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Hands-On タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー 02T トゥールビヨン ナノグラフ

ブランドによる最新の技術革新が、カーボンに命を吹き込んだ。

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ヒゲゼンマイは間違いなく、腕時計の中で最も重要な部品だ。テンプの振動が一定であることを保証する役目を担っているが、そのためには金属工学とその形状の両方において数多くの課題に取り組まなければならない。磁気作用、温度変化、そしてできる限り完全な同心円状に伸びたり縮んだりするようにヒゲゼンマイを成型すること。これら全ては、時計メーカーが数世紀にわたって取り組んできた課題である。ゼンマイの外側の端を持ち上げてカーブをつけるオーバーコイル(ブレゲとフィリップスによる)などの新しい技術や、過去にはガラスや竹、最近ではシリコンといった素材の使用、これら全てはどうにかしてヒゲゼンマイへの外的要因による干渉を減らすためのものだ。

 現代では時計づくりにおいて材料工学の発達が、職人技と手作業重視の領域を凌ぐようになってきており、この100年の間に、職人の手によるヒゲ玉にヒゲゼンマイを留める作業やヒゲゼンマイの内側と外側のカーブの成型といった作業より、どんどん高性能になるニヴァロックスのような合金、より新しいところではシリコンといった素材の重要度が増してきている。タグ・ホイヤーによる最新技術で使用されているのは、長年ヒゲゼンマイの材料として有力候補だと見なされながら、今まで誰も扱いきれなかった素材、カーボンである。タグ・ホイヤーはカレラ キャリバー ホイヤー 02Tトゥールビヨン ナノグラフにおいて初めてこの素材を採用した。

 これ以前で唯一の、ヒゲゼンマイの基本材料にカーボンもしくはカーボンファイバーを使う試みとして、私が知っているのは発明家ギデオン・リビングストン(Gideon Levingston)によって設立された会社によるもので、2004年のオロロジカル・ジャーナルの記事の中で彼が紹介していた。カーボンタイムと呼ばれる彼の会社は、2006年にカーボンタイムの連続炭素繊維製ヒゲゼンマイと、透明なセラミック製テンプを使ったクロノグラフを発表したカリ・ヴティライネン(Kari Voutilainen)のために、一時期ヒゲゼンマイを製造していた。しかしながら、この会社はそのヒゲゼンマイの製造を工業規模の量産に移行しなかったようで、この分野は手つかずのままとなった(カルティエがコンセプトウォッチであるID1 とID2の開発中に一時期カーボンファイバー製ヒゲゼンマイの製造を試みたが、2012年の記事でベンが報告したとおり、代わりにゼロデュアと呼ばれるガラスセラミック複合材を採用した)。

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 タグ・ホイヤーは、これらの過去の例とは別のやり方で挑んだ。ヒゲゼンマイの製造プロセスを開発し、製造も担っているラ・ショー・ド・フォンにあるタグ・ホイヤー インスティチュートは、カーボンファイバーではなく、炭素分子のみでできたグラフェンを使うことにした。炭素分子が六角形の網目状に並んだもので、特別な反応室内において板状のシリコンウェーハ上に形成される。一度ヒゲゼンマイの基本的な形ができたら、第二段階は炭素分子を高熱で網目状にすることで、分子は六角形の構造の中で非晶質基質となる。グラフェンの網目構造はカレラ キャリバー ホイヤー 02Tトゥールビヨン ナノグラフのダイヤルとローターのデザインモチーフとなっている。

 これは高度に複雑なプロセスであるが、利点は大きい。製造ロットによって熱膨張率(この重要な性質を一定にすることは、合金のヒゲゼンマイを作るうえで最も難しい点で、今日まで比較的少数の会社だけがヒゲゼンマイを自社製造している理由の一つでもある)にばらつきのあるニヴァロックスの類のヒゲゼンマイとは違い、非晶質カーボンコンポジットのヒゲゼンマイは高度に精密に、一貫性を保って製造できる。これはもちろんシリコン製ヒゲゼンマイでも同様であり、そのおかげで素材の使用権を持った会社(パテック フィリップ、ユリス・ナルダン、スウォッチグループ、そして比較的小規模の生産であるロレックス)、によって工業生産の中で広く取り入れられている。

 シリコンと同様に、非晶質カーボンコンポジットのヒゲゼンマイは磁気による影響を受けない。そしてとても軽く、それによって耐衝撃性も高まる(タグ・ホイヤーのカーボン製ヒゲゼンマイは、同社によれば、5000Gの落下試験を軽々とクリアしている)。そしてオーバーコイル技術を用いることなく、同心円を保ったまま広がったり縮んだりすることができる。また、ゼンマイ部分をヒゲ玉(伝統的なテンプの中心にある小さな部品で、ヒゲゼンマイの内側の端がこの部品によってテンプの中心軸に留められている)と一体化して作ることができ、これによってテンプの性能に狂いが生じる可能性を一つ取り除くことができる。

ジュネーブでのタグ・ホイヤー発表会では、高倍率顕微鏡で展示された。 

顕微鏡ステージ上のアモルファスカーボン製ヒゲゼンマイ。 

ヒゲゼンマイの最も内側のコイルは、コレットにシームレスに繋がる。 

 ナノグラフにおいてもう一つ興味深い特徴は、テンプがアルミニウムでできていることである。タグ・ホイヤーがアルミニウムを採用した理由としているのは、「温度の変化に最適化できる」点である。しかし、我々はここで詳細に触れたい。もう少し話を越し掘り下げてみると、単層のグラフェンは熱膨張率がマイナスとなるので、それがアルミニウムが選ばれた理由かもしれない。なぜならアルミニウムの熱膨張率は、温度によってヒゲゼンマイが失う弾性を相殺する傾向があるからだ。そうだ、全く別の観点からいえば、それはスーパールミノバでコーティングされており、純粋にデザインの観点ではこれによってとても洒落た外観になっている。そのうえ、トゥールビヨンを搭載したオープンダイヤルの時計が、暗闇では鑑賞できないという長年の問題を解決してくれる。

 多くの時計の中で、この時計はデザインにおいて、その洗練された次世代技術をできる限り明確に伝えようと意図されているが、それは既に明白な事実を宣言しているに過ぎず、好き嫌いが激しく分かれるデザインだといえる。このデザインを毎日眺めるのがどんな気持ちかは全く想像できないが、この時計は日常使いの時計には全然向いていないとも、私は思っている。これは今までにない技術的特徴を持ったかなり特殊な時計で、最新のものが好きな人々にはとても魅力的に映るだろうし、このタイプのデザインが大好きな人や、他と似たようなデザインではない時計が欲しい人にとってもそうだろう。純粋に技術的観点から見れば、タグ・ホイヤーにとって、またLVMHグループ全体にとって、シリコン素材を使用せず、ニヴァロックスのような合金の高性能な代替品として相当な利益が見込める、極めて有用な武器になるだろう。今後どうなっていくかが楽しみな新技術だ。

 価格は274万5000円(税抜)で、限定エディションではなく、継続的に製造される予定。全スペックを知りたい場合にはタグ・ホイヤー公式サイトへ。