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The Sports Section 時計愛好家のためのツール・ド・フランスガイド

リシャール・ミルを見ることもできるし、ソーセージのトラックもある。

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アメリカで多くの人々がビーチサンダルを履き、冷蔵庫にホットドッグをストックし、裏庭の滑り台を腹ばいになって滑っている頃。フランスでは世界最高のサイクリスト180人が、2000mile(3000km)以上の過酷な地形を走破するレースに挑む。そしてもちろん、なかには腕時計をしている選手もいる。実際、ツール・ド・フランス(以降、ル・ツール)には時計にまつわるドラマがたくさんあるのだ。これは、裏庭でバーベキューをしながら楽しめる、時計の観点から見たこのサイクルロードレースのガイドだ。

その前に、ル・ツールについて簡単に説明しよう。

ル・ツール(ツール・ド・フランス)の第1回大会は1903年。ジロ・デ・イタリア、ブエルタ・ア・エスパーニャなどを含むヨーロッパのグランドツアーのなかでは最も歴史があり、約3週間、21ステージで構成され、2、3日の休息日がある。サイクルロードレースは、競馬と同じように選手が出場するサーキットレースが含まれ、3つのレースを同じ年に制覇した三冠王はいないが、3タイトルを獲得した選手もいて、その一人としてエディ・“ザ・カンニバル”・メルクスの名前が挙げられる(彼は今年のツールには出ない。現在76歳だ)。

とにかく、ほかの多くのレースイベントと同様に、このイベントもタイムを競うもので、ル・ツールではステージ、チームの勝利、休息日などを考慮した複雑な計算が行われる。誰もが休息をとり、スタート地点からパリのシャンゼリゼ通りまでの2000mileを一気に走るようなことはない。今年の優勝者を知りたい方は、こちらのガイドを参照してほしい。休息日やマッサージテント、サポートバン、クラッシュや玉突き事故、パレード、ファンの大群などを見ると皆が誰よりも早くパリに着こうとしているとは思えないが、実際、時間は絶対的に重要なのだ。

かつて競技者たちは星空の下で眠り、道端のカフェで食事をし(ワインで少し酔っ払っていたかもしれない)、自分で自転車を修理する必要があったが、今やライクラ(ライクラ®ファイバー。一般にはポリウレタンに分類される合成繊維)とフレームだけの空気抵抗の少ないマシンのようになり、タイムキーパー、コーチ、サポートなどの広大なネットワークに頼れるようになった。つまり、わざわざ重厚な時計を身につけてこのレースに参加するサイクリストは、何かを主張しているということだ。今年の主要選手のうち2人が、そのような主張をもっているようだ。

ステージ1:注目すべき時計でレースをしているのは?

180人以上の競技参加者の手首をすべてチェックすることはできないが、いくつかの大物をご紹介しよう(ただし、これらはレース中に着用している時計であり、サイクリストの日常で装着されているものではない)。

マーク・カベンディッシュ:時計に関する大きな話題のひとつが、ル・ツールでメルクス以外で誰よりも多くのステージを制覇している彼が、リシャール・ミルを愛用しているということだ。2016年に彼はリシャール・ミル本人と出会い、嬉しさに感極まったという話がある。リシャール・ミルは、腕から自分の時計(RM-011 フェリペ・マッサ 10周年記念限定モデル。25万ドル、日本円で約2750万円以上の価値がある)を外し、カべンディッシュの腕につけた。この時計を装着した彼のキュートな写真を見てほしい。

ジュリアン・アラフィリップ:もう一人のリシャール・ミルファンである彼は、現役のワールドチャンピオンであり、ファンの間でも人気が高いが、約120万ドル(約1億3192万円)するRM 67-02を着用している。この時計にはどんな機能があるかって? 時間を知ることができるということだ!「CyclingTips」のイアン・トレロアーはこう書いている;「ホワイトゴールドのローター、チタン製のコグ、“キャリバーCRMA7スケルトン自動巻ムーブメント”などハイスペックにもかかわらず、それは非常にファンシーなただのアナログウォッチなのだ」

ステージ2:わかった。でも注目すべき時計をつけて過去のル・ツールを制したのは誰?

時計とル・ツールにまつわる伝説のなかでも、特に興味を引きそうなものがある。1980年代、まだ空気力学がサイクリストの関心事になる前、フレームはスティールでヘルメットもいらなかったころの話だ。伝説的なアメリカのチャンピオン、グレッグ・レモン(レモンという自転車メーカーもつくった)は、クールな時計を身につけてレースに参戦し、スピードを抑制する戦術を開拓した。レモンは当時、ちょっとした異端児として知られていて、自転車のフレームと同じくらいのスリムさを保つための厳しいサラダダイエットをせずに、アイスクリームやソーダを摂っていたと言われ、(ショック!)妻のキャシーをレースに連れてきていた。

The bad boy in action.

1986年のル・ツールで優勝し、5度の優勝者であるベルナール・イノーを破り、アメリカ人として初めてマイヨ・ジョーヌのジャージ(個人総合成績1位の選手に与えられる黄色のリーダージャージ)を着たレモンは、オフシーズンの狩猟中に誤って撃たれてしまった。回復は遅かった。1989年の荒れたスタートの後、レモンはル・ツール史に残る(最も有名ではないにしても)優勝を果たし、勝利の道に帰ってきた(レモンがカシオのようなものを身につけている感動的なフィニッシュの映像がここにある)。そして、1990年には再び優勝を果たした。ゴールドとスティールのカルティエ サントス ガルベ ムーンフェイズ Ref.119901をつけてレースに臨んだのは、彼の有名な反骨精神の功績の一部であったと考えるべきだろう。

そしてちょうど昨年、現在のチャンピオンであるタデイ・ポガチャルが、ブライトリングのエンデュランス プロを着用してル・ツールを制覇した。わずか21歳のポガチャルは、100年以上の歴史のなかでは最年少でル・ツールを制し、今年も先頭を走っている。彼はまた、ちょっとしたスポンサー問題の中心にもなっている。

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ステージ3: おお、我々はそういう話が聞きたい。詳細は?

聞いてくれてありがとう。昨年、リシャール・ミルはバーレーン・マクラーレンのスポンサーとなり、そのメンバーにはリシャール・ミルのファンであるマーク・カベンディッシュも含まれていた。しかし、少なからず眉をひそめることになったのは、リシャール・ミルがチームUAE チーム・エミレーツと2021年から4年間の契約を結んだことだ。

この契約の一環として、UAEチーム・エミレーツの選手たちは、今後4回のキャンペーン期間中、自転車とキットにリシャール・ミルのブランドロゴをつけ、さらにリシャール・ミルのRM 67-02を着用する機会を得ることになった。人間工学に基づいて設計されたこのモデルは、TPT®複合素材とグレード5チタンの採用により、わずか32gの軽量化を実現している。このモデルには特殊なストラップも採用された。それは継ぎ目がなく、滑りにくく、伸縮性に富んでいるため、着用者の手首の形状に合わせてフィットする。

Tadej Pogacar

今年のツアーでUAEチーム最強の優勝候補者であるポガチャルが、たまたまブライトリングのブランドアンバサダーになっていなければ、すべて問題ないはずだった。スポンサーシップが発表されてから、ポガチャルはUAEツアー中に、ステージ優勝者に贈られるブライトリングのエンデュランス プロを2つ獲得した。困ったものだ。また、昨年のツアーではブライトリングを着用して優勝したが、我々の知る限り、彼はチーム支給のRMも時々着用していた。

(余談だが、ブライトリングは、ファウスト・コッピやジーノ・バルタリといった伝説的サイクリストと歴史的なつながりがある)

一方、カベンディッシュはチーム・バーレーンには所属していない。彼は健康上の問題を抱え、引退の危機に瀕していたが、デユニンク-クイックステップ(リシャール・ミルを愛するアラフィリップが所属するチーム)で負傷した選手の代わりに出場し、今年のル・ツールで力を発揮した。

ステージ4:何十万ドルもする時計をつけている選手たち。彼らは皆スーパーリッチなの?  

実際には、大半の人が2万ドル〜20万ドル(約220万〜2200万円)程度のまあまあの給料で、あるレベルに達すると数百万ドルに跳ね上がる。カベンディッシュは300万ドル(約3億300万円)クラスと言われている。それだけあればリシャール・ミルを何本か買うことができるだろう。

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ステージ5:今年のツールで他に楽しいことは? ソーセージトラックのことを聞いたんだけど?

今年のル・ツールのビッグニュースは、神童ポガチャルが皆の期待通りの活躍をして優勝したことと、カベンディッシュがありえないようなカムバックを果たし、メルクスのステージ優勝記録を更新したことだ(本人はこの話にうんざりしているようだが)。また、ル・ツールのトラックと“公式ソーセージサプライヤー”が峠で立ち往生したり、看板を掲げて大規模な玉突き事故を起こしたファン(その後刑務所に)など、自転車以外のドラマもいろいろあった。

A checkered sausage truck

話題になったソーセージトラック

だが、それはめったにないストーリーで、私のなかでは最高の話だと思っている。ラクラン・モートンの言う“Alt Tour=もう一つのル・ツール”なのだ。モートンは、ペロトン(レース参加者の集まり)全体に勝利するために、単独でル・ツールの全行程を走った。つまり、休息日はなく、適切なベッドや食事もないということだ。モートンは基本に忠実なバージョンのル・ツールを行い(フレームを作り直すとは思わないが、どうだろう)、屋外で寝て、自分のギアを持ち歩いた。彼はレストランに立ち寄り、(すごい!)バゲットをキットに入れて運んだ。こんなことは、これまでになかった。HODINKEEの仲間であるラファの支援を受けたEF Pro サイクリングチームに所属し、World Bicycle Reliefのための寄付を集めることで、モートンは今年のル・ツールで新しい流れを作った。

今のところ、彼は他の選手を大きく引き離しており、公式ツールの参加者よりも1000mile以上多くの距離を走ることになる。ツイッターで誰かが言っていたように、プロのサイクリストがここ数年で行ってきたことのなかで最もクールなことのひとつだ。また、誰かが言ったように“精神の強さの定義”かもしれない。しかし、「彼は腕時計をつけているのか」と聞きたいだろう。まあ、パッキングリストには載っていないし、手首につけているのは生体認証のトラッカーのようだから、星と太陽の角度を頼りに進んでいるのだろう。峠を越え、サドルの上で一人で走ることで、どれだけ長い距離を感じるかを考えると、おそらくそれが最善なのだろう。

ジュヌビエーブ・ウォーカーはメイン州在住のライター。ヘンリー・ダニエル・キャプテンの懐中時計やビル・マーレイの映画など、これまでの彼女のHODINKEEストーリーはこちらから