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Hands-On ゼニス エル・プリメロ クロノマスター 38mm

ヴィンテージ・クラシックをオリジナルムーブメントで忠実に再現。


私がこれまでに購入した腕時計のうち、はじめから「素敵だ」と思えたものの1つは、ゼニスである。無論、インハウスムーブメントの時計では初めてだった。購入した当時、私は、リアルな歴史が詰まった本物の品質というものを手にしたように感じたものだ。そのゼニスは、傍目に完璧に気づかれない状態だったとき(それは私にとっては問題なかったのだが)、友人からたくさんの質問を浴びせられる要因になった。その質問のほとんどは、倒産したアメリカのテレビメーカーであるゼニス・ラジオコーポレーションに関するものだった(興味深い事実として、ゼニス・ラジオは1970年代の一時期、ゼニス・ウォッチの親会社だった)。

The Zenith El Primero Chronomaster 38mm

ゼニス エル・プリメロ クロノマスター 38㎜は、史上まれに見る偉大なクラシッククロノグラフの1つを忠実に再現したものだ。

 巷の多くの人が、このゼニス エル・プリメロに対する感受性を持っていると私は想像する。クラシックなムーブメントを内部に有する現代の腕時計をひっくり返すと、いつも懐かしさを覚えるものである。本機に搭載されるのは明らかに古い機械であり、極端に派手なものではない。その名前(Zenith=天頂)が強調しているのは、等級としてではないにしても、順序として、史上第一の自動巻きクロノグラフであるということだ。

 エル・プリメロは長年にわたり実用的なムーブメントと見なされてきた。1969年に発表された3本の最初の自動巻きクロノの一つであることに加えて、平均より高い振動数である3万6000振動/時により業界を揺るがせたムーブメントだった。そして、そのムーブメントは当時、たとえロレックスが自社で再調整をして、程良い振動数である2万8800振動/時に下げられたという事実があったにしても、デイトナにとって十分なものであったのだ。

 私は、年次カレンダーとエル・プリメロを組み合わせたゼニス キャプテン・ウィンザーを購入してから何年も経ったころ、実際にゼニスを訪れる機会があった。この主力ムーブメントの数多くの部品を成型するために、なおも使用されていた20世紀半ばのスタンピングマシンを見ることができたのだが、その機械は、時計製造の歴史と現代的生産工程との間にある独特な交差点に跨るように存在していたのだ。

The Zenith El Primero Chronomaster 38mm dial

3色のサブダイヤルは、1969年のオリジナルモデルのものをそのまま再現している。

 エル・プリメロに関する語り継がれたとあるエピソードがある。ブランド倒産の危機を面して、反逆の技術者、故シャルル・ベルモがエル・プリメロのムーブメントを工場の屋根裏に隠した。このキャリバーにとって死を意味するであろう、会社からの破棄命令に背いたのだ。そうした逸話と、ゼニスそれ自体こそが、時計製造術における偉大な物語の一つとなっている。

 ジャック(・フォースター)が私に対し、HODINKEEでの最初のHands Onレビューのためにエル・プリメロ 38mmを手渡したとき、それらの感傷と記憶が鮮やかに蘇った。私はこの腕時計を手に取ってその重量を感じると共に、ケースのエッジにある面取りに注目した。そして、ダイヤル上にある埋め込み式のクロノグラフ積算計と、採用されているインデックスに注意をやる。裏地付きアリゲーターストラップに付いているフォールディングクラスプ、さらに84万円(税抜)と書かれた値札にも目を留めた。
 エル・プリメロ 38mmは、古き良きものの理想を好みながらも、どこか新しいものを求める腕時計コレクターのために製作された、豪華なモダン・ウォッチである。現在、この使命を果たすにいくつかのブランドによる腕時計が豊富に出回っているが、生産開始が1960年代にまで遡るムーブメントや、直径40mm未満オリジナルに近しいケースを製作するところはほとんどない。1969年に発売された、3つのオリジナル自動巻きクロノグラフ(ほかの2本はセイコー6139とホイヤーらによるキャリバー11だ)のうち、エル・プリメロのみが生産を続けている。

エル・プリメロのキャリバーは発売当時、偉大かつ革新的であった。現在ではモダンクラシックの地位を確立している。

 ケースもまさに素晴らしい。前述したラグの面取りと、ポリッシュとサテンとがミックスされた表面からは、品質のレベルの高さと細部へのこだわりを感じさせる。そうした特徴は、オリジナルの1969年製エル・プリメロでは必ずしも明確ではない。その当時エル・プリメロは、市場にて高級製品として売られてさえいなかったのだ。ピストンプッシャーの周囲には、目立つリビング加工がほどこされているが、リューズと比べてやや釣り合いがとれていない。リューズは、伸ばしていない状態であっても、両側のプッシャーより髪の毛1本分ほど飛び出ている。
 トランスパレントバックとのバランスは秀逸である。適切なサイズで設計されたケースにムーブメントを入れるとき、目障りな(そして率直に言って醜い)スペーサーは絶対に必要ない。さらに、文字盤上に取り付けられた特別に厚いサファイアクリスタルガラスは、60年代のプレキシガラスを彷彿とさせる。これにより、この時計の全体の厚さは12.45mmにまで膨れ上がることになった。私は38mmの腕時計にとっては膨らみ過ぎているように感じる。だが、これは難癖だと自分でも思う。うまく考えられたデザインではあるだろう。

The Zenith El Primero Chronomaster 38mm two dial versions

2つのわずかに異なる文字盤バリエーション。

 その美学は、文字盤についても同じように言える。上の2つのバリエーションでは、初代エル・プリメロの重なり合う3色の積算計のオリジナルデザインを想起させる。文字盤のレイアウトは、オリジナルの調和した美に忠実であり、オールドタイプのムーブメントを使用したほかの腕時計や40mm以上のケースのモデルのように、大きなカンバスの中心に無理やり押し込められた印象はない。

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 私の最も厳しい批評は、フォールディングクラスプのために残しておいた。このクラスプは、エル・プリメロの時計としての魅力に対し、快適さも機能性も加えていないのだ。フォールディングバックルそれ自体に反対するわけではないが、この時計に付属するバックルは、38mmのケースとストラップには不釣り合いのように感じる。だが、これが難癖に聞こえるのではあれば、それはそうなのだろう。私が新しいエル・プリメロ38mmを自分で買うとしたら、最初に立ち寄る場所はストラップ販売店だろう。そこで、もう少し買い物の最後を飾るのに相応しい快適なものを求めたいのだ。

The Zenith El Primero Chronomaster 38mm deployant clasp

クラスプはよく作られてはいるが、上品な形をしたストラップをやや埋もれさせてしまっている。

The Zenith El Primero Chronomaster 38mm wrist shot

手首に装着したゼニス エル・プリメロ クロノマスター 38㎜は、約50年前と同様に魅力的だ。

 ムーブメント自体については、エル・プリメロについてまだ語られていない、何か言うべきことは残っているだろうか? このコラムホイール式クロノグラフこそが、自動巻きクロノの時代を切り拓いた。物理的な美と仕上がりの不足は、称賛すべき機能性と10分の1秒以内まで計測できる性能が補っている。エル・プリメロ クロノマスター38mmに84万円を費やすのは確実に良い選択であり、極論すれば、この重要なキャリバーを有する腕時計をある時点で所有、体験することは、全ての腕時計愛好家にとって必須である。

ゼニス エル・プリメロ クロノマスター 38mm:ムーブメント、エル・プリメロ Cal. 400 クロノグラフ、直径38mm、5Hz(3万6000振動/時)、31石。自動巻き、50時間パワーリザーブ。ケース:SS、38mm ×12.45mm、10気圧防水。価格:84万円(税抜)。詳細についてはゼニス公式サイトへ。