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パテック フィリップの広告“ジェネレーションズ “の知られざる物語 - 時計界で最もアイコニックな広告キャンペーン

時計のことを何も知らない人に話しかけたら、60秒もしないうちにほぼ間違いなく“あのブランド”について聞かれるでしょう。「you know...you look after it for the next generation」という広告キャンペーンのブランドです。

※本記事は2016年12月に執筆された本国版の翻訳です。

 時計のことを何も知らない人に話しかけたら、60秒もしないうちにほぼ間違いなく“あのブランド”について聞かれるでしょう。「you know...you look after it for the next generation」という広告キャンペーンのブランドです。パテック フィリップは、1996年から継続して販売拡大のために、いわゆるジェネレーションズキャンペーンを実施しており、幸せな家族の写真と時代を超越したかのような時計の抒情的な組み合わせは今でも健在です。このキャンペーンの20周年を記念して、数十年にわたってその創造と進化に貢献してきた何人かの人物に話を聞き、時計製造の最も象徴的な広告の裏に隠された真実のストーリーを知ることができました。

 1996年1月にパテック フィリップのコミュニケーション・ディレクターに就任したジャスミナ・スティール氏に任された最初のプロジェクトの1つは、新しい広告代理店を探すことでした。パテックは10年以上、ボゼル(Bozell)を広告代理店として仕事をしてきましたが、新しい方向性が必要と知っていました。当時の高級時計の広告を支配していたセレブリティ中心、製品中心のマーケティングとは一線を画すものを求めていたのです。例えば、シンディ・クロフォードのオメガのキャンペーンを思い出してみてください。あまりパテック フィリップらしいものとは思えないでしょう?

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 スティール氏は、ロンドンを拠点とするリーガス・デラニー社(Leagas Delaney)を含むヨーロッパのトップ広告代理店数社によるプレゼンコンペを指揮しました。デラニー社トップであるティム・デラニー氏は、社のプレゼンチームを率いて、すぐに現地入りしました。

generations patek philippe men women

ジェネレーションズでは当初から、男性・女性双方に向けたキャンペーンを行うことを目的としていました。

 「広告代理店として、私たちはリサーチが重要と考えます」とデラニー氏は言います。「私たちは独自のリサーチを行っていますが、パテックの場合は最初からその一環として行っていました。私たちは1対1形式のインタビューを行いましたが、多くの場合、グループの場では話すことができないような非常に地位の高い人々にインタビューを行いました」

 そのリサーチの中で、デラニー氏はいくつかの重要なことを学びました。有名人やパテック フィリップの著名なオーナーの写真を見せられたとき、潜在的顧客達はほぼ一様に否定的な反応を示しました。「私はどうなの?」「なぜ私が他人のストーリーを見て、他人の賞賛を借りなければならないの?」 デラニー氏は、彼らの何人かが言っていたことを覚えていました。サンフランシスコでこのような一連のインタビューがあった後(リーガス・デラニーのリサーチはヨーロッパに限定されたものではなく、グローバルなものだった)、デラニー氏はリサーチ結果を片手にロンドン行きの飛行機に乗り込み、仕事に取り掛かる準備をしました。

 本当なのかと言いたくなりますが、デラニー氏によると、ジェネレーションズのキャンペーンは、サンフランシスコからロンドンへのフライトの中で生まれたそうです。顧客が他人の人生とかかわりたくないのであれば、パテック フィリップが個人的なものであると説得する必要がありました。“自分の伝統を始めよう(Begin your own tradition)”とデラニー氏は書きました。そしてこの言葉が20年以上も続くとは、彼自身も知る由がありませんでした。

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最も初期のジェネレーションズ・キャンペーンの一つで、珍しい“三世代”の広告。“Begin your own tradition”というキャッチフレーズに注目。

 ジュネーブへ数回通い、スターン家へのプレゼン、キャンペーンの詳細を検討した後、リーガス・デラニーは契約を獲得し、パテック フィリップの指定広告会社となりました。最初のジェネレーションズの広告は比較的すぐにまとめられ、1996年10月に紙媒体で始まりました。しかし、最初の広告の写真には不思議なものがあります:彼らは時計を全くフィーチャーしていません。代わりに顧客と製品の背後にあるエモーションに焦点を当て、商品中心の広告を壊すというリーガス・デラニー社への本来の使命に従いました。

 1997年初頭には、より象徴的なキャッチフレーズがキャンペーンに追加されました。“You never truly own a Patek Philippe, you simply look after it for the next generation(あなたは決して本当にパテック フィリップを所有することはありません、単に次の世代のためにその世話をするだけなのです)”は、今では決まり文句に近いほど有名になりました。そして、それなしではパテック フィリップを想像するのが難しいほど成功しています。

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1997年のアクアノートの広告 - ジェネレーションズの両方のキャッチフレーズが。

 このキャンペーンが他のブランドの手本になり得ると思うか、またはこのまま他のブランドでも通用すると思うかと聞かれたとき、デラニー氏は断固として「いいえ、ありえません」と答えています。彼は「この会社のものづくりの姿勢、流行に流されない感覚、一族経営が常に関わっていること、そしてジェネレーションズのキャンペーンが潜在顧客への思いやりの気持ちを示していること」が、パテック フィリップと深く結びついていると考えているからです。

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 デラニー氏は、僕の最初の質問に答えた直後に、他のことにも注意して言及しました。「我々は一度もパテック フィリップで世間で使われている“ラグジュアリー”という言葉を使ったことはないのです。彼らは“ラグジュアリー” ビジネスをしているのではなく、時計ビジネスをしているのです」 

 この彼の定義に完全に同意できるかわかりませんが、このような考え方がジェネレーションズの広告の中に見て取れます。

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ここでは、メアリー・エレン・マークのオリジナル写真がどのようにして1998年のジェネレーションズの広告に使われたかを見ることができる。

 ジェネレーションズキャンペーンは、ほとんど変更を加えることなく10年間続けられましたが、特に女性向けのキャンペーンは1999年にTwenty~4の導入により別のものに生まれ変わり、2014年までジェネレーションズキャンペーンには復帰しませんでした。毎年、新しい写真、新しいストーリーが使われ、新しい時計が登場しました。しかし、2006年にジェネレーションズは大きな方向転換をしました。広告に、写真の下や横のキャプションとしてだけでなく、人々の手首に着けられた時計の写真を載せ始めたのです。

 スティール氏によると、これはさらに広告の意味を深め、潜在的な買い手に、彼または彼女自身の思いと製品である時計を結びつけることになるそうです。しかし、リスクがないわけではありません。「この思いを引き出すために最適なストーリーを見つけ、最適な写真家と仕事をし、最適な時計を選ぶことがとても重要でした」とスティール氏は言います。

 デラニー氏も同感でしょう。彼にとって、時計そのものの写真を載せた最初の広告は、ジェネレーションズの中でも最高のキャンペーンの一つでした。 ディテールをありのままに表現し、最も適したエモーションと雰囲気を生み出せたためでしょう。有名な写真家であり映画監督でもあるピーター・リンドバーグ氏が撮影したこのキャンペーンの目的は、若々しさとバイタリティを感じさせること、そして撮影に使用されたRef.5712 ノーチラスに新たなエネルギーを与えることでした。デラニー氏にとって、撮影の重要な瞬間の一つは、“父親”に大きなダークサングラスをかけたことで、これによってリーバ社のボートが生み出すスポーティな雰囲気がさらに強調されました。

 しかし、特定のスタイリングの要素を超えて、全てのジェネレーションズの広告には共通点があります。それは、理想的な人間関係を描いているということです。その中に自分の家族との関係性を見るのではなく、自分が作りたいと思っている関係性や過去にあったらいいなと思っていた関係性を見るのです。現実との違いや願望や憧れといったものが、広告を強力にしているのです。

 この時点でため息をついて「だから何?」と尋ねたくなるかもしれません。広告キャンペーンの何がそんなに重要なのか、と。しかし、答えは非常に簡単です。リファレンスナンバーや複雑機構の調査に日々を費やす僕たちにとってジェネレーションズの広告は享楽的なトピックに見えるかもしれませんし、時計学の経験に重要ではないように感じるかもしれません。しかし、多くの人々にとってジェネレーションズの広告は、時計の世界とその価値を知るための扉であり、高級時計を所有するという考えにつなげていくものなのです。時計をパーソナルなものにし、自分と関係のあるものにしてくれます。こう考えると、時計に少しでも興味をもっている人は感謝するべきでしょう。

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現代のジェネレーションズの広告では、時計自体の写真を掲載。

 「人々がブランドのためだけに時計を買うのではないと仮定した洞察を、誰も思いつかなかったことに驚いています」とデラニー氏は言います。「これについて人々が感情的になるというのではありません。人はもともと情緒的なのです。このようなものについては合理的というよりは、はるかに情緒的になるものなのです」

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 この情緒的なつながりは、今もなお強く続いています。キャンペーンは近々終わるのか、または変更するのかと尋ねられたとき、スティール氏とデラニー氏の両者は、ジェネレーションズによって時計が売れ、パテック フィリップに興味をもつ新しい顧客を得ている限り、このまま続くだろうと断言しました。

 ここには大きな皮肉が潜んでいて、僕は言及しないわけにはいきません。1996年の最初の広告に出てきた少年は、まだそうでないとしても、もうすぐ自分の子供をもつことになるかもしれません。ジェネレーションズのキャンペーンは一世代以上続いており、永続性、時代を超越した価値観、商業におけるエモーションの重要性など、まさにそれが説いていることを実践しています。

 このキャンペーンがもう一世代以上続いても、僕は驚かないでしょう。