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Photos by Mark Kauzlarich
時計製造における技術革新は多くの場合、その真価を理解するために広範な知識を必要とする。例えば、シリコン製ヒゲゼンマイ。この言葉を聞いた人はどう思うだろう。シリコン製ヒゲゼンマイ? すてき! ヒゲゼンマイって何? どうしてシリコンにしたの? もともとシリコンじゃなかったの?
時計に関する記事をカチカチと書くことを生業にする者として、私はそのヒゲゼンマイが誰かを時計好きの旅に連れ出すきっかけになればと願っている。しかし! 誰しもを満足させる時計のイノベーションに出合うような経験は、ときに楽しく、スリリングで、病みつきになるほどに魅力的だ。
タグ・ホイヤー アクアレーサー ソーラーグラフ。この時計は2022年、ブラックDLCコーティングを施したSS製の、文字盤に大胆に夜光を塗布したソーラーモデルとしてデビューを飾った。今年のバージョンでは、軽量なグレード2チタン製のケースとブレスレットを採用しつつ、サンレイダイヤルと夜光を施したインデックスを継承。素材変更により体感的に軽くなっただけでなく、全体の印象も一新され、前作のエクストリームな雰囲気が抑えられている。
LVMHウォッチウィークでこの時計の実機を見ることになると知っていたので、あれこれ質問できるのを心待ちにしていた。しかし、実際に見たり触ったりすること自体にはそれほど興味は湧かなかったのだ。おもしろい試みだとは思っていたが、私自身にとってそれほど関心のあることではなかった。しかし、これは間違いだった! この時計は、私に限らず誰にとっても、本当に驚くべき形で興味深い思考訓練となるものなのだ。
1本の時計が生活環境に及ぼす影響について、“夜中の2時に気になること”と書かれた心のフォルダの片隅に追いやるのは簡単だし、それ自体は正しいことだと思う。時計は永久に、あるいは永久に近い期間使い続けられるように設計された小さなデバイスである。1本の時計の存在が、プライベートジェットの利用を控えなければならないほど切実な問題に発展するわけではない。しかし、どんな小さなことでも重要だ。興味深く重要な技術革新を伴う時計と出合ったとき、人は「これをひとつ購入して、もし海を越える国際線のフライト中に盲腸が破裂したらどうしよう、と考えるためのスペースを心のフォルダに作ろう」と思わずにいられないのである。
アクアレーサー プロフェッショナル 200 ソーラーグラフとその超長寿命バッテリーは、深い不安を抱えながら過ごす人々にやすらぎをもたらすだけではない。便利で興味深い存在であり、時計をする人はもちろん、しない人にも響くカッコよさを備えている。実はこの時計は、ソーラーウォッチのパイオニアであるシチズンが所有するラ・ジュー・ペレ社とのコラボレーションで作られたもので、ソーラーウォッチとして世界初のものではない。しかし、タグ・ホイヤーらしいパッケージのソーラーウォッチであり、ブランドが培ってきたすべてのデザインコード、およびヒストリーを内包している。
その成果はラインが水平に伸びる美しくも実用的なダイヤルデザインに顕著に表れており、TH50-00ムーブメントを駆動させるために文字盤は半透明になっている。そしてまたおもしろいことに、この時計はなんと20時間の充電で6カ月間駆動することができるのだ。これぞまさに、終末世界のための時計だろう。時間を知る必要があるがそれほど頻繁にシェルターから出たくない場合でも、数時間外に出るだけで数カ月は持ち堪えられる。この時計は、電池交換の必要がない。太陽の光によってそれ自体が自立した生命活動を営むことができるのだ。
しかし、もしこの時計があまりに大きく、重く、醜いために誰も手首につけたがらなかったとしたら、その革新性は無意味なものになってしまう。写真で見た限りでは私はこの時計に興奮することはなかった。しかし、実際に目にした瞬間、特別なものであるように思えたのだ。素材とデザインの組み合わせはかなりユニークで、チタンの磨きと手首の上での無重力感は、時計というよりブレスレット、あるいはおもちゃのようにすら感じられた。エアブーストを搭載したスニーカーのようなものだ。多くの技術革新や研究、アーチサポートが行われていることは知っていたとしても、まずは何もないところを歩いているような感覚に驚かされ、それと同時にクールなデザインにヤラれる。ちなみに、私は夜光にはとんと無頓着だ。ダイバーでもスポーツマンでもないし、映画を見るときでも時間を確認しないようにしている。しかし、インデックスと針にこれほど多くの夜光が施されている点は、この時計が時計製造の偉業のうえに成り立つ道具であることを強調しているように思われる。
HODINKEEではよく、人々がどのようにして時計の世界へ足を踏み入れるのか、どうすればより多くの人々を巻き込むことができるのかが議論されている。私ことノラは、ストーリーテリングとときどきダイヤモンドを駆使することでそれを試みている。でも、ときどき、あまりにもクールで、思わず叫んでしまうような時計が現れることがあるのだ。だから、そう! あなただ! 時計が嫌いだと思っているそこの人! この時計はクールで、タグ・ホイヤーというブランドのすべてを備えている。あなたが望むなら教えることもできるが、無理強いはしない。また、正しく扱えば文字どおり永久的に使用することができ、太陽から動力を得たとしても実際にはほんの少し、1日動かすのに2分間だけ充電すればいい。地球を救いつつ最悪のシナリオに備え、また同時にストリートウェアのようなデザインが手に入るって素敵じゃないか!!!! 人生とこの時計は、ただひたすらに最高だ!!!!
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