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November 24, 2020
November 24, 2020
In-Depth クォーツ危機後の忘れられた機械式時計 3本の傑作

In-Depth クォーツ危機後の忘れられた機械式時計 3本の傑作

その昔、地上には巨人が存在した。

クォーツ危機は、芸術進化史においてたびたび起こる芸術(この言葉こそ時計製造に優美さを与えるものだ)とそれを創り出すアーティストの双方が、を再発明することが必要になる特異点のようなものだ。こと機械式時計においては、壁の落書きのような主張によると、ハミルトン エレクトリックなど電子時計は、優れた機械式時計の真の競争相手になることはなかったが(高価で、不具合が起きやすく、その代わりとなるはずの性能の向上も十分ではなかった)、1960年にリリースされたアキュトロンは、工業技術が他の分野同様、時計製造を手つかずのままにしておくことはないということを示し、1969年のクリスマスに襲来したクォーツ式時計を前に、機械式時計は復活など全く想像できないほどの存亡の危機に瀕した。

 私が真剣に時計に興味を持つようになったころ、ニュースグループという形式ではあったものの、時計に関してはインターネットフォーラムでその最初の姿を現したばかりであった。画像を見ながら議論することはなかったが、その激しく虚実入り乱れた意見の対立の様子は、今日における時計のオンラインコミュニティの誕生を予見させるようなものだった。クォーツ危機で甚大なダメージを受けたスイスの時計産業が徐々に回復していく過程で、機械式時計の生産を完全に停止するという深刻な話題がスイスの各紙面で報道されるようになり、機械式時計は必需品ではなく、嗜好品や装飾品として再発明されたのだ。

1994年発売のA.ランゲ&ゾーネ トゥールビヨン“プール・ル・メリット”;機械式時計革命に一石を投じた作品だ。

 その結果、高級時計メーカーは、シンプルな時計と複雑時計の両方を製造することに活路を見出し、最初のクォーツ時計が登場してからの10年間では考えられなかったような、それまでの時計とは一線を画した、興味深く美しい機械式時計が1980年代から1990年代にかけて登場した。HODINKEEのエグゼクティブ・エディターであるジョー・トンプソンは、1990年に「機械式時計は市場の上位にラザロのように復活し、あたかもスイス流ルネッサンスの象徴である。機械式時計の輸出額は、過去2年間で44%増の15億ドル(当時の為替でおよそ2274億円)に達した。輸出売上高の39%を占めているパテック フィリップとロレックスは、現在も自社製の機械式ムーブメントを製造しており、スイスの伝統的なハンドメイドのクラフツマンシップの威信と価値、希少性をアピールし、記録的な売上を達成している。後発のメーカーもこの勢いに牽引されている。今年(1990年)のバーゼルフェアでは、多くのブランドが久しぶりに自動巻ムーブメントを発表した。機械式ムーブメントの復活は、市場にも波及する可能性がある。SMH(現在のスウォッチグループ)は今年、機械式のスウォッチを発表する予定だ」と総括した。

 その後10年間には、18世紀から19世紀にかけてようやく登場したような、多くの高度な複雑機構が現代的な解釈で徐々に商品化され、時計製造技術の精度向上という目標と、目を引き、好奇心を満たす魅力が共存する、18世紀以降には見られなかった機械式時計のルネッサンスが開花したのだ。その当時の名作は、現在の高級時計製造の礎となり、多くの場合、今でも高級時計製造を判断するための基準となっている。この記事では、この時代における主観的なお気に入りの3本をご紹介しよう。


オーデマ ピゲ ジュール・オーデマ イクエーション・オブ・タイム

 オーデマ ピゲにジュール・オーデマのラインがあることを知らない人がいても不思議ではない。最近ではあまり注目されていないが、HODINKEE創設以来、このラインの時計を取材したのは、ほんの数回で、6回のうち2回は新作に関する記事で、残りはオークションのレポートだった。ジュール・オーデマコレクションはオーデマ ピゲの複雑時計を代表するラインであり、“グランド&プティ・ソヌリ・リペティション・ミニッツ・カリヨン”や“リザーブ・ド・ソヌリ・エ・ダイナモグラフ”などは、時計学に精通している人であれば誰でも知っているはずの時計だ。時計学の歴史の中での重要性や立ち位置を理解する上で非常に興味深い時計なのだ。私がコレクションの中で最初に夢中になった時計のひとつが、ジュール・オーデマ イクエーション・オブ・タイムである。

 ジュール・オーデマ イクエーション・オブ・タイムは2000年に発表されたが、当時としては初めて日の出/日の入り表示の複雑機構を搭載した腕時計だ―このような複雑機構は懐中時計や置時計では何世紀にもわたって製作されたが、この作品以前に腕時計に搭載された実績はない。このコンプリケーションが腕時計に搭載されるまでに時間がかかった理由はよく分かっていないが、時計を用いる地域に依存していることも関係しているのかもしれない。飛行機で世界を飛び回る時代にあっては、ひとつの地域に縛られる複雑時計は大変ニッチな存在となるからだろう。ジュール・オーデマ イクエーション・オブ・タイムは日の出と日没のコンプリケーションを搭載した世界初の腕時計だ;独立時計師マーティン・ブラウンが同様の機構を持つ時計EOSを発表したのは、本作リリースの数カ月後であった。

 ジュール・オーデマ イクエーション・オブ・タイムはその名が表すとおり、均時差表示機構(平均太陽時と真太陽時の誤差を表示する)を搭載しており、さらには、真太陽時の正午をダイヤルから読み取ることができる(真太陽正午は経度差1°毎におよそ4分の誤差が生じる)。地方平均正午との誤差と標準正午の差はフランジに刻印されていて、地方真正午は長針と均時差針が重なった瞬間から判断できる(驚くべきことに、APが公開した12年前のYoutube動画から標準正午と地方平均太陽正午の読取り方を学ぶことができる)。

 この時計は永久カレンダーをも備えており、2000年当時として122年(と44日、念のため)毎に1日の修正が必要となる高精度の天文ムーンフェイズ表示を搭載した数少ない時計のひとつであった。この機能の詳細を知りたい方は、ここで実際の操作手順をご覧いただこう。

 このコンプリケーションは、史上最も高度な自動巻きムーブメントの上に構築された ― 厚さ2.45mmの超薄型Cal.2120である。コンプリケーションを搭載しても、ムーブメント全体の厚みはわずか5.35mmに抑えられた。この時計の生産数は非常に少なく、1本1本が事実上ビスポーク(オーダーメイド)で製作された。使用する地域を指定すると、注文ごとにフランジと日の出/日没カムを個別に制作しなければならなかったからだ。APのWebサイトに掲載されているアーカイブから、直径44mm x厚さ 11.7mmと決して小さな時計ではなかったと知り、私は大変驚いた。というのも、20年にも渡って、この時計は小さいと刷り込まれていたからだ;なぜそういう思い違いをしたのか、分からないが。このコンプリケーションは生産終了直前、ロイヤル オークのケースに短い期間だが収められもした。この時計は文字通り、私が初めて「均時差方程式」を知ったきっかけとなった時計であり(その努力の甲斐があってか、それ以来、私はこの複雑機構に目が無いのだ)、実際、古典的な複雑時計製作における頂点を象徴していると思う。


パテック フィリップ Ref.5100 10日間パワーリザーブ

 2000年に発表されたRef.5100は、機械式時計版ルネッサンスが本格的に始まって以来、パテックが製作した中で最も美しく興味を引くシンプルな時計のひとつだと思う。ジュール・オーデマのイクエーション・オブ・タイムとは複雑さと目指した方向性が正反対の面もあるが、時計学を芸術として捉え、また頂点を極めるために如何なる苦労も厭わないという点では、両者の目指すところは一致する。この時計がデビューした年、Timezone.comのWatchboreことアラン・ダウニング氏によって書かれた記事(前編後編の2部構成)が秀逸である。この時計は技術的に離れ業をやってのけたわけだが ― 当時の世界記録である10日間のパワーリザーブを搭載した初の腕時計という点で ―それはパテックで、長年テクニカルディレクターを務めるジャン-ピエール・ミュジの発案であり、それに関しダウニング氏は次のように触れている。

 "スイスで最も優秀な時計技師の一人であるミュジ氏は、時計の購入者には知られていませんが、彼曰くル・コンフォール、つまり我儘なオーナーが突きつけるあらゆる要求に応じることに強いこだわりをもっています。"

Ref.2554をベースとした“マンタ”ケースを纏うRef.5100 画像;フィリップス

 Ref.5100の際立った特徴については、Watchbore氏の記事を広範にわたり引用したい。

 "彼(ミュジ氏)は、ラチェットホイールと地板の下面との間にあえて摩擦を生じさせることで、手巻きにかかる長時間の作業の負担を心地良い触感で軽減するよう設計しました。また、通常のレザーストラップとは異なり、Ref. 5100は枕元に置いたとき、見やすい角度で時計を支えることができます。この時計は、従来の5姿勢に加え、傾斜した姿勢でも調整されているのです。また、万が一、時計をセットしている最中にリューズを引き出した状態でお風呂に落としてしまっても、巻上芯の二重シーリングにより防水性は損なわれません"

 "このムーブメントは、8つの偏心錘を備えたスリースプラングテンプによって毎時2万1600振動で駆動し、29石で調整されています。錘を回転させると、テンプの有効半径が小さくなったり、大きくなったりするので、テンプのブリッジに刻印されているように、速度が速くなったり(F)遅くなったりします(S)。テンプは、できるだけ低い振幅でヒゲゼンマイが付いた状態(ダイナミック・ポイジング)で調整されます。この時計には、COSC認定基準内の性能を示す証明書が添付されます。その長いパワーリザーブは、主ゼンマイが10%以上の巻き戻りを許容しない巻上げテストにおけるアドバンテージを与えています"

29石、2万1600振動/時の10日間巻きCal.28-20。全ての受け石はゴールドシャトンに封入される;二重香箱を支える2つの巨大なルビーに注目されたい。

 "28mm×20mm×5.05mmのサイズのCal.28-20ムーブメントは、13リーニュの丸型キャリバーに相当します。ムーブメントの部品点数は172個で、同社の275個の部品を搭載した自動巻き永久カレンダーCal.240 Qよりも約18%大きいムーブメントです。ムーブメントの角が丸みを帯びていることから、将来的にラウンドケースに搭載され、永久カレンダーなどの複雑機構モジュールが搭載される可能性があることが示唆されています。翼状のケースは、凸部と凹部が複雑かつ精緻に研磨されており、完成までに188回の工程を要したといわれています。アプライドゴールド製のアラビア数字が偶数時を、奇数時間を示すのは、文字盤上の位置に応じて様々な角度で配置された3対の脚状のマーカーです。このデザインはオリジナルではなく、1952年に発表されたRef. 2554 [マンタ’として知られている]から流用されたものです"

別の角度から眺めたムーブメント、プラーズが出演したTalking Watchesから。

 姿勢差だけでなく、ナイトスタンドの上で置時計として使用する場合の姿勢差まで、メーカーがわざわざ調整した時計である。可能な限り低い振幅でのダイナミック・ポイジングは、(非常に長い)パワーリザーブが尽きるときですら姿勢差を最小限に抑えるために実施される。デザイン、構造、時計の調整のあらゆる点に渡るこだわりは、私に言わせればスティール製のスポーツウォッチへ情熱を注ぐことよりも、パテック フィリップがパテック フィリップらしくあり続けるために、やるべきことなのだ。もちろん、これらの詳細を理解するためには、長い年月と時計学に関する、ある程度の知識が必要だが、詰まるところ、それが本当に素晴らしい時計と単に非常に良い時計を分けるものなのだ。静謐な佇まいながら、徹底した卓越性をもつ、この頂点を極めた時計は、インスタグラムのネタとしてはパッとしないが、知的好奇心に大きな満足感をもたらしてくれるのだ。


ロンジン エフェメリド・ソレイル 1989年

 ロンジンといえば何を思い浮かべるかと時計愛好家が聞かれれば、おそらくヘリテージコレクションの時計を思い浮かべるだろう― 同社の過去の名作モデルからインスピレーションを得た、機械的にはシンプルなヴィンテージ風のタイムピースだ。しかしながら、このヘリテージコレクションにはロンジンの過去の名作とは趣きの異なる「アワーアングル(時角)時計」が存在し、コレクションに長く残っていることはちょっとした奇跡といっていいだろう。商業的には会社にとって重要な時計とは思えないが、生産を続けてくれて個人的にはうれしい時計だ ―これは航空機が飛行する際に、現地の時角(経度)を測定するために作られた時計の、ほぼ完全復刻版だ。

ロンジン アワーアングルウォッチ

 1989年当時、ちょうど機械式時計ルネッサンスが活況を見せていた頃、ロンジンはトレードマークであるアワーアングルの100周年を記念して、限定生産であると同時に、アワーアングルが象徴する天体現象への関心の延長線上にある時計を発表した。この時計がロンジン エフェメリド・ソレイルだ。

1989年 エフェメリド・ソレイルの広告 画像;EuropaStar

 この37mmの時計にはベースキャリバーとしてETA 2824が搭載されているが、ダイヤルの12時位置には日の出/日の入り表示(そう、APジュール・オーデマのイクエーション・オブ・タイムが最初と言ったところだが、それについては後述する)と赤緯表示がある:太陽の軌道と天球上の赤道の角度差のことだ。偏角は、分点時にはゼロで、極点時(夏至/冬至)には23.44°の最大角度に達し、太陽偏角の表示は24°を最大にして示していることが分かる(表示の開口部の小窓に与えられた近似表示としてよくできている)。

ロンジン エフェメリド・ソレイル;画像Amsterdam Watch Company

 均時差は、回転ベゼル上の青い線で示されているが、6時位置にひときわ目立つ回転ロックレバーがあり(青い線の位置が変わらないので、なぜ必要なのか判然としない;おそらく現在の月が12時位置に固定されるように意図されたものだろう)、日毎の均時差はダイヤル12時位置の小窓から何かしらの助けを借りながら読み取ることになるだろう―おそらくルーペか何かでだ。実際この時計のある所有者は、2001年にTimezone.comの投稿で、日の出/日の入りの複雑機構を読み取るために確実に必要だと主張した。月と日付はそれぞれ9時と3時付近の小窓に表示される。

 日の出と日の入りの時間を読み取る方法はあまり明らかではない。この時計の取扱説明書はオンラインでは入手できないようなので(製造年と製造数の少なさを考えれば当然のことである―Timezone.comの紳士によれば、ステンレススティールが1000本、ゴールドが200本である)、中古のエフェメリド・ソレイルを入手したオーナーがそれを求め哀願する様子が目に浮かぶ。
 私の知る限りでは、日の出と日の入りの時間は、各セクターの底部底部の目盛りに沿ってそれぞれのインジケーター盤のブルーとゴールドの境界線が指す位置から読み取る。8月2日を例にとると、 日の出と日の入りの時刻は、ロンジンの故郷であるスイスのサンティミエを基準に計算されており、日の出時刻は午前6時13分である。時計は5時13分を指すことになるが、これは欧州の夏時間を考慮していないためで、1時間足す必要がある。縦軸の「1・15・30」という数字が何を意味しているのか、私にはよく分からないが、おそらく、実際の日の出と日の入りと黄昏時の時間差に20〜30分程度の誤差があることを指し示しているのだろう;それでもこのインジケーションをどう読み取るのか謎が残る。

 ジュール・オーデマのイクエーション・オブ・タイムが日の出/日の入の複雑機構を搭載した最初の腕時計だと言われているのは何故だろうか? それは、エフェメリッド・ソレイルがスイスのサンティミエのみの時刻を固定表示しているからだ(サンティミエで生まれ、サンティミエで死ぬつもりで、サンティミエから一歩も外の世界へ出ない場合は別だが、自分の住んでいる場所の正しい時刻を知るためには、頭の中で換算しなければならない)。
 それでも、ロンジンが先陣を切ったことは評価しなければなるまい。これは、非常に小さな時計に膨大な天文学情報を搭載したもので、このような複雑な機能を比較的手頃な価格で実現した点は実に独創的であることは認めざるを得ないのだ。見つけるのは難しい時計ではあるが、オークションには時々出品され、金無垢モデルですら3~4千ドルを超えたことはない。

 「過去を覚えていない人は、過去を繰り返す運命にある」という格言があるが、少し異なるバージョンが時計製造業には当てはまると思う。すなわち、「過去を覚えていない人」のくだりを「時計のことを覚えていない人」に置き換えるだけでいい。しかし、1990年から2000年の間の時計の数々は、作り手側と時計愛好家双方の記憶からは消えてしまったものの、スイス機械式時計産業がクォーツ危機による致命的な低迷から脱却し、人々がまだ機械式時計を欲しがっていることを再発見した時期でもある。独自の創意工夫の再発見により、時に非常に興味深い時計が誕生したものの、インスタグラムの時代には見映えに重点が置かれ、どの価格帯でも時計の本質的な価値を重視する傾向が薄れているように感じずにはいられない。しかし、このようなトレンドは循環する傾向があり、この10年間のトレンドであった見栄えへの執着が相対的に飽きられ、今後数ヵ月、数年の間に、時計の創造性への好奇心にシフトし、それによってバランスを取ることになるのかもしれない。