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Hands-On ゼニス デファイ フュゼ トゥールビヨン カーボン

極めて伝統的な2つの制御装置を、モダンでスマートに再解釈。

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トゥールビヨンは、19世紀初頭の時計作りが直面していた基本的な諸問題を解決するための興味深い実験に由来している。縦置きされた際の重力の影響によるテンプ動作の不釣り合いを埋め合わせるために、どのような姿勢でも一定の平均速度で時を刻めるようにする、というのがその目的であった。しかし現在ではこの機構は急速に使われなくなっており、純粋に機能面ではほとんど何の足しにもなっていないと一般に言われるようになってさえいる。
 しかし、驚くべき機構であることには変わりなく、卓越した時計作りを体現する魅惑的な機構であるとの評価を受け続けている。ロジャー・スミス(Roger Smith)は、自身の見解では、
「今日の業界では、工場や工房で一度釣り合いが固定されたら動かない単一金属のテンプが広く使われているため、実用的な面からいうとトゥールビヨンは歴史書にしか出てこない存在に追いやられています」と述べている。しかし同時に、この機構は時計職人や時計愛好家の強い関心の的となっており、実際スミスはトゥールビヨンを(計4回も)腕時計で使っている。

 そのためトゥールビヨンは、21世紀初頭以降、創造的な時計作りの基盤をなす機構として再び用いられるようになった。それまでの数十年間はとても洗練されたものとみなされてきたが、同時に極めて珍しく、洗練された技術で作られた製品にありがちな厳格な雰囲気を纏っていた。今日では、美しく伝統的な時計に組み込まれるようにもなってきたが、我々はそれなりにクリエイティビティ溢れる時計において目にすることに慣れてしまってもいる。
 それに対してフュゼ・チェーン機構は、より華々しい時計作りでごく稀に使われているが、マリンクロノメーターや懐中時計で使われていることも理由となって、トゥールビヨンよりはるかに、どこか古臭い印象を保っている。それに対してゼニス デファイ フュゼ トゥールビヨン カーボンでは、フュゼ・チェーン機構とトゥールビヨン機構の両方をもとに現代的な時計を作り上げることが試みられている。

 1つの時計にトゥールビヨンとフュゼ・チェーンの両方を組み入れているとなれば、高精度の時計作りの歴史の中において、極めて話題を呼ぶものである。これら2つの機構のうち、トゥールビヨンの方がはるかに一般的で(話題にされることも多く)、その登場の背景にある目的も時計の事情通の間ではある程度よく理解されているが、同時に事情通の間では、大幅に手を加えて懐中時計ではなく腕時計に合う機構に改良されない限り、今日では一般的に実用的な価値よりも芸術的価値を持つものとされていることも常識となっている。改良を施したにせよ、今日トゥールビヨンの腕時計用の改良で最先端を走る1人であるステファン・フォルセイ(Stephen Forsey)は、かつて何年も前に私に夕食の席で「失う以上のものを得るのは常に大変です」と語ったことを私は忘れられない。

酸化被膜加工が施された青いトゥールビヨンのキャリッジ。キャリッジとテンプが同軸上にないカルーセル型のトゥールビヨンとなっている。

 トゥールビヨンは発明された日もかなりはっきりと分かっている。ブレゲ(Breguet)が特許を取得したのは1801年のことだ(もちろん機構の開発作業は特許取得に先立っている)。それに対しフュゼはもっと古く、起源もはるかに謎めいている。ヨーロッパの機械式の腕時計と置き時計全体に先立って発明された可能性もあるのだ。私が知っている中で最も古いフュゼの使用例は、石弓を簡単に引けるようにするための一種の巻き上げ機として使われていたものだ。トゥールビヨンは縦置きされた時計の速度が一定しないという問題を解決するために誕生したのに対し、フュゼはまた別の問題を解決するために誕生していたのである。

 テンワとヒゲゼンマイは、等間隔の振動子、つまり振幅に関係なく同じ間隔で振動するものとして意図されている。それは、揺れ幅に関係なく等間隔で振動する振り子も同じことだ。実際には、これは振れ幅の小さな振り子にしか当てはまらない(時計職人は、2°またはそれ以下を狙っている)。テンプとゼンマイも、完全に等間隔な振動子ではなく、振幅が減ると、理想とは異なり等間隔性がどんどんと失われるのだ。
 時計が動くにつれてテンプの振幅が減る理由は、ゼンマイのトルクが一定ではないことにある。ゼンマイが緩むにつれ、テンプの各振れに対して供給されるエネルギーが減ってしまうのである。ネジ巻き式のおもちゃが止まってしまう前にノロノロした動きになるのを見たことがある読者は、この現象を目の前で目撃したことになる。

 フュゼ・チェーンを見ると私は、どうしても10段変速の自転車のギアをいつも思い出してしまうのだが、その類似性は偶然のことではない。大きなギア(上り坂用)を選択すればトルクが大きく得られるのと同じように、円錐型のフュゼの幅広い歯車からはトルクが大きく得られるので、ゼンマイの動力が減ってから用いられる。フュゼの円錐の先端の小さな歯車は、ゼンマイを巻いた直後でトルクが最大のときに、ゼンマイの動力からエネルギーを供給するのに使われる。

 もしフュゼがそれ程うまく問題を解決しているのなら、数百万円から場合によっては数千万円もの価格の時計で、どうして今日フュゼを見かける機会がかなり少なくなっているのか不思議に思われるかもしれない。その答えは、トゥールビヨンと同じく、材料科学の進展により、フュゼが今日ではほとんど過去の産物となってしまっているからである。今日のゼンマイ用の合金は、かつてのゼンマイ用の合金と比べてパワーリザーブ全体にわたってトルクの変動が極めて少なくなっている。裁断加工された温度補償式のスティールと真鍮のテンプと比べて、今日の単一金属のテンプではほとんど釣り合いのズレが発生しないのと同じである。またトゥールビヨンと同じく、フュゼはムーブメント内でかなり大きな体積を占めてしまうことも弱点である。この弱点は懐中時計でさえ問題であったうえに、毎日着用される自動巻きの時計でも一定の動力供給が可能となっていることを鑑みれば、今日のフュゼは時計の性能を向上させるものというより、ほとんど精巧な隠し芸のようになっていることを理解していただけるだろう。

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 しかし、やれ隠し芸だという次元を一旦離れてみれば、ゼニスは一般と比べてこの時計でかなりのことを成し遂げているように私には思われる。フュゼ・チェーンという極めて古びた機構をもはや目新しいとは思わない現代の時計愛好家からさえ関心を集めるものになっているのだ。
 この時計には2つのバージョンがある。ここで紹介しているものは、カーボンファイバーとハイテク風の仕上げが施されたムーブメントだ。ホワイトゴールドのバージョンもある(この時計は、カーボンケースの50本と18KWGの10本が販売される)。18KWG製のモデルは時間をかけて手に取ることができていないが、ホワイトゴールドという伝統的で貴族階級的な貴金属を用いるのは、どうも設計の精神に反するように私には思われる。カーボンファイバーケースの方が、時計全体の見た目そして質感とはるかにマッチしているように感じるのだ。また、いくつかの点で特殊な特徴を持つトゥールビヨンが用いられており、その特徴の中でもかなり目を引くのは、3万6000振動/毎時という振動数だ。

 私が時計についての執筆を始めてからというもの、カーボンファイバーケースは興味深い進展を見せている。当初は目新しいものだったものが陳腐になり、今では時計作りにおける多くのデザインボキャブラリーの中の1つの材料になっている。その他の基本的な材料と同じく、どのようなデザインに組み込まれるかによって、カーボンファイバーという素材の成功度も変わってくる。

 カーボンファイバーの軽く空気のような感覚は、開放設計のムーブメントに非常によくマッチしている。ムーブメントの外観で特に私の目に留まったのは、青色の酸化被膜加工が施された部品が、トゥールビヨンのキャリッジと575個の部品からなるフュゼ・チェーンという、おそらく最も技術を要する箇所に使われていることである。当然、外観で最も興味深いのは正面だが、サファイアのケースバックを通して見える細部にも見るべき点がいくつかある。例えば、ゼンマイの香箱のかなり古風なウルフトゥースの爪車や、同じくかなり古風なこはぜやこはぜバネなどだ。それ以外がハイテクな雰囲気を醸し出す中、こうしたクラシカルな要素も光っており、フュゼとトゥールビヨンを現代寄りに再解釈したこの時計を、かなり絶妙な方法で時計作りの伝統にも繋ぎ止めている。

 内部が見えるタイプの時計すべてにおける最大の問題点は、手首に着用していない時の方が興味深い外観が、少しではあるがより引き立つということである。この時計では、デファイ特有のムーブメントがその問題をかなり軽減してくれている。一般的にいえば、従来型のムーブメントから作られたスケルトンタイプの時計では、その技巧の特徴を最高に際立てる美しい透明感のほとんどが失われるのだが、最初からオープンデザインで設計されているムーブメントであれば、多くのスケルトン化されたムーブメントに比べて、手首に着用した際でもかなりの視覚的な明瞭さを得られる。

 動力部に加えて、フュゼ、ゼンマイ、トゥールビヨンの軸に用いられている少量の赤色と、アクセントになっている青色、それにカーボンファイバーケースのかすかにきらめく黒色で、全体に統一感あるデザインとなっている。ゼニスはこのイディオムにかなり長期間取り組み、落ち着いた配色にたどり着いたのではないかと、私には思われる。新奇性を狙って努力している感じがもはやなく、苦慮なく同社の全体的なデザイン言語の一部になっているように感じられるのだ。

基本情報

ブランド:ゼニス(Zenith)
モデル名:デファイ フュゼ トゥールビヨン(DEFY FUSEE TOURBILLON)
型番:10.9000.4805/78.R916
直径:44mm
厚さ:13.35mm
ケース素材:カーボン
文字盤色:カーボン製の開放型の文字盤
夜光:スーパールミノバ
防水性能:100m
ストラップ/ブレスレット:「コーデュラ調」加工のブラックラバーストラップ、ブラックカーボンヘッド付きチタン製ダブルフォールディングバックル

ムーブメント情報

キャリバー:エル・プリメロ キャリバー4805 SK
機構:パワーリザーブ インジケーター付き
直径:37mm
厚さ:5.90mm
パワーリザーブ:50時間
巻き上げ方式:手巻き
振動数:3万6000振動/時
石数:34
追加情報:1分間に1回転するトゥールビヨンとフュゼ・チェーン 

価格・発売時期

価格:925万円(税抜)
販売時期:発売中
限定:50本

詳しくはゼニス公式サイトへ。