っている。さりげない自慢どころではない。

 そして私は、着用する機会を得た。

 かなりの大型だ。ケース径は48mm近くあり、厚さ16mmでも多少なりとも小さく感じない。装着すると見た目よりさらに大きく感じる。しかし、ケースをつなぐ長いラグによって、手首に沿うようにしてストラップを巻くことができる。
 この時計の主な特徴の一つはリバーシブルケースで、この反転機構によって、バネ棒をケースから十分に遠くに配置することが可能になる。このため、ストラップが完璧に手首にフィットし、ギヨシェ加工がなされたホブネイルのケースを常に正しい位置で装着できる。パテック フィリップはこの時計の開発に10万人/時(マンアワー)以上の労力を要したと主張する。この時計にあるものに、偶然は何もないのである。

 ケースの片面は紛れもなく美しいサーモンダイヤルだ。平方ミリメートル毎に複雑機能があしらわれているが、これはすべての機能の半分に過ぎない。私の愚見では、これがこの時計の最も印象的な部分だ。パテック フィリップは世に出ているほとんどの時計よりも、この時計の半分により多くの機構を詰め込むことに成功し、一部のコレクターが好むような、人気が高いがバランスの悪いダイバーズウォッチの半分のサイズに、すべてを収めている。

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 20種類の複雑機能のうちの他の50%は、反対側のエボニーブラックの文字盤側にある。2つの文字盤は、夜と昼、またはiPhoneの「ダークモード」のように、視覚的に互いをさりげなくミラーリングしている。明るいローズゴールドの文字盤の色合いは、エボニーブラック文字盤上で、ローズゴールド針の暖かい色合いやサーモントーンの年次表示ウィンドウの部分から覗く。エボニーブラックの文字盤は4レジスターデザインで、表示されている情報量を考えると、驚く程読みやすい。

 手首に着けてみると、予想したほどの衝撃はなかった。それがなぜなのか、理由を見出すのに苦労した。この時計はすべてを備えている。文字通り、すべてである——20種類の複雑機能と5つのチャイムモードがあるが、どういうわけかピンとこなかった。「銀河ヒッチハイク・ガイド」からの一行が思い浮かぶ:「一瞬、何も起こらなかった。それから、1秒かそこら経った後、引き続き何も起こらなかった」。これこそが究極の時計のはずだった。すべての時計を支配する1本。しかし、結局のところ、恋に落ちる魔法などはない。私にとって、そういう運命ではなかったというだけの話である。

 しかし、だからといってこれが全く印象的でないというわけではない。この時計の重々しさについて考えてみると、純粋に個人的な問題である美学というものを超え、代わりにこの時計がより広いコミュニティに向けて何を意味するかを考えさせられることになった。パテック フィリップは180年間、高級時計の礎を築いてきた。この180年のうち11年は、この時計に動力を与えるすばらしいキャリバー、Cal. 300 GS AL 36-750 QIS FUS IRMを完成することに費やされた。技術的には、突出してユニークなものだ。この時計は、約1世紀半にわたりチャイム機構を作ってきた同社の仕事の頂点を象徴している。

 このオンリー ウォッチのパテックは、元々パテック フィリップの175周年を記念して2014年に発表されたRef.5175に由来している。6本が幸運なコレクターに250万ドル(約2億7370万円)で売られた。2年後、この時計はホワイトゴールドでRef.6300Gとして再登場し、価格は220万ドル(約2億4080万円)だった。The Only Watch グランドマスター・チャイムRef.6300Aは、この時計にとって最後のスティール製となるかもしれない。

 買い手が付いた史上最も高価な時計「ポール・ニューマン デイトナ」は、2017年10月に1780万ドル(約20億円)で売れた。この時計はもともと小売価格200ドルぐらいで販売されていたものだ。これが売れたことは、偉大な物語が持つ力を示している。
 それは時計の世界を完全に超越し、何かに価値をもたらすものは、素材やメーカーではなく、むしろ誰がその時計を作ったかである、という考えを示している。「人が時計を作る(決める)」であって、その逆ではない、ということだ。これは「クールの王」の時計であり、それを売りに出すことは、「クール」にどれくらいの価値があるかという抽象的な考えを定量化することだった。またもちろん、ヴィンテージ・ロレックス収集のサブカルチャー全体を加熱させ、具体的にはデイトナの魅力を加熱させることにもなった。

 スティール製のグランドマスター・チャイムには、そのような由来が何もない。そして私は、購入する資格を持つバイヤーと、パテック フィリップの高度な時計学最高の表現を評価できる、繊細な鑑賞眼を持つバイヤーとが交差する点は、比較的小さいと想像する。しかし、これを考えていただきたい:この時計は、美術品のために数千、時には数百万(ドル)を払うことに慣れているかもしれない入札者でいっぱいの部屋で、オークションに出される。突然、このパテックの時計は、これまで生産された中で最も限定性の高い1本、あるいは「オロロジーの芸術」としか考えられないものとしてはお買い得とも思えてくる。いつだって、別のレベルがあるのだ。

 そして、これはそのレベルに到達するための、唯一の1本(The Only One)なのかもしれない。

詳細については、 onlywatch.comを参照してください。