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In-Depth フレデリック・コンスタント スリムライン モノリシック マニュファクチュール 40Hz 2021年新作

手首にフィットするサイズで、大きな技術革新を実現。


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第二次世界大戦後の時計製造における技術的な最も顕著な傾向の1つは、より高い周波数の振動子(オシレーター)を備えた時計の進化だ。振り子時計の場合、振り子は1秒間に1回振動する。時計にはテンプがあり、テンプはもっと速く往復する。現代の時計のムーブメントは通常、1時間に2万8800回、つまり1秒間に8回のリズムで動いている。また、一部のムーブメント(たとえば、ゼニスのエル・プリメロ)には、1時間に3万6000回の高速振動を実現したムーブメントもある。フレデリック・コンスタントの新作、スリムライン モノリシック マニュファクチュールには、40Hz - 1時間に28万8000回という驚異的な振動数を実現した新型オシレーターが搭載されている。この時計は3月に発表されたが、Watches & Wondersの余韻が残る中、今年最も技術的に興味深い時計の一つとなった。

 時計は、基本的にオシレーター(振り子、テンプ)と駆動装置(時計の場合はゼンマイ、振り子時計の場合は重り)を備え、そして振動をカウントするメカニズムを備えたオシレーターを駆動する機構だ。これが脱進機である。

一般的な機械式時計の輪列。

 上の画像で、左に見えるのが主ゼンマイを収めた香箱だ。香箱は内部の主ゼンマイの力で回転し、香箱の歯は2番車の歯と噛み合っている。輪列は、右のガンギ車とレバーで終わる(分かりやすくするためにテンプは表示されていない)。テンプが前後に振れると、1回の揺り戻しでレバーのロックが解除され、輪列が前進。2番車は1時間に1回回転し、時針と分針を動かすように設定されている。

超高速時計

 では、なぜ3万6000振動/時よりも速く振動するオシレーターが必要なのだろうか? その答えは、より安定すること、つまり期待した振動数からずれにくいということにある。ヒゲゼンマイが常に正確な振動数で動いていれば、完璧な時計になるが、実際にはさまざまな要因でヒゲゼンマイの振動数は変動し、時計が遅れたり、進んだりする。オシレーターが外力の影響を受けて周波数が変動するのは、時計本体の潤滑油の経年劣化、温度変化、磁場の存在、物理的な衝撃や時計の姿勢の変化などが考えられる。一般的にクォーツウォッチが機械式時計よりも遥かに正確である理由は、水晶振動子が極めて高い振動数で振動しているからだ。たとえば、音叉型の水晶オシレーターは、1秒間に3万2768回振動している。

 一方、モノリシック マニュファクチュールでは、ゼニスがデファイ・ラボ、そしてデファイ インベンターで初めて発表したフレキシブルな一体型オシレーターのデザインを小型化して採用している。モノリシック マニュファクチュールのモノリシックオシレーターは、テンプ、ヒゲゼンマイ、レバーといった通常の組み合わせではなく、一体型の(だから、モノリシック=一枚板なのだ)シリコン製オシレーターを使用しており、振動するフレキシブルなメインブレードと統合されたレバーが組み込まれている。このオシレーターには2つの重りが取り付けられており、天秤の重りと同じように、オシレーターの速度を調節することができる。

モノリシック オシレーターシステム。

 オシレーター自体もシリコン製のディスクであり、ブレード、レバー機構、ガンギ車も全てシリコン製だ。上の写真では、ガンギ車は12時側にあり(香箱車から輪列によって駆動する)、どちらの側にもレバー機構の歯が見える。歩度を調整するための重りは、時計職人に増分を提供するためにシリコンにエッチングされた溝を備えた、左右の2本のバーだ。左右2本のバーが歩度を調整するための重りで、シリコンに刻まれた溝で時計師が調整できるようになっている。駆動中は、肉眼では見えないほどの速さでオシレーターが振動し、秒針は1秒間に80回進み、ダイヤルの上を滑らかに滑っているように見える。

一体型の発振器には、時計師がタイミングウェイトを装着する。

 従来の時計メーカーが使用する電子計時機では、このように高速で動く脱進機には対応できないため、1秒間に25万回もの撮影が可能なレーザー制御の高速度カメラを用いて、オシレーターの歩度を調整している。

 一般的な機械式時計のテンプは約300°の弧を描いて振動するが、モノリシックオシレーターの場合、弧の長さは6°と非常に小さく、これは超高速オシレーターとしては当然のことだ。

精度とトレードオフ

 モノリシックオシレーターは、高速振動による歩度の安定性の高さに加えて、他のシリコン製部品と同様の利点を有する。最も重要な点は、もちろん、一般的な脱進機部品と異なり、磁気の影響を全く受けないことだ。モノリシックオシレーターは、デファイラボのオシレーターで最も意見が分かれる大きさに対する解決策でもある。視覚的な演出を求めるのであれば、サイズはそれほど問題ではないが、この技術をより多くの時計に採用するには限界がある。デファイラボが概念実証であったとすれば、モノリシックオシレーターは、フレキシブルなシリコンオシレーターがニッチな製品である必要はない、少なくとも乗り越えられない技術的な障壁はない、ということを示した。なお、モノリシックオシレーターは、80時間という非常に優れたパワーリザーブを実現している。

デファイラボのゼニス オシレーター。

 モノリシックオシレーターとゼニスオシレーターの最大の違いはサイズである。ゼニスオシレーターは、ケースの直径のほぼ全てを占めていたが、一方のモノリシックオシレーターは、フレキシブルなオシレーターの基本技術を、従来の脱進機、テンプ、ヒゲゼンマイのスペースに収めるために開発されたものだ。モノリシックオシレーターは、(ゼニスオシレーターよりも)遥かに少ないスペースに収めることで、日常生活で使いやすいサイズを実現している。モノリシックマニュファクチュールの直径は40mmで、やや大きい44mmのゼニスと比べると、非常に身に着けやすいサイズだ。

 一体型シリコンオシレーターのもう一つのメリットは、部品点数の削減にある。オシレーターには、本体と2つの調整用ウェイトと、3つのコンポーネントしかない。これらに置き換わるのが、従来の時計でいうと、テンプ、ヒゲゼンマイ、ヒゲ玉(ヒゲゼンマイの内端をテンプに固定するもの)、ヒゲ持ち(ヒゲゼンマイの外端を固定するもの)、耐震装置の4つの石、2つの耐震バネ、レバー、レバー軸、レバーの石......、そして他には、レバー軸用の2つの石といった部品だ。また、一般的なスイス製レバーウォッチの長期的な精度変動の原因となる、テンプの軸やガンギ車の歯に付着したオイルの劣化を心配する必要もない。

(モノリシックオシレーターの動きは以下の動画で見ることができる。ゲーテのファンでない方は、1分ほど飛ばして欲しい)

 オシレーターが大幅に小型化されたことで、従来のデザインになってしまったことは、好みによるが長所でもあり短所でもある。ゼニスはハイテク部品の製造を大々的にアピールしており、身に着けると非常に気になる時計だ。良い意味でだが、オシレーターの高速振動は、その速さに不安を覚えつつも、見るものを魅了する。一方、モノリシックオシレーターは、まるで静止しているかのような速さで振動し、サイズが小さくなったことで視覚的なインパクトも少なくなった。だが、その結果、伝統的なパッケージの中でハイテクの心臓部を表現することができる時計でもある。

 このモデルは、異なる2つのケース素材で展開する限定モデルだ。ブルーまたはホワイトダイヤルのスティールモデルは59万4000円(税込)で各810本、18Kローズゴールドモデルは198万円(税込)で、81本の生産を予定している。特にSSモデルの価格は、クラシックなデザインを比較的手頃な価格で提供するという、フレデリック・コンスタントの長年にわたる時計づくりの基本姿勢を反映したものだ(同時に、技術的に特徴のある時計づくりも可能にしている)。

シリコンスタイルとシリコンの本質

 この時計に対する消費者の反応は興味深いものがある。この時計は明らかに、フレキシブルなシリコン部品技術を、おそらくデファイラボよりも主流にしようとする試みだ。デファイラボは新型オシレーターを前面、そして中央に配置することで、意図的に先進技術を押し出した時計である。一方、モノリシック マニュファクチュールは、同じメリットをよりオーソドックスなパッケージで提供したいと考えている(つまり、フレデリック・コンスタントはより多くの人にアピールしたいと考えていると言うことだ)。

 2000年代初頭、シリコン製の部品が従来の時計にどんどん採用され始めたとき、我々のような気難しい伝統主義者たちが、どれほど心配そうな面持ちで見ていたかを覚えている。たとえば、パテックにシリコン製のヒゲゼンマイが使われていると考えると、私が大切にしてきた機械式時計に対する伝統的な技術や素材のアプローチとは全く矛盾するように思えて、大きな疑問を感じたものだ。しかし、今では、シリコン製のヒゲゼンマイやレバー、ガンギ車など、シリコンは時計技術の一部として定着している。

 多くの点で、シリコン部品が従来のものより優れていることは否定できない。従来のムーブメントでは、ムーブメントへの石のセッティング、レバー上の石の調整、テンプの位置決め(動的及び静的な)、ヒゲゼンマイの形成と固定など、全てが伝統的な時計製造技術の本質的な要素だ。それらを完全に置き換えようとするものは、私には怖くてたまらない。モノリシック マニュファクチュール(そして、デファイラボ)における素材へのアプローチで私が気に入っているのは、シリコンがもつ従来の素材では再現できない特性を利用して、一般的な真鍮やスティール、ルビー、オイルでは実現できないものを作っていることだ。

 これまでにも、シリコン部品を使用した実験的で概念的、そして半実験的な限定版の時計は数多くあったが、この素材の美的な可能性はまだ未開拓のままだ。このモノリシック マニュファクチュールには、デザイン的に複雑な印象がある。私は全般的に、時計のダイヤルに開口部があるものには興味がない。たとえば、オープンダイアルのトゥールビヨンはそれほど多くないが、どんなに優れていたとしても、ダイヤルを閉じたものの方がもっと好きになるだろう。しかしながら、モノリシック マニュファクチュールがオープンダイアルを採用した理由は、オープンダイアルのトゥールビヨンと同じだ。時計を会話のきっかけにしたいときに、会話を始めるために時計を外して裏蓋を覗き込む必要がないのは素晴らしいことだ。ピーコックブルーの光沢をもつこのオシレーターが、一般的ではない時計の中でどのように見えるのか、興味がある。私はギョーシェ彫りやポムシェイプの針、ローマ数字が好きだが、このオシレーターはあまりにもハイテクであるため、ルーブル美術館にUFOが着陸したような感覚を覚える。

 モノリシック マニュファクチュールは、直ちに魅惑的とは言えないまでも、シリコン部品の進化における魅力的な一歩と言えるだろう。全てではないにしても、モノブロックのシリコン振動システムが潜在的に抱えていた問題をほとんど解決しているように考えられるほか、優れたパワーリザーブと、スプリングドライブや音叉型のアキュトロンを彷彿とさせる滑らかに滑るように動く時針を提供する。軽く、耐衝撃性に優れ、耐磁性があり、精度の安定性が高いという、スポーツウォッチにとって理想的なシステムだ。モノリシック マニュファクチュールの生産分が完売した後、フレデリック・コンスタントがこのシステムを採用し、他のコレクションにも広く展開していくかどうかに注目したいと思う。

フレデリック・コンスタント スリムライン モノリシック マニュファクチュール: 40mmケース。3気圧防水。サファイアクリスタル風防。SSまたは18KRG製のシースルーバック。

ムーブメント: Cal.FC-810、フレクサス社が開発したシリコン製モノリシックオシレーターを搭載した自社製自動巻き。12時位置に日付表示。振動数:28万8000振動/時、19石。パワーリザーブ:80時間。

FC-810MC3S6、FC-810MCN3S6(SSケース):59万4000円、FC-810MC3S9(18KRG):198万円。全て税込。日本では10月発売予定。フレデリック・コンスタント公式サイトへ。